おしえてハインライン C.E.余話   作:レイテンシー

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キラのOS書き換え早口部分の解説はすでに先駆者さんがいらっしゃいましたが、設定は大きく異なるはずなので大丈夫だろうと判断しました。

小説版未読勢でして、設定に重複や矛盾が発生していたら申し訳ありません。

ハインラインのキラの呼び方は、不確かですがSEED FREEDOMの時点で30歳という設定があったので、C.E.71でも少年と呼んで問題ないかと思いそうしました。


VHS第一巻 キラの早技OS書き換え

 

突然だが、このプラント、ハインライン設計局主任開発研究員、アルバート・ハインラインがC.E.世界のSF設定を、貴様らナチュラルにもわかりやすく説明しよう。

 

まず、キラ・ヤマト少年が第2話、初めてストライクに搭乗した時に何を言っていたのか、だな。

そう、なんだかものすごい早口でまくし立てているアレのことだ。

 

あれはストライクに搭載されたイオントラップ型量子コンピュータのOSの初期化と再設定を行っている。

 

その前にストライクに搭載されたモノとは異なるがトポロジカル型量子コンピュータの説明が必要だな。

 

ナニ、関係ない話ならするな、だと?

 

トポロジカル型量子コンピュータはC.E.(コズミック•イラ)世界を形作る重要要素だ。わからんなら黙って聞け、愚昧なナチュラル共。

 

まず量子コンピュータの前に付いている〇〇型はコンピュータを構成する量子ビットの実装方法を表している。

 

量子コンピュータについての説明は流石に要らないと思うが...いや、必要だな、顔を見ればわかる。

 

ナチュラルの教育機関なんかには全く興味がないが、学校でも教わっているはずだ。

 

量子コンピュータは量子力学的にビットの状態を重ね合わせることで、従来の0と1しか状態がない古典的なコンピュータよりも遥かに高度な計算を行える、というやつだ。

 

この1文のために、わざわざ大西洋連邦の初等教育要綱まで調べたんだ。知らんとは言わせんぞ。

 

ん、知らん?

尊敬するよ、よく恥ずかしげなく生きれるな。

 

まぁ、ともかく、凄いコンピュータだ、トポロジカル型量子コンピュータというやつは。

 

C.E.71現在で最も高速かつ大規模な計算を実現しているのが、この型の量子コンピュータだ。

 

トポロジカル型量子コンピュータを実現する上で最重要なのが、その量子ビットを構成するマヨラナ粒子を発見したことにある。

 

なんだか美味しそうだって?そうか、食べてもいいぞ。

 

これは粒子単体で粒子でありながら反粒子でもある特殊な粒子だ。前世紀の西暦1937年にエットーレ・マヨラナがその存在を予言したことに始まる。

 

結局、我々がこの粒子を確認できたのはC.E.20年代に入ってからだ。そう発見したのは我らがG•Gこと、ジョージ・グレンだ。

 

木星で彼が発見した宇宙クジラこと、エヴィデンス01の化石を構成する物質が2重ベータ崩壊を起こしていることを発見した。ここで人類は初めてマヨラナ粒子が存在することを確信したのだ。

 

あぁ、わからんか、まあいい、要は大発見だ。そのまま聞け。

 

ここで大事なのは、ベータ崩壊により出ているはずのニュートリノが出ていない、検出できなかった、ということだ。これでニュートリノが粒子でありながら反粒子でもあるマヨラナ粒子であることを証明できた。

 

そこからはトントン拍子だ。もう少し扱いやすいマヨラナ粒子の生成に成功して、それを量子ビットに使用したコンピュータ、トポロジカル型量子コンピュータが実用化された。

 

なんでこんな話をしたかって?この時、ジョージ・グレンが発見した、いや出来なかったニュートリノが大事だからだよ。

 

エヴィデンス01から放射される観測できない高エネルギーニュートリノ、これがザフトが地球各所に埋設したニュートロンジャマーの原理そのものだからだ。

 

ニュートロンジャマーは自己完結型の一方向的なボーリング装置によって、エヴィデンス01の破片を含むペレットを人類が掘り出しできない地下深くに埋設させる。

 

ここから発せられる高エネルギーニュートリノ、通常は超新星爆発なんて星系規模の大災害からしか発せられないような高エネルギー粒子線が、地球自体も貫通して飛散する。

 

