流星街の解体屋ジョネス   作:流浪 猿人

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明日の朝でもいいけど、日曜日だし早めに投稿しときます。

今回は3次試験と、ガバガバ政治と、ミサキちゃんです。


53.ツイラク×ト×シツラク

 

 

 

 2次試験が終わり、始めは300人以上いた受験者も60人にまで絞られた。

 

 ここまでの試験を突破した受験者達が、「次の試験会場に向かう」と告げられて飛行船に乗り込んだ1時間後、突如機内に大音量のアナウンスが流れた。

 

『これより第3次試験を始めます。突然ですがこの飛行船は30分後に墜落します。それまでに受験者は指定の範囲に降下することが合格条件です。機内のどこかに隠されたパラシュートを使うことをお勧めします』

 

 アナウンスが切れると、そこら中に設置されていたモニターに指定の降下地点と現在地が表示される。当然のことだが、にわかに機内がざわつき出した。

 

「は? 墜落って……冗談じゃねえぞ!!」

 

「パラシュートを探せ!!」

 

「どけよテメェ!!」

 

「やんのか!!」

 

 あっという間にそこら中が大騒ぎになった。パラシュートが隠されている上に、人数分あるかも分からないのだ。まさかそんなことはしないだろうと思うが、もし地面に墜落したら乗っている人間は全滅だ。しかしハンター試験ならやりかねないのというのが、全受験者の共通認識だった。

 

「ジョネス!! どうする!?」

 

「う〜ん。真面目にパラシュート探してもいいし、一番確実なのは見つけた奴から強奪することだが……。オレらみたいに念を使える奴がそれするのはなあ……。あんまり気が乗らねえ」

 

 エルマの問いに対して、ジョネスは椅子に座ったまま腕を組んで渋面を浮かべた。モラウに人死にはできるだけ出さないと約束した手前、船の墜落に巻き込まれて死ぬ人間もなるべく減らしたかった。

 

 受験者の人数を絞る為に、パラシュートの数は半分も用意されていないかも知れないのだ。

 

「じゃあどうするのよ!? 探すんなら早くしないと!!」

 

 メンチがそう言って慌ててジョネスを引っ張るも、座ったまま彼は全く動じていなかった。ジョネスがニヤリと笑って口を開いた。

 

「いや、パラシュートは使わねえ。だが降下はする」

 

「……まさか、あんたこの高さから飛び降りても平気とか言わないでしょうね?」

 

「まさか、それじゃあ足の骨くらい折れる。それより確実に場所を知ってる落下傘があるんだよ。オレらの能力ならそれができる」

 

 ジョネスはそう言って二人を先導して非常口に向かった。

 

 そして職員しか開けられないようになっている鍵付きの扉を叩き壊す。

 

 付いて来た二人に向かって「何かに掴まっとけ!!」と叫ぶと、非常口を開閉する為の赤いレバーを思いっ切り引いた。

 

 気圧差で激しい外向きの風が起こった後、しばらくして風が落ち着いて来ると、ジョネスは機外に飛び出した巨大な風船のような物をそのまま力ずくで機内に手繰り寄せた。

 

「緊急脱出スライドだ。広げたら相当な大きさになるナイロンだな。これと離発着に使う姿勢安定用の係留ロープを組み合わせて、自分達でパラシュートを作ろう。製作時間は15分から20分って所か。丁度指定の降下地点の上くらいで完成するな」

 

「アホな……」

 

「まあ失敗してもオレが二人を抱えて着地してやるよ。そうなりゃオレだけが大怪我してオレが試験に落ちるだけだ。……何より、面白そうだろ?」

 

「楽しそ〜。やろ!!」

 

「アホが二人……。はあ、分かったわよ!! 女は度胸!!」

 

「メンチはこれを四角く切り開いといてくれ。エルマは能力で生地を補強だ。オレはロープを取って来る」

 

 あっという間に製作は進んだ。メンチが完璧に切り開いた生地に、ジョネスの指示でスピルホールと制御窓が開けられ、エルマの能力でそこら中を補強して行く。

 

 接続用の穴もエルマが補強して、そこにしっかりとロープを結び付けた。

 

「ちょっと!! 近過ぎでしょ!! 変態!! セクハラ親父!!」

 

