自給自足IS貞操観念逆転モノ   作:アマデス

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1日平均500文字くらいのペースでチマチマ打ち込んでたら前回から結構な間空いちゃったぜ! やっぱ人間、モチベーション維持出来るのは精々一ヶ月が限界なのね…。



7話 セクハラって割と同性からの悪意無い不意打ちも多い気がする

 

 

 

「朔晦君ごめんね…」

 

 1限目の後、鏡さんが僕の席まで来て謝罪をしてくれた。何に対してのものか、なんてのは聞くまでもない。

 

「さっきのHRの推薦、考え無し過ぎた……セシリアに言われてやっと自覚出来た。自分、朔晦君に対してなんて酷い事したんだって」

「…う~ん、そうですねぇ~」

 

 正直ここで気にしてませんよと、一言言って終わらせるのは簡単だ。実際僕全く気にしてないし。まあでも実質年長者として少しばかり説教しておくのは有りか。

 

「鏡さんに悪気は全く無かったのは判ります。ですけど、悪気が無いって事は、自分の発言がひょっとしたら相手を傷付けるものかもしれないって事に全く考えが及んでいない、って事でもあります。今回の件でそれに気付けたのなら、今後はもう少し気を付けて自身の発言に責任を持つと良いと思います」

「ぅぅ、はい…仰る通りです…以後気を付けます…」

「ふふ、そう落ち込まないで下さい。今言いましたけど、悪気が無いのは判ってますから。僕は全く気にしていませんよ」

 

 うんうん、人の言葉を素直に聞き入れて反省出来るのは美徳だ。という事で僕もさらっと軽い感じで鏡さんを許してあげる。

 すると鏡さんはその場で崩れ落ちる様に両膝を突くと僕の手に両手で(すが)り付いて来た。え、何?

 

「天使…っ、昨日の時点で判ってたけど、朔晦君ってやっぱり天使だよ! 好きです! 惚れました! 結婚して下さい!!」

「いやあんた、たった今言葉に責任持てって言われたばっかりでしょうが!!」

「持ってるもん! 本気だもん!」

「嘘吐けコラー!」

「嘘じゃなーい!」

「ごめんなさい、今の所はお友達からという事で…」

 

 唐突な鏡さんの告白に谷本さんが思いっきり突っ込みを入れた。変にヒートアップする前に僕の方からもお断りしておく。反省は出来ても、やっぱりお調子者な気質は早々変わんないんだな。

 ……うん、まあ僕的には鏡さんと恋人関係になる事自体は全然オーケー…って云うよりクラスの全員が余裕でストライクゾーンに入っている。前世でアニメ観た時も思ったけど皆メインヒロイン級に可愛いんだよなー。普通に全員と()()()()()()になりたい。ドン・ファン氏でも目指してみるか。

 

 まあしないけど。そういう軽くて爛れた関係を築く気は今の所これっぽっちも無い。古い考えとか言われるかもしれないけどやっぱ男女の関係は誠実さが大事ですよ。じゃなきゃあの世(向こう)に逝った時妻に()ちのめされてしまう。え、新しく女作った時点で打ちのめされるって? それはそう。

 

 

「でも朔晦君、実際どうするの? 相手は専用機持ちの代表候補生だよ。まともにやったら先ず勝ち目の無い相手だけど」

 

 とか何とか相変わらずアホなモノローグ垂れ流してたら、僕の後ろの席の鷹月さんが話し掛けて来た。

 因みに鏡さんは僕のお断りで床の染みになっている。ごめんね。

 

「そうですね……まあ、(はな)からこう言ってしまうのも(なん)ですが、別に勝つ必要は無いと思ってます」

「その心は?」

「オルコットさんは闘いの中で僕を見定めると言いました。即ち覚悟を、僕の可能性を示せと。でしたら、決闘迄の六日間必死に訓練して、その成果を見せるしかありません。それがオルコット(試験官)さんの中の合格基準に達さなければ、それまでです。潔く諦めてクラス代表は一夏に譲りますよ」

「───っていや何でそこで俺っ!!?」

 

 まさかの流れ弾に*1隣でぼーっと会話を聞いていた一夏がいいリアクションを返してくれた。んでもってそれを見た鷹月さんは必死に笑いを堪えている。やっぱり世界のジョーク集とか読んでるだけあってこういうやり取り好きなんだな。

