立花響(27)、キヴォトスに赴任する   作:ましましだ

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第二話

「な、なに、これ!?」

 

 リンに着いて行った一同が目にしたものは、銃弾の飛び交う戦場だった。

いわゆるスケバンのような装いの生徒達が銃を手に暴れている姿は、響にはやはりアニメの光景のようにしか見えなかった。

 

「なんで私たちが不良たちと戦わなきゃいけないの!!」

 

「サンクトゥムタワーの制御権を取り戻すためには、あの部室の奪還が必要ですから……」

 

「それは聞いたけど……! 私これでも、うちの学校では生徒会に所属しててそれなりの扱いなんだけど……!? なんで私が……!」

 

 不意に戦闘へ参加させられそうになり文句が止まらないユウカ。

ヒートアップしてついには自らの権力すら誇示するような発言まで零してしまうが、それを咎めるがごとく飛んできた銃弾に直撃してしまう。

 

「いっ、痛っ!! 痛いってば!! あいつら違法JHP弾を使ってるじゃない!?」

 

「ユウカちゃん大丈夫ッ!?!? はやく伏せてッ!!」

 

 ユウカが被弾したのを見た響は、焦ったような表情で駆け寄って怪我を確認する。

しかし当のユウカは多少痛がる様子を見せてはいるものの、特に怪我を負った様子ではなさそうだ。

 

「は、はい立花先生。ですが心配しなくても大丈夫です。私たちキヴォトスの人間はこれくらいでは怪我をしませんから」

 

 激しく動揺を見せている響にユウカは驚いて返事をするが、そういえばと思い返す。キヴォトスの外では銃弾一つで致命傷になりうることを。

 

「……そうですね。今は立花先生が一緒なので、その点に気を付けましょう。

先生を守ることが最優先、あの建物の奪還はその次です」

 

「ハスミさんの言う通りです。立花先生はキヴォトスではないところから来た方ですので……。

私たちとは違って、弾丸一つでも生命の危機にさらされる可能性があります。その点ご注意を!」

 

 黒髪ロングの生徒、ハスミに同調して鋭く注意を促す風紀委員の生徒。

しかし響はそれを否で以て返した。

 

「みんな、心配ありがとうね。でも私なら大丈夫ッ! むしろ私が先導するから皆はついてきて援護をッ!」

 

「ちょっと立花先生っ!?!?」

 

「最短で駆け抜けるッ!」

 

 頼もしい言葉を残して真っ先に戦火に身を投じる響。

全く以て頼もしく感じなかった生徒達は慌てて止めようとするが、踏み出した一歩の速さに驚いた。

明らかにキヴォトス外の人間が出せる速度ではない。むしろ私たちが全力で追いかけても追いつけないのではないかと。

 

「あぁもうっ! ほら皆はやく立花先生についていくわよ!」

 

 なぜかリーダーシップを発揮しはじめたユウカに一同は疑問を抱くものの、足を止めると本当に立花先生を見失ってしまうと考え、おとなしく従うことにする。

 

「ちょ~っとごめんねぇ通りますよ~ッ!」

 

 涼しい顔をして銃弾の雨を通り抜けていく響に、目撃した生徒は思わず二度見し、頭上にあるはずのものがないことを認識すると表情に驚愕を張り付ける。

驚きすぎて誤射をする不良まで居るほどの衝撃だ。誤射をされた不良は怒りのまま味方に撃ち返し、戦場は更にカオスの様相を呈する。

 

「……とォッ!?」

 

 着地をしようとした響はバランスを崩してしまう。それもそのはず彼女はスーツ姿。つまり履いている靴はハイヒールだ。

 

「ヒールが邪魔だッ!」

 

 バランスを崩した勢いのままバク宙で立て直し、ヒールのかかとを地面に叩きつけてへし折った。

問題なく立て直した響は、ユウカ達を引き連れて目的の建物へとそのまま走っていく。

 

「はぁ……はぁ……。立花先生って本当にキヴォトスの外から来た方なの……? 