この高エネルギーニュートリノにぶつかった核物質は、局所的な逆ベータ崩壊を起こして性質が変異する。

 

と言っても性質的に電荷が不安定な物質、つまり核分裂なんかに使われる放射性物質にしか効果はないが。でもそれを正確に取り扱う必要がある核分裂炉や核兵器には大打撃だ。

 

さらにコストを理由に核融合炉が完成してもなお、安価な核分裂に電力需要を頼っていたナチュラル共にも大打撃であったわけだ。

 

ただしニュートリノの放射経路は操作できないので、エヴィデンス01から高エネルギー粒子線が好き放題出るのに任せることになる。

 

磁石の周りに鉄粉を巻いて磁束線を可視化する実験をしたことがあるだろう?あれみたいなモノだよ。エヴィデンス01ペレットの周りから磁束線のように高エネルギーニュートリノが出る。

 

この線は太さがない。正しく言えば素粒子の大きさ分しかない。これをプラントから地球にある核分裂炉や核兵器なんかに狙って当てようとしても、届きはするが当たらない。

 

だから、ザフトはオペレーション・ウロボロスで地上侵攻した。それが第1話冒頭の戦闘だ。

 

地球の主要な電力供給地帯の周りに直接、エヴィデンス01を埋めに行ったわけだ。それがニュートロンジャマーとして知られる、あの背の高い装置だよ。

 

狙えないなら近くに埋めればいい、というのは何ともスマートじゃなくて気に入らないが、まあ状況が状況だからな。

 

ニュートロンジャマーは防衛にも使える。プラントや宇宙空間での拠点には、それを取り囲むようにニュートロンジャマーによる、高エネルギーニュートリノの帯ができている。

 

宇宙空間には上下左右がないんだから横だけ守ったって意味ないじゃないかって?そんなことはない。結局のところ地球圏という言葉が示す通り、よほど離れない限り地球か月の重力には影響される。

 

つまり上下はあるんだよ。人間がそう決めているだけだが。

 

ラグランジェポイントなら地球と月、それとポイントを結ぶ3角形の法線が上下の軸になる。上と下はどっちでもいいが、地球の北極側を上にするのがわかりやすいのでそうしている。

 

一部の宇宙に上がったナチュラル共には、宇宙にいることだけで重力から自由になったなんぞ特権意識を持つやつがいるが、そんなモノ、地球圏のラグランジェポイントにしがみついてる限り存在しない。

 

ここで重要なのは、真上、もしくは真下からアプローチすることの愚かさだ。宇宙では重力の影響は微小になるが、大気のない宇宙ではその微小な影響が効率を左右する。

 

真上か真下からアクセスするのは、近傍の重力に抗って動くことになるので恐ろしく非効率だ。なので横から遮るようにアクセスする。となると、プラントの周囲を帯のように囲った防御帯があれば防ぐことができる。

 

別にニュートロンジャマー自体にはエヴィデンス01の欠片が絶対に必要なわけではないが、オペレーション・ウロボロスで使用した第1陣のそれには実際に使用した。

 

コーディネーターの怒りを勝った愚かなナチュラルの住処に、G•Gが持ち帰った地球外生命の遺物から作ったソレを撃ち込むことに象徴的な意味があったのだ。

 

おかげで本物のエヴィデンス01はすっかり霧散した。でもスッキリした。

 

ちなみにニュートロンジャマーを実用化したのはプラントのオーソン・ホワイトが率いるR.O.H.というグループで、中にはブリッツのパイロットであるニコル・アマルフィの父君、ユーリ・アマルフィも参加しているぞ。

 

つまりニュートロンジャマーはトポロジカル型量子コンピュータが実用化される過程でできた副産物と言えるわけだ。

 

さて、トポロジカル型量子コンピュータの何が良いか説明していなかった。この方式の量子ビットは、抜群に安定している。

 

何となく、量子コンピュータは情報を保持する仕組みが安定していなさそうなことは想像できるだろう。

 

そうか、出来るか。なら古典的なコンピュータが情報保持している仕組みとどちらが安定しているか論ぜられるな。やってくれ。

 

出来ないか、そうか。2度と口を挟むな。

 

ともあれトポロジカル型量子コンピュータは、前世紀から引き続き研究段階にあった量子コンピュータを一気に実用段階まで引き上げた。

 