 

「そりゃそうでしょ。推薦されたのは僕と一夏なんだから。僕が駄目ってなったら自動的に一夏に回ってくるんじゃない?」

「いやいやいやいやいやおかしいだろ! そもそもオルコットさんが待った掛けた理由は涼が男だからじゃん。あんだけやる気に溢れてた涼で駄目なら俺なんて尚更認められる訳……あれ、オルコットさん何処だ?」

 

「此処に居ますわ」

 

 

 その場に居た全員がぎょっとして声のした方を向いた。そこに居たのは勿論セシリアさん。何時の間にか僕等の近くまで寄って来ていたらしい。

 

「失礼、何を話しているのか気になってしまったもので…つい聞き耳を立ててしまいましたわ」

「ああ、いえ、聞かれて困る様な事は別に…」

「そうですか? 先程から聞いていれば、勝つ必要は無いだの潔く諦めるだの……随分と腑抜けた事を仰っていましたが」

 

 そう言いながら、先程のHRと同じ様にセシリアさんの目が据わっていく。美人のこういう表情は実に迫力があるね。

 しかしこれは不味いか。決闘(試験)前からオルコット(試験官)さんの機嫌を損ねてしまうのはアカン。僕は慌てて口を開く。

 

「不快にさせてしまったのなら、ごめんなさい。ですけど、HR中に言った通り、僕はまだ何も知らないし解っていない…ゼロなんです。そんな僕が何かを(のたま)う権利は無いでしょう。だから何も持たない者なりに、努力した成果を貴女に見せられればと──」

 

「温いですわ」

 

 

 

 ───僕の弁明は、セシリアさんに一刀両断された。

 

 

「少しばかりの先達として断言させて頂きますが……朔晦さん。その様な心構えでは、()()()()I()S()()()()に等、決して成れません」

 

 セシリアさんの眼差しが、僕を貫く。

 

「先の会話で私は貴方を冷静と評しましたが……少々冷め過ぎです。熱意が足りない。貴方の奥底から沸き上がる熱と云うものが、まるで感じられませんわ。成長を止めた…いえ、既に終えた老木の様です」

 

 うわめっちゃ鋭いなセシリアさん。此方の本質をバッチリ見抜いてやがる。つーかさっきから凄味が半端無いんだけど。誰だよこの娘の事チョロコットさんとか言いやがった奴。

 

 

「自分はゼロだからだの、何も持たない者なりに努力するだの…その様な謙遜(予防線張り)は必要無いのです。───もっと胸を張りなさい。権利? 資格? そんなものは知った事ではないと、自分はやる人間なんだと声を張り上げればいいではありませんか。それが出来ない者は、()()()()()()()()()()()事すら出来ません」

 

 そう言って、失礼しますわ、とセシリアさんは自身の席に戻って行ってしまった。

 

 

 誰も、僕も、何も言えないまま、休み時間の終了を告げるチャイムが鳴り響く。

 人生2周目の、成熟し切った男の精神に、弱冠15歳の少年の言葉が、痛い程に突き刺さっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

          ∵∵∵

 

 

 

 

 そんなこんなで迎えた昼休み。昨日と同じく僕と一夏と箒さん、谷本さん、相川さん、鏡さん、岸原さん、布仏さん、そこに鷹月さんを加えた計9人で昼食を摂る事になった。

 どうも鷹月さんは僕とセシリアさんの会話を近くで聞いていたが故に僕の動向が気になる…と云うか放っておけない様だ。これはついつい周りに世話を焼いてしまう親切な委員長タイプだな。

 結構な大人数になってしまったので場所取りがちょっと大変だったが、無事全員分の席を確保出来た。僕と一夏が隣同士、んで一夏の隣に箒さん、僕の隣は中々に熾烈な争いの末に谷本さんが勝ち取っていた。そいでもって皆が小競り合ってる間に布仏さんは僕の向かいの席を悠々と確保していた。やはり出来る…!

