次回からハンター試験編。
それが終わったらマチとの約束の為に一旦帰郷して、グリードアイランドテストプレイ編になると思います。
燃え盛るビルの最上階で、輝かしいオーラを纏ったクロロがヒソカに向かって全力で腕を振り抜いた。その一撃でヒソカは緊急脱出したが、クロロはビルに取り残されたままだ。
このまま炎に巻かれて緊急脱出してもいいが、完璧な勝利を求めるクロロは自力で脱出する算段もしっかりと立てていた。
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その時、そんなクロロの体に纏わりついていた強大なオーラが、一瞬にして掻き消え、クロロはにわかに正気を取り戻した。自動操縦モードの後遺症として全身に激しい筋肉痛を感じる。
クロロはモニター越しに見ているであろう仲間達のニヤけ面を想像して、ビルの外に向かって呟いた。
「あの野郎共……!!」
クロロに能力を貸していた面々は、勝負が決まったと見るとクロロが脱出する前に、すぐさま能力を取り返したのだ。
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そしてこのタイミングは明らかに確信犯である。あいつらはクロロが慌てふためく姿を見て楽しむ気だ。
ビルの外から拡声器で拡大された大声が聞こえる。
「ぎゃはははは!! クロロ!! 飛べ!!」
「あっはっはっは!! 飛ぶしかない!!」
「ワンチャンダイブ!!」
「ラストダイブ!!」
「ドラゴンダイブ!!」
「クロロくんの!! かっこいいとこ見てみたい!!」
拡声器からモニター越しに爆笑している店内の声が聞こえる。
クロロはイラッとしたが、もう逃げ場がないことを悟って「ハア」とため息を吐くと、開いた窓のそばでビルの外に背中を向けた。
「あー、しんどー!! 覚えてろよ!!」
クロロはそのまま後ろに倒れ込んで、ビルの外に身を投げ出した。
激しい浮遊感が数秒続き、吐き気を催した後、地面に接触する寸前に死亡判定を受けて緊急脱出した。
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天空闘技場の医務室に飛ばされたヒソカは一瞬呆気に取られた顔をしてから、辺りを見回して苦虫を噛み潰したような表情を浮かべた。
「……これはハメられたな♢ 緊急脱出外してないじゃないか♧ 本当に死ぬと思ったから、最後に本音まで引き出されちゃったよ……♤」
ヒソカは「恥ずかしいな♡」と言って、そのままゴロンとベッドにふて寝した。
その時、部屋のテレビから突然大歓声が聞こえて、驚いてすぐに目を見開いて画面に目を移した。そこには見覚えのあるスポーツレストランの人でごった返す店内が映っていた。
「ヒソカ!! 楽しかったぜ!! ありがとう!!」
「百足には入らなくていいから、気が向いたら仕事も手伝ってね!!」
「最後の試合は仕方ないよ。あれはクロロがずるかたね」
「お疲れ様!! また遊んでね!!」
「ジョネスゲームは終わりだ!! 報酬は口座に入金しとくぜ!! 後で番号送ってくれ!!」
「怪我が治ったらこの店に来てね!! 祝勝会……じゃないな、慰労会があるから!!」
「ヒソカって誰?」
「……今クロロと戦ってた人よ……」
ヒソカは画面から目を離して寝返りを打つと、「勝てないな♡」と満足げに溢して微笑んだ。しばらくして己の半身が返って来たような感覚があって、人差し指と親指の間にゴムをビヨーンと伸ばしてそれを確認すると、隣のベッドから声を掛けられた。
「あんたヒソカ……だよな? すげえ試合だったなあ。オレには一生縁が無さそうな激戦だったぜ」
ヒソカがそちらに目を向けると、そこには全身包帯塗れの長いもみ上げが特徴的な、ヒソカ採点2点くらいの男がいた。
「オレは"ゼパイル"だ。念をある程度使えるようになって、ジョネスのおっさんに無理矢理200階クラスに放り込まれたんだが、見ての通りあんたの試合の少し前に、こっそりボコボコにされてこの有様だ。平たく言うとあんたと似た境遇だな」
「……慰めはいらないよ♢ 手も足も出なかったのは事実だ♤」
ヒソカは不貞腐れてゼパイルにジト目を向けた。正直、今の試合で何が起こっていたのかも理解できてなさそうな男に言われてもなと、そんな感情だった。
ゼパイルは「そう言うなよ」と言って笑ってから、ベッドの上に胡座をかいて両手を体の正面の何もない空間に向けた。
「基礎の三大行はからっきしなのに、"発"だけは得意なんだぜ?」
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ゼパイルの両手の間に大きなトロフィーが具現化された。