まあ、連邦生徒会長が選んだ方だから当たり前か……」

 

 必死の思いで着いていき、息も絶え絶えなユウカが思わず呟いた言葉は全員の気持ちを代弁していた。

こうして響たちは不良たちが暴れるエリアを脱した。

 

「もうシャーレの部室は目の前よ!」

 

 目的地にもうすぐ到着するかという時、いつの間にか後方支援に回っていたリンからの通信が届く。

 

『今、この騒ぎを巻き起こした生徒の正体が判明しました』

 

『――ワカモ。百鬼夜行連合学院で停学になった後、矯正局を脱獄した生徒です』

 

「……ソイツはどんな見た目なのよ? 狐のお面を着けている生徒とか言うんじゃないでしょうね!?」

 

『……はい。その生徒で間違いありません。

似たような前科がいくつもある危険な人物なので、気を付けてください』

 

 ――噂をすれば影が差す、という言葉は真実なのだろうか。

不良たちを引き連れて、一人の生徒がやってきた。

狐のお面に、黒を基調とした豪奢な着物を着用していて、全体的に和の雰囲気を漂わせている。どう見てもリンが忠告していたワカモそのものだ。

 

「……騒動の中心人物を発見! 対処します!」

 

「フフ、連邦生徒会の子犬たちが現れましたか。お可愛らしいこと」

 

 ワカモは引き連れていた不良たちを突撃させる。これに対処しようとした響だが、今回ばかりは私たちがやるとばかりにユウカが引き留めた。

 

「立花先生! 相手は危険人物のようですし今回は私たちが対処しますから! 絶~っ対に前に出ないでくださいね!」

 

「不承不承ながら了承しましたぁ。そういうことなら私が指揮を執りますッ!」

 

「え、ええっ? 戦術指揮をされるんですか? まあ……先生ですし……」

 

「分かりました。これより先生の指揮に従います」

 

「生徒が先生の言葉に従うのは自然なこと、ですね。よろしくお願いします」

 

 不安そうなものの指揮に従うことに決めた生徒たちを見た響は、突撃癖の抜けない自分に対して語ってくれた師と仰ぐ人物――風鳴弦十郎との会話を思い出していた。

 

『いいか響くん。大人になるということは自由になれるというだけではない。その両肩には責任という二文字も乗っかるんだ。

そしてその責任のある人間が戦場で斃れるとどうなる――? そう、大黒柱が居なくなるんだ、敗北に繋がりかねない大きな混乱が起こる。

君は俺の後を継いでS.O.N.G(ここ)の司令官になるんだろう。どっしりと腰を据えて仲間を後方から助ける覚悟も必要だッ!』

 

『……はいッ! わかりましたッ! 師匠ッ!!』

 

 そもそも、自分よりもひと回り下の年齢の少女たち同士で戦わせることに凄まじい抵抗を覚えていた響だが。

 

(被弾のダメージもほぼ無いように見える。こっち基準だとおイタをした子供がゲンコツを食らうくらいのものか)

 

 ――そう、自分はここで唯一責任を負うべき〝大人〟という立場だ。甘ったれてなど居られない。

意識を切り替えた響は、先ほどまで実際に見て頭に叩き込んでいた生徒たちの戦闘スタイルを思い出し、指揮を始めた。

 

「……よし。ユウカちゃんは最前線で敵を引きつけてッ! 銀髪の子は……『スズミです、立花先生』スズミちゃん、君はユウカちゃんに追従して援護をッ!

ハスミちゃんは後ろからスナイプを。風紀委員の子は――『チナツです!』チナツちゃん、君は被弾した子の手当てを!」

 

 響の淀みない指揮を受けて不良たちを押し返していく一同。

指揮を受けていた生徒はみな一様に思った。『戦いやすい』、と。

 

「なんだか、戦闘がいつもよりやりやすい気がします……」

 

「やっぱり、そうよね?」

 

「先生の指揮のおかげで、普段よりずっと戦いやすいです」

 

 自分のスペックを他人に引き出されている感覚が不思議なのか、みなどこか不思議そうな表情をしながらも不良たちを圧倒的な速度で倒していく。

ワカモまであと少し――というところで、彼女は退却を選んだ。

 

「私はここまで、あとは任せます」

 

「逃げられてるじゃない!? 追うわよ!」

 

「いいえ、生半可な行動をしてはなりません。私たちの目標はあくまでも、シャーレの奪還。

このままシャーレのビルまで前進するべきです」

 

 気炎を吐くユウカを窘めるハスミ。ユウカも大局を見れる頭脳を有しているだけあって、冷静になりすぐ発言をひっこめた。

 

「……うん、そうね。アイツを追うのは私たちの役目じゃないってことね」

 

「はい。建物の奪還を優先で。このまま引き続き、進むとしましょう」

 

 そうして目的の建物まで前進を進める響たち。目の前までたどり着いたと思ったのも束の間、とんでもないものが現れた。

 

「よし! 建物の入り口まで到着!