 

「昨日も思ったけど朔晦君、男子の割にはよく食べるね」

「あー確かに。織斑君と比べると明らかに多いね」

「そうだな。俺としてはこれくらいで十分って感じなんだけど……うん、涼のは…うん、多いなほんと」

 

 僕のトレーに乗った昼御飯を覗き見ながら一夏が神妙に頷く。何なんですかねその反応は。

 

「いや確かに多いけどそんな神妙な顔する程でもないでしょ」

「んーまあ、世の大食いタレントなんかと比べたら全然常識的な範囲だけど…俺から見たらやっぱ結構なもんだぞ」

「寧ろ僕からしたらよくそれで足りるなって感じなんだよね、男子の平均食事量」

 

 これもこの世界に於ける不思議の一つだが、男は一回の食事量が前世のそれと比べて少なく、逆に女性は増えている。なのに体格差が変わらない上に膂力は逆転してんだからほんと謎だ。やっぱこれ明らかに筋肉の密度が違う…いやでも男女共に平均体重も変わってないんだよな、マジでどうなってんのこれ?

 因みに今朝の一夏は昨晩の内に購入しておいた菓子パンを自室で摂って朝食を済ませていた。まだまだ入学したばかりで環境に慣れていないのと、起き抜けの姿を不特定多数の女子に見られたくないとの理由で、少しでも落ち着けるプライベート空間に籠りたかった様だ。*2

 

 

「そう言えば今朝のご飯も結構量多かった…って云うか今のより沢山食べてなかった朔晦君?」

「はい、やっぱり朝起きての動き始めが一番エネルギー必要ですから」

「へー、成る程なー。そういう細かい日常の気配りあってこその恵体って訳だ」

 

 相川さんの疑問に答えると、それに次いで一夏が何気無くそんな事を言いながら僕の体をじろじろと上から下まで見回した。

 あ、馬鹿、そっち方向に話の舵を取るんじゃないよ。ほら女子の目の色が変わっちゃってんじゃん。

 大体原作の君だって朝に一番多く飯食った方がいいっつってたんだぞ確か。うろ覚えだけど。

 

「や、ちょ……女の人が居る所でそういう事言わないでよっ」

 

 思わず肩を抱きながら抗議すると一夏がハッとした様子で謝って来た。

 

「ぁ、わ、悪い、つい………いやしかし……今の仕草と云い、昨日のISスーツの下りと云い、涼って割と天然モノだよな。色んな意味で」

 

 うるせぇやい。一応半分くらいは自覚してるから天然じゃなくて養殖だこんにゃろー。

 

 

「でもさくさくー、そんなに体作り頑張ってるって事はさー、ひょっとして女子にモテたい願望とか有るのー?」

 

 

 すると今度は布仏さんがえらいとんでもない質問をして来やがった。

 うっそだろオイ、それ純度百パーのセクハラ発言だぞ。普通の共学校で言おうものなら村八分待った無し。

 いやそれ以前にさくさくって何、ひょっとして渾名(あだな)かね君? (いず)れスナック菓子みたいにサクサク頂いてやるぜとかそういうニュアンスかコラ。自分で言ってて意味不明だわこれ。

 

「ちょ、こらっ本音! あんた何つー事聞いてんのよ!」

「そうだよっ、それセクハラだよ?」

 

 思わずフリーズしてしまっていた僕に代わり谷本さんと鷹月さんが布仏さんを注意してくれた。よかった、数の暴力でセクハラが平然と(まか)り通る様な空気にならなくて。もしそうなったら僕は兎も角一夏が辛い想いするだろうし。

 

「えーーでもでもー、皆もその辺りは気になってるよねー?」

 

 が、布仏さんがそう周りに同意を求めると全員黙りこくってしまった。おーい。

 いや素直なのは美徳って確かに思ってるけどこういう事じゃねーんだわ。

 

 

「えっ……と………あの、違うん、ですよ。只、前世()から健康に気を遣っているってだけで…や、女性にそう…綺麗だなって思われたくないのかって聞かれたら嘘になっちゃいます、け、ど………~~~っ」

 

 アカン、予想外の不意打ちを顔面にストレートで喰らったせいでなんか支離滅裂な感じになってる。くそっ、僕も大概馬鹿正直だな。

 

 

「……ぼ、僕みたいな男は…はしたない、ですか?」

 

 

 この背中から湧き上がる…いや胸?頭? 兎に角何とも言えない妙なむず痒さを払拭したくて、思わずそんな事を口走ってしまっていた。

 いや、なんつーか、口の筋肉が引き攣って勝手に発声してしまってたと云うか………待ってくれヤバイヤバイアカンアカンこれほんとハズいんだけどっ、何だこれ、何だ!? この学園に来て以来最高に恥ずかしいぞ今。*3ほんと何でだ、今朝衆人環視の中超絶薄着で食事しても平然としてた男なんだぞ僕はなのに何だ今のこの有り様は布仏さんこえーよマジヤベーよ。

