自給自足IS貞操観念逆転モノ   作:アマデス

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説明しよう! 『性涼罪保険』とは、本編に於いてどれだけオリ主に対し叡智な行動を取ろうとも、加害者(被害者)が社会的な死を迎えないように作者がなんやかんやで展開を操作してくれる保険の事である!

尚、代償として契約者はオリ主と本番までいく事は出来なくなります。


あとなんか作者の性癖について言及される方が多数見受けられましたが、もし僕が足舐めフェチだった場合、ちゃんとオリ主が簪の足舐める所まで書くと思うんスけど(論破)。


5話 作者「ではこちらの『性涼罪保険』御契約書にサインを…」

 

 

 

 

「ごめんね……ほんとうに、ごめんね……」

「いいんですよ、もう」

 

 

 あれから少し経ち、現在。

 僕と簪さんは、未だに空き教室内で二人っきりのままだった。

 恐らく簪さん的には土下座のつもりだったのだろうが、ほぼほぼ只蹲(ただうずくま)っているだけの体勢で只管(ひたすら)泣きながらごめんを連呼するだけの機械と化した簪さんを、僕は何とか宥めて教室内に設置してある椅子の一つに座らせる事に成功した。僕もその隣に座って未だにぐずっている簪さんの背を撫でている最中である。

 

 いやーほんと、一時はあのままアブノーマルプレイの実行を覚悟したっつーか半ば実行した様なもんだが、ギリギリの境界線で簪さんが正気になってくれて良かった。

 僕の心情的にはあのまま舐めさせられ(やらされ)てもまあ別に構わんと云うか大したダメージにもならなかったが、そもそもの話、簪さんを精神的に揺さぶって冷静にさせるのが目的だったのだ。彼処(あそこ)でオーダーを取り下げられようと僕的には何も問題は無かった。

 いやほんとだって。口だけでタイツ脱がすの結構大変だったし、あそこまでやらせたならもう最後まで突っ走れよ何で至極誠実な対応してあげたのにこんな不完全燃焼感味わわされなあかんねんとか全然毛程も思ってない。いやほんとほんとほんと。

 

 

「でも………私…あんな、あんな酷い事を、貴方に…」

「償いをしたいと言ったのは僕です。受け入れたのも、僕です。拒否する事も逃げる事も、言葉を尽くして説得する事も出来たのに、そのまま実行に移した時点で僕にも責任があります。決して、更識さんが一方的に謝る事じゃありません」

 

 正直これは意見が別れる所だろうが、少なくとも僕はそう思っている。何とか僕個人だけで対応しようとしたからああなったが、一旦退いて誰かの力を借りると云う選択肢だって有りだった。つーか普通は先ずそっち取る人が大半だろう。

 あの場面で、簪さんの狙いを察していながら、それを汲まなかった時点でおあいこである。

 

 そんな僕の言葉を聞いた簪さんは、先程と同様に目をこれでもかと見開いた、とても目の前の事象が信じられないと言いたげな表情になった。でも、そこに込められている感情の質はさっきとは真逆で。

 うん、解る。簪さんは今、目の前の僕に対して「何この子天使!?」と思っているのだろう。

 わかる。わかるよー。仮に前世の価値観で僕と簪さんの立場が逆だったら絶対同じ事思う。なんなら崇拝するまである。普通に考えてこんな()の子居る訳ないもん。

 僕がこれ程までに滅茶苦茶出来て周りに寛容になれるのは、貞操観念が逆転している故に男の子(もと)い女の子の気持ちが手に取る様に解るっていうのと、どーせ人生2周目だしある意味今はロスタイムみたいなもんだからあんま周りの目とか気にせず好きにやろーぜという、有り余る余裕を持っているからだ。

 前世の時だったら普通に簪さんと距離置いてそもそも関わろうとしn──いや待て。それでは父の教えを蔑ろにする事になる。それは駄目だ、それは出来ない。

 うし、前言撤回しまーす。僕元々こんなんだったわ。前世の頃から僕は天使で聖人でした。おかしいな、謙遜になってないぞ?

