自給自足IS貞操観念逆転モノ   作:アマデス

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ワイの理性「こんな毒にも薬にもならねえ会話劇要らねえんだよっ!! 日常描写も訓練シーンも、なんならセシリアとの決闘も全部ダイジェストで飛ばしてとっととエロコメ書け! その方が確実に評価を貰える!」

ワイ「うるせえっ!!! 俺が書きてえから書く!!」


こんな感じに理性と格闘しながら書き上げました(笑)。毒にも薬にもならない日常描写、好きっ!!
まあタイトルで自給自足って明言してるし、ええやろ!



8話 子供から教わる大人

 

 

 

 随分と脈絡の無い、文字通り突然の乱入者に僕と簪を含めた全員が固まった。特に一夏は男子故か、如何にもチャラ男(もと)いギャルと云った格好をしている先輩を警戒している様で。

 だがそういう反応には慣れっこなのだろう。一夏の警戒心に気付きながらも、それを意に介さず飽くまで自然体な有り様で先輩は此方()に話し掛けて来た。

 

 

「急に話し掛けちゃってごめんなさいね。でも話の流れ的に割り込むなら此処かなって思ってさ」

 

 いざ口を開かれると、印象が少し変わった。見た目は派手だが口調と声色はかなり大人っぽく、年上としての貫禄を感じさせてくれる。如何にもチャラついて見えたファッションが大人のそれに思えてくるのだから凄い。これがカリスマって奴なのか。

 

「割り込むなら、ですか……何処から僕達の話を聞いていたんです?」

「最初からよ。と言うか私の方が先に食事してたんだけどね。偶々(たまたま)貴方達が近くに座ったから会話が聞こえてきたってだけ」

 

 僕の質問にも淀み無く答えてくれる。気負いの無さからして、こりゃ嘘じゃないな。本当に偶然なのだろう。

 

「だからまーそんなに警戒しないで…っと、自己紹介がまだだったわね。如月圭(きさらぎけい)よ、学年は見ての通り3年。よろしくね」

御存知(ごぞんじ)かと思いますが、1年1組の朔晦涼(さかいりょう)です。こちらこそ、よろしくお願いします」

「おい、涼…」

 

 名乗られたなら此方も名乗り返さねばなるまいと出来るだけ丁寧さを意識してお辞儀したら、一夏に小声で咎める様に名前を呼ばれた。

 そんな警戒しなくても大丈夫だって一夏。悪い人じゃないよたぶん。悪い人だったとしてもこんな美人さんだったら僕的には全然構わないって云うか寧ろ是非とも襲ってくれって感じである。

 

「おー、さっすが噂通りの日本男児。ちゃんと名乗り返してくれるんだ」

「勿論です。人として当然の礼儀ですよ」

「私みたいな見た目の女にその当然をきっちり全う出来るから凄いんだよねー」

「確り謝罪と名乗りを入れた、芯の在る大人の対応をしてくださったんです。外見だけじゃなく内面も、見た目通り綺麗な方だと思ったからこそ払った礼儀ですとも」

 

 そう言って笑い掛けると、如月先輩は一瞬きょとんとしてから「そ、そう…」とだけ返して、目を逸らし片手でピアスを弄り出した。

 これくらいの褒め言葉で照れるなんて案外(うぶ)だな。やっぱりチャラついた格好とは裏腹に真面目な気質で、そんなに遊んだりしていない人なんだろう。

 

 

「う゛う゛んっ、えっと、まぁ…あのね………なんだったっけ……そう、最初は話し掛けるつもり無かったんだけどさ。話題的にも入り込みづらかったし」

 

 一旦仕切り直した如月先輩がそう言った。ほんとアホみたいな会話繰り広げてすいません。

 

「でも代表候補生との決闘の噂は聞いてたからさ。そっちに話題が流れた時におっ、って思って。つい声かけちゃった」

「如月先輩のクラスにも噂は届いているんですね」

「勿論。君達、自分達がどれだけ周りに注目されてるかっていうのを自覚…うん、()()()()()()自覚した方がいいわよ。この件についてはもうとっくに学園中に知られてると思わないと」

 

 マジか。1年全体どころじゃねえとは、噂の伝達速度ってもんを舐めてたなこりゃ。いや、と云うより男子の話題に餓え過ぎじゃないかいIS学園生? 気持ちはめっちゃ解るけども。

 

 