繰り返すが、トポロジカル方式のマヨラナ粒子を用いた量子ビットが安定していたからだ。

 

従来の量子ビットはエネルギーを印加することで量子重ね合わせの状態を作り出していた。しかし、これは環境に弱すぎたのだ。

 

トポロジカル方式は、マヨラナ粒子の組紐を変えることで物理的に重ね合わせの状態を作り出すことができる。それまで連続的な使用に制限のあった量子コンピュータが初めて安定した。

 

もちろん難点もある。マヨラナ粒子の組紐を変える操作に莫大な電力を消費することだ。このためトポロジカル型量子コンピュータの使用は、必ずリアクター、それも核融合か核分裂かどちらかとのセットになる。

 

ようやく話が最初に戻るが、ストライクがトポロジカル型量子コンピュータではなく、既存のイオントラップ型量子コンピュータを採用していたのは消費電力に起因する。

 

イオントラップ型は量子ビットとして、原子イオンを真空中に電磁場で捕捉し、そこからイオンをレーザーで極低温まで冷やすことで量子重ね合わせの状態を作り出す。

 

こちらもイメージとして消費電力が多そうな気がするだろうが、いかんせん捕捉するのは、ごく小さなイオンだ。実運用面としてトポロジカル型よりも消費電力が少ない。

 

じゃあ、なぜトポロジカル型量子コンピュータの話なんて出したのかとなるが、これは連合のGATシリーズが間違いなくトポロジカル型の採用を想定していたからだ。

 

GATシリーズがトポロジカル型量子コンピュータを採用できなかったのは、明らかにバッテリーの問題だ。消費電力を抑える改良を見込んでいたのか、はたまたニュートロンジャマー自体をなんとかする策にあたりをつけていたのかは定かではない。

 

しかしGATシリーズに採用されている技術にはトポロジカル型量子コンピュータからスピンオフした技術が多く使われている。その最たるものがフェイズ・シフト装甲だ。

 

相転移(フェイズ・シフト)を利用した装甲、と聞くと物理学者はギョッとするはずだ。というのも相転移自体は水が氷になるほどのありふれた現象であるが、それを利用して何かしているとなるとSF小説に出てくるナニカしか思い浮かばないからだ。

 

これは実際にはディスインフォメーションである。極秘裏に行われたG兵器の開発過程において、意図的に誤った名前が付けられたのだ。少なくともザフトではそう結論づけられた。

 

フェイズ・シフト装甲は、装甲表面をトポロジカル型量子コンピュータのマヨラナ粒子による量子ビットで覆った装甲である。

 

この装甲が転移するのは相(フェイズ)ではなく位相(トポロジー)なのだ。この装甲は物理的な衝撃を、マヨラナ粒子を組紐するときに生じるフェムトレベルな力で逆位相を作り出して打ち消しているのだ。

 

そうフェイズ・シフト装甲とは、量子ビットの位相(トポロジー)を波形の位相(フェイズ)に変えて表面の相(フェイズ)を転移(シフト)する装甲なのだ。高度なダジャレである。

 

大西洋連邦にて研究段階にあったこの技術を誰かがフェイズ・シフトと呼んで、それが実態を匂わせつつうまく隠せているからそのまま使われたのだ。

 

確かに情報収集において、相転移装甲を研究しています、と言われたらあまり重要視しないだろう。

 

ザフトはもちろんこの名称を継承する。彼らは名付け親というのをかなり大事にする傾向があった。

 

そもそも祖であるG•Gからしてコーディネーターは名前を残すことを好まない。事実がどうであれ自分たちに少しズルをしている感覚があるからだ。

 

G•Gが残した膨大な成果に対する彼の要求は、絶対に自分の名前をつけるな、というそれだけの要求だった。だからC.E.における莫大な彼の功績に対してG•G効果やG•G粒子と言った用語が存在しない。

 

これをしてG•G未来人仮説という面白い思考実験まで存在する。確かに知識を持って過去にタイムスリップした人物がやりそうなことだ。

 

ともあれフェイズ・シフト装甲がトポロジカル型量子コンピュータに関するスピンオフ技術でできていることは理解してもらえただろう。

 

この技術は本来、トポロジカル型量子コンピュータとセットで使用されるはずだった。確証はないが、そうに違いない。あまりにもシナジーがありすぎるのだ。

 

