流星街の解体屋ジョネス   作:流浪 猿人

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どうぞよろしく。

今回はイルミの苦戦と、ちょっと訓練、そしてヒソカの2戦目です。


38.セイシン×ハ×フクザツ

 

 

 

 天空闘技場のミルキの部屋に居候しているイルミは、床に無造作に置いてあった謎の箱をぺたぺたと触って訝しげに呟いた。

 

「ミル、何これ? これ爆弾でしょ。こんなの放置して油断し過ぎじゃない?」

 

 兄の言葉にジョネスズブートキャンプの影響でちょっと痩せたミルキが、「マジかこいつ」とドン引きしながら呆れたように言い返した。

 

「イル兄、ジョイステ知らないの?」

 

「何それ?」

 

 いつでも離脱出来る態勢を取りながら恐る恐るジョイステを持ち上げて、裏面の吸排気口を眺めていたイルミが疑問の声を上げた。

 

「ゲーム機だよ。ビデオゲームを動作させる為の機械で遊び道具だ」

 

「……遊び道具? 何でこれが遊びになるの?」

 

 電源に繋がっていないジョイステのスイッチをカチカチと押しながら、眉をひそめて「動かない……」と不満げに呟いたイルミは、ミルキに助けを求めるように顔を向けた。

 

 ミルキはまるで機械に弱いおじいちゃんのようなイルミを見て、幼い頃から恐怖の対象でしかなかった純粋な暗殺者に少しの可愛げを感じると、ジョイステを慣れた手つきであっという間にセッティングして、"モリオカート"というソフトを起動した。

 

 余談だが"モリオカート"を作っている会社は、"バーチャメガネ"事業に失敗して巨額の損失を出し、既にゲームハード事業から撤退している。

 

「イル兄、一緒にやろうよ。暇なんでしょ?」

 

「……」

 

 暇だという事実に何も反論出来なかったイルミは、大人しくミルキの隣に座ると、コントローラーをたどたどしく持って、ミルキから操作方法を習った。

 

「うん、理解したよ。ミル、レースしよう」

 

「えっ、もうやるの? まずは1人で練習した方が良くない?」

 

「……? オレがお前に負ける訳ないだろ?」

 

 暗殺の技術でも、暗殺の知識でも、身体能力でも、拷問や毒の耐性でも、イルミは子供の頃から弟に負けたことがなかった。

 

 弟達にお手本を見せる為に研鑽を重ねて来たのだ。何であっても自分が弟に負ける事など想像出来なかった。

 

「……」

 

 そんな傲慢な兄の態度を見て、イラっと来たミルキは何も言わずにステージをランダムで選んでレースを始めた。虹色に輝く道が画面に表示される。イルミは「綺麗だね」と本当にそう思っているのか分からない事を余裕そうに呟いた。

 

 結果は当然というかやり込んでいるミルキの圧勝だった。ミルキがゴールした時、イルミは逆走して落下した後、ふわふわと雲に乗る亀に釣竿で引き上げられている所だった。

 

「……イル兄? おい兄貴?」

 

 画面を見つめたまま固まって何も言わなくなってしまったイルミを見て、ミルキはこのままリアルでボコボコにされるんじゃないかと、震え上がりながらも恐る恐る呼び掛けた。

 

 ややあってから、イルミは一言だけ呟いた。

 

 

 

 

 

「悔しいなあ……」

 

 

 

 

 

 全て自分の方が上だと思っていた弟に惨敗してショックを受けたのか、イルミはそのまま何も言わなくなってしまった。ミルキは心配するような声色で言った。

 

「……兄貴、当たり前だよ。兄貴はこのゲームやるの、っていうかゲームやるの初めてなんだし」

 

「当たり前じゃいけないんだ。オレはお兄ちゃんなんだから、何でも勝たないといけない。何でもミル達のお手本にならないと、家もお前達も守れなくなってしまう」

 

「……そんな事ないって……、イル兄が全部やる必要は……。パパもママもいる。じいちゃん達だって助けてくれる。……今でも十分感謝してるんだ。本当はオレだって仕事に貢献しなくちゃいけないのに、オレが頼りないから兄貴が代わりにやってくれてるじゃないか……。