「って訳でさ───私にも貴方のISの指導、させてくれないかしら」

 

 

 そして如月先輩は僕に話し掛けた目的を明かすのだった。

 んん? あれ、やっぱ如月先輩遊び慣れてる人か? え、だってこれほぼナンパだよな。素人の僕に時間を割いて指導した所で先輩にメリットなんて無い筈だ。唯一見返りが有るとしたら(男子)とお近づきになれるって事くらい…いや自分で言うのもあれだが。

 

「そこの眼鏡ちゃんがコーチに名乗り出たから、外野の私は引っ込んでようかとも一瞬思ったんだけどさー……貴方の真剣な想いを聞いちゃった以上、手ぇ貸してあげなきゃ先輩の名が廃るってもんでしょ」

 

 そう言いながら如月先輩はニカッとした笑みを向けて来た。

 さっきまでの大人っぽい雰囲気から一転、快活な少女そのものと云った笑み。その表情からは下心の類いはまるで感じ取れず。

 いや、女子(男子)男子(女子)に話し掛ける以上、そこには一定の下心と云うものが常に在るものだが、目の前の先輩からは本当にその一定の…なんと云うか、デフォルト量の下心しか無いって感じがしたのだ。

 一瞬ナンパかと警戒した自分が恥ずかしくなるくらいに上級生としての真摯さで接してくれる如月先輩。レベルの高い化粧と明るい表情も相まって、先程とはまた別種の魅力を感じさせてくれた。

 おおぅ、こりゃ気ぃ抜くとガチ恋しちゃいそうなレベルだな。マジで心身共に綺麗って云うか美しく感じるよこの人。

 

「って事で、どう? 私も参加していいかしら。ああ、勿論嫌なら断ってくれて構わないわよ。話が纏まりかけた所で勝手に割り込んだのは此方だし。何より複数人でごちゃごちゃ意見出し合うより、代表候補生とマンツーマンの方が効率が良いって言われたらそれまでだし、ね」

 

 そう言って簪に流し目を送る如月先輩。どうやら簪のプロフィールも確り把握済みの様で。

 うーむ。今の、提案をしながらも此方が気後れしない様、一歩引いて見せた姿勢と云い、本当に()()()先輩の様だ。僕の中でこの人の株がガンガン上がっていくのがハッキリと分かる。これでもしこの人がハニトラの類いだったらもう素直に負けを認めて()()()()しかありませんねぇ、って思っちゃうくらいには、既にだいぶ如月先輩に気を許している僕が居た。

 

 だがまあしかし、実際はどうしたものか。「更識さん代表候補生だったの!?」「すごーい!」なんて1組女子ズにちやほやされている簪をちらりと窺いながら僕は悩む。

 決闘の日付けまで、今日を含めても六日間しか無い。こんな超短期間で代表候補生と戦える様になるレベルまで仕上げようとするのなら、先輩の言う通り、下手に複数人から教わるのでは無く、一人から一つの戦法(やり方)を徹底的に叩き込んで貰って勝負に出た方がよっぽどいいかもしれない。

 状況に応じて戦術を変えるなんて高度な事が出来る程僕にセンスが有るかは判らないし、有ったとしても()の道六日間だけじゃ付け焼き刃レベルにしかならないだろう。

 

 何より───ずっと優秀な姉と比較され続けてきた簪が、ここで誘われるがまま、ほいほい先輩の手を取る僕を見たら、どう思うだろうか。

 やっぱり自分だけでは不足なんだ、必要とされていないんだと、また思い詰めさせてしまわないだろうか───。

 

 

 

「涼、この話、受けよう。如月先輩にも協力して貰おうよ」

 

 

 そんな僕の要らぬ心配を軽く吹っ飛ばして、簪は如月先輩の申し出を了承するのだった。

 

「あら、いいの?」

「いいんですか簪」

「うん……私一人じゃ、私のスタイルでしかモノを教えてあげる事が出来ない。そして、それが涼に合うかどうかもまだ判らない。先ずは、色んな人の意見を聞いて、その中から自分に適したものを取捨選択していって、最終的に自分のスタイルを確立していく……そういう手順をちゃんと踏むのが大事だから」

 

 簪は真っ直ぐ此方を見てIS乗りの踏むべき道筋を説明してくれる。如月先輩も「道理ね」と頷いているし、成る程、確かに間違いの無い手順なのだろう。

 だが残念ながら今の僕にはその手順を踏む時間が無いのだ。

 