 

「それで、如何(いかが)でしょう? 償いは、果たせましたか?」

 

 なんて馬鹿なモノローグもそこそこに簪さんへ問い掛ける。

 正直あれで終わりって云うのは個人的に納得出来なかった。あれは簪さんが僕を追い払う為にやった方便であり、簪さんが心から望んだ償いではないのだ。きっちり本心に応えて感情を精算させなければ、簪さんは(いず)れまた潰れてしまう可能性がある。送り出す事は出来ない。

 

「あれだけでは足りなかったのなら、もっと他の手段で…」

「い、いい! いい! いいよもう!! さっきので十分過ぎるって、云うか……寧ろ、此方がお詫びしなきゃいけない……」

「結構ですよ。今言いましたが、僕自身の選択による行動です。僕と、更識さんにもそれぞれ責は有りますが、(とが)は無い筈です。───遠慮せず(おっしゃ)って下さい。更識さんの心を晴らせるなら、僕に出来る限りの事で応じます」

 

 

 僕は真っ直ぐ、(ただ)真っ直ぐ簪さんの目を見てそう言った。

 すると簪さんは目に見えて狼狽(うろた)えた様子で目を泳がせ──って云うか視線を下に向けていた。明らかに僕の体を、具体的には胸と下半身全体を見ている、丸分かりだ。下心の籠った視線ってほんとに判りやすいって事を僕は今世の十数年に渡る生で学んでいる。

 まあいいけどね。見たけりゃ見りゃいいよ。僕的には別に不快でも何でも無いし。

 と思っていると、簪さんが勢いよく頭を振って煩悩を振り払っていた。やっぱえらいなー簪さんは。あの土壇場で理性を取り戻して、罪悪感に涙を流せる時点で滅茶苦茶良い娘だ。正直僕の中でかなりポイントが高い。

 

「お、女に対してそういう事、軽々しく言っちゃいけない……何をされても、文句は言えない」

「軽々しく言っているつもりはありませんよ。女性になら誰にでも言う訳でもありません。今、更識さんに対して、言ってるんです」

 

 そう言うと簪さんの視線は再び泳ぎながら下に向き──今度は先程の倍の勢いで頭を振った。よく眼鏡吹っ飛ばねーな。

 

「スーッ……ほ、ほんとにもう大丈夫だから。これ以上は、何も要らない」

「ほんとにほんとですか?」

「うん、ほんとにほんと」

「…なら、明日から…いえ、明日じゃなくても。何時か、もう一度、頑張る事が出来ますか?」

 

 

 そう聞くと、簪さんはその可愛らしい容貌をまた少し(かげ)らせて黙り込んでしまう。

 僕も一旦口を閉じ、簪さんが、自分を再認識するのを待った。

 

 

「私、ヒーローに成りたかったんだ」

 

 

 そして、数分か、或いは数十秒の後か。

 簪さんは、自身の夢を口にしていた。

 

 

「ヒーローですか」

「うん…比喩じゃない。テレビや漫画に出て来る、正義のヒーロー。悪い奴をやっつけて、それで困ってる人を助けて……誰からも尊敬される、強くて優しい人間」

 

 幼い頃の夢を、自分のルーツを、始まりの憧れを確かめる様に簪さんは語る。

 

「そういう人間に、成りたかった。成りたくて、その為に努力して来たけど……無理だった。理想には、追い付けなかった。ヒーローに成れるのは、生まれ付き輝かしいものを秘めている人だけで……私には、そんなもの無かった」

「有るじゃないですか」

「───え?」

 

 あ、ヤベ。

 簪さんが思う存分語りたい事を語る迄、黙って聞きに徹するつもりだったのだが、なんか的外れと云うか矛盾した事を言い出したので反射的に突っ込んでしまった。

 うーむしょうがない。口を出してしまった以上は会話だ会話。レッツトーキング。

 

「え? いやだって、強くて優しくて、周りから尊敬される人がヒーローなんですよね?」

「う、うん」

「だったら、更識さんはヒーローです」

 

 

 そう言って僕は簪さんに笑い掛けた、が……簪さんはきょとんとした表情を見せるばかりで、まるでピンと来ていない様だった。

 んー? これは、あれか。自分の魅力に自分では気付けていない感じの奴かな?