頂点にトランプの刺さった王冠が乗った塔と、その周りにジョネスゲームで戦った全員とヒソカを配置した複雑な造形だ。眩い黄金の彫刻に色とりどりの宝石が埋め込まれている。
ヒソカはそのとんでもない能力と、それを十全に扱う技術に瞠目した。
「……凄い能力だね? 世界経済が崩壊しそうだ♧」
「はっはっは!! そうだったら良かったんだがな、これは1週間もすれば消えちまうんだよ。丁度あんたが完治するくらいじゃねえか? オレからのささやかなプレゼントだ。ベッドの脇にでも飾っといてくれ」
ヒソカはトロフィーを渡されると、近くで目を凝らしてボ〜ッとそれを見つめていた。しばらくしてからベッドのそばの机に置いてゼパイルに向かって口を開いた。
「ゼパイル、ありがとう♡」
「いいってことよ。それにあんたが治ったら、またあの店で宴会だろ? それが消えても本人達に会えるぜ」
「だね♢ 僕にとっては動かない黄金よりも生きてる人間だな♤」
「ヒソカ、戦い方教えてくれよ。暇だろ? 200階の微妙な選手にすらボコられて結構今悩んでんだよ」
「……いいよ、どうせ暇だしね♢」
とある大団長が病室に突撃して来る10秒前のことである。
その単純で一途な熱意にヒソカですら折れかけたが、ゼパイルが「怪我人だぞ!!」と言って身を挺して庇ってくれた。
ヒソカは完治するまでの1週間、何となく金一色のトロフィーが気に入らなくて、それぞれの戦いを思い出しながら、彫刻の人物達にペタペタとオーラを張り付け始めた。
昔会った誰かの能力を手本にした"発"だ。使い所が無くてすっかり忘れていた。満足が行くまで何度も何度も、より本人達そっくりに彩色し直して、完治するまでの1週間を過ごした。
ゼパイルは隣のベッドでその美的センスを絶賛した。
一流の家庭教師達から学んだのだから当然だ。はて? いつ学んだのだったか?
(案外、ボクには過去から貰った物が沢山あるみたいだね♢ 自分を掴む鍵はそこにある、か……♧)
ヒソカは医務室の窓を見て相変わらずニヤニヤと笑った。
窓の外に真っ黒コゲでボロボロになったビルが見えた。
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2週間ほど前のことである。
「……ようパリストン!! 実はカクカクシカジカで!! 2週間後だ!! 頼むぜ!!」
「は?」
ハンター協会の副会長、パリストンは馬鹿からの電話に13回目くらいで仕方なく応じると、そのまま突然信じられないことを聞かされた。
まず念能力者達の集う天空闘技場の200階クラスの完全一般公開と、ギャンブルの世界完全解禁。ご丁寧に念使い以外にも見えるように、具現化系のジョイント能力で可視化して配信するらしい。
ふざけるな。念の秘匿はどうした。
「今のうちに闘技場の株買っとけ。インサイダーがバレないように色々経由して買えよ?」
「ジョネスさん、マズいですよ。そこまでされたら協会も心源流も見逃せません」
パリストンはこちらの言い分が苦しいことを承知の上で、一応確認するように問い掛けた。同時に世界を思いっきり掻き回すその内容を聞いて、ワクワクし過ぎて顔には本心からの笑顔が浮かんでしまっていた。
「"見逃さない"? 何をだ」
「念の秘匿を破り、無差別に撒き散らすテロについてです」
「それを取り締まる法律はねえな。念の秘匿なんて仲間内でイチャイチャ言ってるだけじゃねえか」
「ですよねー。理解しましたが、なぜボクが闘技場に協力しなきゃいけないんですか? 立場があるので、流石にあなたの頼みでも厳しいですね」
「なにっ!? オレ達友達だろ?」
「それとこれとは話が別です」
ジョネスからの頼みをパリストンは断固拒否した。
パリストンを通したハンター協会と天空闘技場の協力関係。ハンター達も闘技場の選手として斡旋して欲しい。どちらも一方的で滅茶苦茶だ。
ゾバエ病患者の皮膚の件で、チードルを始めとした穏健保守派のパリストンに対する目は厳しい。これ以上やましい案件を抱えるのはいい加減面倒臭いし、密かに進めている将来の渡航計画にまで影響が出る可能性がある。
「……そうか。お前が顔を貸してくれれば、色々と楽だったんだがな……。じゃあ次の案件だ。こっちは案件っていうか報告だがカクカクシカジカでな」
「は?」
次に聞かされたのは、対価さえ払えば何でもやる"幻影旅団"なる巨大念能力者集団のことだった。
ふざけるな。聞けば聞くほどパリストンの率いる協専ハンター達と競合しているではないか。これで何が友達だ。まさかわざとやっているのか?