「ですけど簪、言ってませんでしたが、決闘まで今日を含めても六日間しか無いんです。この短い期間でそんな風に、普通のやり方で鍛えて大丈夫なのでしょうか」

「勝ち負けって意味でなら、お世辞にも大丈夫とは言えない。相手はとっくにその段階を越えて代表候補生に至った人だから」

「なら──」

 

「でもそんなの気にする必要は無い」

 

 

 ───昨日の不安定さを微塵も感じさせない、とても力強い言葉。

 再びの、デジャブ。セシリアさんが見せた眼光によく似た──簪の瞳の光が、僕に注がれた。

 

 

「焦って下手な鍛え方をして、間違った癖を身に付けてしまったら、今は良くても将来的にはそれを矯正する時間が必要になってしまう。そしてその分周りに差をつけられる……一人前のIS操縦者を目指すなら、そういうリスクは絶対に避けなきゃいけない」

「でも……」

「涼、オルコットさんは貴方に、自分に勝ってみせろなんて言ったの? そうじゃないでしょ? 覚悟を示せとか、そういう事を言ってきたんじゃないの」

「…はい、その通りです」

「なら、()()()()()()()。周りが何と言おうと、どんな評価を下してこようと、()()()()()()()()()()()を積まなきゃ上には行けない。周囲の雑音に踊らされず、確固たる自分を持つ…それも覚悟の一つって言えると思うから……───大丈夫。涼はもう、ちゃんと覚悟を持ってる。あとはそれを示すだけ。オルコットさんが()()()()()()()()()()()、絶対に涼の事認めてくれる」

 

 

 

 ─────嗚呼、まただ。

 

 実質、僕の十分の一程しか人生経験を積んでいない若者の言葉が。

 

 こんなにも、胸に沁みる。

 

 

 

「───……ありがとう、簪」

「ぇ、い、いや、大した事は、言ってない、から…」

「ふふ、僕にとっては、とても大事で、大切な教えでしたから」

「そうね、中々格好良かったわよ今の。やっぱり代表候補生ともなると違うわね」

 

 謙遜する簪を如月先輩が称賛する。周りの皆もやるねーとか格好良かったよー、なんて簪の事をべた褒めしていた。特に箒さんは、口からは何も語りはしなかったが、簪を見る目の色が明らかに先程迄と違っていて。

 こんな風に同年代に囲まれて絶賛された経験が少なかったのか、簪はまたも顔を紅くしてあわあわしていた。可愛い(確信)。

 

「では改めて、如月先輩。僕にISの指導をお願い出来ますか」

「うん、いいわよ。言い出しっぺはこっちだし。確り(つと)めさせて頂きまーす」

「はは、よろしくお願いしますね」

 

 ひらひら~っと手を揺らして軽く宣う先輩に僕も笑い掛ける。

 よしっ、一日目にして早くも協力者を二人得る事が出来た、実に運が良い。いや、単なる運でもないな。昨日の内に簪と深い関係を築けていたのがデカイ。これも人の世の(えにし)って奴だね、やっぱ積極的に動いたもんには福が舞い込むのよ。

 

 

「あ、あのっ!」

 

 

 ───とか思っていたら、僕の隣に座る一夏が急に立ち上がって如月先輩に呼び掛けた。突然のアクションに皆が目を白黒させる中。

 

 

 

「その、涼の訓練……俺も近くで見学させて貰って、いいですか」

 

 

 何処か必死さを感じさせる表情で、彼はそう懇願した。

 

 

 

 

 

 

 

 

          ∵∵∵

 

 

 

 

 

 

 

 

「───では本日の補習は此処で終わりとする。二人共、予習復習を欠かさぬ様に」

「はい、ありがとうございました」

「ありがとう、ございました…っ」

 

 

 昼休みの一件から少し経ち、放課後。僕と一夏は織斑先生監督の下、最初の補習を終わらせていた。

 昨日の今日で早くも補習を行う準備を整え終えるとは織斑先生の有能っぷりが(とど)まる所を知らない。いや、僕前世で教師やってた訳じゃないからよく解ってないけど、こういうのの準備って結構手間って云うか頭使うもんじゃないの?

