流星街の解体屋ジョネス   作:流浪 猿人

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書けたよどうぞ。

今回は対抗呪文と、タマゴと、ビヨンド訪問と、暗殺です。



61.キョウフ×ト×アンサツ

 

 

 

 山岳都市コルタナの郊外、ゴツゴツとした岩肌が特徴的な高い山の頂にて、百式の掌で潰された半透明な幽霊のようなオーラが、輝く粒子となって穏やかに空へと昇天して行った。

 

『……ああ、石人形の赤子が、山に還る……。

 

 呪いと山に頂は無く、故にすべてを受け容れる……』

 

 重い石人形を無事に山頂まで運び切って成仏させたネテロが、頭に直接流れ込んで来た謎のナレーションに、「結局どういうストーリーだったんじゃ?」と疑問の声を上げた。

 

 イベントの中でやたら意味深そうなワードが繰り返されたが、考え直してみたら、やはりただの意味不明なイベントである。

 

 ワードセンスが凄いだけで、情報が少な過ぎて物語としては破綻していた。

 

「ボフン!!」と音を立てて現れたカードをキャッチしたパリストンが、未だに腕を組んで何やらうんうん唸りながらストーリーを考察しているネテロに声を掛けた。

 

「会長、多分考えるだけ損ですよ? 何となくかっこいい単語を並べて、プレイヤーが勝手に深読みしてくれるのを期待しているだけです」

 

「なにっ!? そんな不親切なゲームがあるのか!!」

 

「……たまにあるんですよ……」

 

 パリストンは嫌なことを思い出すと遠い目をして言った。己の明晰な頭脳をもってしても、とあるゲームのストーリーは理解不能だった。

 

「とりあえずこれでイベントは終了です。報酬は指定ポケットカードですね。おおっ!! Sランクカードですよ!!」

 

「呪文を手に入れてから来たら良かったのう。今の状態じゃ守りようがない」

 

 二人は当初の予定では、ここまで大きなイベントをクリアするつもりはなかった。せいぜいBランクかAランク程度の指定ポケットカードで、入手するまでの流れを確認するつもりだったのだ。

 

 ネテロは結構苦労して手に入れたカードが、すぐに奪われるという事実に悔しそうな顔を浮かべた。

 

 しかし、パリストンは笑顔のまま明るく言った。

 

「大丈夫ですよ。ジョネスさんから呪文カードの情報が届いています。奪うカードは近距離呪文と言って、20m以内でしか使用できないらしいです」

 

「何が大丈夫なんじゃ?」

 

 パリストンは笑みを深めてネテロに耳打ちした。

 

 ネテロも「あっ、そっか」と溢して笑った。

 

 パリストンがネテロにカードを渡すと、ネテロがつつがなく(バインダー)にカードを納めた。そのまま山を降りている途中で、二人の目の前にどこかから飛んで来た光弾が突き刺さる。

 

 恐らく移動呪文だ。二人は警戒を瞬時に高めた。

 

 

 

 

 

「よう!! ジジイとパリストン!! いいもん手に入れたみたいだな、結構難しいイベントなのに流石だぜ!!」

 

 

 

 

 

 突然現れたジンにネテロは嫌そうな顔をして、パリストンは満面の笑みを浮かべていた。

 

「ハイエナとは感心せんな。このカードはワシの物じゃ」

 

「ジンさん抜け目ないですね。透視(フルラスコピー)磁力(マグネティックフォース)ですか?」

 

 ジョネス達から提示された情報を全て暗記しているパリストンが、笑顔のままジンに問い掛けた。

 

 ジンはニヤリと笑って一枚のカードを構えた。

 

「おうよ。それじゃあ、これから何が起こるか分かってるよな?」

 

「覚悟してましたよ。どうぞ」

 

「チッ、ちょっとは悔しそうにしろよ。そんじゃあ遠慮なく……。

 