 

 ……でも見ただろ? ゲームはオレのが得意だし、機械に強いのもオレだ。……少しはオレにもイル兄を助けさせてよ……」

 

「……」

 

 イルミが顎に手を当てて何かを考えるような仕草を見せると、そのタイミングでやかましい影が部屋に入って来た。

 

「邪魔するで〜!!」

 

「……邪魔しないでよ。馬鹿サクラ」

 

 思考を妨害されたイルミが咎めるような目を向けるも、サクラはイルミの言葉に感動したように身を震わせて、満面の笑みを浮かべて言った。

 

「ええやん!! ツッコミ出来てる!! 成長したなあ!!」

 

「……サクラ、頼んでた奴は?」

 

「ほいっ、コーヒーもゲロ甘なのが好きなんやなあ。サクラちゃんはブラックやで、大人やろ? ミルキはこれね、コクコーク。ダイエット中やろ? ジョネスのおっさんにバレんようにゴミはすぐ捨てて来いよ?」

 

 そう言って飲み物を投げ渡したサクラはゲーム画面を見て、やかましく大声を上げた。

 

「あぁ〜!! モリオカートやん!! イルミ出来るん!?」

 

「……いや、オレには出来ないみたいだ」

 

「そんな事言うなや、一緒にやろ? 両手あるんやし出来るやろが」

 

 サクラはミルキからコントローラーを拝借して、ご機嫌に鼻歌を歌いながらステージを選択した。

 

「見て見て"スモーキーマウンテン"!! ウチなあ、こういうとこで生まれたの!! 今はだいぶ変わってるけど、懐かしいなあ」

 

「へえ、こんな場所本当にあるんだ」

 

「ジョネスの故郷でもあるで。いつか一緒に行こ? 約束やで」

 

 

 

 

 

 その後、レースは混沌の泥試合と化した。サクラはイルミに負けないくらいド下手だったのだ。もはや大喜利と化した2人の珍プレイの連続にミルキは大笑いしていた。

 

 最終的な勝者はイルミ。最後にキラーミサイルを引いたのが大きかった。

 

 ミルキは笑い過ぎてベッドの上で仰向けになって休んでいる。

 

 ぎりぎりと歯軋りしながら、悔しそうにイルミの方を見たサクラは、目を丸くして驚いた。隣にいる男が初めて見るくらい嬉しそうな表情をしていたのだ。

 

 しかし、すぐにいつもの無表情に戻ったので、今していた表情には本人も気付いていないようだった。

 

 サクラは何だか機嫌が良かったので、笑いながら「悔しい〜」と言って、隣の男をポカポカと叩き出した。

 

 イルミも機嫌が良かったのか、サクラに何も文句を言わず、為されるがまま好きにさせていた。

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 カストロ達が"イン・ユーテロ"でジョネスに無理矢理精孔を開かれている頃。メンチとエルマはブルース市の郊外で戦闘の指導を受けていた。

 

 相手は2人と同じ変化系のフェイタンである。彼はわがままで傍若無人だがジョネスの頼みだけは何故か断らないので、手荒だが大人しく戦いの手ほどきを行っていた。

 

 なお、なぜジョネスが直接指導しないのか彼に聞いてみたら。

 

「お前らにとりあえず"堅"で近付いてぶん殴れって指導しても、あんまり良くねえからなあ。フェイタンのが絶対参考になるぜ? まあ、出来ればメンチはフェイタンで、エルマはヒソカってのが理想だったんだが……。あいつが引き受ける義理はねえし、何よりもう次の戦いに夢中だ」

 

 との事である。

 

「変化系は戦闘技術と"流"が大事。(ワタシみたいなタイプを除いて)"発"は決定打にはならない事が多いし、強化系みたいに雑にやても無理ね」

 

「「は、速すぎる……」」

 

 2人掛かりでも一撃も当てられずズタズタにされたメンチとエルマは、傷だらけで地面に突っ伏していた。

 

「強化率を補う為に武器を使うのは良い事よ。エルマも何か使うか?」

 