 補習を受ける生徒がどの程度内容を理解出来ているのか、授業に遅れているのか、追い付く迄に何れ程の期間が掛かるのか、追い付かせる為に一度に何れ程の内容量を詰め込めばいいのか、いざ行った時の生徒の理解の早さは何れ程かetc……ぱっと考えただけでこれくらい考慮しなければならない事項が浮かんでくる。めっちゃ大変やん(小並感)。

 それを一日でささっと用意してくるんだからやっぱ凄いよ織斑先生は。いやまあ、ひょっとしたら山田先生(副担任)に全部押し付けたって可能性もあるけど。*1

 

 

「特に織斑、お前は朔晦と比べても学習が遅れている。皆に追い付く為には一度学んだ部分を忘れず、確りと頭に定着させる事が必須だ。予習復習は日課にしておけ」

「はい……」

 

 最早瀕死と云った状態の一夏に織斑先生が容赦無く追撃を仕掛けていく。教師として至極真っ当な指示だから逆らうに逆らえないのも(たち)が悪い…って表現はおかしいか。うん、キツいね。

 

「一夏大丈夫?」

「なんとか…」

「この後の訓練、付き合える? 無理そうなら部屋に帰って休んでなよ」

「…いや、大丈夫、行ける。訓練に付き合うって言っても、(ただ)見学するだけだし」

 

 そう言って一夏はぐんにゃりしていた五体にグッグッと力を込めると席から立ち上がった。確かに疲れてはいるが、これくらいじゃへこたれないぞという意志が目から伝わって来る。

 ふむ、昨日の今日でどんな心境の変化が在ったのやら。

 

「その口振りからして、早速今日から決闘に向けた訓練か朔晦」

「はい。4組の簪と、3年生の如月先輩に指導して頂ける事になったんです。御二人には感謝しなければなりません」

「如月か、相変わらず世話焼きと云うか、フットワークが軽いと言うべきか」

 

 如月先輩の名前を出すと、織斑先生は苦笑しながらそんな言葉を(こぼ)した。どうやら先生にとって覚えのいい生徒らしい。この人がこういう反応を示すならやはり人格的には信頼出来る先輩なのだろう。

 

「──しかし、4組の更識も、か……彼奴(あいつ)の事情は知っているのか?」

「はい、昨日の放課後、その事について話しまして……取り敢えず、(わだかま)りは無くなったと思っています」

「ふっ、随分と過程を省いたな。呼び捨てにしておいてその一言で済ますのか?」

 

 クールにニヤリと、同時に茶目っ気も多分に含んだ笑みを向けてくる織斑先生。

 むむむ、やはり男子()が特定の女子を呼び捨てにすると周りに結構過敏な反応をされてしまうな。でも人前ではさん付けに変えるとかやってると(かえ)って意識してるみたいに受け取られそうだし。

 うん、今のまんまでいいや。そんときゃそん時の精神で生きていきますあたい。

 

「まぁ、何と言いますか……お互いの腹の(うち)を見せ合ったって所です。……僕にとって簪が好ましい女の子なのは確かですけど」

「ほほう? 成る程成る程……もう少し詳しく聞きたい所だが、昨今の風潮的に、あまり根掘り葉掘りするのも不味いか。今日の所はこれくらいにしといてやろう」

「怖いですね、第二波が在るんですか?」

「さあ? そこはお前達の進展次第だな」

 

 さいですか。

 授業中はきっちりしてるが素は割と愉快な人なんだな千冬さん。世界最強だの人類最強だの言われててもやっぱ人の子よね。

 

 

「だが、気を付けろよ朔晦。お前は…お前達に対する注目は余りにも高い。比喩抜きで世界中がお前達の動向に目を光らせているんだ。特に男女のあれこれ等、実に付け入りやすい隙となる。一度汚点を晒してしまえば徹底的に(なぶ)られる事になるぞ。世間やマスコミだけじゃない、政治方面からもだ」

 

 とか思った所で再びキリッと真面目な注意をされる。まあ校則の変更然り、今のIS学園はその辺かなり警戒してますもんね。そう考えると昨日の簪とのプレイはガチのガチで危ない橋渡ってたわ()。まあそうならない様に部屋閉め切った訳だけど。

 

「はい、十分承知しています」*2

「ああ…窮屈な思いをさせてすまん。だが今後の人生を左右する事項だ。頭に留めておいてくれ」

「はい」

「涼、そろそろ行こうぜ。早くしないと訓練時間無くなっちまう」

 

