立花響(27)、キヴォトスに赴任する   作:ましましだ

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第六話

 

「――助っ人を連れてきた」

 

「……ふんッ!」

 

「……?」

 

 アビドス三人の視線は、ドヤ顔ピースサインをキメたシロコと謎のファイティングポーズを取った正体不明の人物――立花響とを行ったり来たりしており、奇妙な沈黙が生まれる。

そんな中で静寂を破ったのは、通信機ごしに喋るもう一人の生徒だった。

 

『まずはお帰りなさいシロコ先輩。

それで助っ人の方なんですけど……その恰好、もしかして――シャーレの先生、ですか?』

 

 通信機の生徒は幾分か弾んだ声でそう言った。それもそのはず、シャーレの先生がここに来たと言うことはつまり、補給物資の到着にほかならないからだ。

そして自分の正体に見当がついている口ぶりから、響はおそらくこの通信機の生徒が手紙の主、『奥空アヤネ』なのだろうと確信した。

 

「ご名答! 私こそがシャーレの先生、立花響ですッ!

そういう君はアヤネちゃん、で合ってるよね? 補給物資、持ってきたよ!」

 

『まさか本当に支援要請が受理されるなんて……。立花先生、本当にありがとうございます!

通信機越しでの挨拶にはなりますが、ご容赦ください。

私たちは、アビドス対策委員会です。

私は書記とオペレーターを担当している、一年の奥空アヤネです』

 

 アヤネの挨拶を皮切りに、その場に居たアビドスの生徒たちも各々が自己紹介を始める。

 

「同じく一年の黒見セリカ。どうも」

 

「私は二年の十六夜ノノミです☆ 立花先生、よろしくお願いします~」

 

「ん、私は響先生の最初の女。今更自己紹介はいらない」

 

「おじさんは小鳥遊ホシノだよ~、よろしくね先生ー」

 

『先輩がた! 自己紹介くらいちゃんとしてください!

……シロコ先輩は二年。ホシノ先輩は唯一の三年で委員長です。この五人でアビドス対策委員会は全員になります』

 

「……うん、みんなよろしくッ! ところで、対策委員会って言うのはどういう集まりで?」

 

 他人を、それも特に〝大人〟を信じられない、という目をしている生徒が若干二名――セリカとホシノが居ることに気付いた響だが、初手で地雷を踏み抜くのは大悪手なのだと過去の経験から痛いほど学んでいたので、今は置いておくことにした。まずは皆のことを知らないと、と無難な質問から投げる。

 

『ピンとこないのも無理はありませんよね、ご説明いたします。

対策委員会とは、ここアビドスの廃校を阻止するために有志が集まった部活です』

 

 そう言って説明を始めたアヤネの口から出てきた情報は、かなり絶望的なものだった。

全校生徒がこの対策委員会に所属している五名のみであり、現在の状況だと襲い来るカタカタヘルメット団から学校を守ることくらいしか出来ていない。

それも消耗戦でしかなく、物資が尽きかけていたところにギリギリ、響が現れたらしい。

 

「……でもそれも、先生が来たから事情が変わった。なかなか良いタイミングで助かるよ~。

おじさん、計画を練ってみたんだー。みんな乗ってみない?」

 

「えっ!? ホシノ先輩が……?」

 

『計画……? うそ……!?』

 

「うへぇ~みんなひどいよぉ。おじさんだってやる時はやるんだからねー」

 

「計画……だとぉッ!? 聞かせて、ホシノちゃん!」

 

 ホシノの口から計画などと言葉が出てきて驚くアビドス一同。

その様子を見てなるほど、と響は思った。ホシノは普段から昼行灯とも揶揄すべきポヤポヤした〝キャラクター〟で通しているのだと。

その目に宿る鋭さを見抜いている響はしかし、それを追及することはせずにノリに乗っかった。

 

「このまま放置してもヘルメット団はまた数日後にここを攻撃してくる。

だから逆にこのタイミングで打って出ようかなーって。先生が来たおかげで物資の問題は解決できたしね~」

 

『……確かに、このタイミングが理想的とも言えるかもしれません。

カタカタヘルメット団の前哨基地であれば、座標も特定できています!』

 

「そう、ここから30キロメートルくらい。今までの分を返しに行く」

 

「弱った敵に回復する暇を与えず追って叩く。うん、良い計画だねホシノちゃん。

――よし、反転攻勢だッ!」

 

 先頭に立って早駆けでもせんとばかりの勢いを見せる響に、アヤネは冷静なツッコミを入れる。先ほどは大暴れであったがそう、響はキヴォトス人ではないのだ。

 

『その……。私はオペレーターを務めるためにここに残るのですが、立花先生には私のところでサポートをお願いできませんでしょうか?