 

「どういう、こと?」

「だって、更識さんは……先ず日本の代表候補生です。それも専用機を…えっと、まだ所持してませんけど、兎に角、専用機所持を内定される程のIS操縦者です。僕みたいな素人操縦者じゃ比較にもならない、限り無く上澄みに立つIS乗りです。いえ、(たと)えISに乗っていなくとも、そんじょそこらの女性じゃ相手にならないくらい強いのでしょう、更識さんは」

「えっと…ま、まぁ、一応生身の戦闘訓練とかも積んでるし…何の心得も無い相手には先ず負けない、と、思う」

「ほら、やっぱり。更識さんは凄く強い人です」

 

 うん、よし。本人から直接確認取ったし、僕の認識は間違っていないと証明出来た。ので、続けて僕は言葉を紡ぐ。

 

「それに加えて、優しい人でもあります」

「っ……どこが。全然、優しくなんか…」

「優しいですよ」

「優しくないっ。さっき、私にやらされた事、もう忘れちゃったの?」

「いいえ、忘れてませんよ。──だから優しいって言ってるんです」

 

 僕の(げん)に簪さんは再度きょとん顔になってしまうが、構わずに話を続ける。

 

「更識さん、本気で僕に足を舐めさせようとしたんじゃなくて、僕を追い払う為に(わざ)と性的な無理難題を出したのでしょう?」

「ぁ、ぅ」

「ふふ…相手は男、それも、少なくともあの場面に於いては貴女より弱い立場だった。()()()()()()()()だって出来たのに、更識さんはそうしませんでした」

 

 悪戯っぽく笑い掛けると簪さんの顔が途端に真っ赤になる。はーかわよ。

 

「嫌いな相手に対しても、良識を持って接しようとする……何より、罪悪感で涙を流せるなんて…中々居ませんよ、そんな優しい人」

 

 そう、中々居ない。単に後悔するだけならまだしも、自分を失う程に感情を乱す…乱せる人なんて。それは純粋さと根底から湧き出す優しさの証明だと思う。

 

「そういう、努力して身に付けた強さと、生まれ持った優しさがある人だから、僕は更識さんの事尊敬してるんです。最初に言った言葉は、決して嘘じゃありませんよ」

 

 

 そこまで言い終えて、僕は再度口を閉じた。

 簪さんに、あまり自分を卑下して欲しくないから思ってる事全部ぶちまけてしまったんだが……暫くしても簪さんは顔を真っ赤にして俯いたままだった。

 あーー、っとぉ。こーれーは…ちょっと褒めちぎり過ぎたか? いや過ぎたって事は無い筈だ。今のは紛れも無い僕の本心だし同時に事実でもあるのだから。

 

 だが何時までも会話が止まったままと云うのも気不味い。気分を変える為にちょっと話題を脇に逸らそう。

 

「更識さんって、どんなヒーローが好きなんですか?」

「ぇ……ど、どんなって…」

「テレビや漫画の中に出て来るって事は、特定の、憧れたヒーローが居るんですよね? そういう、更識さんの推しを教えて欲しいなって」

 

 そう聞くと簪さんはまたも目を泳がせるが、今度のそれは下心ではなくちょっとした羞恥から来ている様で。少しの間躊躇(ためら)っていた簪さんだが、やがておずおずと語り出してくれた。

 

「えっと…あの……アースセブンって、作品なんだけど…」

「えっ、それって戦隊モノですよね。メンバーが異例の七人って云う」

「っ! 知ってるの!?」

「はい。世代ですから、テレビでやってるの観てました。確か幼稚園…いや保育園の時だから、5歳くらい?」

「そ、そうっ! 合ってる!」

 

 まさか()の僕が戦隊モノについて知ってるとは思わなかったのか、簪さんは目を輝かせて嬉しそうに頷いていた。文字通り推しについて語りたくて堪らないって感じ。いやーでもそっか、アースセブンか。

 

「よくよく考えなくても同年代ですもんね僕達。観ていたものが被るのは当然でした」

「確かに…でも、男の子がそういうの観てるなんて、意外だった」

「僕、一つ上の姉が居るんです。その姉に付き合ってニチアサは観続けてましたから。あと母が、こういうのは情操教育にピッタリだって言って特撮とかジブリアニメのDVDよく借りてきてくれたので」

 

 実際ああいう作品達は人生に於いて大切な事を沢山教えてくれる。多感な子供の時期に是非とも観ておくべき名作達だ。

 尚、貞操逆転(あべこべ)なので当然の如くヒーロー役の皆さんは大半が女性だ。前世持ちの僕からしたらその辺のギャップが面白いってのもある。特にジブリだったらラピュタとかもののけ王子とかヤバかった。パズームーヴするシータとアシタカムーヴするサンはイケメン過ぎた。

