【Buriedbones Continue】未来の屍体 作:猫乃湯和
山手中央駅前広場にて。ビビアンとイングスはフェンスに並んで凭れている。
「まさか、貴方達が来るとは思わなかった」
ビビアンは肩を竦めもしない。
「こっちも想定外さ。ビビがいると解ってたら端から来ないよ」
イングスも、フェリシアと談笑するミヒャエルも私服になっている。直帰のためだ。
「覇王と妾が一遍に来たと思った」
「どっちが覇王?」
ビビアンがボケ返してイングスは笑う。一見、笑っていないようにも見えるが実際はそうでもない。
すぐそこではクオレとマリーがBB体質や伝説の生物について話し合っている。会議室が必要な程、真剣に。
ミヒャエルの冗談にフェリシアが手を打って爆笑し、
「言い方」
笑い涙を拭っている。
「さて、本題だ。ビビ」
イングスが改まった。
「是非とも警視庁に」
「やめとくわ」
ビビアンはあっさりとスカウトを断った。
「相変わらず瞬だな」
「何かあれば手伝うけど、私はのんびり仏さんを弄って暮らしたいわ。屍体整備っていい仕事だし、できれば後進の育成もしたいしね。それに強力な屍体は貴方達機動隊だって必要でしょう?」
「いつも通りで安心した」
イングスの顔には安堵が見えた。
***
帰宅したフェリシアはベッドに腰かけたまま、まだ話し込んでいる。通話相手は実家の両親だ。
「──叔父さんがお休みをくれたわ。物騒な事件だらけでってことで、休んでおいでって──電車で帰るわ──うん、そうする。後は小旅行にも行こうかなって。あ、そうそう。この事件で機動隊の人達が友達になってくれたわ──」
***
捜査3課の小会議室にて、
「終わったぁ」
シンシアが大きく伸びをし、
「疲れた」
クリスがテーブルに突っ伏す。窓の外はまだ暗く、事務室には人気がない。
失踪事件の報告書の提出は今しがた終わったばかりで、床の片隅には寝床であった段ボールが無造作に積まれている。
「やっと帰れるわぁ。エステにも行けるし、小旅行も行けるわねぇ」
「楽しそうですね。僕なんてゲームか筋トレしかすることないです」
「若いのに勿体無いわね。彼女でも作ればいいと思うけどなぁ」
「先輩の子育ての話を聞いてたら、一人身が楽だと思いました」
「そこ?!」
クリスはくつくつ笑ってから、話題を新たに振る。
「そうそう、カフェ・メデューサがリニューアルするって聞きました?」
「知らない。どう言うこと?」
シンシアは身を乗り出す。
「ラグの甥とファン代表がそのためにクラウドファンディングで資金繰りしてるんです。存続希望の声が沢山あったから」
「そりゃいいわね。タリーは喜ぶだろうし、触れる彫刻なんて子供達の教育にもいいわね。これだけいい話を聞いたら疲れたなんて言えないわ。とっとと片付けて帰るわよ」
「了解」
***
フュリー・フアレスは本来拘置所に居るべきであったが、今は精神病棟のベッドに拘束されている。
ビビアンを経由してのBuriedbonesによる精神汚染は深刻だ。フラッシュバックや自傷の他、偏執狂の暴力も伴っており、却って逮捕前よりも凶悪になってしまった。
適切な投薬によって症状が一時的に沈静化してもフュリーの記憶は混濁していた。名前がコロコロ変わり、過去を語らせても整合性はない。だが、最後には必ず発狂する。
「黒いフードの奴が私を殺す!殺さないように私を殺す!やってみろ!殺したらぁ!今度はてめえが死ぬんだよ!てめえなんざ八つ裂きだぁ!」
看護師達は慣れた手付きでフュリーを魔法で気絶させ、拘束していく。
***
鳶楽隊は活動をしばらくお休みし、充電期間に入ります。
活動再開の折りはまたよろしくお願いします。
※鳶楽隊のささやきより
***
ここがどこかは知らなくてもいいが、少なくとも地下深くであり、エドは工業用エレベーターから降りた。
人類、または異形の死体が浸される巨大なガラスシリンダーは順路左右に整列している。それらは城内に飾られる彫像のようだ。
奥のセキュリティは厳重で、指紋、静脈、虹彩、生命波動と開ける必要はあったが、最後の部屋まで至ることができた。
生命維持装置があり、その中には厳重な警備の原因が横たわっている。モニターでは心拍数が表示され、装置の中の『奴』が健康でることが解る。
(忌まわしい奴め)
エドは『奴』を呪う。
(僕は必ずお前を滅ぼす。それまでいい夢を見るといい。いや、『お前達』もだ)
***
ビビアンは定時で仕事を終わらせ、帰宅した。
「お帰りなさい」
チャールズがいつも通り明るく主を迎え、コーヒーを支度する。その間にネットニュース、ささやきを眺める。
ささやきのタイムラインには、
母の亡骸は無事に見つかり、先程身内で葬儀を終えました。
捜索のご協力、本当にありがとうございました!
とヘレン・マイヤーズの息子の書き込みが真っ先に目に入った。故人の墓を囲む参列者の写真も公開されていたが、行方不明であった亡骸を弔った彼らは晴れやかな顔をしている。
「あら、やっとね」
ビビアンは祝辞を書き込んだ。
「すっかり平和になりましたね」
チャールズが暖かいコーヒーを置いてくれた。
「ええ。平和はいいものだわ。覇王戦争は終わらないと思っていたから」
「しかし、覇王はまだ生きている」
「そう、封印されているだけ。できればこの世代で蹴りをつけたいわ」