装甲表面自体を計算リソースとして使用できる。しかもそれがセンサーを兼ねていて、衝撃を跳ね返すアクチュエーターにもなる。これだけで防御兵器として完結しているのだ。

 

さらに装甲表面に加わった力を元に逆位相の力を発生させるアルゴリズムが、仮称だがラミアスの振幅アルゴリズムという量子演算アルゴリズムで計算されている。

 

これは素晴らしく賢いアルゴリズムだ。装甲表面が受ける力をそのまま量子ビットに与えるオラクルとして使用する。これがどういうことかというと、フェイズ・シフト装甲が力を反射する処理の過程、全てで量子演算の効果を期待できる。

 

つまり計算量がO(1)だ。nではない。sqrt nでもない。1だ。出力先がそのまま装甲表面になるので、いちいち量子ビットを開けて観測していく必要すらないのだ。

 

つまり正しくトポロジカル型量子コンピュータに接続されたフェイズ・シフト装甲は、表面に力を受けた瞬間にそれを跳ね返す。そこにタイムラグが理論上発生しないのだ。

 

この状態でのフェイズ・シフト装甲についてまとめると、表面がトポロジカル型の量子ビットでできている装甲で、これは電源投入で常に量子重ね合わせの状態になっている。そこに力、衝撃が加わるとそれ自体がオラクルとなって量子ビットを伝達し、各量子ビットがマヨラナ粒子を組紐する時のフェムトレベルの力が逆位相の形へと収束していく。

 

この状態で正しい名前をつけるとしたらどうなるだろうか?フェムトスケール先進技術耐衝撃反射装甲、Femtotech Advanced Impact-Reflective Armorだろうか?長いな。

 

しかしGATシリーズはイオントラップ型量子コンピュータの採用で留まってしまった。それはそうだろう。常に機体表面の量子ビットを重ね合わせ状態で保持しなければならない。どんなバッテリーでも一瞬で空になるはずだ。

 

これを解決するには、機体の箇所箇所を分割して間を空けて処理していくしかない。ここにわずかながらラグが生じるのだ。これが今の時点では大きな弱点になりうる。

 

でも逆に完全なフェイズ・シフト装甲がどれだけの耐久性を持っているのか、容易には判断がつかないな。

 

これは今すぐ、鹵獲したGATを後送してフェイズ・シフト装甲をトポロジカル型量子コンピュータに接続してテストするべきだ。どんな困難を排除してでもある。

 

しかし現実はそうもいかない。さっきから頭の中のネイサンが騒いでいる。

 

ネイサン・ハインラインは憎っくき我が弟、ハインライン家でなぜか金勘定に特化した設計局に住まう悪魔である。

 

ネイサンは常に言う。考えるだけで済ませろ、それならタダだ。確かにそうだろう。しかし実証のない構想など、所詮は妄想なのだ。ただ言わんとすることはわかる。まずは考えて試せと言うことだ。

 

フェイズ・シフト装甲の耐久限界は何に依拠するだろうか?表面積と厚さだ。性質としては局所的に掛かる力を機体表面全体に分散して抑え込むとも表現できる。

 

とすると、この装甲は機体表面でカバーできる範囲の力、それ以上が掛かると全体が一気に崩れることになるな。これは弱点か?いや、従来装甲ならもっと早く崩れるはずだ、関係ない。

 

むしろごく微小な点の力を分散してくれる利点の方が大きいはずだ。例えば戦車主砲弾のAPFSDS、装弾筒付翼安定徹甲弾が当たったとしても、その先端の極小領域に掛かる力を、被弾部と関係がない表面全体に分散してカバーしてくれる。これで正面だけの分厚い装甲は不要になる。

 

連合、少なくとも大西洋連邦はこれを実射で効果確認しているはずだ。これはプラントも追いつかなければまずいことになる。

 

せっかく思考で試しているのだ、もっと拡張して試行しよう。計算資源を無限として、フェイズ・シフト装甲を積層して厚さを増したらどうなるだろうか?

 

GATのフェイズ・シフト装甲がビームを防げないのは厚さが足りないからだ。反射する前に浸透されて貫通してしまう。

 

分厚いフェイズ・シフト装甲はビームすら防ぐ。いや、防ぐどころじゃない。質量のない高エネルギービームに逆位相をそのまま当てたら、十分に厚さのある量子ビットが励起してそのまま...、跳ね返る!?