「仕方ねえだろ。3人で一つしかねえんだから」

 

「仕方ないね。それに私にとってはご褒美だよ!!」

 

 ロープで括り付けて二人を自分に密着させたジョネスは予定していた降下時間が近付くと、そのまま間髪入れず機外に飛び降りた。

 

「「ああああぁぁぁぁ!!」」

 

 メンチはやっぱこれ死ぬと感じて絶叫して、エルマはジェットコースター気分でご機嫌に叫んでいた。

 

 ジョネスは【背負い妖(オバリヨン)】による体重増加と、ロープを引っ張る腕力で無理矢理姿勢を安定させる。

 

 空気を掴んだと感じた瞬間に体重を元に戻して、ゆっくりと降下を開始した。

 

 何かうまく行った。

 

 澄んだ空気の中で空からの絶景を眺めるのは実に心地良かった。

 

 降下地点の目印として焚かれていた赤いスモークの近くに降りると、手を体の前に重ねた何ともお上品な仕草で、ニコニコと笑顔を浮かべるかわいらしいドレス姿の見た目だけ少女がいた。

 

 ジョネスは体に結び付けていたロープを解いて、お手製パラシュートを外しながらメンチとエルマの二人を解放すると、待っていたビスケに対して言った。

 

 

 

 

 

「お前ふざけんなよ?」

 

「楽しかったでしょ? まさか自分でパラシュート作る馬鹿がいるとは思わなかったわさ」

 

 

 

 

 

 ジョネスが笑いながらビスケに軽くデコピンしようとすると、彼女はその攻撃をさっと巧みな身のこなしで躱し、お返しに腕を取ってジョネスに投げ技をかけようと試みた。

 

 ジョネスは急激に体重を増加させ重心を変えると、咄嗟に腕を握り返して、力では絶対に外れないように組み付く。ビスケは掴まれた腕が絶対に外れないことを悟ると、もう片方の腕をジョネスの脇の下に入れて懐に潜り込んで、そのまま全力で完璧な背負い投げの型に移る。

 

 ビスケが重過ぎるジョネスの体をオーラと筋力を全力で行使して投げ飛ばそうとした瞬間に、ジョネスはいきなり体重を元に戻して、自分から跳び上がり一回転して足から着地する。

 

 ジョネスはそれと同時に「ガチッ」と歯を鳴らすと、その危険過ぎる気配に思わずジョネスの上半身に意識を取られたビスケの隙を突き、すかさず足を潜り込ませてビスケの足を高速で払う。

 

 足が接触した瞬間にそれを察知したビスケが、多少無理な体勢を覚悟で体を捻ってそれを回避する。

 

 ビスケが体を捻った勢いでジョネスの顔面に正拳を放つと、ジョネスがその拳に額の分厚い骨で真っ向から激突して拳を破壊しようと試みる。

 

 このままだと拳の骨が粉砕されることを察したビスケは、超人的な体重移動で何とか正拳の軌道を逸らすと、そのままの勢いでジョネスにぎゅ〜っと抱き付いた。ジョネスは咄嗟にビスケの頭と背中に手を置いて、頭蓋骨を握り潰すか背骨を引っこ抜く準備をしたが、それは全くの杞憂だった。

 

「最高だわさ〜!! たまには体動かさないと駄目ね〜!!」

 

「お前ふざけんなよ?」

 

 奇しくも抱きしめ合うような姿勢になってしまったジョネスは、身長差からお腹の辺りに縋り付くビスケに対して呆れたように呟いた。

 

「相変わらず素晴らしいダークマターっぷりねえ」

 

「何言ってんだお前」

 

 ビスケはうっとりしながら彼女にしか分からない例えで、たっぷりと時間をかけてオーラ浴を楽しんだ。恐ろしいものもそれはそれで宝石として評価できる彼女の懐の深さは異常だ。母ちゃんか。

 

 しばらくすると飛行船が海に墜落して、ハンター協会のスタッフ達が船内に残った受験者達の救助を始めた。船内はパラシュートの奪い合いで既に死屍累々の有様だった。

 