 

「そうなんだ……ね、ねえ。アースセブンの、どういう所が好き?」

「んーー先ず何と言っても主題歌ですね。只管真っ直ぐな歌詞で気分上げたい時とか未だに聴いてます」

「解るっ、Aメロの出からしてもう熱過ぎるっ」

「何か不幸な目に遭われた人にこそ聴いて欲しいメッセージが籠められてますよね…」

「解る…ワカリミが過ぎる…」

「あと、メンバーで言ったらイエローさんでしょうか。何時も何時もここ一番のガッツがメンバー随一でしたよね。ああいう所は今も見習ってます」

「いいよね、あの熱さ……私の一推しはブルーかな。他の皆も勿論好きだけど、あの冷静な分析力からの最適な戦術…それに加えて時々ぶっ飛んだ作戦立ててほんとに実行する所とか」

「はい、格好良いだけじゃなくてクールキャラなのにそこはかとなく天然さが漂ってるんですよね……あ、そういえば後半でブルーとイエローの役割が逆転した回ありましたよね」

「うん、第33話『私達の役目』…あの回は子供心に衝撃だった。イエローが確りした作戦立ててるの見て、え、イエローって頭良かったんだ、って。あのギャップでファンになった人絶対多いと思う」

「普段はクールなブルーさんが雄叫びあげながら敵を岩盤まで()ち込む所もいいですよね」

「そう、叫び声が格好良い役者さんはそれだけで貴重な才能を持ってる」

「おー成る程ー」

 

 

 正しく立て板に水と云った感じで。

 その後も、簪さんは実に楽しそうに自身の推し達を僕に教えてくれた。

 

「スーツが無くても、私はアイアンウーマンだって…ヒーローが成長していく姿が見れるのも魅力」

「そうですね。単に技術力を持ってるからじゃなくて、正義を為そうとする心があるからこそヒーローなんだって。色んな作品に共通するテーマですよね」

「そう、大事なのは心。何時の時代でも、それは不変のテーマ」

 

「あの時代の作画の描き込みは本当に凄い。アニメーターさん達の執念が焼き付いてる」

「そうですよね。一昔前のアニメってよくCG無しであそこまで動き表現出来るなって観る度に思います」

「作品を世に送り届けたい。やっぱりそういう熱さが有るからだと思う。アニメーターさん達もまた正義を志すヒーローなんだよ」

「深い……」

 

「じゃあ朔晦君は絶界対千って漫画知ってる?」

「いえ、名前は聞いた事あるんですけど…どんな内容なんですか?」

「ネタバレにならない範囲で説明すると……ある世界が自分達の住む世界を存続させる為に他の世界と戦って滅ぼしていくって話」

「あらすじだけでシリアスさが伝わってきますね」

「泣けるよ、ほんと。しんどいけど、確かな感動が胸に残る」

「紛れも無い名作ですね」

 

 

 

 ───とまあそんな感じで。

 

 ちょっと脇に逸らすどころか全力で脱線してその事にも気付いていないみたいな、友人と雑談する際には日常茶飯事とも言えるやり取りを堪能して。ふと教室内の時計に目をやると、時刻は既に午後6時前。簪さんと逢ってから約2時間程経過していた。

 僕が視線を逸らした事で、簪さんもその後を追い、今の時間に気付いた様だ。今日は入学初日、そろそろ割り当てられた寮の自室で荷解きをせねばならない。

 

「あ……もう、こんな時間…」

「あはは、すっかり夢中になって話し込んじゃいましたね」

「うん……そろそろ、行かないと、ね…」

 

 思いのまま自身の趣味を語れた時間が終わりを告げる事に、簪さんが寂しげに消沈する。

 でも、まあ、そんなに落ち込む必要は無い。

 

「更識さん、面白そうな作品を沢山教えて下さってありがとうございます。確りチェックしてみますから、また今度、色々教えて下さいね」

 

 僕がそう言うと簪さんは嬉しそうに顔を輝かせる。が、それも束の間。また直ぐに表情を曇らせた。うーん、当たり前だがさっきの行為の罪悪感をまだ引き摺っている様だ。───ならば。

 

