【Buriedbones Continue】未来の屍体   作:猫乃湯和

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お人好し達

 ──私は山手区のレストラン、『闇市場』で音楽イベントをしていました。その後にバンドの仲間や友人達と軽く飲んで、夕食もしました。

 それが終わったのが22時前。バンドの仲間のフュリーが「彼氏が来るから送ってあげる」って言ってくれたんです。彼氏のジョセフは22時過ぎに闇市場に来て、その車に乗りました。3人で音楽のことを話しましたが、ジョセフは運転しているせいか大人かったです。

 家の近くまで来て、スーパー『ミント』の看板が遠くに見えて、明日のシリアルを買い忘れたのを思い出しました。だから私はスーパーミントの前で降ろしてとジョセフに頼んだんです。そしたら車はミントの手前の交差点で乙女通りに入り、直進し始めたんです。それが理解できなくて、困っていたら車は路肩に止まりました。そしてジョセフは私にサイレンサーが付いた拳銃を向けてきたんです。

 フュリーに助けを求めても無視されました。もう駄目かと思った時、私はここに、交番にいたのです。何故か解りませんが。

 

 と、マリーは自分の中指を見た。指輪にあしらわれた緑の石は灰色に濁っている。『お前を守るおまじないをかけてあるよ』と亡き祖母がくれた品。

(お婆ちゃんが守ってくれた)

つまり、あしらわれた石は祝福された転移石であり、それが持ち主を安全圏まで送り届けたのだ。

 

***

 

 闇市場でビビアンを乗せた銀色のアスディーグは夜の丸盾スカイラインを進む。心地よいエンジン音と美しい曲線の車体は車好きでない者も魅了するだろう。少なくとも昼の都会なら確実に。

 ハンドルはチャールズが握り、ビビアンは後部座席に掛けている。そのアスディーグは道の駅『かえでだに』のゲート前で停まり、エンジンが止まったばかりのそれをビビアンは自分の『倉庫』に入れた。

「いい夜ですね」

「ええ、風が気持ちいいわ」

二人は満天の夜空を展望台へと歩く。今宵は犯罪注意報のお陰で散歩する者さえいない。

 「おお」

先行するチャールズが感動で絶句した。不夜城と港の光は夜景となり、光は地上を空よりも輝かせる。

「ここは夜のデートにいいですね」

「私もそう思ったわ。でも今はそれどころではないんだけどね」

ビビアンはスマホで展望台からの風景を撮影する。ピントはどうでもいいはずであったのについついと構図にも拘ってしまった。

 帰路の途中、マリー・ヴァレンティンから殺人未遂事件に巻き込まれたとメッセージが飛び込んできた。自宅の扉を開けながらビビアンは速やかに電話を繋げ、

「貴女、大丈夫なの?」

精神衛生を案じる。マリーは憔悴してこそいたが、話すごとに気持ちが落ち着いてきた。だからこそ暗い明日も考えねばならない。

「皆に何て言えばいいかしら」

フュリーと仲がいいフェリシア、音楽仲間の男達の心情を思うと、

「私だって伝え方はわからない」

としか答えられない。

「でも警察に通報したわね?」

『ええ。そしたらジョセフは前科2犯、元殺人犯でギャングV0012の構成員って判ったの』

「とんでもないのに関わったわね。警察に近隣のパトロールはしてもらえそう?」

『できるって。でもミントの近くに住んでるって言っちゃったからバレるかも』

「住所の特定を避けるためにもささやきは控えるか──ううん、ウチに匿ってあげる。朝一にでも迎えに行くから荷物を準備して。チコには話しておくわ」

マリーは泣き出してしまった。

「1人は心細いわよね。解るわ」

 

 ビビアンは通話を終え、ソファーに体重を預けた。

「マリーさんを匿うのですね」

通話を聞いていたチャールズはコーヒーを出してくれた。

「ええ。部屋の仕度をお願いしたいわ」

「お任せください。何ならお花も仕度しますよ」

「張り切っちゃて」

呆れるが満更でもない。明朗で世話好きなチャールズなら傷心のマリーのために部屋を花で飾り、香り立つ茶を淹れ、贅沢な食事で彼女を慰めるだろう。孤独であったビビアンを支えてきたように、共に暖かな焚き火を囲んでくれたように。

「忙しくなりますな」

チャールズは朗々と袖を捲り、

「そうね」

ビビアンは警察のタブレットを『倉庫』から取り出した。

 

 午前3時半、ビビアンはまだ裏庭のテーブルにいた。2人の失踪者情報と彫刻の画像、AIによる抽出結果は類似性を持っていると判明した。それを文章に、または比較画像資料を貸し出しタブレットのレポート作成アプリにまとめていく。これらの情報が真実ならカフェ・メデューサの関係者も真っ黒けの犯罪者となり、フェリシアは今度こそ叩きのめされるであろう──彼女は挫けるのではないか──レポート作成の手を止めたビビアンはそう考えながらタンブラーのコーヒーをやる。

 蝙蝠の羽音が聞こえてきたが、聞き慣れたそれはテーブルに着陸し、

「はあい。お邪魔虫」

と間延びした男の声で挨拶した。黒い体に赤い翼膜の蝙蝠、──しかし顔には愛嬌がある──吸血鬼の化身。古い友人のエド・ウッドヘイム。

「邪魔をするなら帰って」

「じゃあそうする」

とお邪魔虫はのそのそと反転したが、

「違う違う」

と翼を振りながらまた反転する。

「掴みはOKね。久しぶり」

「うん。お互いボケていないと判って安心した」

「お茶は?」

楽な姿勢で問う。

「いらない。ただの散歩だから」

「犯罪注意報が出てるのに?」

「都心は物騒になっちゃったから散歩しにくくてね」

エドは翼を竦める。

「確かに。でもM0109は大勢捕まったわ」

「そうだね。今回は流石にアーネストも反省してるからしばらくは自重するだろう。今はV0012の方がヤバい」

「よく聞く名前ね」

「ンリマ・ニヨタ系のギャングで最近港湾地区で勢力を伸ばしている。ヨットハーバーやビーチは奴らの溜まり場だ。でもこれと言った事件がない以上警察に垂れ込んでもしょうがない。だからインゴに垂れ込んだ」

「懸命ね。でも、その構成員が殺人未遂をやらかしたわ」

「何だって!?どこからそんな情報を?」

エドが珍しく驚愕する。

「友達がついさっき事件に巻き込まれて、運良く逃げ仰せたわ」

「そりゃ幸運だが、君は本当に事件をよく引くね」

「私もそう思う。お陰で退屈しないわ」

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