 窃盗(シーフ)!! 使用(オン)!! ネ!!」

 

 ジンの呪文が突然遮られた。

 

 

 

 

 

【百式観音 壱乃掌】

 

 

 

 

 

 突如その場に現れた観音像から繰り出された神速の手刀で、ジンが容赦なく叩き潰され、そのまま思わずカードを取り落としてしまう。

 

「やっぱり便利♡ ワシの百式観音」

 

「便利っていうか理不尽ですね」

 

 和やかに談笑するネテロとパリストンを尻目に、地面にできたクレーターから這い出して来たジンが、鼻血を垂らしながら大声で二人に抗議した。

 

「おい!! そりゃねえだろ!! ゲームにならねえじゃねえか!!」

 

「ハンターに武力は必須じゃ。ハンター専用のゲームならこれくらいは対処して貰わんとのう」

 

 ネテロはほぼ全てのプロハンターが顔を青褪めさせるような無理難題を吹っ掛けた。無茶を言うなインチキジジイ。

 

「ジンさん、今の目でも追えてなかったんじゃないですか? あっ、ボク達がこのゲーム初心者だから手加減してくれてるんですね!! 好きだなあ……」

 

 ジンはネテロの隣で事の成り行きを見守っているだけのパリストンの煽りに、イラッとしながらも冷や汗をかいた。まさかここまでの強硬手段でカードを防衛して来るとは思わなかったから、百式観音に対応できるような能力は作って来ていない。

 

 だが諦めの悪い男は、ここでコケにされたまま終わるつもりも無かった。

 

 ジンは気休めでしかないが、放出系のシンプルな高速移動能力をその場で一瞬で作ると、間髪入れず再び行動に移る。

 

 ジンが高速でネテロの周りを飛び回りながら叫んだ。

 

窃盗(シーフ)!! 使用(オン)!! ネ!!」

 

 

 

 

 

【百式観音 参乃掌】

 

 

 

 

 

 ジンが再び叩き潰された。

 

「思ったよりタフじゃのう」

 

「強化系か変化系ですかね? 硬くなってるようです」

 

「クソオッ!! クソォォォ!!」

 

 ジンがボロボロのまま地面に這いつくばり、地面を叩いて悔しがった。パリストンが哀れな男に優しく語り掛ける。

 

「……ジンさん……この辺にしときませんか? ボクは一生見ていたいくらいの惨めさですけど。テストプレイだから記録(ログ)で、あなたのお仲間さん達にも見られるんですよ?」

 

「人の物を奪おうとするとはけしからん。恥を知れ恥を」

 

 人の不幸を見てニヤニヤするパリストンとネテロに見下されて、ジンは最後の賭けに出る。

 

 先程から呪文の名前と使用(オン)までは言わせて貰えるのだ。そしてプレイヤー名を言おうとしたタイミングで潰される。

 

 奪う対象はランダムなので嫌がらせにしかならないが、一応使うことに成功したら少しは胸が空く。

 

 

 

 

 

徴収(レヴィ)!! オ!!」

 

 

 

 

 

【百式観音 壱乃掌】

 

 

 

 

 

 ネテロはつまらなさそうな顔で言った。

 

「もう慣れた」

 

「流石です」

 

 ふらふらとしながらも何とか立ち上がったジンが移動呪文を使って、どこかへ高速で飛び去って行った。

 

 理不尽な力の前に完全敗北を喫したことを受けて、ジンは飛んでいる途中、半泣きになりながら鼻を啜った。

 

 

 

 

 

 その後、ネテロとパリストンが無事に下山して、山岳都市コルタナに帰って来たタイミングで新たな来訪者が現れた。

 

 それと同時にパリストンの携帯にビヨンドからメールが入った。

 

 先程のジンの一件があったので、近くに突き刺さった光弾にネテロは百式をぶち込む準備をした。相手によっては手加減しなければならないので、極限の集中力でもって現れた人物を見つめる。

 