 3次試験が終了した。通過者は28人である。

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 前大統領の爆死によって一時的に機能不全に陥ったオチマ連邦の上層部は会議室にて今後のことを相談していた。しかし大統領の後釜を狙う有力者達による議論は紛糾し、もはや侃侃諤諤の様相を呈していた。

 

「えぇ〜、皆様の意見は良く分かりました。安心して下さい、指導部は検討を重ねています。今のままではいけない、だからこそ今のままではいけないと思っております」

 

 次の大統領が決まるまでの間、後任を務めることになった副大統領は、突然背負わされた重責に完全に萎縮しており、有力者達の意見を纏めて決定的な判断を下すことができずにいた。

 

「この間にも兵士達の命が失われている!! 侵攻を取り止めるか、大量破壊兵器でケリをつけるか早く決めましょう!!」

 

 流星街への侵攻も未だにズルズルと続いているが、何の進展も見られていない。兵士達はちっとも地図の色を塗り替えられていないし、空爆に出た飛行船もスティンガーや謎の力で次々に撃墜されており、費用対効果の面から早々に取り止められていた。

 

「待て!! ニュークも薔薇も早計過ぎる!! 実戦で使用したら流石にウチの国際的な評判は取り返しのつかない所まで行くぞ!!」

 

「全て破壊した後に軍事施設を建てろって言うのか!? 予算のことも考えろ!! 残された設備やインフラを流用しないと、とても元が取れないんだぞ!!」

 

「流星街からの薔薇による報復の可能性はないのか!? あんなちっぽけな街一つの為に国が滅びたら誰が責任を取るんだ!?」

 

「大統領が死んだのだぞ!! もはや報復は始まっている!! あの街と無関係なはずが無い!!」

 

「国内で相次いでいる変死事件も念能力による報復なのでは!? 遠隔で人を呪い殺せるなら我々も無関係ではいられないぞ!?」

 

 表向きは笑顔で交流するが、本質はライバルである世界各国も最早やりたい放題だ。流星街への支援や交流を隠さなくなって来ている。

 

 オチマの足を引っ張りたいサヘルタ、ベゲロセ、ミンボなんかは堂々と流星街のバックに付き出したし、オチマの凋落から次のV5入りを狙っているであろうカキンまでその輪に加わっている。

 

 街への通常戦力以上の投入を合図とした経済制裁もチラつかせている。あんな街の為にまさかやらないとは思うが、やるかも知れない。それだけで致命的な動きは封じられるのだ。

 

「ニュークに薔薇!? まさか、私にそんな決定を下せと言うのか!? お前らは言うだけだからいいが、何が起こっても今責任を取るのは私なんだぞ!!」

 

 副大統領は唾を飛ばしながら叫んだ。そもそもよっぽどの狂人以外は誰も大量破壊兵器を使いたいなんて思わない。突然与えられた立場に日和っている彼なら尚更だ。

 

「現状では使わなければ流星街の制圧は無理だ。だが外交上使えない。しかしあんなちっぽけな街に負けて撤退するなど、それだけで我が国の評判は地に落ちる。八方塞がりだな……」

 

「例のスナッフビデオによって兵士達の士気が急速に低下しているらしい。国民達は怒りからの侵攻継続論と、兵士達の身を案じた撤退論で真っ二つだ。国際社会はいつもは人権だ何だとうるさい癖に、あのビデオに関しては他人事だと思って知らない振り……。くそっ!! どいつもこいつも腐ってやがる!!」

 

 会議がただ文句を言い合うだけの場になって来た所で、静かに考え込んでいた男達がポツポツと提案し始めた。

 

「流星街の主要な戦力は念能力者なのだろう? 戦力の調査はどれだけ進んでいる」

 

「流星街の内情を把握できたら通常戦力でも活路が見えて来るのでは?」

 

「流星街の高い立場の住人を取り調べられないか?」

 

 

 

 

 

 しばらくして、オチマ連邦への不法入国で逮捕された一人の老人が言った。

 

「ワシは流星街からやって来た。"大長老"と呼ばれるあの街の最高権力者じゃ。ワシが講和の使者としてこの国に滞在しよう。戦いをやめたくなったらいつでも言え」

 

 よっぽどの狂人以外は、使わないだろう。

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 ハンター協会唯一(公式では)の除念師である女は上機嫌だった。

 

