【Buriedbones Continue】未来の屍体   作:猫乃湯和

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ダーインスレイヴ

 ビビアンはフェリシアとマリーをベッドの陰に追いやりながら、忍び足で玄関に移動し、除き穴で来訪者が敵であることを確かめてからしゃがみこんだ。

 もう一度呼び鈴ブザーが鳴ったから、ビビアンは鍵を開けた。勢いよくドアが開かれると同時にフュリーのBuriedbonesが拳銃を構えたまま踏み込んできた──瞬間、足元の死角からビビアンは飛び掛かる。業物を屍体の喉元に突き立てたためにBuriedbones諸共に廊下に倒れ込む。床に伸びたBuriedbonesはただの死体になった。

 間髪なく、ローブ姿の小柄な者が例の屍体の傍らに現れていた。クオレ達と戦った『あいつ』はビビアンに邪悪な眼光を放つ。立ち上がり様にそれを見たビビアンの体は速やかに石像に変わり、閉まるドアを遮った。

 フェリシアとマリーは友人が石化する瞬間を見てしまった。見てしまったが、フェリシアのショットガンはまだ握られている。マリーの右手はベルトから呪具を出せる位置にある。

 『あいつ』は瞬間移動で家に上がり、

「2人、クるまの鍵とお財布」

要求をする。フェリシアがコッキングレバーを弾いても引き下がる様子はない。

 ビビアンのペンダントが光を放ち、石化の呪縛は塵になって砕けた。ルーンが刻まれたペンダントのチャームは解呪の役目を終え、灰になって散る──ここまでは全て想定の範囲内。

 『あいつ』は振り向いたが、瞬間移動で背後に回り込んだビビアンは両腕を極め、更に脇腹からの触手で全身の動きを封じた。

「マイヤーズさん!」

と誰でもない者の名を呼んだ。

 驚愕したのは操縦者『だけ』ではない。

「ヘレン・マイヤーズさん?マシューさんが探してます!」

もう一度呼び掛け、屍体が戸惑っているのを確認した。記憶の残滓がビビアンの声に反応している。

「乗っ取る!」

ビビアンは左手を『あいつ』の額に押し当てる。

 

***

 

 ビビアンの魂は意識の世界にある。目の前は屍体に施されたセキュリティの鉄格子。だがこの世界は震え、鉄格子の錠が開かれる。これらの奥は操縦室だ。

「マイヤーズさん」

もう一度呼び掛け、

『誰?』

姿のない老婆の問いと同時に鍵が鉄格子の鍵穴に嵌まる。

「私はビビアン。貴方の亡骸をご家族にお返しします」

『家族?』

手前の鉄格子は勢いよく開かれた。

「貴方は3ヶ月前、お通夜の時に強盗されたんです」

 

 ビビアンは伊達にネットサーフィンしているわけではなく、岬県で略奪された『邪眼の白魔女』ヘレンの特徴も覚えていた──邪眼と小さな体、そして顔をスカーフで覆う以上ヘレンであると確信し、生前の名前を呼び掛けたのだ。

 合法であれ違法であれBuriedbonesとして利用される屍体は記憶を消すのが当然だが、理由は精神汚染の他に『ハッキング』を防ぐ目的もある。しかし記憶を消去してもその残滓が残る可能性は否定できない。ビビアンはそれも熟知しているからこそ、屍体の記憶の残滓をバックドアの鍵に変えてBuriedbonesを乗っ取り、記憶の復元もやりこなす。

 覚えたことを決して忘れない記憶力、情報の駆使・統合力、Buriedbonesの知識はビビアンを最高の屍体使いにしているのだ。

 

 『マシューに会える?』

ヘレンが問う。

「勿論。貴方に会いたがっているわ」

『嬉しい』

恋する乙女の喜びを感じた瞬間、一瞬だけ意識の世界が震え、輝いた。

 輝きの後、セキュリティの扉は全て開かれた。

 操縦室のドアを蹴破ればその席にはフュリーが座っている。それを乗っ取ろうとするビビアンを視線で呪う。

「フュリー、御遺体から出なさい」

『誰が!』

意識の世界に言葉の壁はないが最低な再会だ。

「精神汚染されるわよ」

『汚染?この屍体に?記憶は元々ないのよ?』

「意味がわかっていないのね」

ビビアンは脇腹から触手を放って意識体のフュリーを座席から退かせた。

 フュリーの目を見た。彼女はビビアンの鬼の形相を見てしまい恐怖したが、更に彼女を操縦室から

 

ぶ ん 殴 っ て 放 り 出 す !

 

***

 

 奴らは蛸のような形の滑り台、その真下の空間にいた。せせこましくしゃがむジョセフは銃を手にしたまま見張り、横たわるフュリーはBuriedbonesを操縦している。滑り台の下は大人2人入るだけでも充分に窮屈であるが雨露と寒さを凌ぎ、隠れるには最適だ。そしてそれを囲む結界が展開され、更に外は警官と機動隊の盾に包囲されている。

 『インチキ臭い方法で得たであろう』反射結界はとにかく厄介だ。中の人間に危害を加えようならその威力はそのまま攻撃者に跳ね返ってくる。銃も打撃も魔法も通じない。しかし中からは銃で攻撃可能であり、しかもフュリーが戻ればヘレンの屍体の瞬間移動で脱出も出来る──だからジョセフは余裕綽々と滑り台の下に出た。

「やあ」

警官に軽くおどけてから。

 彼の相手は更に一枚上手どころか『征伐級』以上の化け物達である事に気付いていない。

 