 一夏の呼び掛けに応じて僕も席を立った。

 只でさえ補習で一時間削られる訳だし、急いでアリーナに向かうべきだろう。少しでもISへの搭乗時間を増やさなければセシリアさんに勝つどころか(ろく)に動けないまま虐殺されて終わってしまう。

 

 

「─────いや、朔晦。少し待て。話したい事が有る」

 

 

 が、席を立ったタイミングで、織斑先生……いや、()()()()に呼び止められた。

 

「何だよ千冬姉、まだ何かあるのか?」

「すまん、私個人として言っておきたい事が有ってな……悪いが一夏、席を外してくれるか。なに、ほんの少しだ、時間は取らせん」

 

 ? 何だろう、声の勢いが少し弱い、気がする。一見気付けないが先程の千冬さんと比べて……なんか、後ろめたさの様なものが漂っていた。

 一夏がチラリと此方にアイコンタクトを送ってくるのに、頷きで返す。まあ時間は取らせないって言ってくれてるし、別にいいでしょ。

 

「んじゃあ涼、先に行って更識さん達に言っとくわ」

「うん、お願い」

 

 それだけ言って一夏は1組の教室から出ていった。二人っきりになったので、早速とばかりに僕は千冬さんを促す。

 

「それでは、織斑先生。個人的な話と云うのは?」

「ああ………お前に、謝罪と礼を言わねばならんと思っていたんだ」

 

 やはり少し沈み気味の声でそう言った千冬さんは───次の瞬間、僕に対して頭を下げていた。

 おおぅ?

 

 

「先ず、お前と、お前の家族をメディアから庇えなくてすまない。あの時は、弟の通う中学にまで押し掛けて来た記者(馬鹿)や、弟を拉致して解剖しよう等と巫山戯(ふざけ)た魂胆で自宅の周りを彷徨(うろつ)研究者(不審者)に対応する為に、方々のツテを当たっていて忙しくてな。何とか弟の安全を固め終えた時には、既にお前の方にメディアの足が殺到していて間に合わなかったんだ」

 

 

 実に申し訳無さそうな表情で千冬さんは僕にそう弁明してくれた。

 成る程ね。ネットで、一夏への世間の目を千冬さんがシャットアウトしたとの書き込みを見た時は、おーすげーブリュンヒルデってそんな強権振りかざす事も出来るのかーとか思ってたが、実際はそれなりに苦労して走り回って何とかって感じだった訳だ。まあ世界最強だの何だの言われた所で、まだ二十代半ばの一般人さんだもんな。……一般人だよな? 日本代表の立場からは退いてるんだし、一応社会的なポジションは一般人でいいんだよな?

 

「片方に手が出せなくなれば、もう片方に人の意識が向くのは自明の理だと云うのに……あの時の私は、弟を優先する余り視野が狭くなってしまっていた。情けない話だよ、本当に申し訳無かった」

「そんなっ、頭を上げて下さい織斑先生。家族の身を最優先に考えるなんて、当たり前の事じゃないですか」

 

 実際そう思う。愛情には優劣があるなんて全く以て当たり前の話だ。でなければ恋人や親友なんて関係や単語は存在しない。

 

「それに裏を返せば、そうやって周りが見えなくなるくらいに、本気で織斑先生は(一夏)を愛しているって事でしょう。それは、とても素晴らしくて、美しい事だと思います」

「───っ、あー()せ。そうも真っ直ぐな目で言われると、反応に困る」

 

 そう言って千冬さんは僕から目を逸らし、露骨に照れた様子を見せる。たぶんこれかなりレアな光景だぞオイ。

 

 

「ふふ……まあ実際、僕の方にもそういった人達が相当数来ましたから、分かります。織斑先生の心配と行動は間違いなく正しくて最善でしたよ」

 

 

 心底そう思う。ほんの2、3ヶ月前の話だが、まーーあれはヤバかった。

 

 明らかに記者(それ)っぽい女性()から、通りすがりの一般人を装っているものの微妙にパパラッチ臭を隠せていない女性()、同じく一般人を装っているが目の色と雰囲気が何処と無く堅気(かたぎ)っぽくない女性()、堂々と白衣を着て家の真ん前で仁王立ちしてた研究者的な女性()、そして僕の自宅を特定して興味本位で凸って来た阿呆まで。

 ほんっっとーーーに凄まじい数と種類の人が僕の家の周りに押し寄せて来て。

 