 オチマ連邦を中心として突如激増した除霊(除念)依頼は、それだけで一財産を築けそうなほど膨大なものだったからだ。

 

 仕事を紹介してくれた副会長もニコニコと笑顔で、「協会の信用のために頑張って下さい!!」と後押ししてくれた。今は最初の依頼をこなす為に、とある高官の豪邸を訪れている所だ。

 

 何でも数日前から家族全員が原因不明の高熱に侵され、病床に臥せっているらしい。

 

 金に任せて雇った最高クラスの医師団があらゆる手を尽くして家族の治療を試みたが、何の改善も見られず、それどころか医師の一人がそう時を置かずして同じような高熱に見舞われた。

 

 最終的に最近にわかに噂が立った念能力なるものの仕業ではないかと、藁にもすがる思いでハンター協会に依頼を寄越した訳だ。

 

「私にお任せ下さい。私の持つ神通力でたわいもなく悪霊を弾き飛ばしてごらんに入れましょう」

 

 普段は霊媒師を名乗っている女は胸を張ってお決まりの口上を言い切った。

 

「ありがとうございます。これで旦那様もご家族もみな助かるのですね」

 

 使用人は涙を流しながら霊媒師の女に感謝した。

 

 医師団は怪しげな女を怪訝な表情で睨み付けている。究極の理系達は非科学的なものを許さない。当然である。

 

 使用人はこんなことをしている場合じゃないとすぐに気持ちを切り替えると、一刻も早く主人を治してもらうために、霊媒師の女を家族全員が高熱にうなされている病床に通した。

 

 

 

 

 

「「「「御前(ミサキ)はおらんか」」」」

 

「「「迎えに参った」」」

 

 

 

 

 

 部屋の中は地獄だった。

 

 病床を取り囲んでいた7人組の念獣が発するドス黒いオーラに当てられた霊媒師の女は、絶句してその場に尻餅をつき、ガタガタと震え上がった。

 

「ば、馬鹿な……有り得ない……。む、むむむ無理よ……。……こんなの私に背負いきれる訳が無いわ……!!」

 

 その強大過ぎるオーラを見て瞬時に死者の念のジョイントだと悟った優秀な彼女は、そう言って違約金を支払った。

 

 そしてすぐにその家から脱出して、そのまま人生の最高速度を更新しながら、全力で空港に向かって逃げ去って行く。

 

 その後も軍人の家系が集まる地区のあちこちで7人組の念獣とすれ違い、その度に「ひいっ!!」と悲鳴を上げた彼女は命からがら空港に辿り着くと、すぐに飛行船に乗り込んで別の大陸へと向かった。

 

 飛行船の中で涙を流しながら急いでハンター協会に異常事態を報告する。

 

「ふ、副会長ですか!? すぐにオチマ連邦への渡航制限を勧告して下さい!! 全ハンターにです!!」

 

『どうされたんですか、そんなに慌てて? 珍しいですね』

 

「こ、ここは地獄です!! ネテロ会長を殺せそうな念獣がそこら中を歩いています!! ひいいいぃぃぃ!!」

 

『……なんてことだ!! 一体誰の仕業なんだ!!』

 

 パリストンは予想通りの楽しいリアクションを見せてくれた彼女に内心で拍手を送った。

 

 故人達は自分の意思でターゲットを選んで呪殺して行くと友人から聞いているので、彼女の身の心配はちっともしていない。真相はただ単に他人をおちょくって遊んだだけである。

 

 ちなみにパリストンは自分自身の身の心配もしていない。

 

 

 

 

 

 彼は遠く離れたアルバイン大陸のスラム街の孤児だった。そもそもオチマ連邦の軍人達の家系と繋がっているはずがないのだ。

 

 

 

 

 




試験内容思いつかねえ……。
なんか殺し屋の学校に入学できそうだな。

ビスケは優しくてかわいいなあ。

ガバガバ政治描写は大目に見て下さい。
これが作者の限界です。

怨霊達のその後。
除念しようとしたり、倒そうとしなければ無害だよ。
ただし関係者じゃない限り……。

パリストンが貧しい生まれだというオリ設定。
ジョネスはパリストンに甘えているが、実はパリストンもジョネスに甘えている? 共依存ですね。
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