「…私…また君に会って、いいのかな……あんな、不埒な真似を…私は朔晦君に──」

(りょう)って呼んでください」

「──え」

「涼って、下の名前で。更識さんにはそう呼んで欲しいです」

「な、なんで…」

「だって、僕達はもう他人じゃないでしょう。なんせ、()()()()した間柄ですもん」

 

 

 そう言って目元でニヤ~と笑みを作り──同時に、んべーっと舌を出して見せ付けてやった。

 それを受けて更識さんは三度(みたび)顔を真っ赤にする。ほんま()いわ~。

 

「───っ!! だからっ! そういうの、軽々しくやらないで欲しい!」

「あっははは、ごめんなさいごめんなさい。ですけど、下の名前で呼んで欲しいのは本当です。折角、仲良くなれたんですから。更識さんとの関係を、ここで途切れさせたくはないんです」

 

 ───これくらい言えば大丈夫だろうか。

 声を掛けた当初こそ最悪の関係と言った感じだったが、お互いの腹の(うち)を思う存分曝け出した後に、頭を冷やしてから趣味に関して雑談した、そこまでする事が出来た。なら、もっともっと、まだまだ関係は深められる筈だ。

 僕は簪さんともっと仲良くなりたかった。だから、冗談めかした態度で罪悪感についてはさくっと忘れてもらう。と云うか割とマジでお互いの為にも忘れた方が良いよねあれはうん。

 

 

「…………り、涼、君」

 

 暫く黙っていた簪さんが、辿々(たどたど)しく僕の名前を呼んでくれる。その頬には未だに(あか)みが差している。

 うーん、もう一声。

 

「呼び捨てでお願いします」

「…っ! ………りょっ、涼! これでいい!?」

「はい。ありがとうございます」

「ぐぅ………な、なら、涼も、下の名前で呼んでっ。簪って。じゃないと、フェアじゃない…」

 

 苦し紛れの反撃と云った感じに簪さんも下の名前呼びを求めてくる。よっしゃお望み通りにしてやるぜ。

 

「簪さん」

「…呼び捨て」

「───簪」

「───~~~!」

 

 そうしてまたも簪さん──簪は顔を赤くしてしまうのだった。こうも何回も顔色が赤くなる所を見てると実は照れてるんじゃなくて風邪引いちゃってるんじゃないかと我ながらずれた心配をしそうになるな。

 

 

「それじゃ改めて──また今度、簪。次は僕の趣味の話にも付き合ってくださいね」

 

 締め括りの言葉を投げ掛けながら僕は椅子から立ち上がる。

 次に会うのは何時になるだろうか。まあ、クラスは違うが僕はこの学園でたった二人の男子。必然的に目立つと云うか噂、話題の対象になる。簪がその気になれば食堂とかでまた直ぐに会えるだろう。となると早めに薦められた作品達をチェックしておかなければな。

 

「───涼っ」

 

 なんて思いながら教室の出口に向かって歩いていると、背後から簪に呼び止められた。

 

「はい」

「…こっちも、改めて…ごめんなさい。貴方にはとても、とても酷い事をした。本来なら、謝ったくらいで許される事じゃない」

「それでも、僕は許しましたよ」

「うん……ありがとう。私の事、ヒーローだって言ってくれて……初めてだった。何の混じりっ気も無く私を尊敬してるって言ってくれた人…ほんとに、ほんとに嬉しい」

 

 そう言って簪は、とても朗らかで、可愛らしい笑顔を見せてくれた。

 ああ、うん。ちゃんと伝えて良かったな。お陰で最高の報酬が得られた。

 

「幾ら努力してもお姉ちゃんには追い付けなくて、専用機までお預けされて、なんかもう何もかも嫌になっちゃってたけど…君がそう言ってくれたから、少しだけ、自分の事が好きになれた。我ながらチョロいって思うけど…」

「そんな事無いですよ。人の悪意は容易く心を傷付けますけど、善意もまた、人の心を暖めるものですから。簡単なんですよ、人を(おとし)めるのも元気付けるのも。何も特別な事なんて無い、在り来たりな人と人の関係です」

「ふふ、そうだね…でも、私はそんな在り来たりに救われたから……だから、頑張るね。あと少し、もう少し、って…一歩ずつ一歩ずつ進んでみる…本物のヒーローに、成ってみせるから」