「おお、新しい町だ。運がいいな」

 

「山間にへばりつく都市か? ロマンあるなあ……」

 

「ジョネスとウボォーギンか……。お主らもワシの大事なカードを奪いに来たか?」

 

 ウボォーギンを連れ立ってネテロのそばに降り立ったジョネスは、その言葉を聞いて、心底不思議そうに首を傾げた。

 

「いや? 奪えて当たり前の相手から奪ってもしょうがねえだろ。迎えに来たんだよ」

 

 ウボォーギンがネテロの人間不信ぶりに、呆れたような顔をして続けた。

 

同行(アカンパニー)っていう移動呪文で、一緒にマサドラ行こうぜ」

 

 さも当然のように言い放った二人に対して、ネテロは感激して泣きそうになりながら喜びに打ち震えた。

 

 初心者狩り(ジン)に狙われて不安だった所に現れた救いの手。世界にはまだこういう人がいるのだ。

 

 なお現在、ジョネスのせいでクロロはスタート地点でキレているし、シャルナークはソウフラビという町の近くで絶望しているし、フランクリンはゲームの外で「はい、クソー」と言って拗ねている。

 

 ちなみにフランクリンはそう言った5秒後くらいにゲームに入り直した。

 

 その時、携帯の画面を見ていたパリストンが、唐突に驚いたような声色で言った。

 

「えっ!? ジンさんに息子さんがいらっしゃったそうですよ?」

 

「マジで? どこ情報じゃ?」

 

「ビヨンドさんからです」

 

 パリストンはそう言って、ビヨンドから届いた写真付きのメールをネテロに見せた。写真の中では黒髪の少年とビヨンドが肩を組んでピースして笑っていた。

 

「あいつ結婚なんてしてたのか? どう考えても束縛されるのが大嫌いで、家庭って言葉からかけ離れた男に思えるが……」

 

「自由奔放を絵に描いたような雰囲気だよな」

 

 息子の存在は旅団の情報網には引っ掛かっていたが、それを知らなかったジョネスが懐疑的な言葉を漏らした。ジンと付き合いの浅いウボォーギンも首を傾げて言った。

 

 パリストンはジンの妻というものが想像できず、「確かに……」とジョネスに同意して考え込むような仕草を見せた。

 

 

 

 

 

 その時、パリストンに電流走る!!

 

 

 

 

 

「……ネテロ会長……!! 先程のカード……!!」

 

「……? ……ハッ!! ブック!!」

 

 少しの間、訝しげな表情をしていたネテロが何かに気付いて、己の指定ポケットにしまっていたカードを取り出した。

 

 ネテロが持っているカードを全員が覗き込む。

 

 

 

 

 

「「「「ひっ、ひいいいぃぃぃ!!!!」」」」

 

 

 

 

 

 恐るべき可能性に思い至ってしまった一同が悲鳴を上げた。

 

 ネテロが恐怖から悲鳴を上げるのは70年ぶりである。

 

 パリストンも笑顔を維持し切れず素で恐怖した。

 

 筋骨隆々な大男二人も普通にビビった。

 

 

 

 

 

 [身重の石]No.007。ランクS、カード化限度枚数10。

 重さ3kgのこの石を1カ月間肌身離さず持っていると、達成の1週間後に男女問わず必ず身籠る。男石と女石の2種類あり、産みたい性別の石を持つ。

 

 

 

 

 

「嘘でしょう……!! まさかそんな……!!」

 

「パリストンお主……!! もうやめろ!! おぞましき想像をさせるでない!!」

 

「産んだのか!? どこから!? どうやって!?」

 

「そりゃ尻からだろ!? 男ならそこしかないよな!? まさか口からタマゴか!?」

 

 

 

 

 

 一応擁護しておくが、ジンは普通にモテるし、既に他界したが、弟子でシングルハンターだった嫁がいる。

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 11月25日

 

