流星街の解体屋ジョネス   作:流浪 猿人

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お納め下さい。

ハンター試験編もクライマックスに近付いていますね。



55.サイゴ×ノ×シケン

 

 

 

 一周回って戻って来た。

 

 ジョネスとエルマと、今度はメンチまでもが笑いを堪えて震えていた。最終試験を担当するネテロはニヤニヤとして顎髭をさすりながら、楽しそうに3人を見ていた。

 

 試験のアシスタントとしてネテロの隣に並んでいるモラウとビスケと、ビスケの弟子のウィングは呆れたような表情をネテロに向けた。

 

 最終試験まで残ったのはジョネス、メンチ、エルマの3人。ナックル、シュートの2人。ゴレイヌ、センリツも当然残っている。あとは非能力者枠で、この後ジョネスにスカウトで粘着されることが確定している、コーヤ(真面目くん)、オマナカ(剣術家)、ケツモト(スポーツ選手)の3人である。そんな一行が飛行船に乗って辿り着いたのは、"天空闘技場"がある"ブルース市"という街だった。

 

 ネテロがお構いなしに切り出す。

 

「最終試験官のアイザック=ネテロじゃ。試験会場となるのはどこかの誰かのおかげで、安全に全力でバトルができるようになったここ、天空闘技場じゃ」

 

「だっはっはっは!! もうやめてくれネテロ!! 戻ってきちまったじゃねえか!! わざとだろ!!」

 

「ぶわはははは!! 武闘家のワシがこんな素敵な施設を見逃す訳ないじゃろ!? お主は天才じゃな〜!!」

 

「あんた最高だな〜!!」

 

 初対面のネテロとジョネスが、お互いの体を叩き合って意気投合している。二人はそれと同時に裏では、ちょっとした組み手に近いそのやり取りで相手の持つ戦力を探り合っていた。

 

 ジョネスは思った。

 

(このジイさん、オーラの流れが恐ろしく静かだ。勘でしか次の動きが読めん……。剛よく柔を断つを体現した流派の師範だってのに、とんだクセモノだな……)

 

 ネテロは思った。

 

(この男、オーラの流れがやかまし過ぎるのう。妙な色のオーラが気まぐれに無駄な動きを混ぜて変化し続けるから、フェイントだらけで頭がこんがらがるわい……。何もかも型破りで武闘家ではないな、言うなれば戦闘家。いや、戦争家か……)

 

 ジョネスは目の前の100歳を優に超える老人と、戦うとするならどうするかを想定して、すぐに結論を出した。

 

 頬を差し出して順番に1発ずつ殴り合ったら勝ち目はある気がする。しかし位置に着いてからの組み手や戦闘だと、シンプルに格闘者としての経験と実力の差からどうしようもない。

 

 そもそも前者のやり方を想定しても何故か非常に嫌な予感がする。

 

 軽く叩くふりをして指を立てて、一瞬だけ本気の殺気を飛ばした際に、この老人の筋肉は僅かだが妙な動きをした。ジョネスは冗談のつもりだったからすぐに殺気を収めたので、その動きは起こりですらない部分で中止され、実行されることはなかった。しかし、ジョネスの勘はその瞬間に凄まじい身の危険を感じ取っていた。

 

 ネテロは目の前の話題の大男とどう戦うか想定して、内心で「フン」と鼻を鳴らした。防御力なら上回られているっぽいので、滅茶苦茶タフで滅茶苦茶面倒臭そうだ。単純な筋力も自分より上っぽいし、攻撃をくらってしまったら恐らく無傷では済まない。その若さでその馬鹿げたオーラ量はどういうことだ? ふざけるな。

 

 しかしオーラ量は伍しているが、技術ではこっちが完全に上だし、"能力"を使えば当然余裕で勝てる。

 

 そもそもネテロのアレにまともに対応できるのは、人間ではビヨンドとジンくらいだ。故に戦いを楽しむ為にアレは使わない想定をした。

 

 この読みづら過ぎるオーラの持ち主の攻撃を捌きながら、膨大な体力を削り切るのは本当に危険で面倒臭い。

 

 ……使わされるのは癪だが、やはり本気で倒すならオーラを研ぎ澄ましてから、アレで滅多打ちにするのが一番確実だろう。

 