 

 ───何て感じで悶え狂いながら、ちらっと皆の様子を盗み見ると、向こうも向こうで悶絶していた。

 片手、或いは両手で顔を覆って天を仰いだり俯いたりしてる人、席から立って此方に背を向ける人、引き攣ったニヤケ顔を浮かべながらそっぽを向いている人……何れにせよ僕を直視出来ている人は皆無だった。何なら近くの席で聞き耳を立てていた人達も軒並み目を逸らしている。

 

「……やっぱ、天然じゃん」

 

 一夏の呟きが矢鱈ハッキリと聞き取れた。

 あーーうるせーうるせーうるせーっ、自覚してるっつってんじゃんっ。

 

 

 

 

「……何してるの?」

 

 

 そんな感じで、完全に食事の手を止めて静止していた僕達に対して、と云うか僕に対して何処か呆れた声が投げ掛けられた。

 

「あっ、かんちゃんだーやっほーい」

 

 そしてそれにいち早く反応したのは布仏さん。見るとそこには昼食を乗せたトレーを持った簪が居た。その眼差しは実にしょうもないモノを見る目付きだった。なんかすいません。

 

「…こ、こんにちは簪。昨日ぶりですね」

「そうだね、昨日ぶり……うん、まさか半日目を離しただけでこんな面白おかしい事になってるなんてね」

 

 眼鏡の奥から注がれるジト目に何とも言えなくなってしまう。昨日の今日で随分と遠慮が無くなったなー簪。いやあんだけ痴態を見せ合ったなら妥当かもしれんけど。

 

 

「んーー? かんちゃん、さくさくと知り合いなの?」

「涼、知ってる娘なのか?」

 

 そんな僕達のやり取りを見て布仏さんと一夏がほぼ同時に僕等の関係性を問うて来る。昨日のあれは色々と、いやほんと色々とデリケートなので大分オブラートに包んで話さないとな。

 

「一夏、この人は更識簪さん。ほら、昨日の放課後、用事が有るって僕別れたでしょ? あれ、この娘に対してでね。その時に友達になったんだ」

「初めまして、更識簪です。貴女達は、1組の人だよね?」

「あ、うん、朔晦君の隣の席の谷本癒子って言います」

「その隣の席の相川清香でーす」

「えっ、そういう流れ? …朔晦君の後ろの席の鷹月静寐です。よろしくね」

「織斑君の後ろの席の岸原理子だよ。眼鏡っ娘同士よろしくぅ!」

「織斑君の斜め後ろの席の鏡凪! でもってぇ!」

「わ、私もやるのか!? ……ええいっ、い、一夏の隣の隣の席の、篠ノ之箒だ!」

「そして最後にこの私が~~、さくさくの隣の列の一番後ろの席の主、布仏本音様だ~~!」

「本音だけ滅茶苦茶席離れてるじゃん…」

「って云うかナチュラルに俺ハブられたんだけど」

 

 

 実にノリのいいテンポであっという間に自己紹介は終わった。こういうノリは男女関係無く仲の良い者達ならではのものだな、僕も結構好きな雰囲気だ。

 とか思ってる内に「じゃあ眼鏡っ娘のよしみで隣どうぞー」と岸原さんが少し席を詰め、()かさずそこに鷹月さんが新しく椅子を設置した。

 見事な連携だ。図らずも払拭された先の気不味い空気が再び流れないよう、全員が意識を同じくして動いている。有難いんだがこういう所でエリートの片鱗見せられてもなぁ!

 

「あの、さっきの質問を返す形になりますけど、簪と布仏さんは知り合いなんですか」

 

 まあ無論僕も乗っかるんだけど。二人にお礼を言って席に座った簪に僕は空かさず質問を投げた。

 

「本音とは幼馴染み」

「私の家はね~、代々かんちゃん家に仕える間柄なのだー」

 

 それに対し簪は実に簡潔に答え、布仏さんがそれを僅かに補足した。……んー? 言われて思い出し…いや微妙だな…原作でもそんな関係だったっけどうだったっけ?

