定例会議の行われているアビドス対策委員会の教室、そこにアルとムツキは訪れていた。
というのも、昨日未遂に終わったアビドス襲撃。それを依頼したクライアントから便利屋へと進捗を確認する電話が来たからだ。
「そこで私は言ってやったわ。『生憎、あなたたちのような見下げ果てた輩と繋ぐ手なんか持ち合わせてないわ!!』って!」
「くふふ~、アルちゃんすんごい話を盛ってるねぇー。実際は生まれたての小鹿ちゃんみたいだったのに。『あ、あのぉ……。私たちとしてはその、今回の件は無かったことに……してもらいたいと言うか……』どう? ソックリでしょー?」
「ちょっとムツキ!! なんで本当のことを言っちゃうのよ!!」
「なるほど、それで便利屋の皆さんはアビドスに。ひとつボタンを掛け違えたら戦うことになっていたんですね……」
「ん、友達のアルたちと銃を向け合うのは私としても嫌だった。響先生、グッジョブ」
「と、友達……! ええ、私たちは友達ね!」
シロコに友達と呼ばれたアルは感激の表情だ。瞳はキラッキラに輝いている。
そんな仲睦まじい光景を響は後方先生面で腕を組み、うんうんと頷いていた。
「ちなみに、その便利屋さんたちへ依頼をしたクライアントがどなたなのかはご存じなんですか?」
「良い質問だねぇメガネっ娘ちゃん。と言いたいところなんだけどごめんね、私たちも詳しくは知らないんだ。その辺りは徹底的に隠してるっぽい」
「め、メガネっ娘ちゃんって……。私はアヤネという名前です! ……そうですか。さすがにそこまで迂闊な相手ではないみたいですね」
「まあでも、間違いなく大きいクライアントではあるわね。提示された報酬の額がすごく多かったから。……こ、これは情報漏洩じゃないわよね!? 我が便利屋68の経営顧問と相談しているだけよね!?」
社長を名乗るだけあってクライアントの情報を漏らすことには相当な抵抗があったらしいアル。しかし情報と呼ぶにはあまりにも内容が無いし、結局クライアントからは一銭も受け取っていないこともあってか、カヨコに喋っても構わないと太鼓判を押されていた。
「かわりに私たち便利屋の情報を漏洩しちゃいまーす。結局手付金すら受け取ってないし、アビドスを襲うために傭兵のバイトを私財で雇っちゃったせいでもういっちもんなし~!」
「あ、あんた達……それで紫関に来た時は一杯のラーメンを分け合おうとしてたのね……」
「あの~、本当にお困りなんでしたらコレ、ご入用ですか?」
友達が困っているのは見過ごせない、とばかりにノノミはアルへと光り輝く黄金のカードを差し出そうとする。それを見たアルはギョッとした表情で断った。
「ま、待ちなさい! いくら友人でもお金は受け取れないわ!?!? それに安心しなさい、私たちはこのあとブラックマーケットの銀行で融資を受けに行くのよ」
「あれ、アルちゃんたちもブラックマーケットに行くんだ? 奇遇だね~」
「あら、立花先生も? 運命が私たちを引き合わせているのかしら……!」
そう、奇遇にも響たち一行はブラックマーケットへ向かう予定があった。以前セリカを攫おうと襲ってきたカタカタヘルメット団、彼女らが持ち出してきた重戦車の出所を探ってみたところ、現在はもう生産されていない型番だったのだ。そんなモノを手に入れられる場所はブラックマーケットしかない。藁にも縋る気持ちで、響たちはブラックマーケットへの調査へ赴くことを決めていた。
「うん、それじゃ一緒に行こっか!」
そんなこんなで、いつも通り後方支援として学校で待機しているアヤネを除いた一行はブラックマーケットにたどり着いた。こじんまりとした市場を想像していた一行は、街ひとつレベルの規模に加えてかなりの賑わいを見せているブラックマーケットを目にして驚いている。
アルとムツキは、先に現地に向かっているはずのカヨコとハルカに合流するため別れていった。
「ここがブラックマーケット……。あんたたち、悪い奴に騙されないよう気を付けなさいよ!」
「ん。気を付けて、セリカ」
「そうだね~、気を付けるんだよセリカちゃん。おじさんから離れちゃダメだからね~」
「気を付けてくださいね~、セリカちゃん☆」
「セリカちゃん、お菓子をくれる人に着いていっちゃダメだからね! 知らない人と話す時は必ず私を通してからにするんだよ!」
「う、うるさいっ!! なんでみんなして最初に言い出した私に言うのよ!!」
『セリカちゃんだけでなく、皆さんちゃんと警戒してくださいね。違法な取引が日常的に行われているここでは何が起こるか分かりませんから!』
こういうのをフラグと言うのだろうか。アヤネがそう言った直後、チンピラに追いかけられながら銃声をBGMに一人の生徒がこちらへと全力ダッシュで逃走してきていた。
「そこどいてくださいー!!!!」
「ッとと! 大丈夫、怪我はない?」
「……ほえぇっ!? だ、大丈夫です……」
弾丸と化した生徒が響に突っ込んできたが、そこは流石の響。危なげなく衝撃を受け流して生徒を優しく抱き留めた。
