割と難産でした。
ヒロインとのクソみたいな出会い。
ゾマホ密林の外れにて、準備して来た迷彩柄の布やその場で調達した植物で車を隠したジョネスとエルマは、ゼンジと事前に練った計画通りに、観光客用の正規のルートから遠く離れた地点から密林に侵入した。
2人とも専用の道具が入った大きなリュックサックを背負っている。
なおエルマは密林を探索するには無謀なくらいの薄着だったので、入る前に無理やり長袖の作業着に着替えさせた。
彼女はジョネスに着替えさせられる時、何故か嬉しそうにしながら、「キャ〜!! 剥かれる〜!! 犯される〜!!」とか騒いでいたが、ジョネスはしかめっ面でその発言をガン無視して、虫避けスプレーと日焼け止めをたっぷり塗り付けた。
その時にも「もっと触ってえ……」とか抜かしていたが、ジョネスは思いっきり背中をしばいて対応した。それでも何か喜んでた。
そんな一悶着があったが、なんだかんだ2人は順調に密林の中を突き進んで行った。目的はアピロラルワナクという魚なので、目指すのはもちろん川だ。
ジョネスは草木を素手で切り払いながら道を切り開く。その一方で、隙あらばくっ付いて来ようとするエルマを定期的に振り払うという、余計なサブクエストが発生していたが、それ以外は順調だった。
やがて2人は目的の川に辿り着く。
"ミンボ川"は大陸中部の盆地を蛇行しながら流れ大海に至る、大陸2番目の長さを誇る河川である。そもそもミンボ共和国の名はこの川に因んでいる。相応に大きな河川だ。
「よし、エルマ。とりあえず川の一部を網で囲うぞ。囲んだ範囲をこの魚群探知機で調査して、デカい魚影が映ったらオレが素潜りで捕獲して来る」
「アピロラルワナクは希少種なんだよね? そんなに簡単に一発で網の中に入ってくれるのかな?」
エルマが人差し指の先を顎に当てながら、小首を傾げてジョネスに問う。その発言にジョネスは呆れたように答えた。
「普通の理解力があれば確認は不要だと思うが? 色んな場所で何回も同じ事を繰り返すんだよ」
その不必要なまでの煽りに、ジョネスの事が大好きなエルマでも流石に少しイラッとして、頰を膨らませて彼を睨み付けるという無言の抗議を行なった。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
2人で協力してもう既に何度が網を張る位置を変えているが、ジョネスの予想通り希少種であるアピロラルワナクはなかなかヒットしなかった。
途中で魚群探知機が大してアテにならない事を悟ったジョネスは、潜りながら"円"で魚を捜索するという方法に切り替えて、より効率的な捜索を行なっている。
エルマは素潜りで大きな魚を捕りに行くジョネスの事を、初めはワクワクして立ったまま待っていたが、カスみたいなキモい魚が連続してヒットするので、既に飽きてしまい、近くの倒木に座って足をぶらぶらさせながら、新発売されたブラックプラネットの2ndに収録されている"キラーウルフ"を口ずさんで暇を潰していた。
「ウォー♪ ウォー♫ 地獄からの使者ー♪ ウェアウルフー♫」
彼女は一人でも楽しく過ごせるタイプのようだ。ジョネスが一生懸命潜って魚を探している間に、カート=ローズの荒々しいシャウトとは程遠い、美しく澄んだ声でご機嫌にサビを熱唱している。
その時、背後から"絶"で忍び寄った小柄な影が、彼女の首筋に
突然の凶行に動揺して、完全に固まってしまったエルマに対して、背後からおそらく女性であろう高い声が掛けられた。
「動かないで。密漁者ね?」
「……誰?」
「アマチュアハンターの"メンチ"よ」
「私はエルマ。よろしくね。ところで密漁ってなんの事?」
「とぼけんじゃないわよ。堂々と網張っといて、それは無理があるでしょ?」
"メンチ"と名乗った、どこかのおっさんが見たら「オレがおかしいのか?」と自分の常識を疑うくらいには、こんな密林でも妙に露出の多い妙な髪型の美少女は、仕掛けられた大きな網を指差してエルマを詰問した。
「えへへ……。つい……」
エルマがどう考えてもそれじゃ済まされないだろという言い訳を始めた。その答えにイラっとしたメンチの手に力が入る。エルマの首に包丁が少しだけ食い込んで、タラッと一筋の血が流れた。
「斬ったね? ゴングを鳴らしたのはそっちだよ」
その瞬間、エルマのオーラが膨れ上がり、そのまま
そして瞬時に背後にいる相手の顎に向かって繰り出された"凝"で強化されたエルマの頭突きに対して、メンチが咄嗟に距離を取る。
しかしメンチが一旦離れて体勢を整える前に、彼女に向かって奇妙なほど丸いオーラの塊が投げ付けられた。