 

「つまり幼馴染み兼従者、って事?」

「えー何それカッコイイー!」

「更識さんの家ってひょっとしなくても名家って奴?」

「って云うか更識って生徒会長と名字一緒だよね、姉妹さん?」

 

 矢継ぎ早に喋り掛けていく1組女子ズに簪はうんとかそうだよとか、控え目だが確りとした語調で答えていく。

 簪って基本的には内向的だけど決して陰キャではないよな。ヒーローを目指して努力を続けている所とか、根が負けず嫌いって云うか割とアグレッシブな面が強い気がする。そもそも真性の陰キャだったら昨日の『あれ』みたいな要求絶対無理だろ。

 

「涼今何か変な事考えたでしょ」

「いえ何も」

 

 再びのジト目で此方を見てくる簪に僕は反射で返事をしていた。意外と勘もいいわこの娘。

 

 

「え、っていうかお互い呼び捨て? 元から知り合いだったの?」

「いや昨日の放課後友達になったってさっき紹介されたじゃない」

「じゃあ昨日初めて会ってもう呼び捨てする仲になったって事!?」

「何それヤバくないどーゆー事!?」

「更識さんって大人しそうに見えて実の所プレイガール!!?」

「ち、違うっ! そういう訳じゃない!」

 

 僕だけでなく簪側からも下の名前で呼んだ事で僕達の間柄を邪推した皆がわっと騒ぎ出した。

 …いや邪推も糞もねーな。あんなプレイを実行した関係である以上、9割くらい(よこしま)な間柄だわ僕等。

 

「私と涼は決してそういうのじゃっ……昨日だっ、て……………~~~っ」

 

 そして簪もまた弁明をしようとして、昨日の事を思い出してしまったのだろう。言葉に詰まったと思ったら、みるみる内に顔を(あか)くして停止してしまった。

 おいいぃぃっ!! そこはポーカーフェイスで乗り切れよ眼鏡ぇ!!

 

「え、何その反応」

「なになになにっ、やっぱなんかあった訳!?」

「おおおーーっ? かんちゃんやるぅ~~」

「ちょっと朔晦君! どーなのっ、どーなったのこれ!?」

 

 案の定更なる盛り上がりを見せる1組女子ズ。此方にも矛先を向けてきおった。くそぅ、これならさっきの空気の方がまだ……いや此方の方が全然マシだわうん。

 

 

「んんーーー……………秘密です」

 

 取り敢えずすっとぼけておく。何をどう罷り間違っても昨日のあれを誰かに説明するなんてのは絶対NGなのだから仕方無い。

 「ええーーっ」と如何にもな不満顔で皆が追及してくるのを何とか捌く。特に谷本さんのそれはなんか鬼気迫るものが在った。

 うん、入学初日で席が隣って所から趣味のお陰でなんか脈有りな感触だった異性が早くも他のクラスの野郎(もと)女郎(めろう)との関係を匂わせてたらそりゃー必死になるよね。

 でもなー、僕的には確かに下心は多少有ったっちゃあ有ったが、粉をかけたって程でも無かったと認識してるんだけども。いやだって普通に隣の席の娘だから名前覚えて話し掛けて趣味の話題から遊ぶ約束取り付けて、って…ほら、普通の友達作りの一環じゃないか。

 尚、そこに異性同士で()の方は学園全体で二人だけという希少価値を付与するものとします。うーんこりゃ勘違い待った無しだぜ!

 

 ああ…そんなつもり全然無かったのになー……具体的に言うとビッチムーヴとかマジでする気無かったっつーか今もしたつもり無いんだけど、なんだろう、自分自身を客観視するとなんかそれっぽいって解っちゃうよね。

 でも飽くまで自然体に振る舞っただけなのよ僕としてはマジで。これでビッチ扱いされるならもう女子と一切会話しないか不登校になるしかないってレベルだ。かと言ってこればっかりは開き直るって選択肢も取り辛い。なんせ男女のお付き合い、惚れた腫れたに関する事だもの、そういうのは人生に於いて大事な事だからね。だが大事な事(ゆえ)にそう容易く結論が出る訳も無く。はーーー、追々考えていくしかないかなーこの辺は。

 

 