……うん? この音は……」

 

「気をつけてください、巡行戦車です……!」

 

「不良が戦車ぁ!? アニメじゃないんだから~~ッ!!」

 

 キヴォトスに来てからというもの、かつての学友の口癖がうつりっぱなしな響。

現れた戦車を見て、ハスミはあることに気付いた。

 

「クルセイダー1型……! 私の学園の制式戦車と同じ型です」

 

「不法に流通された物に違いないわ! PMCに流れたのを不良たちが買い入れたのかも!

……つまりガラクタってことだから、壊しても構わないわ!! 行くわよ!」

 

 勢いよく突撃していくユウカたち。

とは言え相手は戦車。携行している武器ではロクなダメージも与えることができず、千日手の予感を醸し出している。

 

「うわっ!? 危ないわね!! こんなの直撃したら傷跡が残るじゃない!!」

 

 なんならいつか主砲が誰かに直撃して形勢が悪化してしまうかもしれない、と悪い考えが頭によぎりだしたユウカたちだが――。

 

 響は先ほど思い返したばかりの師匠の言葉、それに続きがあったことを思い出した。

 

『……相手が強大で、傷ついていく仲間をどうしても後ろで見ていることができない時は、深呼吸をして、頬を叩いて、頭をリセットするんだ。

それでも、それでもダメな時は。迷わず自分の拳で行けッ!!』

 

『はい師匠ッ!。その時は、私の拳で……。行きますッ!!』

 

『ただしッ! 拳を通すと決めたからには、必ず貫き通せッ!

情にほだされて拳を緩めることなど言語道断ッ!』

 

「スゥ……」

 

 深呼吸をしたのち、パンッ!と自らの頬を叩き、頭をリセットした響。覚悟は決まった。

 

「よしッ! みんな道を開けてッ! 私がやるッ!!」

 

 指揮下に居た影響か、身体が無意識に響の言葉に従い、道を開ける。

戦車までの直線が空いた。そこに迷わず響は飛び込む。

 

(このくらいならギアを纏うまでもないッ!)

 

「はァッッ!!」

 

 響は戦車の目前に躍り出ると、足で地を思い切り踏み抜いた。すると、地面はクモ状にひび割れ、陥没する。――八極拳で言われる名は、震脚。それに足を取られた戦車はバランスを崩し、動けなくなった。戦車に乗り込んでいた不良たちは涙目で逃げ出していく。

 

「これでぇ……おしまいッ!」

 

 そしてこの震脚は、大技を放つ前の、いわばタメの動作にすぎない。

震脚により生み出された勁を発する、すなわち発勁。その中の、寸勁と呼ばれるモノを、響は戦車に向かって放った。

 それをモロに食らった戦車は、無事に産業廃棄物への仲間入りを果たすことになった。

 

「た、立花先生って……ホントに人間……?」

 

 一撃でガラクタと化した戦車を見て、ユウカは勝手に前に出たことへの怒りも忘れて思わず声を出す。こんな所業を成せるのはキヴォトスにも存在しないのではないか、と。

 それを聞いた響は、笑顔で強さの秘訣を伝授した。

 

「うぇっへへ~。飯食って映画観て寝るッ! 男の鍛錬はそいつで十分よッ! ってね?」

 

「いや、立花先生は女性じゃないですか……」

 

 戦闘も終了し、ようやく目的地へたどり着いた気の緩みで和やかな会話を始める一同にリンからの通信が来る。

 

『シャーレ部室の奪還完了。私も、もうすぐ到着予定です。建物の地下で会いましょう』

 

 ようやく問題が片付きそうだ、と響は少し肩の荷を下ろした。

 

 

 

 ――その少し前、戦車との戦闘が行われている時刻。ワカモは秘密裏に動いていた。

 

「連邦生徒会が大事にしてるものと聞いてしまうと……壊さないと気が済みませんね……」

 

「あちらに気を取られてる間に……ちょっとお邪魔しますね」

 

「フフフフ」

 

 

 

 

 

  

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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