 これじゃ学校や会社に行くどころか日常生活も儘ならないと家族全員の見解が一致したので、兎にも角にも先ず警察を呼んで家の前の人を散らして貰おうと110番したら、警官じゃなくて何か如何にもな黒服の人達*3がやって来て「日本政府の者です。あなた方を保護します」と問答無用で家に上がり込もうとするのを母が蹴り飛ばして外に叩き出していた。

 何をしているのと父が泡を食って母を止め、黒服女性達も当然何をすると食って掛かって来たが、母は「私達は警察に自宅の前の迷惑な人混みを何とかしてくれと頼んだのであって御偉いさんに保護を頼んだ訳では無い。そもそも貴女達が本当に政府の人かも判らないのにほいほい付いて行く訳が無いだろう。何も解っていないまま知らない場所へ拐われては堪らないし、何の説明も無しに今の生活を放棄する義理も無い」──という、正論なんだかそうじゃないんだか分からない理屈で黒服達と真っ向から相対。

 すると黒服の一人が何やら紙を取り出して母に見せたのだが、「こんな紙切れ一枚が何だと言うんだ。飽くまで私達の身の安全の為だと宣うのならもっと上の人間を連れて来て直接説明させろ。誠意を示せ」とまたもや突っ撥ねた。

 まさか極有り触れた一般家庭の亭主に過ぎない女性がここまで強気に出て来るとは思わなかったのだろう、黒服女性達が困った様子でお互いに顔を見合うと、一連のやり取りがネタになると思ったのか記者がカメラのフラッシュを焚き始め、一般の人達もそれに合わせてスマホでの撮影を開始。止めなさいと黒服達が家の周りの人達に詰め寄ったタイミングで何とパトカー数台が到着。警察の人達がやって来て、何やってんだ此方は何も連絡受けてねーぞいやそんな筈は無い政府の特命だあーだこーだと、んまーしっちゃかめっちゃか。

 

 んで、最終的に。

 

 一体どんな擦り合わせが在ったのやら、なんやかんやで僕以外の家族は皆そのままの生活を維持出来る事となり、今も住み慣れた実家で暮らしている。よかったよかった。

 僕に対する人質とする目的での拉致とか、諸々の危険に対応する為に、周囲に人員が配置されているらしいが*4、まあ当の本人達的には何等変化を実感してはいない様だ。

 やーそれにしてもまさか母があそこまで強く出れる人だとは知らなかった。まぁたぶん、あの緊急事態に在って、家族を守れるのは──守らねばならないのは大黒柱である自分だと奮い立ってくれたのだと思う。前世でも今世でも、(つくづく)僕は親に恵まれているなと改めて思ったね。

 

 

 

 閑話休題。

 

 

「やはりそちらもそうだったか……本当に、申し訳無い」

「いえ、最終的には何とかなりましたし、この件に関して織斑先生には何の責任も無い筈です。ですから、もう謝って下さらなくても…」

「そう言ってくれるのは有難いが……どうにか出来る力を持っていたというのに、どうにも出来なかった…間に合わなかったというのは…中々に、堪えるものなのさ」

 

 そう言って織斑先生は自嘲する様に弱々しい笑みを浮かべた。

 

 ───これ、単純に責任感が強いってだけの話でもないな。

 過去に何か、力及ばず守り切れなかったものが、そういう経験がある…? 人類最強(ブリュンヒルデ)であるこの人が──

 

 

 

『緊急速報です。第2回モンド・グロッソ決勝戦に於いて、日本代表の織斑千冬選手が試合を棄権し、不戦敗となったとの情報が先程届きました。試合の観戦の為、現地に訪れていた身内が何者かに拉致され、その救出の為に試合会場から離れたとの情報も入っていますが、正確な事は未だ不明で───』

 

 

 

 ──あーー、そっか。思い出した。

 ブリュンヒルデと呼ばれた過去が在るからこその、後悔と無力感って奴なのか。

 でも、それは。

 

 

「違うと思います」

「──何?」

「今回も、第2回モンド・グロッソの時も、織斑先生はちゃんと間に合っています。他の何を置いても、自身が一番に愛する家族の元へ駆け付けて、救う事が出来ているじゃないですか」

「───」

「最も大切なものを、決して取り零す事の無い強さ……それを持っている貴女の事を、蔑むような人は決して居ませんよ」

 

 

 そうだ。人は決して(全能)ではない。英雄(万能)に成る事すら程遠い。だからこそ皆、妥協して、一定の所で満足して、自分を納得させて。そうやって常に諦めながら日々を生きている。

