とはいえ、私達の仕事は『上澄み』の処理。まず目の前のバグを処理することが先決。
私は、対物専門の剣士・不知火雪奈を偵察に向かわせた。
『
無線越しに雪奈の報告を聞き取り、
異形の怪物か…確かに。
全長は約2mといったところか。地面を蹴り、這い回り、臭いを嗅ぐ仕草…まるで動物のような動き。
その動きでLINK VRAINSのリソースを貪っているのかしら。
『まだこちらには気付いていないようです。どうします?一見、対話できるとは思えませんが』
雪奈の位置情報と共有された視界…雪奈はビルの屋上にいる。
『上澄み』は、予玖土町を模した街中にある公園にいるが…アレは砂浴びをしているのか?
周囲に
何にせよ、雪奈に切り込ませるチャンスではある。
「そうね。待っていてもLINK VRAINSのリソースを食い散らかすだけかも。切り込んでもらえる?」
『承知!参ります!』
雪奈はビルの屋上から飛び降りたと思った矢先、ビルの壁を足蹴に跳躍。
刀を手にしたまま、『上澄み』へ一直線に、ロケットの如く突撃する。
見た目は非常にラフな服装をしている雪奈だけど、彼女の身体能力は常軌を逸してる。
グレン特製チューニングが施されたアバターとの相乗効果で、LINK VRAINSのキャプテン・アメリカ、あるいはキャプテン・マーベルと言っても過言ではない運動性能と強度。
そんな人間兵器から繰り出される抜刀術は、LINK VRAINSの物体を確実に両断する。
『ハッ!…手応えあり、です。侵食リスクのケアのため、少し距離を空けました』
ロケットのような凄まじい速度と運動エネルギーから放たれた斬撃は、『上澄み』を真っ二つに斬り裂いた。余波で周囲の空間にノイズが走る。
彼女は『上澄み』の後方、20m程の位置で納刀しながら着地する。
真っ二つに斬り裂かれた『上澄み』は、生き物のように藻掻き暴れているが、手足が分離したことで動きが止まったようだ。
「お見事、さすがね雪奈。…グレン!」
雪奈の刀もグレン特別製。
見た目はシックな日本刀であるものの、刀身の超高速振動によって斬れ味が増す機能に加え、刀身からデータを収集する機能が備わっている。
『俺の出番ね、了解〜。ちゃちゃっと解析しますか』
グレン・フォスター。執事クリス・フォスターの弟にして、『上澄み』処理班の開発・解析担当。
『上澄み』の解析を行い、バグフィックスを行う。
数多くの『上澄み』処理装置を作った、頼もしい人員であり変人。
『…アキルお嬢。今回のヤツは…想像以上に厄介かもしれねぇ』
「どういうこと?確かに不可解な点はあるけど…」
『…アキル。どうやら一戦、交えなければならないようです』
雪奈の視界が再び共有される。真っ二つに斬り裂かれた異形は液状化し、ヒトの形へと変貌していく。
『痛ってぇ…その身体能力と剣技、見事なモンだよ。お嬢さん』
異形の怪物から液体へ、液体から成人男性ほどの大きさになった動く泥人形。『上澄み』は流暢に喋り始める。
この仕草、喋り方。リソース食いの元凶は、高度なAIの仕業だったということか。
『お嬢、こいつの解析にはちょいと時間がかかりそうだ。かなり高度なAI。ということで…』
「分かったわ、グレン。雪奈、距離を保ちながら、この上澄みを鎮めてもらえる?」
『承知!』
そう言い放つと、雪奈は左腕にデュエルディスクを出現させる。
装填されたデッキがオートシャッフルされると同時に、雪奈の周囲にドーム状のバリアが形成される。
このドーム状のバリアは、プログラムを解析するためのフィールド。
グレンは、味方のデュエル中にプログラムを解析し、バグフィックス用のパッチを作り上げる。
そして…デュエルに持ち込んだ相手に勝利した際にできる隙を突いて、パッチを注入するつもりだ。
『それは…もしかしてデュエルモンスターズってヤツかい?オレもやってみたかったんだよねぇ、デュエルってやつをさ』
やっぱりこの『上澄み』…謎が深まるばかりだ。
AIが自由意志を持って、デュエルモンスターズとデュエルに興味を持っている?
能動的に興味を持ち、ヒトのように立ち振るまい、ヒトのように喋る。
いくら高度なAIとはいえ、こんなことはあり得るのか?
そして『上澄み』として両断した物体の正体はなんだ?何故、異形の怪物の姿をしていた?
『あなたに恨みはありませんが、ここで大人しくしてもらいます。』
『いいね、お嬢さん!思う存分、オレの知的好奇心を満たしてくれ!』
泥人形の左腕からデュエルディスクが生成され、デッキが装填され、オートシャッフルされる。
目の前の雪奈を模倣するかのように。
『『デュエル!』』
こうして、雪奈vs泥人形AIのデュエルの火蓋は切って落とされた。