 

すごいぞ、これは。早速...

いや、いいか。どのみち実現しようにもネイサンが激怒することは間違いない。

 

しかし、表面全体を覆うと金がかかりすぎるとして、それを使い捨ての膜のように展開すれば、もしくは...

 

キサマ、何を見ている!見せ物ではないぞ!

 

なんだ?最初の話を聞けてない?

 

そうか、キラ・ヤマト少年がストライクに乗り込んだ時のセリフか。

 

順を追って説明しよう。

 

まず、キャリブレーション取りつつゼロ・モーメント・ポイントおよびCPGを再設定、の部分だ。

 

ここはOSとは関係ない。アプリケーションよりの歩行姿勢制御機能に関する調整(キャリブレーション)をしようとしている。何も最初からOS設定を書き換えようとしたわけではないのだな。

 

状況も合わせて見ていこう。まず、MSに乗り込んだヤマト少年は、歩くことすらおぼつかないストライクの中にいて、このOSでコレだけの機体を動かすのは無理だと断言する。

 

ここでヤマト少年は少し動かしただけで、このOSではダメだと判断したわけだな。あり得るだろうか、もちろんあり得ない。彼がコーディネーターだろうと神だろうと、膨大な規模のOSを短時間で処断することはできない。

 

この発言のヒントは、彼が直前まで居たカトー研究室の一シーンにある。この真ん中のヤツ、この白いのだ。これはエクゾスケルトンというパワードスーツの一種だ。

 

この制御システムの実装と評価を担っていたのがヤマト少年だ。

 

彼がこのOSではダメだ、と即座に断ずることができたのは、OSのバージョンがガワが被せられているが昨日、彼がコミットしたバージョンと完全に一致していたからだ。

 

このエグゾスケルトンはせいぜい3m未満の小型歩行機械で、しかも非軍事用途向けの産業用だ。なので、全高約18mのストライクにそのまま使うのはそれは無理だと言い切れたわけだ。

 

彼が呈した苦言に言外の意味があるとしたら「お前ら、ヤリやがったな」だな。そう思うと、その後のラミュー大尉の反応も言い訳めいて聞こえてくる。

 

さて、セリフに戻って個々の用語について説明しよう。まずはゼロ・モーメント・ポイントだ。長いからZMPと呼ぶぞ。

 

これは2足歩行制御における足裏の重心点だ。人型であれば腰の位置の前あたりにある重心点と体の傾きから算出した直線が床面と交わる位置だ。

 

ZMPは床面との交点なので足裏にある必要はない。しかし、不安定な片足状態で、ZMPを足裏の矩形内に収めるように制御することで安定した静歩行を実現できる、というのが2足歩行制御の基本理論なのだ。

 

CPGはCentral Pattern Generator、中枢パターン生成器の略で、歩行する生物の中枢神経を基にその一連のパターンをモデル化した、動作パターンの生成器だ。

 

MSに組み込まれた歩行姿勢制御機能は片足を上げた時にZMPを接地している足の裏側に収まるように、重心と機体の傾き、そこにかかる慣性を制御する。この時の姿勢をCPGを使って生成する、というのがこの時の調整、キャリブレーションしている機能の具体的な内容になる。

 

まあ、機体がまともに歩かせられない場合、この機能を調整することは真っ先に考え付くわけだから妥当な展開だな。しかし、この後が問題だ。

 

これに失敗したらしいヤマト少年は、クッと切り替えて、なら擬似皮質の分子イオンポンプに制御モジュールを直結、ニューラルリンケージネットワークを再構築、と発言している。

 

ここでいきなりOSの底も底、物理的な計算の仕組みに手を出している。ここも用語ごとに分けて説明しよう。

 

まず分子イオンポンプだが、これはイオントラップ型量子コンピュータの量子ビットに分子イオンを送り込む装置のことだ。擬似皮質は分子イオンを運搬、制御する有機的な回路を示していて、名前の通り脳の皮質を模擬している。

 

ここでやっていることは要するにイオントラップ型量子コンピュータの初期化と計算方法の指定だ。先ほどやってダメだった歩行姿勢制御機能のモデル再計算をその場で量子コンピュータに指示したのだ。

 

