立花響(27)、キヴォトスに赴任する   作:ましましだ

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#1 対策委員会編
第四話


 ――連邦捜査部シャーレ。キヴォトス唯一の〝先生〟が所属するその組織には、今日も数千を超える学校から苦情や要望などが押し寄せている。

 そのシャーレの部室。書類がタワーを築いているデスクで突っ伏しているのは、件の〝先生〟であるところの立花響。

かつて最強最大の敵だと思っていた夏休みの宿題。それを遥かに凌駕する書類の脅威に響の心は折れかけていた。

 

「これは無理だぁ……未来ぅ、助けてぇ……」

 

「――その未来さん? ではありませんが、今日も助けに来ましたよ立花先生。

もう。そろそろ少しは書類仕事に慣れてください」

 

 勝手知ったる我が家のように部室に入ってきたのは、青い長髪をツーサイドアップにした生徒、早瀬ユウカ。

先日響が情熱的なスカウトをしてシャーレに入部してきてからというものの、その高い事務処理能力で八面六臂の活躍を見せていた。

 

「いつもありがとうねぇ。もうユウカちゃんなしじゃ生きていけない!」

 

「ッ!! そうやって甘い言葉をかけても私はほだされませんから!!

……今日は話があるんです。た・ち・ば・な・せ・ん・せ・い?」

 

 ユウカがそう言って響に突き付けたもの、それは領収書のようだった。

 

「ギクゥッ!」

 

「なんですかこれは! 『ヴォルフスエック超合金メタルビルド デッテニーガムンダ・雷神フォーム』!? ……おもちゃじゃないですか!

いい大人が生活費を削ってまで娯楽に入れ込んだらダメですよ!!」

 

「落ち着いて聞いてユウカちゃん? だって分身がッ『だってもヘチマもないです!!』……」

 

 返す言葉が見つからない正論に響は目をそらす。――アニメをこよなく愛する友人からのゴリ押しにより

布教された結果。実に少年らしい感性を持つ響は、その中でも特にロボットアニメにハマってしまったらしい。グッズを集めるまでになってしまっていた。

 

「その~……。ご、ごめんね? ユウカちゃん……」

 

「はぁ……。まぁ、これは特別に今回だけ許してあげます。最近は転売だのなんだのと、一度買い逃したものは中々入手できませんからね。

――ですが。これはダメです」

 

 そう言ってなぜか頬を赤らめているユウカが新たに見せてくる領収書。『デッテニーガムンダ』以外に高額な物を買った記憶のない響はきょとんとした様子だ。

 

「『裸になって…夏』、『ご奉仕…メイドモード』。……こ、こんないかがわしいものを生徒の目につくところで購入しないでください!!

――裸はともかく、メイドくらいなら私が…………」

 

 最後の方は小声で何を言っているのか伝わらなかったが、どうやらとんでもない勘違いをしている、と響は思い、慌てて弁解を始める。

 

「いやいやちょっと待ってユウカちゃんッ!? それは違うから! 確かに怪しいタイトルだけどただの歌だから! ほら、今から一緒に聴こう!? 『裸になって…夏』、なんてあの歌姫マリアさんの新曲だよッ!?」

 

 そう言って響は慌ててスマートフォンに有線イヤホンを差し込み、片方、左耳側をユウカに渡して余った右耳側を自分で装着した。

ほぼ密着しているような状態になったユウカは顔を真っ赤にしながらもイヤホンを装着すると、歌姫マリアの歌声がイヤホンから流れ始めた。

 

「……。なんというか、すごく開放的な気分になる楽曲でしたね」

 

 流れていた曲が終わる。正直密着している緊張で全然耳に入ってこないユウカであったが、なんとか感想を絞り出す。

 

「そうなんだよ~、飾らない本当の自分をさらけ出そう! って感じでね~……」

 

 ひとしきり感想を語って満足した響を見て、そういえばもうひとつ伝えなければいけないことがあったとユウカは思い出す。

 

「そういえば立花先生、実はもうひとつ伝えることが。首席行政官からこの手紙を渡してくれと頼まれたんです」

 

「手紙? 誰からのだろう……?」

 

 デス! という幻聴が聞こえた気がする。まさか黒歴史確定の怪文書ではあるまいな、と思いながら手紙を開封する響。そこには助けを求める声が綴られていた。

 

「立花先生、結局どういう内容の手紙だったんですか?」

 

「それがね――」

 

 内容が気になったのだろう、訊ねてきたユウカに説明をする響。

 

 手紙の送り主は『アビドス高等学校』に所属している『奥空アヤネ』という生徒。

そのアビドスが、地域の暴力組織によって追い詰められている。

弾薬などの物資が底をつきかけており、このままだと学校を占領されてしまうかもしれないので、『シャーレ』の先生に助けてほしい。

と、手紙にはそう書かれていた。

 

「へぇ、あのアビドスがそんなことに……。

それで、立花先生はどうされるんですか?」

 

 響にどう動くのかと問いかけるユウカ。

――助けを求めている人が居るのだ。響の脳内にある選択肢は一つしかなかった。

 

「――もっちろん助けに行くよッ! 向かうはアビドス高等学校ッ!」

 

「え、ちょっと立花先生っ!?」

 

 言うや否や書類の山をほっぽり出し、シッテムの箱だけを抱え、アビドス高等学校へ向かおうとシャーレの部室を走り去る響。

あまりの行動の速さに、ユウカは呆然と見送ることしかできなかった。

 

『響先生、少し待ってください! 補給物資を用意しないと意味がないですよ!

地下にあるクラフトチェンバーを利用して物資を生成しましょう!』

 

「お~っとっとッ! そうだったねアロナちゃん、それじゃあまずは地下室、行ってみよーッ!

……ところで、クラフトチェンバーってなに?」

 

 着の身着のまま向かおうとする響を止めようと慌てて声を掛けるアロナ。

ここでまた初耳の謎アイテムが現れたので、響は地下室へと向かうがてらアロナの解説に耳を傾けることにした。

 

『オーパーツであるということ以外、正直私もよく分かっていません。

〝あらゆる物質を作り出すことが可能〟な、すっごい装置です!』

 

「ほえ~。まるで魔法みたいだね……え、あらゆる物質ッ!?」

 

 言葉を飲み込むのに時間を要するレベルでヤバい代物だったことが判明し、大いに驚く響。

自分なら何を作ろうか、などと考えているうちに地下室へ到着したので、アロナの手ほどきを受けながらおっかなびっくりとクラフトチェンバーを利用する。

 

『――これで完成です、お疲れさまでした響先生!

それじゃこれをアビドスに持っていっちゃいましょう!』

 

 補給物資のクラフトはつつがなく完了し、今度こそ、アビドスへ向かう響とアロナ。

 

「よーし、今度こそ、目的地はアビドス高等学校ッ!

最速で、最短で、まっすぐに、一直線にッ!」

 

『おー!!』

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