 やり直しによって再び集まったメンバーを見て、ドルチェは平静を装いつつも、タイムリミットが刻一刻と迫っていることに対して、内心で緊張が高まり続けていた。

 

 一つ前の任務に設定していた十人囃子の結成と集合は、やはり運命で決まってしまっている。どれだけメンバーを捲し立てても結局はこの日付に収束してしまった。

 

 設定された襲撃日の12月24日も完全に決まってしまっている。

 

 一度失敗してしまった以上、どう足掻いてもその日までは失敗する運命にしか収束しない。故に残された約1ヶ月の時間で原因を探って、その日に備えるしかないのだ。

 

 3回のやり直しに失敗するか、タイムリーパーだとバレてしまったら、自分一人だけがループから脱出できなくなり、事実上の死を迎える。

 

 時と運命の牢獄に囚われる怖さは彼女しか知らない。

 

 

 

 

 

「……初めましての人もいるわね。私が団長の"ドルチェ"よ。

 

 さあ、仕事を始めましょうか」

 

 

 

 

 

 2周目は原因究明の捨て石だ。あの日に何が起こったのかを突き止めなくては……。

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 12月20日

 

「あんたが長老か? オレはプロハンターのビヨンド=ネテロだ」

 

「……同じくプロハンターのカイトです」

 

「オレはゴン!! よろしく!!」

 

 突然の来訪者を見てクルタ族の隠れ里の中は騒ついていた。どこから情報が漏れたのか分からないが、侵入者を許してしまったというのは一族にとって未曾有の事態だ。

 

 長老は裏切り者の存在を疑ったが、実際は森の中に薄く張られていた里を隠す為の能力を察知したビヨンドが、3日ほどかけて抗体を生み出し、能力に小さな穴を空けて侵入した。

 

「オレはあんたらの持つ能力について興味がある。文献や言い伝えなどを調査させてくれないだろうか?」

 

「……嫌だと言ったら?」

 

 長老が一目でビヨンドの実力を感じ取って、慎重に言葉を発した。

 

「あんたが頷くまでここに居座る!! オレをどかせられると思うなよ!!」

 

「普通に迷惑だろ」

 

 腕を組みながらドカッと地べたに胡座をかいて座り込んだビヨンドに対して、カイトがげしっと軽くビヨンドの脚を蹴ってツッ込んだ。

 

「秘密の里に住む伝説の一族なんでしょ!? オレも興味ある!!」

 

 ゴンがビヨンドの真似をするように地面に座り込んで、抗議デモさながらの交渉を始めた。

 

 カイトは溜め息を吐きながら頭を抱えた。

 

 一方で長老は見るからな純粋そうな幼い子供のゴンを連れていることもあって、すぐに里に危害を及ぼすような人間達ではないと悟っていた。

 

 一番話が通じそうなカイトに尋ねる。

 

「お主らはどうやってこの里に入った?」

 

「……そこにいるビヨンドの能力で入りました。失礼ながら今、世界中が念能力で溢れつつあります。侵入するだけならオレ達じゃなくても、恐らくもう難しいことではありません……」

 

「……そうか……」

 

 長老は短くそう言うと目を閉じて考え込んだ。

 

 一族を守って来た結界がもう限界に瀕している。それは認め難い現実だった。何か手を打たなければ遅かれ早かれクルタ族は滅亡する。

 

 それを考えると彼らはその危機を伝えに来てくれたメッセンジャーのように感じられた。いや、実際にハンター協会からの使者なのかも知れない。

 

「……どうしたらいいかのう?」

 

「簡単じゃねえか、正式にどこかの国の庇護下に入ればいい。あんたらの特殊能力があるだろう? 全員が優秀な念能力者になれる素質を秘めている。欲しい国はいくらでもあるさ」

 

「何故それを知っている?」

 

 ビヨンドのざっくばらんとした返答に、長老は厳しい表情を向けて問い掛けた。

 

