ボスキはカップケーキ食べてない
主様がカップケーキ食べてる
そんな小咄
春の、まだ気温の上がりきらない、朝の気配を残した午前中。
主様に付き合って朝食後の短い散歩から帰り、一緒に少し水でも飲もうかと厨房に顔を出したのが間違いだった。
「っげえ……、なんてもん作ってやがる」
え、でも美味しそうだよ?と主様が俺の横からちょこんとキッチンに顔を出して、のほほんと暢気に宣うが、俺からしたら冗談じゃあない。
「やっぱりボスキさんには無理ですかね…」
そういって肩を落とすくらいなら、せめて野菜の原形を無くす努力くらいはしろと、俺はカップケーキの上にちょんと鎮座した黄色と緑を睨み付けた。
「おい、美味いぞ」
そういって試作品だろうものたちを奥の方でバスティンがモリモリと食べている。
私も食べたーい、と愛らしい声に頭を押さえて、俺は一声掛けてキッチンを出た。
今日の八つ時は、無視して裏庭にでも行こう。ようやく春の陽気になって来て、外での昼寝には持ってこいだろうから。
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あーあ……、としょんぼりした顔が、青い背を見送る。それでも手元はテキパキと私へのおやつをサーブしてくれているのだから見事なものだ、長年の練習の賜物だろうか、それは随分と様になった、体に染みついた動作だった。
流れるように供された本日のおやつ……、の試作品の中で一番出来のよいものは、まだほんのり温かくていかにも美味しそうに見えた。
「こちら、本日のおやつに出す予定の、菜の花とチーズのカップケーキです。紅茶はすっきりしたストレートティーをご用意しました、どうぞ召し上がって下さい」
型から外して皿に盛られたケーキは、ほんのり緑色で、私は何となく頭にヨモギ蒸しパンを思い浮かべた。
いただきます。と手を合わせて、さっそくフォークを差し込む。空気みたいなふかふかの蒸しパンよりはよほど密度が高くみっちりした断面に、意外と重そうかな?と考えたが、口に入れてみて良い意味で裏切られた。
「美味しい……」
「へへっ、生地に今が旬の菜の花のピュレとチーズを混ぜ込んであるんですよ。前に主様が、偶にはあまり甘くないものも食べたいとおっしゃっていたので、クリームチーズだけでなく粉チーズも使ってちょっと塩気の効いたお味に仕上げてみました」
「なるほど?」
残念ながら料理にはあまり興味がなくて、詳しいことは聞いてもわからないが、確かに、珍しくバスティンくんがモリモリ食べるのも分かる味だ。ほんのりした優しい甘さと、けしてしつこくは無いチーズの香り、クリームチーズの酸味と添えられた甘さ控え目のフレッシュクリームで後味もすっきり、舌先でほろりと崩れる食感についつい手が進む。
一番上に乗っていた可憐な黄色い花は、蜜に漬けられて甘い。噛むとほのかに、懐かしい花の香りがした。
「ごちそうさま、美味しかったよ。上に乗った菜の花も可愛いね」
「おっ、そうなんすよ!やっぱり彩りって大事ですからね。せっかくの食べられる花なんで、アクセントにしました!」
にこにこと笑顔で語るロノくんは、いつもながら元気で可愛らしい。
食後に改めて入れてもらった紅茶をいただいて、私はふと実家の近くの菜の花畑を思い出した。久しく帰っていないけれど、あの景色はまだ残っているだろうか。風に揺れる黄色い花と甘い春の香り。
キッチンの高い明かり取りの窓から差し込む日差しは、今日も明るい。バスティンくんが細々した洗い物を片づける音をBGMに、ロノくんの聞かせてくれるカップケーキの制作秘話をウンウンと聞き流して、温かい紅茶で喉を潤す。
ああ、今日も良い一日になりそうだ。
画面外で少しずつ進むロノボスを、おやつタイムを通して見守るだけのシリーズです