つまり制御モジュールは歩行姿勢制御機能を指している。従来、歩行姿勢制御は事前に計算されたモデルを基に、各部位の制御量を決定する。

 

ここでのモデルはカトー研究室にある3m未満のエグゾスケルトンだ。もちろん、このままではまともに歩かなかったので、そのモデルを値調整(キャリブレーション)の範囲で何とかしようとしたのが前段の試みだったわけだ。

 

これに失敗した、だから全高18mのMSに適したモデルをその場で計算して再構築しようとした。そのモデルの名前がニューラル・リンケージ・ネットワーク、神経接続網だ。

 

この名前はいかにも体のバイタル、神経伝達と連動しているような気がするだろう。

 

いや、聞いてない。大丈夫だ。

 

ここからやろうとしていることが次のセリフ、メタ運動野パラメータ更新、だ。

 

そうメタがつくんだ。運動野は脳の中で体の運動機能を司る部分を指す。我々は究極的には18m高のMSの運動野を作ってやりたいわけだが、人間の作り方もよくわかっていないのだから、それは難しいわけだ。

 

そこでブラックボックスに外からパラメータを与えてやって学習し、メタ運動野を作ることにする。これは外から、つまりMSという観察者から見れば運動野に見えるということだ。

 

少し重複しているように感じるが、このメタ運動野とは、MSから見たOSを含む歩行姿勢制御機能を指す。

 

これに与えるパラメータを更新するのだ。ここが極めて大事なので次のセリフと共に説明しよう。

 

次のセリフは、フィードフォワード制御再起動、だ。まずフィードフォワード制御だが、これは制御理論の方式を示す言葉だ。

 

フィードバック制御は何となく聞いたことがあるだろう。概ね内容もわかるはずだ。水を温める、温度を測る、そこから理想温度との差を見て次に温める強さを決める、というのがフィードバック制御だ。フィードフォワードはその逆になる。

 

歩行制御に照らして話すと、姿勢が倒れたから立て直す、というのがフィードバックで、姿勢が倒れそうだから姿勢を正す、というのがフィードフォワードだ。

 

フィードフォワードには、制御を乱す外乱を予測する情報が必要になる。C.E.世界の制御技術には、これに人間の神経伝達を使用する技術がある。それがニューラル・リンケージ・ネットワークによるフィードフォワード制御技術だ。長いのでNLN-FFとするぞ。

 

この技術は人間という高精度な感覚学習装置を最大限に利用した制御装置になる。通常、コックピットの接点から電気刺激によって人体へ情報が伝達される。

 

もちろん、これは罰ゲームとかにあるビリリと来るような刺激があるものではない。そうだったら絵面としてあまりに面白い。

 

この電気刺激は人間にはちょっとした違和感程度として伝わる。動きが止まったエスカレータで段を降りる時、違和感がして上手く階段を降りれなかった経験はないだろうか?正しくコレだ。

 

MSでもMAでもNLN-FFが搭載された機体に登場すると、その運動具合をちょっと大袈裟に感じるようにNLNから人体に電気刺激が送られる。

 

人間は賢いもので、自分の体以外から入力された電気刺激でも、学習して対応しようとする。ここでちょっと大袈裟に伝えられた刺激に、人間はそれを戻そうと神経伝達する。

 

NLN-FFはこの神経伝達を読み取って外乱の予測に利用するのだ。

 

つまり平たくいうと、MSが立っている時の揺れがパイロットに少し大袈裟に伝わって、これを正さなきゃと思う人間の反射反応によって、外乱を予測してMSの姿勢を正すのがNLN-FFの仕組みだ。

 

ただ、途中で言ったようにこの仕組みは連合のMAにも搭載されている。こっちでは機体にかかるGが少し大袈裟に伝わるようになっている。

 

しかし、MSとMAの外観を比べて見ればわかるが、MAには関節部が全くない。パイロットに伝わる情報量はMSの方が段違いに多いのだ。

 

ここに、現時点でのザフト有利要素、コーディネーターにしかMSをまともに操縦できない状態が生起する。

 

コーディネーターならMSを動かせるが、ナチュラルではまともに歩かせることもできない、というのを一言で説明すると反射神経の良さが違うからだ。

 

NLN-FFから入力された電気信号に対して、人体が反応するスピードがある程度速くないと制御が破綻するのだ。フィードバックでもフィードフォワードでもいいが、どちらも評価部の伝達が遅れるとすぐに制御が破綻する。

 

と言ってもコーディネーターも全員がMSを操縦できるわけじゃない。MSの現状は、コーディネーターも上澄みしか操縦できないが、ナチュラルはほんの一部いる適性者にしかMSは操縦できない、というのが正しい状況だ。

 

一部の物にしか扱えない機械は、兵器としては失格である。だから今はコーディネーターしかMSを兵器として使用できないのだ。

 

ん、私か?私はMSに乗ったら5秒で吐く!