「……ジョネスさん、ボクに対する嫌がらせですか? ボクがどういう立場にあるのか分かってますよね?」
「んー? 協専とはある程度棲み分け出来るって、お前らはクリーンでハンターライセンスがあるのが強みだな。百足はダーティーなこともやってくれて、協専より武力があるのが強みだ」
「……それは、そうなんですが……」
棲み分け出来ていると言えば出来ているが、し切れてはいない。
パリストンは将来の渡航計画の為に協専を使って資金を集めている。幻影旅団に仕事を取られれば計画が大幅に遅れることになる。遅れに遅れてヨボヨボになったメンバーを連れて行った所で何になるというのか。
だがそれはパリストンの事情であって、この場ではジョネスの言い分に道理がある。自分の計画を明かす訳にはいかない。
武力で上回られているというのが事実なら、実力行使で排除することも出来ない。
その時、パリストンに電流走る!!
(この人まさか……、全て分かった上で言っているのか!? ビヨンドさんとボクの渡航計画がバレている!?)
パリストンは恐る恐るジョネスに探りを入れた。
「……ジョネスさん……。その……お金の話になるんですが……」
「ああん? 百足と競合したら協専の仕事が減るってか? 安心しろ。友達のお前にそこまで酷いことしねえよ。最初から言ってるじゃねえか、天空闘技場にハンターを送り込んで損失を補填しろよ」
「なるほど……。一周回ってそこに戻って来る訳ですね……」
あっけらかんと言い放ったジョネスに対して、パリストンは内心でほぞを噛んだ。ジョネスのことを甘く見過ぎていた。渡航計画がバレているかはまだ分からないが、彼がとぼけているとするなら、それすらも自分に対する脅しになっている。
彼はバラし屋。まだほとんど準備も整っていない段階で計画をバラされると全てがご破産だ。
(これはジョネスさんからの挑戦!! ボクに対する強制二択だ!!)
天空闘技場に協力せず、旅団とも競合し続けるなら、パリストンの悪評は立たないが、その力は大きく削がれ渡航計画を実行出来なくなる。それどころか旅団の武力で勢力ごと粉砕されるか、念能力者を大量にハンター試験に送り込まれてジョネスに立場を乗っ取られる。
天空闘技場に協力して、旅団とも手を組むなら、パリストンは協会の良識派からの詰問は免れないし、悪評は取り返しのつかない所まで行く。しかし資金稼ぎと渡航計画は問題なく継続出来るし、勢力と立場の存続を許される。
(何て男だ……!!)
パリストンは電話の向こうに、慌てふためく自分を想像して悪い笑みを浮かべるジョネスの顔を幻視した。
そんなことを露とも知らないジョネスは、黙り込んでしまった親友を心配してキラキラとした目で問い掛けた。
「どうしたんだ、パリストン。具合でも悪いのか?」
「……負けましたよ、ジョネスさん。条件を全て受けましょう」
「えっ、いいの!? やったぜ!! ありがとうパリストン、やっぱりお前はオレの無二の親友だ!! そういやブルース市で美味いカキン料理屋見つけたんだ。オレの奢りで連れてってやるよ!!」
(こいつ……、いけしゃあしゃあと……。やっぱり苦手だ……)
パリストンの天敵として、ジョネスが苦手な奴ランキングのトップにまで一気に躍り出した。
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2週間後に出たパリストンと天空闘技場の責任者がニコニコと笑顔で握手する記事に、とある難病ハンターが怒りに打ち震えながら声を絞り出した。弟子のウイルスハンターは師匠の見たことがない程の怒りに震え上がっている。
「"人類の未来"って何よ……!! "幻影旅団"? これもあなたの差し金でしょう……!! 殺してやる……!! 殺してやるわパリストン……!!」
その隣で記事を見ていた犯罪ハンターとテロリストハンターは眉をしかめて呟いた。
「……これはマズいな、もう念の拡散は止まらない。法改正に念犯罪の捜査能力の向上を急がなければ。それにしても遊びでここまでやるとは、なんて男だ……」
「これは人類史上未曾有のテロだ……。犠牲者の数がどれだけ膨れ上がるか……。だがそれを裁くことも出来ないとは……、クソッ!!」
「ミザイ!! ボトバイ!! あいつが帰って来たらすぐにとっ捕まえて、事情を吐かせるわよ!!」
パリストンからの資金提供を受けて、世界中を飛び回り順調に渡航計画を進めていた彼の協力者は、カキン料理屋で昼食を食べ終わると顎髭を拭きながらその記事を見た。頭の上に「?」を浮かべて首を傾げながらも豪快に笑った。