無事に済みはしたがこの生徒は逃走中の身。立ち止まったせいで追手のチンピラ二人組が追い付いてきてしまったので、響は庇うように前に立つ。
「なんだおまえは? ヘイローも持ってないくせにこんなところをノコノコしやがって。アタシたちはそこのトリニティ生徒に用があるんだよ、そこをどけ!」
「わ、私の方は特に用はないんですけど……」
「って言ってるけど、君たちはこの娘にどんな用があるの?」
どうやら追われている理由に思い当たるものはないようだ。追跡の適当さ加減や感じ取れる相手の練度からも、場当たり的な襲撃なのだろうと響は見当をつけた。これなら簡単に目的を話すだろうと問うてみれば、案の定チンピラたちは嬉しそうに話し始めた。
「知ってるか? そいつが通ってるトリニティ総合学園ってのはお嬢様学校だ。つまりキヴォトスで一番金を持ってる学校ってワケ! だから拉致って身代金をたんまりいただくんだよ!」
そこまで聞いた時点で、もはや撃退することに躊躇う理由もなくなったと判断したシロコとノノミは、饒舌に語っているチンピラ二人の背後に回り込みはじめた。全く気付く様子はない。
「そうだ、いい提案をしてやるよ。おまえらも一枚噛まないか? 分け前は――うぎゃぁっ!?」
「こ、これで勝ったと思うなよ~!」
「悪人、天誅」
「悪い子は、お仕置きです☆」
二人の裏取りパンチによってあっけなく地面に沈んだチンピラは、捨て台詞を吐きながら泡を食って逃げ出していった。
どうやらお嬢様学校の生徒らしい少女は、向かい合うと育ちの良さを感じさせる丁寧なお辞儀をしてお礼の言葉を発した。
「あ、ありがとうございました。あの、私は阿慈谷ヒフミと言います。実は無断で抜け出してきていたので、学校に話が行ったらどうなっていたことか……」
「ありゃ~、ヒフミちゃんも勝手に抜け出しちゃう悪い子だったとは。おじさんの目でも見抜けなかったよ。……あのお嬢様学校と名高いトリニティの生徒がどうしてこんなところに?」
「あはは……。ちょっと探し物をしに。もう一般で販売されていないモノなので、ブラックマーケットでしか手に入れられないんですよ」
学校を無断で抜け出してブラックマーケットに一般的ではない品を求め訪れる。その情報だけ聞くとやはりヒフミも悪人のように見えてくる一行。
そうまでして求めるブツとは一体なんなのだろうかと、みんな口々に予想を始める。
「お嬢様だし、権力闘争に巻き込まれてるんだ。相手を蹴落とすための非合法な毒薬とか?」
「プライベート用の重戦車とかじゃないでしょうか?」
「うえぇ!? 全然違いますよ……。えっとですね、恥ずかしながら……いえ、恥ずべきことではないですね! 私はペロロ様のグッズを探しに来たんです!」
そう言いながら取り出したのは、奇妙な鳥のような生き物が口にアイスクリームを押し込まれている謎のぬいぐるみだった。これが俗に言う〝キモカワ〟というやつなのだろうか。響に芸術はてんでわからぬ。ゆえに感想を口にすることはやめることにした。
「これはペロロ様がアイスクリーム屋とコラボした時の限定グッズです! 限定生産で100体しか存在しないグッズなんですよ。見てくださいこの哀愁に満ちた表情でアイスクリームを頬張るペロロ様の可愛らしさを! これだけでご飯三杯……いえ、三倍アイスクリームはいけちゃいますよね!」
目を輝かせてペロロ〝様〟について語り始めるヒフミ。一同は苦笑いを浮かべるのみだったが、一人だけ理解者は居た。ノノミだ。どうやらこのペロロ様も属するシリーズもの、モモフレンズのファンであるらしい。
「わあ、このペロロさん可愛いですね~☆ 私はモモフレンズだとミスター・ニコライが好きなんですよ」
「!!!!!! こんなところに同志が……! 私もニコライさん好きなんです! 最近出たニコライさんの書籍『善悪の彼方』も初版で買ったんですよ!」
目を輝かせてモモフレンズトークに花を咲かせはじめるヒフミとノノミ。キモカワというジャンルゆえ、やはりファンはなかなか居ないのだろうか。数少ないらしい同志を見つけたヒフミは本当に嬉しそうだ。
「いやぁ~、おじさんにはよくわからないなぁ。最近の若いもんには付いていけん」
「そうじゃのうホシノさんや。ワシらも随分歳を取っちまったもんじゃい」
「先生はともかくホシノ先輩は歳の差なんてほぼないじゃん……」
「オイ! てめぇら!! さっきの借りを返しに来たぞ!!!!」
和やかな空気で会話をしている一行に、無粋な闖入者が現れる。どうやら先ほど伸されたチンピラが、大勢の仲間を引き連れてリベンジしにきたようだ。
「わあ☆ チンピラは一匹見るといっぱい居るって本当だったんですね~」
「オイコラ!! 人を虫かなんかと一緒にするな!!」
「これ以上増えられると面倒。徹底的に心を折るべき」
「シロコちゃん、ちょ~~っとは優しくしてあげてね!? 先生との約束だよ!!」
「それじゃ、ちゃっちゃと片付けちゃおっか。おじさんが先陣を切るよ~」
気が抜けるような声とは裏腹に鋭い動きで距離を詰めたホシノがショットガンで初撃を放ち、戦闘の火蓋は切って落とされた。