NLNが機体の揺れを大袈裟にして伝えてくるので、乗り物酔いに弱い奴は神経伝達の速さとか関係なく使いものにならない。

 

逆に物凄く適性がある人間というのが、コーディネーターやナチュラルに問わず存在する。彼らにはNLNを使ってもっと凄いことをさせられる。

 

秘密にしてもしょうがないので言うが、フラガ大尉がメビウス・ゼロでガンバレルを操っている機能がこれだ。

 

ならフラガ大尉はストライクを動かせる?と疑問に思うが、それはプラント製OSをストライクに移植した場合はそうなる。少なくともヤマト少年も見放した連合のMS用OSでは誰もまともに動かせないだろう。

 

ヤマト少年がいじった後のOSならどうかって?あれはザフトの人間すら扱えない。ヤマト少年専用だ。理由はコードの汚さにある。即興で書かれた量子演算アルゴリズムなど彼以外に誰にもわからんよ。

 

クルーゼ隊がヘリオポリスからGATを奪取した時は、機体のOSをプラント製で上書きしている。全員がヤマト少年のようなOS書き換えを実施したわけではないので安心してくれ。

 

さてここまでのセリフについて、これで理解できたはずだ。再起動と言っているのも、パイロットつまりヤマト少年とのNLN接続をやり直した、と言っている。

 

ここからは消化試合だ。次のセリフは、伝達関数、コリオリ偏差修正、だ。

 

伝達関数はNLN-FFの信号伝達に使う関数を指していて、本題はその後のコリオリ偏差修正だ。これを伝達関数を経由して行う。

 

重要なのは、第2話でストライクが初めて戦闘したのはヘリオポリスというコロニーの中であることだ。

 

この島3号型コロニーと呼ばれるヘリオポリスの構造は、地表面に当たる筒を回転させることで重力を発生させている。この回転によって生じるズレをコリオリ力と呼び、これを現地で修正したのがコリオリ偏差修正だ。

 

もちろんこの後ストライクが宇宙に出たり地球に行ったとした場合には再度調整しないといけない。しかしヤマト少年なら造作もないだろう。

 

次の、運動ルーチン接続、がNLNを通じてパイロットと機体を接続します、と宣言している。

 

その次の、システムオンライン、はちゃんとパイロットと機体がNLNで接続されたぞ、と確認している。何事も確認は大事だ。ヨシ。

 

そして、ブートストラップ起動、だ。これはOSを起動するときに色々、計算を含んだ状態で立ち上げることを示している。これは、最初に設定した歩行姿勢制御機能のモデル再構築を、量子コンピュータの演算部に投げているので、それを計算しながらOSを立ち上げてくれ、とOSに言っている。

 

ここまでやって起動したのが次のOSだ。

 

General

Unilateral

Neuro - link

Dispersive

Autonomic

Maneuver

       Synthesis System

 

まあ全体的に凄い当て字なのだが、無理やり文章として繋げると「汎用向け単一操作者による神経接続を利用した分散式自律制御による操縦システム」となる。かなり無茶だな。

 

今まで説明した内容をうっすら表しているような気がするし、まったく分からん感じもする。でもアクロニムなんてそんなものだ。多分、G.U.N.D.A.M.であることに意味があったのだ。

 

これでここまでの解説は終わりだ。よくついて来たな、褒めてやるぞ。

 

ナニ、最後に質問がある?言ってみろ。

 

スタッフにいるカラーコーディネーターさんは、コーディネーターなのかだと?知らんわ!帰れ、今日はもう終わりだ!





今回でほとんど話のネタを出し切っちゃいました。なので単発ネタですが、続ける時はゲシュマイティッヒパンツァーで1話使いたいです。

手持ちのネタもいくつか使ったので今後の別作品の設定と重複するかもしれません。
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