 最終的に出した結論は二人とも同じだった。

 

 

 

 

 

「「爆弾でも使って吹き飛ばした方が早えな」」

 

 

 

 

 

 最近、爆弾で吹き飛んだ国があるので、これは非常に不謹慎な発言だった。その場にいた常識人達は二人にジト目を向けた。

 

 

 

 

 

 最終試験は試験官達との手合わせである。十分な実力を見せたものだけが合格となる。

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 心源流の師範代、ウィングはモニターに映る師匠の姿を凝視していた。まだまだ自分は未熟者、極限に集中して動き一つ見逃さず、師の技術を見て盗まなければならない。

 

 しかし、微妙に集中し切れてはいなかった。原因は隣に座る二人だろう。

 

「美味いだろ? 今から戦うメンチって奴の考案したレシピなんだ」

 

「美食ハンター志望かの? いい腕じゃ」

 

 口の周りを汚しながら山盛りのパスタを食べる二人の男。

 

 ウィングにとって雲の上の人である最高師範のネテロと、明らかにカタギじゃない圧倒的な威圧感を放つオーラの持ち主、受験者のジョネスなる男である。

 

「今回の試験は体力と腕っぷしを競う内容が多過ぎじゃねえか? 来年からはもっと幅広い才能を見てやれよ。これからの世界は、強さじゃどうしようもねえ相手に対応する能力が重要だ」

 

「……噂の怨霊や爆弾か……。ワシは好かんなあ、戦争用に能力を調整するとああなっちまうか……」

 

 ネテロはそう言って渋面を浮かべた。彼はどこまで登り詰めても武闘家であり、善悪の観点からではなく戦争や政治が大嫌いである。

 

 ジョネスが笑いながら噂の凶悪過ぎる能力を擁護した。

 

「ありゃ二つとも自然発生した能力だぜ? 爆弾は戦いに使うもんじゃなくて、戦いをしないで済むように作られた力だ。怨霊については心配すんな。戦争も終わったし、アレの持ち主が成仏の儀式を始めてる頃だろうよ」

 

「そりゃ良かったが……。ジョイント型の除念能力や、致命的な事態に陥った時に、人類を存続させる為の方舟となる能力は必要じゃな」

 

「念の秘匿が崩壊して、ウチの爆弾まで実戦使用されちまったからな。世界各国はコールドウォー以来の緊張感で迅速に動き出してるぜ」

 

「楽しいのう」

 

 ウィングは横にいるジョネスを睨み付けた。全て自分のやらかしたことが発端だと言うのに、この男はまるで全てが他人事だ。一方で尊敬するネテロもこの男を糾弾する様子がなく、そのことについては困惑している。

 

 ジョネスはその鋭い視線を受けて「いい弟子がいるな」と呟いて、満面の笑みを溢す。ネテロも笑みを浮かべて深く頷いた。

 

 ここでは明言を避けておくが、ネテロとジョネスにはとある共通点があり、ウィングは正に二人の考えに寄り添う若者だからだ。

 

 

 

 

 

 彼らがいれば、致命的な事態はきっと避けられる。

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 天空闘技場の特殊リングの一つ。森林ステージの中で、試験官のビスケは眉をひそめた。

 

「こんなステージだとドレスが汚れちゃうわさ。それに格下とは言え念能力者4人が相手? あのジジイ……。試されているのは私も同じということね」

 

 "凝"と"円"を使いながら油断無く森の中を探索すると、突然どこかからフルートの音が聞こえてきた。何とも心地いい気分になって、一瞬だけ警戒が解かれてしまったタイミングで、"円"が2体の大きな影の接近を探知した。

 

 瞬時に"円"を解いて戦闘体勢に移るが、先ほどの謎のリラックスのせいで僅かに反応が遅れた。

 

 草陰から飛び出した2体のゴリラがビスケに襲い掛かる。

 

 ゴリラと遊んではいけない!! と言いたい所だが、ビスケは磨き抜かれた戦闘技術で容易くゴリラの連携の取れた攻撃を捌き続ける。

 

 黒い方のゴリラの攻撃のリーチを見極めて、攻撃を躱しながら白いゴリラに一撃必殺のカウンターを試みる。

 

 

 

黒の賢人(ブラックゴレイヌ)

 

 

 