「ぎゃ〜はっはっは!! 聞かされてねえぞ、パリストン!! 何が起こってやがる? まあ面白そうだからいいか」
ハンター協会の会長は真剣な表情で記事を見ながら、泣きながら会長室に飛び込んで来たアフロの大男と、ドレスを身に纏った可憐な見た目の少女(40代後半)に説明した。
「パリストンから報告は受けておる。天空闘技場にて怪しい動きがあるから、最低限手綱を握る為に表向き協力関係を結んで、内情を調査すると……」
「うえぇぇん!! がいぢょおぉぉ!! そんなの嘘に決まってるよお!! きっと全部あいつが仕組んだことだあ!!」
「ギンタの言う通りだわさ!! いくらイケメンだからって許されないわよ!!」
「……事実がどうであれ証拠は無いし、もう手遅れじゃ……。パリストンを聴問にまで持って行けるかも怪しいじゃろう……」
「そんなあ……」
「……既に本部道場に入門希望者が殺到してるわさ。ジジイも責任取って手伝いなよ? しばらく大忙しね……」
「分かった分かった。とりあえずパリストンに話を聞かんと何も始まらん。もう出てけ」
二人が出て行って静かになった部屋で、会長が床に崩れ落ちた。
「ぎゃ〜はっはっは!! 念の秘匿なんてワシが言ったことじゃないし!! お前らが勝手に始めたことじゃろ!! 面白そうだからいいじゃん!!」
とある島にて、とあるゲームの発売直前で大問題が発覚して急遽修正作業に追われていた男が、休憩中に記事を見て大笑いしていた。ちなみに大問題が大問題を呼び、もはや発売延期は確定である。発売元のマリリン社への謝罪は他の仲間に任せてダラダラ開発を続けている。
「ぎゃ〜はっはっは!! いいねえパリストン!! 人類の未来を真剣に考えてたのは、お前だけだったって訳だ!! そこまでは流石に予想出来んかった、負けたぜ!! それにしても
男はひとしきり笑い終えると、携帯からとあるホームページを見て、その笑みを深めた。
「"幻影旅団"……か……。発売が遅れたのは福音だったかもな。ひとまずこいつらと遊んでみるか。面白そうだ」
"邪魔だから"ってだけで、数年前に我が子を故郷の島に捨てて来た、ちょっと擁護できない人間のクズは、そう言って天空闘技場がある北の空を見上げた。
複数の子供達を一人前になるまで育て上げた狼男が、パリストンを強引にカキン料理屋に連れ込んでから、そのままイン・ユーテロに拉致して行ったのと同じ頃の話である。
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ジョネ「お前ら挨拶しとけ!! こいつがハンター協会の副会長のパリストンだ!! 権力者だぞ!!」
ヒソ「えぇ……、君達どんな関係なの……?」
ジョネ「親友だ」
マチ「ジョネス……。そんな人ともコネがあるなんて……、かっこいい……」
パリ「……そこの二人、アホほど強そうだね……」
クロ「どうも、幻影旅団の団長を務めさせて頂く予定のクロロ=ルシルフルです。よろしくお願いします」
パリ「……よろしく。アホほど強そうだね……」
ウボ「大団長のウボォーギンだ。色々世話になるぜ?」
パリ「……アホほど強そうだね……」
ウボ「パリストンさんに中心メンバーを紹介しとこう。お前ら、こっち来い!! コネ作っとけ!! 女子はパリストンさんにお酌しろ!!」
パリ「……全員アホほど強そうだね……」
イル「どうも、イルミ=ゾルディックです。こっちは妻のサクラ。殺したい奴がいたら、ぜひウチにご依頼を」
パリ「……"ゾルディック"? アホほど強そうだね……」
サク「どわあっ!! アホか!? ままま、まだ!! そそそ、そんな関係とちゃうやろ!?」
イル「"まだ"……? 将来的には考えてくれてるんだ?」
サク「うぅ……、もうイヤやあ……」
イル「サクラ、かわいいね」
パリ(……これは間違いなく示威行為だ。ジョネスはボクに戦力を見せ付けて脅しを掛けて来ている……。……英断だったか、協専の二流ハンターがこいつらと戦争をしたら……)
クロロ、飛べ!!
ヒソカも微妙にハッピーエンド。まんぞくまんぞく。
ジョネス……なんて頭の切れる男なんだ……!!
パリストンを圧倒するとは……、これはハンタ頭脳Tier最高ランクで確定か……?
怒ってる人達と、笑ってる人達。違いは何か?
チードルはボトバイに対して、さん付けして敬語使うのか……。
最後まで悩みましたが、気を遣ってもテンポが落ちるだけだし、ハンター世界はあんまり年齢とかの上下関係厳しくなさそうってことで、呼び捨てを採用しました。
この作品だと、けっこうジョネスも呼び捨てにされてるしね。