 

 だからこそ、諦めずに足掻き続ける者を人は美しいと思うんだ。

 

 セシリアさんは、謙遜なんて要らない、権利や資格なんてものは自分で自分に与えろと、上を目指す為の心の持ち方を教えてくれて。

 簪は、(たと)え周りから何れだけ蔑まれようとも、自分を捨てず、自分を見失わず努力を続ける事の大切さを説いてくれて。

 

 ───そして、織斑先生は。

 世界最強(ブリュンヒルデ)と呼ばれた過去を持ちながら、呼ばれるだけの力を持ちながら。まだまだ自分は甘いと、()()()悔いる事が出来ている。現状で満足せず、己を(かえり)みているんだ。

 

 此処に居る人達は、皆、諦めない。

 諦めないからこそ、自分が一番欲しいものに手を伸ばし続けて、それを掴み取っている。自分の一番大切なものを愛し続ける事を止めず、それを守り切っている。

 

 諦めない強さ──諦めないからこその、強さ。とても、とても美しくて、皆、心の底から尊敬出来る人ばかりだ。

 そんな人達の筆頭であるこの人に、もっと自分の素晴らしさを自覚して欲しくて、僕はそんな言葉を口走っていた。

 

 

「………本当に、()という奴は」

「すみません。出過ぎた言葉だとは思ったのですが、紛れも無い本心ですから」

「たわけ。怒っているのではない、呆れているんだ。この女たらしめ」

 

 そう言って笑う千冬さんの表情には、本当に怒気の色は無く。先程迄の弱々しさもまた、既に消えていた。

 ああ、良かった。完全に他人(外野)の僕の言葉でも、少しはこの尊い人に届いたらしい。

 

「僕をたらしだと思ったのなら、それは先生が素敵な女性だという証拠ですよ。僕は(ただ)先生を見て思った事感じた事を素直に言っただけですから」

「そういう事を真っ直ぐ口に出すからたらしだと言うんだ全く。お世辞ではないと解る称賛が何れ程人の心に響くと思う」

「お世辞じゃないですからね」

「だからっ、解っていると言っているっ」

 

 先程と同じ様に、千冬さんの顔に仄かに朱が差していく。

 マジかよ…すげー可愛いじゃんこの人。心の在り方が美しいだけじゃなく可愛さまで搭載してるとか無敵過ぎる。これがブリュンヒルデ…!

 

「あたっ」

「教師に対して失礼な事を考えるな」

「いや物凄い勘いいですね」

 

 ポコンとめっちゃ軽めに頭をはたかれた。覇王色だけじゃなく見聞色まで修得済みか、新世界レベルとは恐れ入る。

 

「ふふっ、全く……君には感謝してばかりだよ」

「? あ、そういえば謝罪と礼、でしたね。一体何の事でしょう」

「一夏の事だ。彼奴(あいつ)を気に掛けてくれてありがとう」

 

 え、一夏? なんかしたっけ僕。

 

「入学初日…まあまだ昨日の話だが、過度に緊張していた彼奴をリラックスさせる為に、色々と気を遣ってくれたとの話を聞いた。他にも今日のクラス代表推薦、IS乗りとして努力したいと云うのが主な理由なのは嘘じゃないだろうが…一夏に余計な負担が掛からない様、庇ってくれたのも有るだろう?」

「……あぁ~~、っと……お見通しですか」

「勿論だ。ふふ、あまり私を甘く見るなよ」

 

 今度は僕が赤面する番だった。いやまあ、確かに、まだ全然環境に慣れてなくてストレスも溜まり始めてるだろう一夏への負担を少しは減らせてあげられたらなーとかチラッとは思ったが…そんなちょっとした、気紛れに近い部分まで見抜かれてしまうとは。

 うん、こういうのいざ指摘されると結構恥ずかしいよね。

 

「境遇は君も同じ…いや、寧ろ頼れる後ろ楯が無い分、君の方が大変な立場だろうに。そんな中で、他者を思いやって行動出来る君こそ、強い人間だと私は思うよ」

 

 えーいやー、それ言ったら僕転生者だからなー。人生2周目故の余裕って奴だから、そこそんな持ち上げられても、ねえ?