 その瞬間、黒いゴリラがビスケと同じくらいの背丈の少女に一瞬で入れ替わった。リーチが急激に伸びてビスケの肩が複雑に切り裂かれる。

 

「あれっ? 首狙ったのに外された!! ビスケやっぱ凄い!!」

 

「痛ったあ〜!! やってくれたわね……エルマ!!」

 

 エルマはそのまま能力を駆使しながら、変則的にノコギリや槍を繰り出す。白いゴリラも協力して攻撃を加える。しかし、地力の差は明白だ。ビスケは肩から血を流しながらも攻撃を的確に凌いで、瞬時にエルマと白いゴリラにカウンターを入れて吹き飛ばそうとした。

 

 エルマは腹を表面を硬化させたクッション状のオーラで防護したが、威力を殺し切れず、血を吐き出しながら木々の隙間を吹き飛んで行った。

 

 しかし、白いゴリラの方は突然シルエットが小さくなってビスケの攻撃を躱した。白いゴリラだったはずの影はゴリラになっていた。失礼、ゴレイヌになっていた。

 

 

 

白の賢人(ホワイトゴレイヌ)

 

 

 

 どこかからまたもやフルートの音が聞こえて来る。ビスケは今度は激しい悪寒を感じて一瞬だけコンディションが乱れた。

 

 そのタイミングでビスケの見ている景色が瞬時に切り替わった。

 

(黒いゴリラの能力ね!! 狙いは当然……!!)

 

 動揺しながらも、素早く背後に振り返る。

 

 突き出された包丁を咄嗟に腕で受けると、そのまま体を捻って、腕に深々と突き刺さった包丁ごと、背後から奇襲して来た少女を投げ飛ばした。

 

 地面に勢い良く叩き付けられたメンチは、「ガハッ」と全ての息を吐き出させられて悶絶した。

 

「最近の女の子は刃物が好きねえ……。でもこれで一人脱落だわさ」

 

 本当の実戦武術は"1本"で終わりではない。ここからトドメを刺す型がある。もっとも、それがあるから倒した時点で"1本"だと規定されているのだが。

 

 ビスケが踵でメンチの喉を踏みつけようとした瞬間、メンチが黒いゴリラに切り替わって、ビスケのトドメが決まる前にその体を瞬時に蒸発させた。

 

 ビスケはビキッと額に血管を浮かび上がらせた。

 

「ゴリラの奴ムカつくわさああぁぁ!! いい能力過ぎでしょ!!」

 

 怒りながらもビスケは冷静に考察してその性能に歯噛みした。精密に操作できるゴリラ型の念獣に、位置を入れ替えて瞬間移動できる特性まで付いた何ともハイレベルな能力だ。

 

 あれ程の精密さは日常がゴリラだったか、ゴリラに強い愛着を持っている証である。

 

 ジョネスとネテロが爆笑しながら言った。

 

「いい感じだなあ!! 格上はちょっとずつ削って殺すに限るって!!」

 

「手加減し過ぎじゃ!! いいようにやられとるぞ!!」

 

 作戦立案に加担したのはジョネスだし、手加減しろって言ったのはネテロである。こいつらほんま。

 

「……っ!!」

 

 その時、モニターを真剣に見ていたウィングが、冷や汗をかきながら、ぶるっと体を震わせた。師が「フウッ」と深く息を吐いて、真剣な表情を浮かべ始めたからだ。

 

 ビスケが全力で森を駆け抜けた。

 

「一番厄介なのは笛の能力ね。ゴリラは破壊したらしばらく復活しないだろうし、自分から消しても長めのインターバルがあると見たわ」

 

 経験からゴレイヌの念獣の性能を見抜いたビスケは、聞かせるだけで問答無用でコンディションを乱して来る笛の能力者を優先して潰すことにした。

 

 隠れている女性の位置に音で当たりを付けて、"円"で居場所を感知すると、すぐさまそちらに高速で迫った。

 

 その瞬間、ビスケは3月だと言うのに春の風景を幻視して、3秒ほど時間を稼がれてしまう。

 

 しかし目が覚めた瞬間、背中を見せて逃げて行くセンリツを躊躇いなく追い掛けて、思いっきり頭を蹴り飛ばして緊急脱出させた。

 