 ビヨンドはニヤリと笑って、鞄から取り出した分厚い本を見せながら説明した。

 

「この本に載っている緋い目を持った魔獣。これがあんたらの祖先だろう? だいぶ人間と血が混じってるみたいだが、あちら側由来の力がそう簡単に薄まる訳がねえ。隔世遺伝ってのもあるしな」

 

 ビヨンドの爆弾発言に事情や歴史を知らないクルタ族がざわつく。その後もビヨンドは、本に書かれた記録と、人類の歴史に、自身の仮説を混えて意気揚々と語り続けた。

 

 その間は興奮して周りが何も見えていないようだった。

 

 長老や一部の大人達は冷や汗を流した。一族に伝わる伝承とも一致する話だ。どこまで知られているのか。

 

「魔獣と人間が子供を作れるの!? 凄い……!!」

 

 話が終わるとゴンが目を輝かせながら言った。

 

 それに毒気を抜かれた長老は、「ふふっ」と笑い声を漏らして警戒を解いた。

 

 ビヨンドが語った話には目の美しさや値段の話は無く、ただ純粋な好奇心に溢れていることがありありと表現されていた。

 

「分かった、滞在を許可しよう。ワシの家で監視はさせてもらうがな。

 

 ……ただし、村の掟で子供達に外の世界のことを教えるのは禁止じゃ。お主らの場合は即刻追放させてもらう。

 

 ……これからはそうも言ってられんじゃろうがな……」

 

「賢明だな。……ああそうだ。丁度オレ達の後を尾けて来た奴らがいる。襲撃者かも知れん、オレが撃退してやるよ」

 

「なにっ!? それを早く言わんか!!」

 

 長老と一部の大人達は里に侵入した(よこしま)な者や、掟を破った者を粛清する念能力者である。

 

 

 

 

 

 これは余談でしかないのだが、森の中に迷い込んだ旅人であっても、掟を破れば命は無い。

 

 

 

 

 

 一同が駆け付けると、既に村の外れが何やら騒ついていた。

 

「シーラ姉ちゃん!! どうしてここにいるの!?」

 

「クラピカ!! 良かった、無事だったのね!!」

 

「長い髭の怪しげな男が里に入って来ただろ!!」

 

「凄く髪の長い目付きの悪い男もね!!」

 

「えっと……、包帯グルグル巻きのお兄さんのが怪しいけど……」

 

「あはは!! 言われてるよボノレノフ!!」

 

「言ってる場合かサラサ!! すぐに"荷物"を準備しろ!!」

 

「はーい!!」

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 12月24日

 

 依頼主に命が狙われているかも知れないということを伝えて、3人のメンバーを引き連れて護衛の任についていたドルチェは、別行動をしているメンバーからの連絡を受けて一安心した。

 

「クルタ族の隠れ里への侵入はとりあえず成功。やはり任務の失敗はこっちが原因だったか……」

 

 ドルチェはそう言って安心したのも束の間、あることに思い至って気を引き締め直した。

 

 任務の失敗に隠れ里の方は関係がない。それはつまり、今日これからここで、暗殺者との戦闘が始まることを意味していたからだ。

 

 とは言っても、下の階で待機している3人の団員達の実力を考えたら問題は無いだろう。

 

 言っちゃ悪いが、上の階で部屋に呼び出した女と遊び呆けている依頼主は、確かに要人ではあるが超大物という訳ではない。王族達や政府のトップ達の下請けとしてこき使われている程度の男だ。

 

 そんな男を殺すのに超一流の暗殺者を雇う必要はない。雇うとしたらよっぽどの金持ちか、その暗殺者と太いコネがある者だろう。

 

 ドルチェは楽観的に笑いながら下の階に向かった。

 

 下階では面倒臭い里の襲撃の方の仕事を外れた仲間達が、思い思いにくつろいでいた。これはいけない。これから暗殺者との戦闘が始まるというのに。

 

