立花響(27)、キヴォトスに赴任する   作:ましましだ

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第七話

 

「はぁ……」

 

 時間も遅くなり、セリカも家に帰っているだけだろうということで集まりは解散となり、響はひとり、宛がわれたアビドスの校舎にある一室で黄昏ていた。

頭の中を占めるのはもちろん、セリカのことだ。

 あの後セリカを探しに行ったノノミを待つ間、アビドスには9億円もの借金があることを聞かされた響は、驚きとともに自分も対策委員会の一員として必ず協力すると約束した。

そのためには、セリカにも自分のことを共に戦う仲間として認めてもらわなければならない。

 

「……うん、よし! こうやって考えてるだけなんて、私の性じゃない! 探しに行こう、当たって砕けろだッ!」

 

 大人らしく華麗に説き伏せよう、と考えてはいた響だが、名案も思い付かず。このまま自分の思いを直接ぶつけにいこうと結論を出す。

 ――それに、嫌な予感がする。今セリカを一人にするのは絶対にダメだと直感が訴えかけてきていた。

やることを決めた響は一直線だ。直感に従って、アビドスでは数少ない人間の営みが行われている市街地へと足を運ぶことに決めた。

 

 

「……もうッ!」

 

 黒見セリカは苛立ちを隠さずに、アビドス市街地の人気が少ない路地を歩いていた。

道に転がる小石をわざわざ蹴とばすあたり、その怒りは相当なものであることが伺える。

 

 ――それもこれも、あの先生とかいう存在のせいだ。

 

 ――でも。私たちの抱える問題を真剣に聞いてくれた大人は、あの先生が唯一だ。

 

 セリカは、思わず縋ってしまいそうな、その揺れ動く気持ちに蓋をしようとした。

 

「大人なんか……!」

 

 肩を怒らせながら路地を歩くセリカの前に、立ちふさがるようにして現れた集団が居た。特徴的なヘルメットから、それがカタカタヘルメット団であることがわかる。

 

「黒見セリカ……だな?」

 

「そうだけど……あんたたちは、カタカタヘルメット団?

一体何が目的でここに居るのよ。

――まあなんでもいいや。機嫌が悪い私の前に出てきたことを恨みなさい!」

 

 ちょうど良いサンドバッグが現れたと、戦闘態勢を取るセリカ。

手早く愛銃のシンシアリティを構え、いざ尋常に! と言ったところで背後から突如射撃を浴びせられる。

 

「……つゥッ!? 囲まれてる……。こいつら最初から私を!?」

 

 思えば最初に声を掛けてきた時、誰何ではなく、黒見セリカだなと、確信をもって自分の名前を問いただしてきていた。

 ――こいつらは最初から私に狙いを絞って襲ってきている。

それに気付いた時、セリカは背筋が寒くなるのを感じた。自分ひとりでこれらを対処するのは難しい。囲まれている状態だと退却も無理だ。

 

(人数の薄いところに突っ込んで一点突破しかない……!)

 

 隙を必死で探るセリカだが、なかなか見つからない。それに気付いたことがあった、悪い情報だが。

 

(こいつら、いつもより装備が良い?)

 

 明らかに普段のカタカタヘルメット団よりも装備の質が良い。良質な装備で各個撃破を狙ってきているあたり、明らかに本気を出してきている様子だ。

 

「捕らえろ」

 

 最悪は続く。ヘルメット団のリーダー格らしき生徒の命令とともに、キュラキュラとキャタピラの回転する音を鳴らしながら現れたのは、なんと重戦車だった。個人に向ける火力ではない。

 その砲塔は完全にセリカをロックオンしており、この距離で今から躱すのは無理だ。

 

 ――殺される。

 

(このまま誰にも気付かれずに死んだら、みんなに愛想を尽かして出て行ったと、学校を捨てて裏切ったと勘違いされる……?