「危なかった……。距離が近いと催眠レベルなのね」

 

 またもやコンディションを崩されて警戒が一瞬解けたビスケの頭に、何か硬いものが直撃した。

 

 体勢を崩したビスケに向かって、追い付いたエルマとメンチが抜群の連携を見せながら追撃した。

 

 頭から血を流しながらにわかに無表情になったビスケとの間で、激しい攻防が繰り広げられる。ウィングは「あっこれガチだ」と悟って更に震えていた。

 

「ししょーの速さに慣れてなかったら瞬殺だったね!!」

 

「喋ってる暇ないわよ!!」

 

 ここ一番のビスケの動きはフェイタンの速度を優に上回っていた。正確には足ではフェイタンで、その場での身のこなしではビスケが上回るという感じだが、危険度はそう変わらなかった。

 

 やがて二人が吹き飛ばされて強かに木の幹に打ち付けられたタイミングで、突然ビスケの顔面に2発の右ストレートが突き刺さった。

 

「どうしても二人に気を取られるよな!!」

 

 ビスケを再び瞬間移動させたゴレイヌと白いゴリラは、そのまま挟み込むように連撃を加える。

 

 

 

 

 

 その時、一瞬にして目玉と睾丸を潰されたゴレイヌが緊急脱出した。

 

 

 

 

 

 ゴレイヌの念獣も主人に合わせて消える。

 

 

 

 

 

「ふ、ふふふっ!! あっはっはっはっは!!」

 

 鼻血を垂らしながら高笑いするビスケを見て、ネテロとジョネスとウィングがモニター越しでも震え上がった。

 

 

 

 

 

「……殺す……」

 

 

 

 

 

 "わさ"はどこ行ったんだビスケ。

 

 ダメージからようやく立ち直ったエルマとメンチは、こちらを真顔で見つめるビスケの姿を前にして、にわかに顔を青ざめさせた。

 

 エルマが咄嗟に棒手裏剣を投げ付ける。

 

 ビスケは構わず歩きで距離を詰めて、何が起こったのか分からないほどのスピードで容易く手裏剣を弾き飛ばした。

 

 長い包丁の射程に入ったので、メンチが意を決してビスケに斬り掛かった。

 

 トンっと指先一つで包丁の軌道を逸らしたビスケは、どうやったのか分からないが、メンチの体を空中で一回転させて、そのまま顔面に膝蹴りを入れて緊急脱出させた。

 

 地面にモチを広げて自分が乗る場所以外を不安定にしたエルマは、体勢を崩すであろうビスケにノコギリで斬り掛かった。

 

 ビスケはその場で思いっ切り足を踏み締めて、モチの壁を力技で突破してしっかりと硬い地面を掴むと、目にも留まらぬ速度の正拳でエルマの腹を殴り付けて、そのまま一撃で緊急脱出させた。

 

 ネテロは試合が終わったのを確認すると、持っていた書類に4つの丸を付けた。それと最近忘れっぽいので、メモ帳に一言だけ書き込んだ。

 

 "ビスケの顔は殴るな"

 

 

 

 

 

 メンチ、エルマ、ゴレイヌ、センリツ、最終試験突破。

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

「いいステージだなあ……。お前ら、ここでオレにボロ負けしても気にしなくていいぜ? ジイさんはこのステージで、どこまでオレに食い下がれるかを試してるはずだ」

 

「……胸をお借りします……!!」

 

「……格上なのは分かってる。だがオレもナックルも勝つ気でいるぞ? アッ、スミマセン。そんなに怖い笑顔を向けないで下さい……」

 

 スタート位置につく道中で、大きなキセルを担いだモラウはナックルとシュートの二人を激励した。格の差を感じ取っていながら、100%勝つ気で闘る気満々の二人を好ましく思って獰猛な笑顔を向ける。

 

 第5特殊リング[水上基地]は度々、"クソステージ"扱いされている問題児だ。特定の能力者が有利になり過ぎる環境であることは誰の目にも明白なので、稼働から1ヶ月ほどで闘士達からの参加NG要請が殺到した。

 

 スタート位置についたモラウはすぐさま煙を吐き出して、自分の周りに動く煙の足場を設置した。煙を移動させてご機嫌に水上移動を楽しむ。

 

 

 

紫煙拳(ディープパープル)