 真剣な表情で言った。

 

「あなた達、何か嫌な予感がするわ。気を引き締めなさい」

 

「何ダ団長。イツモノ勘カ?」

 

「あんたの勘は、よく当たる」

 

「何かが、来るのね」

 

 待機していたエコウとテグムとソングムが、ドルチェの言葉で警戒を強めた。

 

 まあどうせ生半可な暗殺者しか来ないだろうから、そこまで警戒する必要はないのだが。

 

 

 

 

 

 気付いたら部屋の中に一人の男が立っていた。

 

 

 

 

 

 男は部屋のドアから普通に入って来たのだが、足音も気配も、殺気すらも皆無で、部屋を見渡せる位置にいたドルチェですら、何故か反応するのが遅れてしまった。

 

 その男の一番近くにいたソングムの心臓が一瞬で抜き取られる。男の手の上でドクンドクンと心臓が脈打っている。余りにも鋭く鮮やかな早業だったので、血は一滴も出ていなかった。

 

 ソングムが一言も発することなく、バタリと床に倒れ伏した。恐るべきことに、その音でやっとエコウとテグムが男の存在に気付く。

 

 逞しい体格にウェーブのかかった長い白髪。射殺すような鋭い眼光が特徴的な獅子の如き男だった。

 

 

 

 

 

 暗殺者、シルバ=ゾルディックは心臓を握り潰しながら部屋の中をゆっくりと睥睨した。残りのターゲットに向けて悠然と歩みを進める。

 

 

 

 

 

「ソングム!!」

 

 長年連れ添った相棒の死を悟ったテグムは、猛然とシルバに襲い掛かった。鳥の羽を撚り合わせたような独特の意匠の団扇から風の刃を飛ばす。

 

 そのまま風に乗って高速で移動して、シルバに向けて勢い良く迫る。

 

 飛んで来た風の刃がシルバの体に当たり、そのまますり抜けた。

 

 

 

 

 

【肢曲 空身(うつせみ)

 

 

 

 

 

 テグムが見ているのはシルバの残像でしかない。

 

 本体は時に"絶"をし、時に残像ごとオーラを飛ばし、テグムが錯覚した分身の中に巧妙に紛れている。

 

 その時、高速で飛び掛かったテグムの体が何か強力な力に引っ張られ、思いっ切り地面に打ち付けられた。

 

「がっ!?」

 

 そして気付いた時には、超速で移動したシルバの脚がテグムの首筋に迫っていた。

 

 

 

 

 

天蓋崩し(クラウド・アトラス)

 

 

 

 

 

 一瞬の拘束と超速の移動、二手あれば殺しは終わる。

 

 目にも留まらぬ速さで脚が振り抜かれ、地面に倒れていたテグムの頭が消失した。

 

 ややあってから首を無くした胴体から、激しく血が吹き出て来た。

 

 シルバはそれを見て「失敗だ……」と、不満そうな言葉を漏らした。

 

 

 

 

 

 一瞬だけ時は遡り、部屋に入って来たシルバに襲い掛かろうとするテグムを見たエコウは、テグムと協力してシルバの隙を突こうと画策した。

 

 その時、天井から飛び出して来た強力なオーラを察知して、咄嗟にその場を飛び退く。

 

 天井を破壊しながら飛び出して来たのは、光り輝く龍の頭だった。

 

 龍の頭は床に衝突する寸前で瞬時に方向を変えて、そのまま攻撃を躱したエコウを追尾した。

 

 エコウはこれは躱し切れないと踏んで、能力を行使してこれを防御せんとした。

 

 エコウは金属やガラスを大量に食べることができる特異体質の持ち主である。戦闘時は体内に溜め込んだそれらで体を硬化させ、時に分泌して操作する。

 

 金属鎧と化した体が龍の噛み付きによる致命傷を防いだ。

 

 しかし、体に噛み付いた龍にそのまま押し込まれ、エコウは敢えなく壁に縫い止められてしまう。

 