「おーい皆ー、その辺にしといてやれよー」

「えーでも織斑君も気になるでしょー」

「気にはなるけど友達を困らせてまで聞き出そうとは思わないよ。ほらほら、会見時間終了!」

「はーい」

 

 一通り騒いだ所で一夏のストップが入った。同じ男子としてそっち方面で針の筵に立たされている友人を流石に見捨てる事は出来なかった様だ。

 女子達もある程度騒いでテンションが天辺から下り坂に入ったからか、素直に矛を収めてくれた。やれやれである。

 

「ねえ、涼……嵐が去った所で、そろそろ本題に入りたいんだけど、いいかな?」

 

 とか思ってたら、何とか回復したらしい簪がそんな事を尋ねて来た。

 

「本題?」

「うん。元々その事について話したくて涼を探してたから」

 

 え、何、今の流れからの本題? すげー怖いんだけど。1組女子ズも簪の再びの匂わせにまたも上り坂へ足を掛けていた。えぇーなになに、ほんとなに。

 

 

「噂が流れて来たの。涼が、クラス代表の座を懸けて候補生と決闘するって…それって本当?」

 

 

 だが、話の内容は危惧していた方向とは違ったもので。そして目下僕の心を悩ませているものでもあった。

 

 

「はい、本当ですよ」

 

 別段、隠す様な事でもないので素直に肯定しておいた。しっかし朝のHRから昼休みに掛けての約4時間程度で既に簪のクラスにまで情報が行き渡っているとは。人工島に建つ学園と云う一種の閉鎖社会であるのに加えて、僕がどう足掻いても注目される存在なのも手伝っているのだろう。これは1年全体に決闘の事は知られていると思っていいな。

 やっぱ老若男女問わず、何時の時代も人って噂好きなのね。って云うか半日目を離しただけで、ってこっちの事か。

 

「そうなんだ……どうしてそんな事になったの?」

「クラス代表を決める話し合いの際に、僕が立候補したらオルコットさん…代表候補生の方が否を唱えられまして。食い下がったら、決闘を通して自分がクラス代表に相応しいか証明してみせろ、と」

「…オルコットさんは、涼が素人だから認めなかったの? それとも…男だから?」

「両方、ですね。でも、あれは偏見から僕の事を見下して仰られた訳ではないですよ。一人前のIS乗りを目指す事の大変さや、男が女社会に乗り出す事の厳しさ…そういう観点から、寧ろ僕の事を心配して言って下さったんだと思ってます」

 

 簪がセシリアさんの事を誤解しない様にその辺はちゃんと伝えておく。実際この解釈で間違いは無いだろう。若干捻くれた言い方ではあったが、この程度の()()()()()で怯んでいてはやっていけないぞ、と云う指導の意味も込められていたのだと思うし。

 

「……涼は、どうしてクラス代表に立候補したの?」

「一人前のIS操縦者を目指す為の糧として有用な経験を積める立場だと思ったからですよ」

「…それ。何で一人前のIS操縦者を目指そうと思ったの。涼…と、織斑君は、無理矢理この学園に入れられただけなのに。何で押し付けられた立場の上で努力しようって思えるの」

 

 簪は不満気な、それでいて心配そうな表情で此方を見ていた。人によっては僕の事を睨んでいる様にも見えるその表情は───奇しくも、今朝のセシリアさんのものに似ていた。

 ああそうか、やっぱりそうか。セシリアさんは…そして簪も、世間から無理矢理進む道を決められて、その上でより苦しい方向へ行こうとする僕を心配してくれているんだ。

 

 こういう風に心配りをしてくれる人が少しでも居るんだと確信出来れば、人って案外頑張れるものなんだけどね。

 

 

「望む望まないに関わらず、立場には責任が伴いますから」

「…っ、そんなの、知らんぷりしちゃえばいいじゃない。私の人生だ、勝手に期待して勝手に押し付けるなって」

「勿論、そういう考え方も有りだと思います。でも、()()()()()()()()()()()()から」

「なんでっ」

 

 少しずつ語気が荒くなっていく簪とは逆に、僕は落ち着き凪いだ心持ちで(ただ)口を動かした。

 

「今年のIS学園の入学者数も例年と変わっていないと聞きました。つまり、僕と一夏のイレギュラー二人が入学した事で、本来なら合格だった方が二人、IS学園に入れなかったという事になります。───今の僕の立場には、罪は無くとも責任が生じているんです」

