ゆめまぼろしに、いきたもの   作:BitterCoffee

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LINK VRAINS。それは、SOLテクノロジー社によって管理されている、膨大なデータと「データの風」が吹くVR空間。
大衆に普及したLINK VRAINSは、ヒトの欲望という需要を満たすために、ヒト自身が、際限なくコンテンツを供給し続けていた。
しかしながら、完璧なソースコードは少ない。優秀なプログラマーであれど、ヒトが介入した時点で、ヒューマンエラーが生じる可能性があるからだ。
故に、バグという副産物もまた生み出されている。それらは、文字通りのゴミでもあれば、羽化する虫の如く成長するモノもあり、そこから生み出されるデータも存在するのだろう。
ヒトが認知していないどこかでまた、バグは貯蓄されていく。LINK VRAINSのどこかで。


決闘0-1 Merge

「夜分に失礼します。お嬢様」

 

ドアに対してコンコンコンと3回のノック。

 

「入っていいわよ、クリス。何の用事?」

 

椅子を回転させて、身体ごとドアへと目をやる。

ドアを開き、頭を下げ、この書斎に入ってきたのは、長い銀髪を首元で束ねた中性的な顔立ちの青年。

この蒼葉家の執事、クリス・フォスター。

 

「アキルお嬢様。また、ガベージコレクターが対処できない『上澄み』が1体。現れたようです」

 

「また、か…わかった。今からその上澄みを対処します。VRAINS処理班各人員に伝えて。私も潜ります。クリスもバックアップお願い」

 

「かしこまりました」

 

書斎から出て、クリスと共に奥の部屋へと進む。

清掃の行き届いた廊下が、人感センサーで徐々に照らし出される。

着いた。潜入部屋。指紋認証、網膜認証、パスワード認証の後、足を踏み入れる。

クリスも同様の認証手続を済ませ、後に続く。

 

ガベージコレクター…バグ収集屋の皆さん。彼らで対処できない厄介な『上澄み』か。

こういう厄介事を対処するのも蒼葉の仕事の一端だ。

LINK VRAINSの厄介事専門の、訳アリたちを介入させる必要がある。

…潜入用カプセルの内部の椅子に腰掛ける。

 

『アキルお嬢様。VRAINS処理班は既に全員潜入済み、『上澄み』の予測行動範囲から最も近い拠点で待機中です』

 

クリスの仕事は外側…現実世界からのバックアップが主だ。

無線越しに彼の声を聞き取る。

 

「早いわね、了解。私も今から潜ります。クリスは引き続きバックアップお願い」

 

『かしこまりました。くれぐれもお気をつけて。どうか、ご無事のまま、お帰りくださいませ』

 

「…ええ、ありがとう。いってきます。」

 

『上澄み』の処理には危険が伴う。

LINK VRAINSで発生した肉体的あるいは精神的なダメージは、現実にある生身の身体にもある程度フィードバックされる。

例えば、高所から身体を打ち付けて、現実では死んでしまうような衝撃を受けた時。

現実の身体は死にはしないけど、現実でも暫くは意識が戻らないケースを聞いたことがある。

ただし『上澄み』はバグの上位種。セーフティがあるかは未知数。故に、どのような被害を我々にもたらすかも不明。

極端な話、攻撃がVRの身体を掠っただけで、現実の身体が意識不明の重体になることだってあるかもしれない。

 

「デッキ整備よし。エクストラデッキ準備OK。ディスク装填。左腕に装着、ヘッドギア装着…っと」

 

そこで、蒼葉特製の『上澄み』処理道具、デュエルディスクのご登場。

『上澄み』の未知を、世界的な人気を誇るカードゲーム、デュエルモンスターズの対戦形式に落とし込む装置。

このシステムの企画書を初めて見聞きした時は非常に懐疑的だったけど、今となっては必需品。

デュエルモンスターズの対戦形式であるデュエルに落とし込む理由としては…以前聞きかじったけど、あまり理解できてない。

システム開発担当のグレンいわく、「デュエルには、幽霊や精霊といった超常現象の類を、規定のフォーマットに変換する仕組みがある」とか。

 

雑に言えば、このデュエルディスクを使って『上澄み』をデュエルに持ち込むことで、多少は沈静化できる。

そのデュエルを行っている最中、裏でデュエルディスクは対戦相手の解析を行う。

我々がデュエル勝利すれば『上澄み』には隙ができる。デュエルディスクの解析結果を元に、アンチプログラムを注入することで『上澄み』を沈黙させられるということらしい。

一方で、我々がデュエルに敗北すれば『上澄み』に隙を晒してしまい、『上澄み』に潜入され、デュエル中のダメージと共に、現実の身体にも悪影響を及ぼす可能性はある。

ただ「上澄みの攻撃がVRの身体を掠り、現実の身体が意識不明の重体になる」ような危険と比べれば。

デュエルというカードゲームの規定フォーマットに落とし込んで対処できるなら。こっちの方がマシ。

 

「では…Into the VRAINS!」

 

LINK VRAINS潜入用カプセルの中で、音声コマンドを発する。

この掛け声と共に、現実とVRの境界は曖昧になり、身体はデータの海へ溶け込んでいく。

現実では感じられない、独特の感触。データの風とでも言うべき何かが、身体を包み込み、一瞬意識が落ちる。

 


 

目を開けると、LINK VRAINSに点在する、蒼葉の拠点にいることに気づく。

同時に、処理班が各々の仕草で待機していた。

 

「みんなー!アキルちゃん来たよー!」

 

「お疲れ様です、アキル」

 

「お待たせ、みんな。では、作戦会議と参りましょうか」

 

LINK VRAINS『上澄み』処理班による作戦会議が開始された。

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