 次の瞬間には龍の胴体の中を高速で移動した老人が目の前に現れる。

 

 老人は両手に龍の頭を纏って、何発か連撃を入れてから訝しげな表情を浮かべると、すぐに分析を完了して新たに別の箇所に攻撃を加えた。

 

「カ……ハ……」

 

「鎧なら関節を狙う。常識じゃろう」

 

 肘や膝、股下や首など、自由に動く為にどうしても硬化させられない部分が、一瞬のうちに切り裂かれた。

 

 太い動脈が切断されて激しく血が吹き出す。

 

 

 

 

 

 3秒もかからずに相手を圧倒した老人、ゼノ=ゾルディックはエコウの額にトンッと人差し指を当てると、指先から極細の龍の槍を飛ばして、トドメに硬化した頭を貫いた。

 

 

 

 

 

「まあ、硬くても硬くなくても結果は一緒じゃ」

 

 

 

 

 

 数秒の間に3人のメンバーが殺された光景を目撃したドルチェは思わず後ずさった。想像を遥かに超えたレベルの暗殺者。

 

 これではこの街で依頼人を守り切るのは現実的ではない。

 

 悪いことは重なる物で、ドルチェの携帯に隠れ里の襲撃に向かっていたメンバーからの非常事態通知と救援信号が届いた。

 

 何故かあちらも上手く行っていないようだ。

 

 

 

 

 

 その時、次の周回に気を取られた彼女の腹部から、突然腕が突き出て来た。

 

 背中から内臓に深い損傷を与えられて、ガボッと血を吐き出す。

 

 彼女が力を振り絞って何とか振り返ると、そこに立っていたのは白いボサボサな髪が特徴的な、吊り目の少年だった。

 

「油断し過ぎ。あんたのが格上だろうけど、オレの"凝"でも余裕で貫けるじゃん」

 

「……いつの……間に……!!」

 

「……? 爺ちゃんが上の階から来たんだから、そりゃオレだって階段の上から来ることもあるよ」

 

 そういう意味じゃなくて気配の消し方について聞いたのだが、もうそんなことはどうでもいい。

 

 これは明らかに致命傷だったからだ。

 

 背の高さが足りず、心臓に攻撃を入れられなかった少年、キルア=ゾルディックは悔しそうに呟いた。

 

「お腹だとやっぱ一撃は無理かあ。多少無理してでも首にしときゃ良かった……。はいお前ら!! パース!!」

 

 キルアはそう言うとドルチェの背骨を掴んで、ゼノが空けた天井の穴に向けて彼女を投げつける。

 

 そうして穴の上から楽しそうに様子を窺っていた妹にトドメを任せた。

 

 お兄ちゃんだから美味しいところは譲ってあげないと駄目なのだ。

 

「「ありがと〜!! お兄ちゃん大好き!!」」

 

 キルアの妹アルカ=ゾルディックは心底嬉しそうに笑って、背中から双子のナニカ=ゾルディックの黒い触手を無数に顕現させる。

 

 

 

 

 

友闇(アルイハナニカト)

 

 

 

 

 

 空中に投げ出されたドルチェに向けて、目にも留まらぬ速度で鞭のように触手が振るわれた。

 

 

 

 

 

「……さん……か……い……めか……」

 

 

 

 

 

 キルアに負わされた致命傷で既に虫の息のドルチェが、何か良く分からないことを呟きながら、空中で細切れになって鮮血の花火を咲かせた。

 

 

 

 

 

 10月25日

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

友闇(アルイハナニカト)

 特質系能力。

 姉妹で体を共有する。

 

 

 





百式観音は無敵の能力。
ゴンの母親……まさかな……。

今更ですが、タイムリープはガバいですよ?
こうすりゃ良かった、ああすりゃ良かったなど数え切れない程あると思いますが、雑に楽しんで下さい。
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