 

 

 

 ジョネスが前世で一番有名なギターリフを口ずさみながら、戦いの行方を見守った。それを聞いたネテロとウィングは訝しげな表情を浮かべながらも、無視してモニターを凝視した。

 

 そのままステージに煙を漂わせて索敵を行うと、苦もなく一人の人間の位置を察知した。

 

(向こうの足場にいるのはシュート一人だけか……。見事な"絶"だが、煙で探知するオレにはバレバレだ。それにこのステージで隠れる場所なんて限られてる)

 

 纏まって動くと見せかけた水中からの襲撃。ナックルは能力の都合上一撃でもいいから攻撃を当てておきたいのだ。

 

 モラウは迷わず水の中に飛び込むと、水中からの奇襲を狙っていたナックルを視界に捉えて、異常な速さで遊泳して不慣れな水中で上手く身動きが取れないナックルを襲撃した。

 

 ナックルは果敢に応戦するも、水中での挙動で遥かに格上の相手に何も出来ずに防戦に徹した。

 

 その時、どこかから3本の腕が飛んで来て(泳いで来て)、水中で不利な戦いをするナックルのサポートを始めた。

 

 モラウが激しい攻防の中で、ナックルから1発だけヒットを貰うと、新たに能力が発動した。

 

 

 

天上不知唯我独損(ハコワレ)

 

 

 

 肩から現れたゆるいマスコットキャラクターを見たモラウは、戦いが次の段階に移ったことを察して笑みを浮かべると、水中で新たな煙を吐き出して肉食魚の形を取った念魚を周囲に漂わせた。

 

 ナックルはそれを見てヤバいと感じると、念魚に噛み付かれながらも急速に水中を上昇して足場の一つに上がった。

 

「煙って……何でもアリじゃねえか!!」

 

「ポットクリンは付けたんだろ!? 距離を取るぞ!!」

 

 このステージなら距離100m以内はそう厳しい条件ではない。

 

 離れた足場に上がったナックルに対して、そう叫んだシュートに水中から飛び出して来た複数の影が襲い掛かる。

 

 水中から飛び出した魚達が数十体の人型の兵士へと変形し、二人を特定のルートに追い立てる。

 

 次の足場に飛び移った瞬間、近くの水面が勢い良く弾けてモラウが二人に急接近した。

 

『時間です。利息がつきます』

 

「何だよこりゃあ。時限爆弾か? 意外と悪辣な能力を使うんだな」

 

「そんなんじゃねえよ!!」

 

 モラウは煙の兵士達と協力して何発か攻撃をクリーンヒットさせた後、再び水中に身を隠した。

 

 モラウは新たに煙を吐きながら、額の数値が減ったポットクリンを見て考察を重ねる。

 

(ナックルを殴った時、手応えが無さ過ぎたな。そしてこいつの数値は減った。数値はトイチで勝手に上がって行くが、ダメージを交換し合う綱引きでもあるって訳だ)

 

 ナックルは時限爆弾のような直接ダメージを与える能力ではないと言ったが、一定以上の数値まで上げられたら死ぬと考えて戦うのがベターだろう。

 

 大事なのは逃げられないようにすること。それと短期決戦で決めるということだ。

 

 ステージを逃げ回る二人に向けて、水面から新たな人型の煙が飛び出す。

 

 複数の煙はモラウとナックルとシュートの形をしていた。

 

「なっ!?」

 

「白色だけじゃないのか!?」

 

 そこからは大混乱である。

 

 どれが本物のモラウなのかも分からない中で、唐突に本物のモラウの全力の攻撃が飛んで来る。

 

 お互いに声を掛け合って本物の相棒の位置を確認するも、激しく戦う内にすぐに煙でできた偽物を本物と誤認してしまう。

 

 そうこうしている内に周囲を煙に取り囲まれて、徐々に逃げ場が塞がれて行った。

 

 

 

監獄ロック(スモーキージェイル)

 

 

 

 モラウが一緒に中に入ることを条件に、物理攻撃で破壊することができない最強の檻を生み出す技である。

 

 モラウはフィールドを無理矢理狭めた後、水上で自分にしか乗れない煙の船を駆使して、まるで詰将棋のように相手を追い詰めて行った。

 

「駄目だ!! 返し切られる……!!」

 