 

 

 

 

 

          ∵∵∵

 

 

 

 簪の前向きな発言に一つ頷いて、僕は今度こそ教室から出る。

 あれなら大丈夫だ。強がりや虚勢じゃない、ちゃんと前を向けた人間の熱が有った。そもそも簪には本人が自覚していないだけで、輝かしいものが沢山秘められていた。そんな簪なら、きっとこれからも強く優しいヒーローとして歩み続ける。

 

 

(だけど、これは、他人事じゃないな)

 

 内心、戒めのつもりで思う。

 簪の追い詰められ方は相当なものだった。念願の専用機を得る機会を、いきなり湧いて出た、(ただ)男ってだけの存在に横取りされたのだ。簪からしてみたら文字通りこれ迄の努力を不当に否定された様な気持ちだったろう。

 

 そして、そんな女の子が、最低でもあと二人は居るのだ。

 一夏と僕が入学した事によって、定員から外れた──IS学園に落ちた女の子が二人。

 

 原作で言われていた通りIS学園の倍率は凄まじい。才能を持っているのは前提条件、その才能を更に血の滲む様な努力で磨き上げ、上澄みに至った者のみが限られた椅子に座る事を許される。それを僕は一つ不当に掠め取ってしまっているんだ。

 イレギュラーと云うのは良くも悪くも周りに影響を及ぼす。(たと)え本人に悪意が、罪が無いとしても立場を得た以上、そこには必ず責任が生まれるのである。

 

 ならば、それをきっちり果たそう。

 今朝から何処かミーハー染みた、浮わついた気分が抜けていなかったが、此処等で切り換えて気合いを入れねばなるまい。

 周りに比べて遅れている知識は織斑先生達の補習(心尽くし)(いず)れ追い付くから問題無い。そして自身の専用機だって有している。寧ろこの点だけで世の大半のIS操縦者より遥かにアドを取っていると言っても決して過言じゃない。

 だったら、せめて一端(いっぱし)のIS乗りに成らなければ嘘だろう。簪や顔も知らない誰かの為にも、男ってだけの御飾り(顔が良いだけのアイドル)では居られない。

 

 可愛い女の子達との青春を楽しむのは勿論だが、それと同時に。

 何の因果か、再び与えられたこの新しい人生で、IS(新しい学問)を学んで行く決意を新たにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

          ∵∵∵

 

 

 

 

 

 一足先に教室から出て行った涼の背中を見送ると、緊張が解けた私の体は自然と長い息を吐いていた。

 何とも言い表し難い高揚感で胸のドキドキが治まらない。

 

「あんな男の子、居るんだ……」

 

 思わず口から漏れた言葉が私の内心を端的に示していた。

 正直、未だに信じ難い。これは夢か、若しくは現実逃避の余り都合の良い幻覚でも見ていたのかと自分自身の正気を疑ってしまいそうになる。

 

 

『そういう、努力して身に付けた強さと、生まれ持った優しさがある人だから、僕は更識さんの事尊敬してるんです』

 

 だがハッキリと刻まれた。

 真っ直ぐに自分を見据えてくれた彼の眼差し、男性にしては少しだけ高めに感じる中性的な声、それで以て紡がれた真摯な想い。

 それ等を反芻するだけで元気が(みなぎ)ってくる。ほんの2時間程前迄はあれだけ沈んでいた癖に、今では、また頑張ろうって力強く思えている。彼が呼び覚ましてくれた熱が確かに残っているんだ。

 

 そうして、努力して。もっと立派な人間に成れたら、彼はまた褒めてくれるだろうか。

 

 

(…欲しい、な)

 

 

 また彼と話したい。優しくて暖かい肯定を貰いたい。もっと、趣味について語り合いたい。趣味以外の話題だって色々と話したい。

 彼の柔らかな笑み、その唇から流れ出す声をもっと聞きたいと──

 

 

 

 

 

『舐める時も、手は使わない方が、良いですか……?』

 

 

 

「─────あ゛」

 

 

 思い出してしまった。

 いや、正確には忘れようとしていた。忘れられる筈が無いのに。と云うか忘れる権利が有るんだろうか私には。

 努めて意識しないようにしていたのに、一度思い至ってしまえばもう駄目だった。

 

