【Buriedbones Continue】未来の屍体 作:猫乃湯和
カフェ・メデューサでの強制捜査は早朝から始まっており、パトカーや護送車、(スマホのアプリではない方の)エクスポーザー解析機、救急車、証拠品搬送用のトラックまでが敷地に集まっている。目的は誘拐・未成年略取・クオレやダンへの障害の容疑があるランナー夫婦の身柄の確保だ。
機動隊が召喚獣のテリアを建物の隙間から放ち、或いは結界の解析と解除を行っている間、クリスは敷地内を垣間見た。
人気はない。そして『ある』であろう乗用車は裏口の駐車場にはない。
(クオレを攻撃してすぐに逃げたか。だとしたら何処へ?)
無線でシンシアに呼ばれ、推理を中断した。
メデューサの入り口に戻った。
「安全って言ってたけど、念の為ね」
とシンシアに促されてパトカーの陰に隠れ、銃を構える。機動隊が解錠の魔法でドアを開け、勇ましく突入していく。警官を伴ったクリスも先輩達に続く。
メデューサの内部は閉店後のままであるが、事前調査のために放たれたテリア達はドアが開くなり突入者の足元までやってきた。彼ら召喚獣は危機を察知し、牙をもって時に警官や一般人を守るのだが、今は尻尾を振りながら調査に付き添っている。
シンシア達は店舗へ、クリス達は住宅に踏み込んだ。
「アンダーソンです。1階ランドリー室内に異常なし。他、部屋なし。2階に移動します」
先行した機動隊や上司との連絡は無線で行う。
メデューサのキッチンの奥はダイニングであり、食卓と居間がある。食卓にはスマホが放置されたままだ。
「メイヤーです。1階北側、彫刻の作業場にいます。異常、危険はありません」
「了解。ソーヤーさん達は作業場、キムさん達はランドリー室、アホネンさん達は食卓をお願いします」
「了解」
警官達をそれぞれ進ませて調査を始める。
右手奥は玄関で、そこから見て右手には階段がある。
階段を上がろうとして無線から驚愕の声が上がった。
「どうしました?」
クリスは問う。
「2階、物置でしょうか。死体です」
誰もが息を飲み、クリスは階段を素早く昇る。
「他におかしなことはありますか?」
「危険や異常はありません。男の死体には腐敗防止の術がかけられてます。後、スマホもありますね」
クリスは例の部屋に踏み込んだ。
物置部屋には窓はなく、入り口右手には工具や掃除道具、ミシンなどが置かれている。左手は2段ベッドが置かれ、下段の寝台に置かれた棺桶は開け放たれたままだ。上段は上からのカーテンで隠されていたが、
「これです。誰だと思いますか?」
アンダーソンはカーテンを開いて待っていた。クリスは梯子に足を掛け、
「あ」
亡骸の顔を見てアンダーソンと同じ驚愕の声を上げた。
「どうしたん?」
シンシアが問う。
「ラグ・ランナーです。死んでます」
「はあ?死んでるの?」
「死んでます。腐敗防止魔法が施術済みのようです」
「もしかしたらBuriedbonesの術で使役されてたとか?」
「かもしれませんが、使役って誰が得するんですか?」
「ラグのファンなら喜ぶわ。後、ラグの存在でご飯を食べてる人もね」
「それって、奥さんのレベッカさん?」
「あくまでも可能性よ。彼の死を隠蔽できれば年金もギャラももらえるからね」
胸が冷たくなった。小柄な年老いた男が、彫刻や芸術のカリスマが、誰かの欲のために供養されずに捨て置かれるなんて。
「そうであってほしくないですね」
「そうね。とにかく死体は運び出して。検死が必要よ」
「了解」
「失踪者です!失踪者が見つかった!」
店舗側を調べる同僚が興奮して叫んでいる。
「失踪者?誰?」
「エイデン・スミス!石化の呪いが解除できました!無事です!無事ですっ!」
先月、天体観測中に失踪した9歳児が無事!
「やった!」
アンソニーや同僚達とハイタッチで祝う。
強制捜査は16時になっても継続したが、山手区の失踪者2名も石化の呪いから解放され、区内の失踪者は全員発見された。更に近隣自治体で半年以内に失踪した3名も発見され、明るい話題はセドニア中に素早く広まった。
一方レベッカ・ランナーは更に詐欺罪の容疑もかけられた。押収したパソコンや残留魔法の解析、ラグの検死が終われば余罪は更に出てくるであろう──でなければ逃走の必要はない。