「いや、今度はオレの方が行ける!!」

 

 ナックルが【天上不知唯我独尊(ハコワレ)】の維持が限界に近付いていることを悟って悲痛な声を上げるも、今度はシュートがコツコツと与えていたダメージによって能力を発動できることを確信して、勇ましく言い放った。

 

 

 

暗い宿(ホテル・ラフレシア)

 

 

 

 モラウの手首から先が突然消失した。

 

 その不可思議な現象によって、持っていたキセルを取り落としてしまったモラウに対して、二人がラッシュを仕掛ける。

 

 ここで決め切らないと勝利はない。

 

 しかし、絶対絶命の状況にも関わらずモラウは不敵に笑って言った。

 

 

 

 

 

「そんなに激しく運動するなよ。おかげで時間切れだ」

 

 

 

 

 

 激しく攻撃を加えていたナックルとシュートの二人の視界が突然ぐらつく。体に力が入らず、激しい吐き気を催した。

 

「ここは煙の檻に囲まれた密閉空間。お前ら、この世で最も強力な毒ガスは何か分かるか?」

 

 モラウが余裕綽々といった様子でキセルを拾い直した。急速に朦朧として行く意識の中で、二人は最後の言葉を聞いた。

 

 

 

 

 

「答えは無酸素空気。知ってただろうが、オレの肺活量を想定しろっていうのも酷な話か……」

 

 

 

 

 

 モラウはふらつく二人の頭を思いっ切り殴り付けると、ポットクリンの借金ごとナックルとシュートを吹き飛ばして、そのまま二人を緊急脱出させた。

 

 モラウは煙の檻を解除すると、マッコウクジラのように豪快に息を吐き出す。

 

 そして二人が緊急脱出した方向を見上げて、満面の笑みを浮かべた。

 

 ぶっ飛んだ特殊技能で強引に勝利したモラウを見て、呆れたような顔を浮かべるジョネスを横目に、ネテロが手元の資料に二つの丸をつけた。

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 非能力者の3人がウィングと至極真っ当な指導組み手を行った。

 

 真面目くんことコーヤだけが合格判定を受けると、悔しそうな顔を浮かべる残りの二人に向けて、ウィングは優しげに笑い掛けて言った。

 

「今回は残念でしたが、お二人とも素晴らしかったですよ? これからも研鑽を重ねて、ぜひ来季のハンター試験に再挑戦して下さい」

 

「せ、師匠(せんせい)……!! ありがとうございます……!!」

 

「……その……オレを弟子にして頂けませんか?」

 

「あっ!? オレが先に言おうと思ってたのに!! 心源流の中身を知るのはオレだ!!」

 

「オレが兄弟子で確定だ!!」

 

「コラコラ、喧嘩しないで。弟子に上下なんてありませんよ」

 

「「師匠(せんせい)……!!」」

 

 モニターでその様子を見ていたジョネスとネテロは言った。

 

「オレ、師匠(せんせい)なんて呼ばれたことないんだが。弟子に呼び捨てにされてるっておかしくないか?」

 

「ワシも師匠(ししょう)とか師範とか、ジジイとか呼ばれとるの。あやつとワシらでは何が違うんじゃろうか?」

 

 人間性と性格が尊敬できるか否かである。

 

 ネテロは「フウ」と一息吐くと、新しく取り出した資料に丸をつけてジョネスに見せた。

 

「オレは合格か? まだ戦ってないのに」

 

「ああ、構わんよ。これで気兼ねなく()れるじゃろ?」

 

 二人は顔を見合わせて満面の笑みを浮かべた。

 

「ネテロ()()。またあんたに"嫉妬"させてくれるんだな」

 

「うむ。ちょいと手加減して遊んでやろう」

 

 

 

 

 

 ハンター試験:最終試験[最終戦]

 

 ステージ:第9特殊リング[巨大工場]

 

 アイザック=ネテロvsジョネス=スタージャンク

 

 

 

 

 





書いてて思ったこと。

ゴレイヌとセンリツは強い。
素で殴るだけのビスケは戦闘が書き辛い。

ナックルの能力は書くのが面倒臭い。シュートの能力は分かり易い。
モラウさんは強いけど決め手に欠ける。

百式観音は使われたら勝負にならない。
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