なかなかのオーラが籠っていたのか、メンチの"堅"では防ぎ切れずゴンっと鈍い音を立てて、彼女の頭から血が吹き出した。オーラの塊はなぜか物理法則に従って跳ね返ると、そのままエルマの手に収まった。
「いっつ……!! 随分なじゃじゃ馬ね……!!」
「それ多分、メンチもよく言われるでしょ〜」
オーラで出来たボールを手でもて遊びながら、エルマが満面の笑みを浮かべた。既に彼女に流れる武闘派マフィアの血が騒ぎ出していた。
メンチは頭部に傷を負ったが、まだ戦闘が継続出来ない程のダメージではなかった。メンチが接近して二本の包丁でエルマを切り付ける。
素手で刃と接触しているにもかかわらず、またもやキンキンと甲高い音が鳴った。しかし自動でガードしている訳では無いのか、反応し切れなかった斬撃によってエルマの体に浅い傷が何本か刻み付けられた。
激しい攻防の中でエルマが不意に繰り出した肘打ちがメンチの腹部に迫る。リーチの短さを見抜いていたメンチは一旦体を引いて回避するも、まるでカキンの険しい山のようにニュッと盛り上がったオーラが
強力な打撃でメンチが数メートル吹き飛ぶ。
「がはあっ!! はぁ……オエッ……!!」
「やった!! えへへっ、痛そうだね〜」
激しい衝撃によって嘔吐したメンチがエルマを涙目で睨み付けると、エルマは
「こっちも痛いや。血が止まんないよ。交錯したときにカウンターで斬られちゃったのか」
エルマはそう言うと腕から出た自分の血を舐めて、「あの人ならこれで強化かあ」と恍惚とした表情で、メンチにとってはよく分からない事を呟いた。
エルマが気を取り直してメンチに向き合う。
「何か本当に力が湧いて来た気がする。きっとあの人が力を貸してくれてるんだ……!! メンチ、もっとやろ? もっと私を斬って?」
「……!! 何なのよあんたは……!?」
「メンチは"発"を使わないの? 使ってよ。それでもっと斬ってよ」
何やらブツブツと呟きながらエルマがメンチに迫る。メンチの"発"は戦闘に使えるような能力ではない。戦闘はこの磨き上げた包丁捌きが頼りだ。
メンチが覚悟を決めて2本の包丁を構えると、不意にピタッとエルマが足を止めた。何かに気付いて、同性でもドキッとさせられるくらいの花が咲いたような満開の笑顔を、メンチの後ろにある水面に向けた。
「あはっ、時間切れだね。楽しかったよ!! メンチ、ありがとねっ!!」
そのとき、メンチもそれに気付いた。
川の中から背筋が凍るほど残酷な色をした巨大なオーラが、高速で近付いて来ている。
やがて、水飛沫を捲き上げて大きな音と共に、大柄な影が2人のいる陸地に向かって飛び出した。
メンチが身の危険を感じて、反射的にそのオーラに向かって振り返ったと同時に、血管が縦横無尽に走った力強く太い手が彼女の首に掛かる。
「かっ、はっ……」
水から飛び出した男に、片手で首を締められながら持ち上げられる。
意識が遠のいて行くメンチが、その手を振り解こうと包丁を男の腕や腹や首にがむしゃらに突き立てたが、"凝"でも"硬"でも男には傷一つ付かなかった。
遠のいて行く意識の中で、その男と目が合う。
メンチはその激しい怒りを宿した肉食獣の如き目に、一気に体がすくみ上がって行くのを感じて、そのまますぐに意識を手放した。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「わあ〜!! ジョネス、殺しちゃダメだよ!!」
「?」
「私の友達だもん」
「友達に包丁で斬られたのか?」
「……? そうだよ〜」
「……。まあ、元から殺すつもりねえよ。密漁してんのはこっちだし、逆ギレはダサいからな」
「この子、ゾマホ密林のレンジャー隊員かな?」
「こんなアホな髪型と格好した奴が正規の隊員な訳ねえだろ」
「かわいいじゃん」
「……オレがおかしいのか?」
「ジョネスはおかしくて格好いいよ!! 結婚しよ!!」
「とりあえず縛って寝かしておくか」
「無視すんな!!」
「ほら、服脱げ。手当てするから」
「!! 脱ぎます!!」
「即答すんな。少しは恥じろ」
ここからどうやったら一緒にハンター試験に行く事になるんだよ……。
やっぱり悪い事はするもんじゃないですね。
エルマ:変化系能力者(具現化系寄り)
【
変化系能力。オーラの硬さを変化させる。硬くして攻撃を受け止めたり、柔らかくして衝撃を吸収したり、柔らかくして形を変えてから硬くして攻撃したり、柔らかくして丸めたオーラを硬くして投げ付けたり。
好きな時に硬くできる粘土のような物である。
応用の幅が広過ぎる故に、エルマはまだ使いこなせているとは言えない。