 フェイタンに問われたエルマは「う〜ん」としばらく悩んだ後、笑顔で結論を出した。

 

「私はいいや!! ジョネスが武器使ってないし、"発"が武器になるからね!!」

 

「……ジョネスは厳密に言うと武器使てるよ。まあ良いか。お前の"発"、決定打にはならないから、やぱり基礎技術を高めるべきね。能力の使い方と織り交ぜ方も次の試合を参考にすると良いよ」

 

 エルマは「は〜い!!」と元気よく返事して、座りながらフェイタンの動きをイメージして"流"の練習を始めた。

 

 フェイタンは次にメンチに目を向ける。

 

「メンチ、料理の腕は認めてるけど戦いは料理じゃないね。強くなりたいなら、ちゃんと二刀流の技術を修めるべきよ」

 

 フェイタンはそう言うと懐から隠していた短刀を取り出して、長い仕込み杖と一緒に構えた。メンチは真剣な表情でそれを見る。

 

「二刀流なら基本は長短二本持ちよ。何個か動き見せるから、参考にするね。その後はゆくり組み手するよ。体で覚えな。あと武器使うなら"周"を"凝"と全く同じスピードにするね。お前まだ少し遅いよ」

 

 素手でゴリ押す強化系連中と違って(ノブナガは例外)、武器を使うフェイタンはかなり論理的に戦っているので、2人にとって非常に参考になった。

 

 ただ彼の趣味もあって、訓練が終わるまでに毎回ズタボロにされるのはご愛嬌である。

 

 彼の名誉の為に一応言っておくと、彼は相手がおっさんでも少女でも平等にズタボロにする変態である。

 

 そして訓練の中で何度も繰り返すように言われた事が、2人の頭の中に強く印象に残った。ヒソカの治療とリハビリは既に終わっている。対戦相手も2人の訓練には参加せず集中している。

 

 

 

 

 

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 ジョネスゲーム:第2試合。

 

[ヒソカ=モロウvsマチ=コマチネ]

 

 ステージ:第3特殊リング[森林]

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 "イン・ユーテロ"の大きなメインモニターに映ったのは、天空闘技場の中とは思えない光景だった。

 

 背の高い樹木が乱立した見通しの悪い森林である。平面のリングしか無かった天空闘技場にとって、ジョネス肝入りのまさに新展開の新趣向である。

 

 立体的なフィールドは、強化系と放出系の二強という感じだった従来の天空闘技場に、新しい風を吹き込んでくれるだろう。

 

 試合が始まる前にメンチに作ってもらった料理を食べながら、クロロが一升瓶をラッパ飲みしているジョネスを見て言った。

 

「ジョネスはどっちに賭けたの?」

 

 クロロと一緒に見ていたシャルナーク、フランクリン、サラサの注目がジョネスに集まる。ジョネスは瓶から口を離して「フウ」と一息吐くと、モニターを見ながら言った。

 

「オレはマチだな。地力はヒソカの方が上だが、あのフィールドならワンチャンあると思ってる。まあヒソカにとっても戦い易い場所だと思うが……」

 

「それだとヒソカが勝つように聞こえるが?」

 

 得意なフィールドなのは2人共同じ。それなら地力で勝るヒソカに軍配が上がるのでは無いか? フランクリンが当然の疑問を呈すると、ジョネスはバツが悪そうに頬を掻いて言った。

 

「マチに賭けなきゃ後が怖い」

 

「娘同然の子を賭けの対象にしている時点で、手遅れだと思うよ?」

 

 シャルナークの常識的な意見に「賭けなきゃつまらねえだろ」と、堂々とクズのような事を言い放ったジョネスを全員がジト目で見つめる。ジョネスは一斉に突き刺さったその視線をやめろやめろといった風に手の仕草で振り払うと、新しい酒瓶を開けて一口飲んでから言った。

 

 

 

 

 

「まあ、実際マチは怖えよ。色んな能力者と呪物を見て来たが、"アレ"より切れるものはついぞ見つからなかった」

 

 

 

 

 