キヴォトスの外から来られた先生が前線では命の危険が……』

 

 その至極当然の提案に待ったをかけたのは、響本人ではなくなぜかふんすと鼻息を荒くしたシロコだった。

 

「響先生はすごく強い。一緒に戦ってくれるなら、百人力。

…………とはいえ、危ないのは確か」

 

「そうですね~、今回は念のため、立花先生には後方支援に回ってもらいましょう。

先生もそれでよろしいですか?」

 

「……了承ッ! それじゃあ私は指揮に回るね。みんな、ご武運をッ!」

 

「はいー。それでは、しゅっぱ~つ!」

 

 ノノミの音頭によりカタカタヘルメット団の前哨基地へと向かった対策委員会の生徒たちを見送った響は、迎えにきたアヤネの案内によって対策委員会の教室へと移動した。

 

「それじゃアヤネちゃん、みんなの戦闘データを教えてもらってもいいかな?」

 

「はい、先生がお持ちの端末にお送りしますね」

 

 そういえば。響は『シッテムの箱』の存在を完全に忘れていたことを思い出した。

懐から取り出して確認すると、沈黙していたはずのそれはいつの間にか起動しているようだ。……アロナはぐっすり寝ているようだが。

 

 チラッと視界に映ったモモトークというメッセージアプリに、未読が99件以上溜まっていることに響は気付いたが見なかったことにした。

今モモトークを自分と交換しているのは、ここアビドスへ向かう前にすべての書類仕事を押し付けたユウカただ一人だけ。つまりはそういうことだ。

 

『皆さん、そろそろ前哨基地です。接敵が近いので注意してください!』

 

『……よし、把握しました。これより指揮を開始しますッ!』

 

『それじゃ、先生のお手並み拝見と行こうかな~』

 

 現地へ向かうホシノ達との通信を開始し、指揮を執りはじめた響。

物資が補給され、初めて反撃に転じていることもあり士気の高い対策委員会。

響の未来が見えているかのような的確な指揮もあってか凄まじいパフォーマンスを発揮し、あっという間にカタカタヘルメット団を蹴散らした。

 

『――カタカタヘルメット団の退却、並びに補給所、アジト、弾薬庫の破壊を確認! 作戦終了です!

みなさんお疲れさまでした!』

 

『よーし作戦終了。うへぇ疲れた~。でもこれで』

 

『ん、しばらくおとなしくなるはず』

 

『それじゃみんな、気を付けて帰投して! 帰るまでが作戦ですッ!』

 

 こうしてあっさりと目標を達成した一同はアビドスへと帰還した。

 

「ただいま~」

 

「みんなお帰りッ! ……無事でなにより。アヤネちゃんもサポートありがとね!」

 

「こちらこそありがとうございます、立花先生。素晴らしい指揮でした……!」

 

「ヘルメット団も追い返せましたし、ようやく一息つけそうですね~」

 

「ありがとう先生! この恩は一生忘れないから!」

 

「……うん。セリカちゃんの役に立ててよかった!」

 

 喫緊の課題が解決し、お祭りムードになる対策委員会の面々。一番わかりやすく不信感を露わにしていたセリカでさえも遂に響へと笑みを向けた。響が対策委員会の全員と打ち解けるのもすぐそこ――のように思われたのだが。

 

「……大人の力はすごい。これならアビドスの借金も――」

 

「……借金ッ!? ……詳しく聞かせてくれないかな」

 

 シロコが思わず漏らした借金という単語。

なぜそんなものを生徒が気にしているのか気になった響は詳しい説明を求めた。

 

「それは……」

 

「ま、待ってアヤネちゃん! そんなことわざわざ話さなくても!」

 

 もはや説明役が板についてきたアヤネが説明をしようとするのを、セリカは思わず遮ってしまう。

響はそれを話せるほど信じるに値しないと、セリカの態度はそう物語っていた。

 

「……話してもいいんじゃないかな、セリカちゃん。

こんなことを聞いてくれる大人なんて、先生くらいしか居ないじゃーん?」

 

「ん、ホシノ先輩の言う通り。響先生は信頼してもいいと思う」

 

「……ずっと私たちだけでどうにかしてきたじゃん!! なんで今更大人に頼ろうだなんて……!」

 

「私は……」

 

「私は認めない!!」

 

「セリカちゃんッ!?」

 

 自分以外はみな響(おとな)を信じ、頼るとそう決めてしまっているのを見て、セリカは悔しさから思わず部屋を飛び出してしまう。

――今まで散々裏切ってきた大人に、あんなにすぐほだされるなんて。

 

「私、様子を見てきます」

 

 今自分が追って話をしても逆効果にしかならないと理解している響は、セリカを追って教室を出ていくノノミをおとなしく見送ることしかできなかった。

 

 

「手を繋ぐのって、難しいことじゃないのに。

……なんでこんなに難しいんだろう」

 

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