 

 

 僕の言葉を聞いた周りの皆の表情が変わった。僅かに目を見開いただけの人も居れば、ハッキリと驚きが表に出た人も居る。特に、僕と同じ立場である一夏のそれは判りやすかった。

 

「簪の言う通り、自分は悪くないと突っ撥ねてしまうのも有りです。けど、僕はそうは思えませんでした。今年のIS学園の校則の変更然り、異分子の存在というのは、その周りの正常な流れを歪めてしまうものです。僕が関知していないだけで、まだまだ沢山そういった事態が起こっている筈です。そのせいで、真っ当に努力してきた人が不利益を(こうむ)っている以上、それに報いるだけのモノを得ないと──歪めた意味が有ったと、不利益を被った甲斐が有ったと、その人達に思って貰いたいな、って……そういう、僕の自己満足です」

 

 

 そう言って、簪に笑いかける。

 簪は途中で気付いただろう、僕の話の内容が、()()()()()()()()だという事に。

 今の一連の語りは貴女に向けたものでもあるんですよと云う、笑顔に込めたメッセージを理解したのだろう簪は又も顔を紅くして俯いてしまった。

 ……昨日も思ったが、なんかこの世界の女の子って恥ずかしがり方は前世の女子と変わってない気がするな。男子だったらもーちょっと笑ったり巫山戯たりして照れを誤魔化す気がするんだけど。まあ可愛いからよし。

 

 何時の間にか周りの皆は完全に食事の手を止めて僕に感心と云うか尊敬の眼差し的なものを向けて来ていた。

 止めてくれー、僕別に根っからの聖人って訳じゃないんだ。考え方の半分以上は前世の父の受け売りなんだ。満更じゃないけど後ろめたさの方が勝る。

 

 

「………涼の想いは分かった。けど、どうするの。気合いだけじゃ代表候補生、況してや専用機持ちには勝てない」

「それなんですよね。現在進行形でそれについて悩んでる所なんです」

 

 休み時間のセシリアさんの言い方からして中途半端な仕上がりじゃとても認めて貰えそうにないしなー。織斑先生や山田先生に指導して頂けたらいいんだけど、只でさえ補習の負担を掛けてしまっているんだ。これ以上頼るのはちょっと…って感じよね。

 

 

「………な、なら…私が、訓練、見てあげても、いいけど」

 

 

 そんな事を考えていた時に、簪からの申し出。

 それは正しく救いの手という奴で。

 一も二も無く僕は即座に飛び付いた。

 

「───いいんですかっ」

「う、うん。涼の想いを知ったから……私、涼の助けになりたいって、思って……」

「是非お願いしますっ。嗚呼っ、ありがとう簪!」

 

 ぃよっしゃあっ! 内心で全力ガッツポーズをかます。席がもう少し近かったら思わず簪の手を握っていたかもしれない、それくらいに嬉しい提案だった。

 代表候補生にして専用機持ち(内定)の簪に指導して貰えるなら短期間でもかなりのレベルアップが見込める筈だ。既に自身の専用機を所持している事も加えれば、希望が見えて来たと言っても過言じゃないだろう。───過言じゃないよね? 大丈夫だよね? 原作一夏も一週間竹刀振ってただけでISの操縦はぶっつけ本番だったのに結構いい勝負してたし…え、いけるよね? いけるでしょ? いけるって言ってくれ頼む。

 

 

 

「───それだけじゃ足りないんじゃない? 代表候補生を甘く見ちゃ駄目よ」

 

 

 一体誰に向けてなのか、自分でもよく分かんない祈りを捧げていたら、横からそんな無慈悲な言葉が投げ掛けられた。駄目かーちくしょー。

 視線を向けるとそこにはショートカットの髪を派手なラベンダー色に染め、アイメイクにネイル完備、仕上げにピアスと、かなり気合いの入ったお洒落をしている女生徒が居た。

 

 その綺麗な人が身に付けているリボンの色は、赤。

 3年の、上級生だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

*1
いや射ったのお前

*2
断じて作者が一夏の存在を忘れていた訳ではない。いやマジで。補足入れ忘れただk(ry

*3
なお、まだ二日目




なんて事の無い日常描写が好きなんで書きたい所全部書いてたら全然話進まねーでやんの()。

これで1万文字以上ってマジ?
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