 いつかの手合わせで、油断していたジョネスの腕が容易く千切れ飛んだ光景を思い出して、サラサがぶるっと体を震わせた。クロロは懐に入れたヒソカに賭けたチケットを握り締めて、ゴクッと唾を飲み込んでモニターに視線を戻した。

 

 せり出した上階のその席からレストランを見下ろすと、最前列で3人仲良く座っているフェイタンとメンチとエルマの姿が見えた。ジョネスは内心でフェイタンに「分かってるじゃねえか」と称賛を送った。

 

 テーブル席でデート(?)しているイルミとサクラの姿も見える。酔っ払ってそれに絡もうとしているフィンクスと第2人格になったカサイを見て、ジョネスは内心で激しく罵倒した。

 

 体を張って彼らを押し留めようとするミルキの評価は急上昇した。

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 ヒソカは試合が始まると相手を探しながら、そこら中の木々にガムとゴムの性質を併せ持つオーラを貼り付けて戦闘の準備を整えた。

 

 

 

伸縮自在の愛(バンジーガム)

 

 

 

 これでヒソカの奇術の準備は整った。高速移動も緊急回避も遠隔でのトランプ攻撃も自由自在だ。

 

 ヒソカは高速で接近するオーラを感知した。大きな岩を二つ担いだ少女は「オラァっ!!」と勇ましい声を上げて、ヒソカに向かってオーラを込めた巨大な岩を投げ付けた。

 

 早速のゴリラ感を見せ付けた少女、マチはヒソカが岩を躱している間に、もう一つの保持していた岩を砕いて散弾のように投げ付ける。岩に縫い付けていた糸状のオーラが投網のようにヒソカの周りを覆った。

 

 そのまま思いっきり糸を引いてヒソカの体に巻き付いた糸を手繰り寄せて、全力で殴り付ける事を試みる。

 

 しかし、ヒソカは木の枝に伸ばしていたオーラを瞬時に縮めると、体に引っ掛かっていた糸を振り払って木の上まで退避した。

 

「随分な挨拶だね♡ でもここはもう僕のフィールドだよ♤」

 

「……そう、陣取り合戦だね」

 

 マチはそう言ってヒソカを見上げると、飛び上がって手の内に仕込んだ剃刀と鉤爪の中間のような暗器を巧みに使い、木に張り付くと、高速で木から木に飛び移って間に糸を張った。

 

「私の陣地」

 

「最高♡ でも足元、大丈夫?」

 

「!?」

 

 マチはそう言われて勘で危機を察知し、瞬時に別の木に飛び移ろうとしたが、踏み付けてしまった"隠"で存在が希薄になったガムに足を取られて体勢を崩す。

 

 そこにヒソカが高速で迫って来て、まずは様子見と言った風にマチの顔面を殴り付けた。マチも対抗しようとしたがヒソカの拳が先に突き刺さって、彼女の放った手刀は空を切った。

 

 マチが木々の隙間を縫って吹き飛んで行く。

 

 ヒソカはニヤリと笑った。

 

 ゴリラ(ジョネス)と親しい一番弟子の一人と聞いて、必要以上に警戒していたが、やはり自分のシックスセンスは間違っていなかった。彼女はせいぜい90点。トラウマになった先日のジョネスとの試合のようにはならない。

 

 

 

 

 

 その満足げなヒソカの左頬が()()()()()()()()

 

 

 

 

 

 ヒソカが違和感を感じて瞬時に顔の左側面を手で押さえる。するとすぐに押さえた場所から激しい痛みを感じた。

 

 押さえた手を離して掌を見ると、すっぱりと削ぎ落とされた顔面の内側が視界に入った。警戒を引き上げてマチが吹き飛んで行った方を睨み付ける。

 

 マチが顔から血を流しながらペッと口から血を吐き出して、ゆっくりと歩いて来ていた。

 

「私の手刀、外れたと思ったの? クロスカウンターだよ」

 

 マチは攻撃を放った手を傷付いた美しい顔の横に掲げると、親指と人差し指の間に張られた極細のオーラで出来た糸をキラリと光らせた。

 

 

 

念糸(ネンシ)

 

 

 

 マチは先の攻防で木々の間に張り巡らせた糸の上に飛び乗ると、傍目には宙に浮かんだように見える状態でヒソカに向けて妖艶な笑みを浮かべた。

 

「派手に切れたね」

 

(糸……♤ そうか、極限に細い糸に一定の強度さえあれば、それ即ち世界一鋭い刃物と同じ♧ 空振った手刀の時にうまく引っ掛けられたという訳か!!)