 上気した頬、疲れで鈍化した精神状態の表れである半開きの瞼、そこから覗く瞳、動く度に微かに音を鳴らしていた首輪と鎖、唇から滴る唾液───そしてそこから覗いた真っ赤な舌。

 

 

「─────~~~っ!!! ───! っ! っっっ!!!!!」

 

 

 頭を抱えて悶え狂う。黒歴史確定だ。恐らく今後の人生でこれ以下を更新する事は無いだろうってくらいの最悪さ。

 幾ら自棄糞(やけくそ)だったとは云え男の子に対して足舐めろとかほんとない。マジでない。女って何で馬鹿になる時はとことん突っ走ってしまうのか。

 

 ……って云うか涼も涼だよ! 何で受け入れようとする訳!? あんなの常識的に考えて絶対に逃げ一択じゃん。いや常識が無いとしても男の本能とか感情的に先ず距離を取るって行動が出る筈なのに。

 …まさか彼は普段もあんな感じなんだろうか。これ迄の人生に於いてもああやって常識を放り捨てた、行き過ぎた誠実さで周囲の女…いや、下手したら男も含めて、周りの人間を狂わせて来たのだろうか。だとしたら不味い。此処はIS学園、織斑一夏(もう一人の男子)を除いて周りに居るのは全員女、教員だって女の人しか居ない。極論を言ってしまえば皆、潜在的には(獲物)を狙う性欲猿(狩人)なのだ。そんな場所であんなムーヴを繰り返したらマジで直接手を出す輩が現れるのは時間の問題と言える。と云うかその第1号は私だ。死ねる。

 

 

「私がフォローしなきゃ…!」

 

 自然とそんな事を口走っていた。恋人でも何でも無い癖に何言ってんだ勘違い後方彼女面かよ、と自分でも思ったが、いやマジでその必要は有ると思う。あれを放置するのは涼本人の為にも周りの為にもならない。

 今後は積極的に涼と会おう。それでまたあれな行動をしそうだったら私が止める。涼だってまた会おうって言ってくれてたし迷惑には思われない筈だ。

 

 そんな風に一人決意を抱いて、そろそろ自分も教室から出ようと一歩踏み出──そうとした所で、足元がすーすーするのに気付いた。

 

 

「ぁ」

 

 

 そうだった。

 ………そう、だった…っ!

 

 私は再び身悶えしながら教室の奥の方に向かい───床に放置されたままだったタイツを拾い上げた。

 タイツには、未だに黒い染みの痕が、至る所に付いていて……。

 

 

 

 

 

 ああ、もうっ。

 

 

 今夜は、絶対眠れない。

 

 

 

 

 

 

 




なんかオリ主が内心ノリの軽い炭次郎みたいになってきた。こいつ絶対前世の嫁さんもこんな感じで落としてんだろ()。

という事で自給自足IS第5話の読了ありがとうございます。初日だけで5話かかるってどういう事なの()。2組ちゃんどころかチョロコットさんすらまだ出せてないよオイ。
ぶっちゃけると簪さんとオリ主を現段階でここまでガッツリ絡ませる気は微塵もありませんでした。普通にワンサマーさんとオリ主に放課後補習受けさせてその後食堂で偶然出会った簪と軽く意気投合させて掲示板の内容と辻褄合わせよっかなーくらいに考えてたんですが、私の心の中の織斑先生が「いや補習するならするで準備必要やし。即日とか無理やし」とツッコんで来たんでじゃあ専用機の件で絡ませっかーと急遽フリーになったオリ主を4組に派遣したらなんか簪さんが作者の想像以上にキレててオリ主もなんか想像以上にお節介なヤローであれよあれよという間にタイツ脱がしプレイまで行き着いてました()。これがプロット0のその場のノリで書いてるSSの恐ろしさよ……。
正直前話でこの作品の最大瞬間風速は終わった感があります。いやだってあれ以上に皆様の期待に応えられる叡智イベントだと…!? そんなもん思い付かねぇ…!
取り敢えず今後も頑張ってちまちま執筆していきますので応援よろしくお願い致します。

あとそろそろFGOのイベント走らないと素材取り逃しちゃうんで暫く投稿お休みします。神速の前言撤回()。

仕事を真面目にやる、ソシャゲのデイリーもきっちりこなす、SSも定期的に投稿する。全部やらなくっちゃあならないってのが社会人の辛いところだな。
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