【Buriedbones Continue】未来の屍体 作:猫乃湯和
22時半、ジャージ姿のクオレはマンションの屋上に現れた。名曲『宇宙戦争』を鼻歌で歌いながら、最新バージョンのエクスポーザーをスマホから立ち上げる。公開前の実機テストだ。
設定画面の『カメラ起動』『時間:リアルタイム』『有効半径:1km』『オブジェクト:建造物』『抽出カテゴリ:警備』を順に選択し、カメラを丸盾山地に向ける。
有効半径内の住宅の全てにマーカーが表示される。これをタップすると『警備:通知式:ドルイド1式』と、自宅警備用魔法の簡易情報が画面右に一覧表示される。一覧から詳細な情報や呪文コード表示も可能だ。なお、自宅警備の魔法は一戸建てであれば大抵施されるものであり、不審者の侵入通知から警告用の罠による撃退も可能になっている。
クオレはエクスポーザーの有効半径を2kmまで拡大し、抽出カテゴリを『耐火』『耐震』『耐経年変化』と変えていく。動作は旧バージョンよりもスムーズだ──俺は本当に天才かもね。
さて、自宅にかけられる魔法は警備や耐火、耐震などとは限らない。中には違法な魔法増幅結界や対透視結界で犯罪を隠蔽する者がおり、『その他』カテゴリを選択すれば表示される、かもしれない。
「!?」
クオレはまさに違法な結界をエクスポーザー越しに見つけている。場所は芝見屋敷。エクスポーザーの画面には、
『対透視結界の可能性:ウィッチクラフト式』
『透視察知:ウジャト式』
『警報:ウジャト式』
『カテゴリ不明:黒魔法の可能性』
『カテゴリ不明:黒魔法の可能性』
と穏やかではない文字列が並び、謎の結界は五重になっている。
「おいおい、マジか」
クオレは自分が手掛けた製品に自信がある。しかし今回ばかりはエラーであってほしい──と願う間はなかった。
クオレの足元で2匹の狐達が激しく吠えている。
「フレンズ?」
そう呼んでいる護法の召喚獣が危機を察し、俗に言う『森の友達』が自動召喚された。だからクオレはスマホを『倉庫』に投げ入れた。
(瘴気発電機構の奴らがいるのか?違う、フレンズは芝見屋敷に吠えている)
頭の中で呪文を諳じた。足元から体の表面に光の文字が素早く描かれ、守護を残して消える。邪悪な力を緩和する魔法が先に仕上がるか、邪悪な奴が来るのが先か──どっちだ?!
目の前の中空、先ほどまでいなかった人影が浮かんでいる。スカーフとローブで身を隠した小柄な者は種族も性別もわからない。
スカーフの中でそいつの目が邪悪に光る。呪詛の眼光は守護の魔法に阻まれ、クオレには何の作用も及ぼさなかった。謎の術者はその防御に戸惑う。
「何の用だ?!」
いち早く現状を理解したクオレは飛び退き、軽く半身を取る。その間に皮膚は硬質化し、髪の毛が鬣のように逆立った。赤い鱗皮と翼を持ち、呼吸の毎に火を溢す竜人がそこにいる。腰には剣と拳銃のベルトが巻き付いており、何れもすぐに抜き放てる。
「お待ちください」
両者の間の空間に女悪魔が割り入り、クオレを背後にして堂々と立ちはだかる。
「お相手します」
冷たい啖呵と一瞥、そもそも想定外の援軍にたじろいだそいつはまた瞬間移動で消えた。
「クオレ様、ご無事ですか?」
肌が露な女悪魔が問うてきたが、クオレは竜人の顔できょとんとしている──事の経緯の整理に時間を少し要したが、結局、
「ありがとうございます。どちら様の護法ですか?」
握手でも感謝を示し、女悪魔ははにかんで握手を返した。淡い金色狐のクリームがその足元にすり寄っている。
「我が主のことは何も明かせませんが、『自然魔力発電所が完成するまでクオレ様をお守りせよ』『安全な技術の普及を楽しみにしている』と仰せでした」
自分には味方がいる、それに安堵する。世界の電源の半分を担う瘴気発電から自然魔力発電に移行するにしても利権があり、クオレなどの自魔発研究者らはそのために生命の危機にあるからだ。
「わかりました。クオレが感謝していたとお伝えください」
「はい」
足元で白狐のシロがキュンキュンと話し掛けてきた。『警察に言わなくていいのか?』と問うている。つまり、
「ええと、悪魔のお姉さん。手数ばかりで申し訳ないけど、警察に事情を話さなきゃいけなくて。少しお付き合いをお願いできますか?」
クオレは困りながら問わねばならない。
「わかりました。お手伝いします」
「何だか、すみません」
「お気になさらずに。ことが終われば我が主からボーナスをたんまりともらいますよ──ほら、いらっしゃい」
微笑んだ女悪魔はクリームを抱き上げた。