そんなの……ヤダよ……)

 

 戦車の主砲なんてものを直撃させようとしているレベルの、本気の殺意を向けられていると感じたセリカ。死を予感したその口から零れたのは、救いを求める言葉だった。

 

「ヤダよ、死にたくないよ……! 誰か、助けてよ……!!」

 

 主砲から重低音を轟かせて放たれた砲弾がセリカに直撃するその刹那。

 その言葉は、数々を救ってきた英雄(ヒーロー)に届いていた。

 

「――生きるのを、諦めないでッ!!」

 

 セリカの前に躍り出て、砲弾を生身のまま思いきり殴りつける響。

いかに響と言えど所詮はヘイローを持たぬ人の身。戦車の主砲に拳ひとつで勝てるわけがないと思われたがしかし、拳と砲弾の接触面からバリアのようのモノが出現していて、そのまま強引に砲弾を圧し潰した。

 

『響先生!? 説明した通りアロナちゃんバリアは確かに最強ですけど! 攻撃に転用するなんてそんな使い方は想定していませんよ!?』

 

 シッテムの箱からは悲鳴のようなアロナの苦情が届いていた。どうやらこの〝アロナちゃんバリア〟を展開しているのはアロナのようだった。

そんなものはあーあー聞こえない、とばかりにスルーを決め込んだ響は、現実を飲み込めないまま呆然としているセリカに、優しく声を掛けた。

 

「助けにきたよ、セリカちゃん」

 

「……な、え、せ、先生……!? なんでここに……!」

 

「セリカちゃんの、助けを求める声が聞こえたからッ!」

 

「……ば、バカ! そんなの聞こえるわけないじゃない!」

 

「ほらそれはこう、私とセリカちゃんが通じ合ってテレパシった的な……おっと! 奴さんも待ってくれないみたいだね。

初めての共同作業、行ってみよっかセリカちゃんッ!」

 

「……ああもうわかった! 行くわよ先生!!」

 

 戦場でじゃれあうな、とばかりに銃弾を乱射するヘルメット団。話をするにしてもこいつらを片付けてからだと判断した響とセリカは、宣言通りの共同作業を始める。

 

 〝アロナちゃんバリア〟によって銃弾を避ける必要すらなくなった響にとってはもはや赤子の手をひねるも同然。セリカの頼もしい援護もある。またも特筆することすらなく、カタカタヘルメット団はあっさりと追い返されてしまうのだった。

 

 

 二人きりになり、静けさを取り戻した路地。先ほどの戦闘で壊れた戦車のガラクタに腰かけて、二人は話を始めた。

 

「まずはその……。ありがと、先生」

 

「うん、どういたしまして。おっとり刀で駆けつけたけど、間に合ってよかったぁ。

――ねぇセリカちゃん。大人を信じるのは、まだ怖いかな?」

 

「……大人は、まだ嫌い。私たちに手を差し伸べてくれるヤツなんて居なかったし。何度も騙されてきた」

 

 セリカは元来、人の話をあまり疑うことのない質だった。

そこに付け込もうとする悪い大人たちに何度も騙されては信じ、騙されては信じを繰り返し今に至る。

 響も人の話はとりあえず信じるところから始める人間だ。その気持ちは、痛いほどわかった。

 

「……そっか。胸が痛くなるようなこと、いっぱいあったんだね」

 

「――でも」

 

 しかし吊り橋効果とも言うべきか。心が折れかかっていたあのタイミングでああも鮮やかに危機を救われてしまっては、信じる方へと傾きつつあるのは明らかであった。

 

「でも、先生なら。全力の行動で示してくれている先生なら。ちょっとくらい信じてみても、いいかも……」

 

「……! ……!! セリカちゃんッ!!!!」

 

 感激のあまりセリカに熱烈なハグをかまそうとする響を猫のようにするりと躱したセリカは、笑顔で響に手を差し出した。よろしくの握手だ。もちろん響はノータイムでガッチリと握手を返す。

 

「これで先生まで私を騙す悪い大人だったら、私泣くから。デッッカい声で泣くから!!」

 

「それは大変だぁ。でも安心してセリカちゃんッ! この立花響の名に誓って、悲しみの涙を流させるのはさっきので最後にするからッ!」

 

 さきほどの響が助けに入る直前。零れていたのは助けを求める言葉だけでなく、涙もだったことにバッチリ気付かれていたセリカ。

 

「……! う、うるさいっ!! 泣いてなんかないから!!」

 

「ウェヒヒ~、ば~っちり見てましたともッ!」

 

「あーもう! 違うから!! コラ待てーーッ!!」

 

 変な笑いを上げながら逃げ出した響を追いかけまわすセリカ。両者の間に、わだかまりはもう存在しない。

 

「……本当に、ありがとう。……響先生」

 

 こうして響はまた一人、生徒と手を繋いだのであった。

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