 

 ヒソカは切られた瞬間は痛みが無かった事に戦慄した。切り口が鮮やかな程、切られた痛みは少ないとは言うが、相手がしばらく気付かないというのはまさに異常だ。噂に聞くジッチョウネンブツのようではないか。

 

 マチが乗った糸は彼女自身が触れる時は、切れ味を喪失して乗れるくらいの性質に変化する。

 

 糸から糸、木から木に高速で飛び移り、彼女は新たな糸を更に張り巡らせた。

 

「次はどこ削いで欲しい?」

 

「……♡」

 

 ヒソカは興奮して彼女に対抗する様に能力を駆使して、木々の間を飛び回った。時折接触して激しい攻防を繰り広げる。

 

 空中で拳打を交えながら、ヒソカは高速で思考する。

 

(女の子なのに膂力で僕に迫っているとはね♤ おまけにまたこっそり引っ掛けられたら危険だ♡ これじゃこっちも強く出れない♧)

 

 ヒソカは隙を見てトランプでマチの糸を切り落とそうとする。だが触れた部分から切り裂かれたのはトランプの方だった。

 

 マチはそれを見て「クス」と笑い声を溢した。

 

(彼女は糸を使った空中での機動を相当修練している。ならばこちらの土俵はむしろ……!!)

 

 分が悪い事を悟ったヒソカは飛び回るのをやめて地面に降り立つ。そのまま警戒しながら糸の上に立つマチを見上げた。

 

 マチが木の幹を握力でちぎり取ってヒソカのトランプのようにオーラを込めて投げ付けたが、ヒソカは挑発に乗る様子もなく、冷静に指に挟んだトランプで切り払って対処した。

 

 マチは顎に手を当てて「ふうん?」と感心した風に溢すと、"絶"を織り交ぜて撹乱しながら、目にも留まらぬ速度でヒソカの周りを空中で機動した後、死角であるヒソカの背後から襲い掛かった。

 

「"絶"なんて意味ないよ♤ ボク今感度ビンビンなんだよねえ♡」

 

「!?」

 

 一見マチの動きを追い切れていないかと思われたヒソカは、気配をシックスセンスで感知すると、瞬時に振り向いて、咄嗟に首筋をガードしたマチのガードが開いた腹部を強力に蹴り付けた。

 

「ガハァッ!?」

 

 吹き飛んだマチが木の幹に叩き付けられた。ヒソカはそれを見て自分の土俵に引きずり下ろした事を確信して、獰猛な笑みを浮かべると、間髪入れずそのままマチに追撃を加えんとした。

 

 モニターで戦いを観戦していた彼女のことを良く知る男は、タバコに火を付けながら、その絶体絶命の状況とは裏腹に笑みを浮かべて言った。

 

 

 

 

 

「まだマチの土俵でもあるな」

 

 

 

 

 

 マチは咄嗟に「フウ」っと深く息を吸って、勇ましい目でトランプで斬り掛かって来るヒソカの動きを正面からしっかりと見据えると、巧みな身のこなしでヒソカの攻撃を半身になって躱しながら、ヒソカの突き出された腕に、両手の間に新たに紡ぎ出した糸を巻き付けんとする。

 

 ヒソカは超人的な危機察知能力で咄嗟に腕を引っ込めるも、巻き付けられた糸で人差し指と中指の先がトランプごと切断された。

 

 

 

 

 

 "捕縛術"を知っているだろうか? 