 遊具広場の木立の向こうにて。協力者クオレの体はミヒャエルや警官隊によって厳重な防御魔法が施されていく。魔法の盾、対衝撃、保護、呪詛防御、果ては障壁まで。どれだけ反射の反撃を受けようともそれ以上に頑丈であれば問題にはならない、それをベテラン達はよく知っている。聡明な読者諸氏は『反射を反射』する鏡面魔法を施していないことに気付いであろう。これについては、

「ジョセフは生身の人間、そんな相手に鏡面使ったら死んじゃうんね。そしたらここが心霊スポットになるんね。俺はむさ苦しい野郎のお化けは見たくないんよ」

とミヒャエル曰く。クオレでなくとも死体自体見たくないだろう。

 さて、ミヒャエルが防御魔法の施術を終え、Buriedbonesの竜人警官よりも更に頑丈になったクオレは難攻不落の要塞さながらだ。

「何なら防御力だけで覇王倒せるレベルなんね」

「どうやって倒すの?」

「頑張って戦えばあっちが勝手に諦めるんね」

「根比べ?!俺がトイレか食事で先に諦めるよ」

互いがビビアンの友人と判明したからこのやり取りができる。

 木立の高い所から夜鷹の鋭い鳴き声が上がった。枝葉に潜むイングスの合図だ。ミヒャエルがハンドサインで準備完了を告げ、クオレも頷いた。そして飛翔し、滑り台の手前で着陸した。強力で勇壮な味方の登場に機動隊や警官隊が感嘆する。

 

 ジョセフの目の前には炎を吹き出さんばかりの、まさかの赤飛竜がいる。伝説と言われた化け物はずん、ずんと迫るごとに犯罪者の正気を削っていく。

 

 滑り台の下で横たわって瞑想するフュリーが奇声を上げ、体が暴れた。発狂して自らの顔と体を引っ掻く。その姿にジョセフはとうとう小さく悲鳴を上げたが、目の前から迫り来る脅威の対策が先だ。

 クオレの鼻先が結界に触れ、反射の威力そのものの火花が弾けた。

(電気風呂みたいだ)

とは思ったがクオレの足を止める要因にはならず、息を大きく吸い込んでから、

「っせぇいっ!!」

引いた頭を勢いよく結界に突っ込んだ。無傷のクオレはそれが外側だけの、張りぼての結界と速やかに理解した。

「フレンズ、結界を壊せ」

クオレの命令と共に森の友達が現れ、結界の円を成す石を前足で弾いて乱す。反射の結界は可視化されながら割れて消え、ジョセフを守る物はもう何もない。

「う、ううぅうわああああぁああぁぁああぁあ??!?!!?」

敗北への情報量の多さに錯乱したジョセフはクオレに銃を向けた。奴が俺を撃つのが先か──障壁がなくとも俺は無傷だけど──、インゴさんの狙撃が先か、バーベキューの香りの俺の炎が先か。さあ、どれだ?!

 瞬間移動で現れた女悪魔の御御足がジョセフの顔面にめり込んでいる。

「セレナさん」

クオレが彼女の名前を間抜けに呟くと同時に昏倒したジョセフと、発狂するフュリーは警官達に素早く取り押さえられていく。

「今晩は、クオレさん」

美味しいところを持っていった女悪魔はふんわり微笑み、懐いてきた狐のフレンズを撫で構う。

 

***

 

 「もう大丈夫。フュリーは追い出したわ」

ビビアンはヘレンの亡骸を床に下ろし、壁に凭れさせた。その顔を覆うスカーフを整え、死人の顔を見せないようにする。

「ふう、やれやれ」

どっと息を吐くが、

「あの、これ」

床に投げ出された触手にマリーが困り、

「あら、ごめんなさい。お行儀が悪かったわね」

触手は体の中に収めた。

「さて、『バリケード』をしなきゃ」

「私がやるわ」

マリーは腰のポーチから塩の結晶──聖なる品──を取り出し、割れている結晶の片割れをヘレンの手に持たせる。それだけで発動されるこの術は『バリケード』となり、第三者による屍体の乗っ取りや彷徨える亡霊の憑依は阻止された。ヘレンの屍体に入ってもいいのは『バリケード』の鍵たる結晶の片割れを持つマリーだけか、ハッキングに慣れた操縦士、歴史に残る大怨霊くらいだ。なお、この術に使う道具は多種多様であることも追記する。

「随分大きな結晶ね」

ビビアンが感心する。

「自宅で作ってるの。お小遣いになるから」

 玄関のドアが勢いよく開いた。喉元から血を流すフュリーの屍体が立っている。瞳孔も口も開ききり、幽霊のようだ。その足元からは黒い煙か炎のようなものが立ち上がる。

「亡霊か。参ったわね」

ビビアンはもう一度業物を敵に向け、

「塩はいくつでもあるわ」

マリーは新たな塩の結晶をポーチから取り出し、

「撃つわよ」

フェリシアも凄み、ショットガンを構えて進み出た。

 屍体の胸を銀の切っ先が貫き、また廊下に倒れた。その屍体からは黒いものが離れていく。

「『バリケード』、急げ」

「亡霊が逃げた!捕まえろ!」

階下から警官達が続々と現れており、屍体を背後から刺したのは機動隊だとビビアンは理解した。

「みんな頑張ったわね。武器を降ろしましょ」

ビビアンは武器ベルトと一緒に業物を床に置いた。

 

***

 

【速報】逃走中のV0012構成員逮捕

 

※セドニアクイックニュースより

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