バグ収集者・ガベージコレクターでも手が付けられないバグの上位種を、我々はそう呼んでいる。
今夜もまた『上澄み』が出現したらしい。
蒼葉家の主・蒼葉アキルが率いる、『上澄み』処理班はLINK VRAINSに潜入。
LINK VRAINSにある蒼葉家の拠点にて作戦会議が始まった。
「下調べの調子はどう?ケイト」
筋肉や関節の同期ズレがないかを確認するため、軽くストレッチしつつ問いかける。
現実の身体とLINK VRAINSの身体は違う。
最高の接続環境であれど、『上澄み』に対して遅れを取ることがあれば致命傷になりかねない。
「一通りの下調べは終わったよ、アキルちゃん」
跳ねた赤毛を束ねて、露出度が高くも運動性を重視した軽装に、漆黒のジャケットを羽織ったヘソ出しルックの少女、ケイト・リード。
我が蒼葉家の『上澄み』処理班の、情報収集とデュエルの両方をこなす、私の親友。
「
「詳しく聞かせて頂戴」
どうやら、2年くらい前にリリースされプログラムにバグがあったらしい。大企業が大金を掛けて受託した業務用プログラムとのこと。
大企業が大金を掛けるプログラムというと、ウン千万とか何億とか、それくらいの予算からつくられたのかも。
そして大体、人件費が惜しいから、下請けにやらせるのが一般的。実際は下請けのプログラマーが埋め込んだバグでしょう。
まあそんなのはどうでもいいや。問題なのは今回の『上澄み』がやっていること。LINK VRAINSのリソースを食い散らかして肥大化しているということ。
LINK VRAINSは一般大衆の娯楽から政治運動まで普及して、今では存在しない世界は想像できない程に利用されている。
そのLINK VRAINSのリソース…つまり運営であるSOLテクノロジーのリソースを食い続けているということにある。
今はまだ何も実感できることはないけど、時間が立てば、LINK VRAINSそのものがダウンするほどに巨大化するでしょう。
星の数ほどあるLINK VRAINSありきのプログラムは使い物にならなくなり、世界的にニュースになるでしょうね。
「なるほど…2年もリソースを食い続けた、か。ガベージコレクターでも手が付けられない規模となると、中々厄介な代物に成長しちゃったようね」
「しかしさぁ、逆に考えるとさぁ。
ケイトの口から疑問が出るのも当然だ。
バグ収集屋・ガベージコレクター。バグを回収したり、改悪したりして、高値で売りつけることを生業としているプログラマーたちのことをそう呼んでる。
一般的な企業のプログラマーがバグを調査・潰して、大元との保守契約を果たすところを、横取りする輩のこと。
大企業が大金を掛けて受託したプログラムにバグがあれば、それはガベージコレクターとしては非常に魅力的なカネになる。
やり方として簡単に思いつくのは、企業に脅しをかけて、報酬と改修プログラムを交換するとかかな?
「確かに…大企業のプログラムのバグともなれば、それを狙うガベージコレクターなんて無数にいるはずです。肥大化させて、手が付けられるギリギリを狙ったのでしょうか…?」
そう考察するのは、私の友人・不知火雪奈。
黒色の長い髪を肩の辺りで結び、白いシャツに青いジーンズを身に纏っている。
非常にラフな格好ではあるものの、どこか凛とした表情と雰囲気を佇ませる。
我が蒼葉家の『上澄み』処理班であり、対物相手とデュエルを担う。
ケイトや雪奈が疑問に思うのも納得だ。しかしながら、今はそんなこと考えても仕方ない。
我々の責務は『上澄み』を沈黙させ、抹消することなのだから。
「ケイトや雪奈の疑問も至極当然ね。でも、我々のやるべきことは『上澄み』の処理。ひとまず、今回は雪奈に偵察してもらおうかしら。いざとなればデュエルに持ちかけてもOKよ。頼りにしてる」
「承知しました、アキル。では、行って参ります!」
「今回は雪奈が終わらせちゃうかもねー。じゃあアタシは後方で様子見してくるわー!」
「分かったわ、ケイト」
こうして作戦はぬるりと開始された。