 

 ジャポンに伝わる武術の一つで、敵を縄で捕縛・緊縛する技術である。生きたまま相手を捕らえる為の技術だが、念能力者が悪意を持ってこれを行使した場合、非常に悪辣な殺人術となり得る。

 

 世界一切れる縄を相手の体に瞬時に巻き付けるのだ。

 

 義娘の身を案じたとある男が、何日も徹夜して研究しながら、己の身を実験台にして仕込んだ戦闘技術である。

 

 

 

 

 

 またもや己の体の一部が切断されたヒソカは、切り落とされた指先をペロペロと舐めながら、恍惚とした笑みを浮かべて距離を取る。

 

 その時、ヒソカの足に何かが触れる感触がした。

 

 

 

 

 

「"隠"はあんたの専売特許じゃないよ?」

 

 

 

 

 

 ヒソカの片足が隠されていた糸に引っ掛かって容易く切断された。

 

 

 

 

 

 マチはヒソカがバランスを崩した事を確認すると、一気に接近して連撃を仕掛ける。

 

 ヒソカは失った足をゴムで型取り体勢を立て直すと、二度同じ轍を踏むまいと糸による捕縛を警戒しながら慎重に応戦する。

 

 しかし、不慣れな片足での戦闘に先に限界が来たと見られるヒソカは、やがて致命的な隙を晒し、マチの糸が左腕の脇から首にかけて巻き付けられる。

 

 マチが勝利を確信して糸を力強く引こうとしたその時、何処かから飛んできた足がマチの腹部を再び強打した。

 

「あら不思議♤ 切ったはずの足がひとりでに蹴り付けて来ました♡ さっき蹴った時に付けといたんだよね♧ やっぱり便利♡ 

 ボクの"伸縮自在の愛(バンジーガム)"♡」

 

 先に蹴られたのと同じ箇所を蹴り付けられて、動きが止まったマチの精神力に綻びが生じ、念糸の切れ味が落ちる。

 

 ヒソカはトランプを器用に振るって強度が落ちた念糸を容易く切り裂くと、そのまま4枚のトランプを投げ付けてマチの四肢に突き刺す。彼女の動きが完全に止まった。

 

 観戦していたマチと親しい男は「これでマチが死んだらピエロ死刑な」と言い残すと、"それ"を直接目にしたくないといった風に上を向いて、酒瓶を傾けながら一気に中身を飲み干した。

 

 

 

 

 

「やだ……。助けて!! ジョネ!!」

 

 

 

 

 

 死神の振るったトランプがマチの首筋を掻き切る寸前で、彼女の体が強力なオーラに包まれて相手の攻撃を遮ると、そのまま彼女は高速で空を飛んでどこかに消えて行った。

 

 

 

 

 

※医務室です。

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

ジ「惜しかったな」

 

シ「ねえ、ジョネス? 今見てて思ったんだけどさ……、ヒソカのが重症じゃない?」

 

ク「あっ、ヒソカ倒れた。あいつ大丈夫かな?」

 

フ「出血多量だな。いつ回収してやるんだ?」

 

ジ「……2分後くらいに担架が来ると思うぞ?」

 

サ「勝者の扱いが雑過ぎじゃない……」

 

ジ「……最後まで粘って良い勝負だったな」

 

シ「ジョネス、無視しないでよ。ヒソカはどうなるの?」

 

ジ「……勘違いするなよ、俺は気合の乗ったアツい勝負は大好物だ」

 

シ「無視しないでよ。ヒソカは大丈夫なの?」

 

ジ「……けど、気持ちの強さで勝負が決まるって言っちまったら、じゃあ負けた方の気持ちはショボかったのかって話になるだろ」

 

シ「無視すんなよ。勝った方のヒソカの話をしてんだけど?」

 

ジ「……マチをあれだけ傷付けたんだ。あんなクズしばらく放っとけ」

 

ク「あっ、本音出た」

 

フ「鬼畜だな」

 

サ「この人がいる限り公平性ないね」

 

シ「マチに何かあったらヤバいっての継続中なんだね」

 

 

 

 

 




イルミの感情は難しい。
無感情かと思ったら意外と原作でも笑ってたりするし……。
この拗らせ兄さん、笑ってるのロクな場面じゃないけどな!!

フェイタンかっこいい。

ヒソマチとかいう大人気カップル。
存分に戦り合え……!!
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