 

「いえ…(ただ)僕は、一夏と友達になりたいと思っただけですから。友人を気遣うのは当然の事です」

「それでいいのさ。誰彼構わず優しさを振り撒く必要なんて無いし、やっちゃいけない。彼奴の姉として……弟と友達になってくれて、ありがとう」

 

 そう言って微笑んだ千冬さんの姿は、とても柔らかく暖かい、正しくお姉ちゃんと云った感じで。

 ……うーん、まだ入学して二日目だけど、早くも姉さんの事が恋しくなってきちゃったなー。今夜寝る前に電話してみよっか。

 

「あはは、どういたしまして…と、言っておくべきなのでしょうか?」

「ふっ、たわけ、何故疑問系になるんだ」

「僕は僕の気の向くままに友好を結んだだけですから。それで偉ぶるのもなんだかなーと」

「いいから素直に受け取っておけ。只、家族と友人になってくれた…それだけで嬉しいものさ」

「ああ…ええ、そうですね。本当に、その通りです」

 

 うん、その通り。そりゃそうだ。僕も前世で父親やってた時、息子や娘が友達との事を食事時に話してくれるのを聞くのが凄く嬉しかった。うん、それだけでお礼を言いたくなるってもんよほんと。

 

 

「今後も友人として、一夏の事を頼んだよ」

「此方こそです。きっと、弟さんには今後沢山お世話になります」

「ふふ、ああ……さて、これで言いたい事は言い終わった。行きなさい。励めよ、ひよっこ」

「はい。存分に(しご)いて貰ってきます」

「はっ、その意気だ。決闘、楽しみにしているぞ朔晦」

 

 千冬さんからの激励を受け取り、僕は今度こそ席を立って教室の扉に手を掛け───ふと思い付いて千冬さんへ振り向いた。

 

 

「そういえば、僕からも()()()()に一つ、お礼を言わなきゃいけないんでした」

「? 礼?」

「はい───僕の事を、メディアから()()()()()()()()、ありがとうございます」

 

 僕の言葉を聞いた千冬さんが実に怪訝そうな様子で眉根を寄せる。それを見た僕は、にんまりと頬を吊り上げて言い放った。

 

 

「各種メディアさんからの取材は中々に大変でしたけど───その分、ガッポリ稼がせて頂いたんで」

 

 

 言い終わると同時に親指と人差し指で丸を作って掲げて見せた。いやーああいうのの出演料(ギャラ)って中々のもんなんだね、口座に振り込まれた額の桁を見て思わず黒い笑みが浮かんじゃう程だったよ。

 

 そんな僕の言葉を聞いた千冬さんは一瞬ポカンとして───次の瞬間、額を押さえて爆笑し出した。恥も外聞もかなぐり捨てた、大口での盛大な笑い方。

 うんうん、いいリアクションありがとうございます、って事で今度こそ僕は教室から出てアリーナを目指すのだった。

 

 

 

 ブリュンヒルデ様から直々に、楽しみにしていると言われてしまったのだ。頑張んないとね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

*1
千冬「ちゃんと二人で相談しながら詰めたわ、たわけ」

*2
どの口で言ってんの?

*3
全員女性だったので正直あんまり怖くなかった

*4
人員は更識の家の者。実の所、オリ主は簪にかなりでかい借りがある。知らぬは当人達ばかり




簪「会話した女全員と悉くフラグ立てやがるからフォローのしようがねえ!!!」


以下、ちょいキャラ解説。

○如月圭(きさらぎけい)…3年1組の生徒。派手でチャラついたファッションとは裏腹に根が真面目で面倒見もいい年上キャラ。早い話がデレマスの美嘉姉。声色も大人っぽく、見た目で敬遠してたけどいざ話してみたらギャップでやられたという人が男女問わず大勢居る。
原作に於いて、一夏にIS教えてあげようかーと声を掛けて箒に追い払われた3年の先輩にあたる人。こういうモブポジの人じゃんじゃん採用していきたいマーーン!!

○更識簪(現状ヒロインレース1位)…朔晦君に言った事も本心だが、下手に遠ざけるより直ぐ近くで監視した方がいざという時動きが間に合うと判断して如月先輩を懐に招き入れた。なんやかんや言って暗部の人間。
尚、如月先輩は何処ぞのハニトラ要員では無いし下心も今の所最低限しか持っていない正真正銘善意の協力者なので取り越し苦労である。

○朔晦涼(オリ主)…まさか千冬さんともそれっぽい雰囲気になるとか思わねーじゃんマジで(戦慄する作者)。
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