魔族?余は蛮族だ   作:通勤

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 大変お待たせしました。今回、大変長くなっております。


対峙するは魔王と藩王 下

「あと半日って所か……」

 

 むせ返るような戦場の熱気と膠着した状況の重苦しさの中、不意に指揮官の1人が呟いた。魔族との交戦が始まってから7時間程、絶え間無く続く魔族の攻勢に、兵達の疲労は限界に達しつつある。

 とは言え、3日前の作戦会議の時点で伝令は既に走っており、指揮官の言葉通り半日もすれば増援が到着する。人はどれ程暗い絶望の闇の中でさえ、一筋の希望の光があれば、進んでいく事が出来る。実際、未だ士気は高い。

 

「射てっ! 射ち続けろっ!」

 

 壁上で空中から迫る魔族に対し、弓兵と魔法使いそしてバリスタが、絶え間無く一斉に射撃を行っている。唸りを上げ放たれた矢に、ある者は心臓を撃ち抜かれ消滅し、ある者は体勢を崩して地へと堕ちて行く。

 

「皆っ! ここで魔族共を押し留める。ここを抜けられれば後は無いと知れ!」

 

 地上では射落とされ地面に這いつくばる魔族の掃討と、戦線の維持が行われている。幸い地上から攻めてくる魔族は空程では無いが、暴走列車の如き圧力を持って進軍する魔将軍達を抑え込むのは苦労している様だった。

 

「っが……は……」

 

 バリケードが爆ぜ飛び、身を隠していた兵士が吹き飛ばされた。受け身を取れず派手に地面に転がってしまう。

 

「負傷者を後ろへ、此奴は余が引き受ける」

 

 指示を飛ばし、余は負傷者を庇うように前へ出る。眼前に立つ魔族は、額と側頭部から計4本の角を生やしたトロールと評するのが正しいだろうか。筋骨隆々とした堂々たる体躯からは、もうもうと蒸気を立ち昇らせている。

 

「お前が俺の相手をしてくれるのか?」

「ふむ……その通り、余が相手をしてやる。存分にな」

 

 余は真っ直ぐに魔族を見据え、剣を突き付ける。睨み合ったままじっと身動きせず、互いに機をうかがい合う。

 

「シャァァァ!」

 

 先に動いたのは魔族、地面が爆ぜ、爆発的な勢いで距離を詰めると拳を振るう。空気が唸り声を上げ突風が吹き荒れる。なかなかの拳圧、並の戦士であれば、掠めただけで吹き飛ばされかねない。

 しかし、余には関係無い。拳が纏う風の流れを読み、その隙間を縫うように剣を振るう。正面から拳を捉えた刃が、その人差し指と親指とを切り飛ばす。

 

「ふむ……悪く無い……」

 

 流石、幾多の魔族を打倒し、魔王の副官たる全知のシュラハトさえも貫き通した剣、なかなかの業物だ。これであれば、余の剣には遠く及ばぬとて、魔族相手には充分。

 

「さて、始めよう。あの日の続きを……」

 

 1振りは未来を見届けるべき余の下に、もう1振りは未来を生きるべき人の子に、そしてお主の遺志は今此処に立つ全ての者と共に。

 

「フシュゥゥルル!」

 

 右拳を破壊され激情した魔族が、やたらめったらに拳を振るう。近づく者全てを破壊するそれは、正しく拳の嵐、尋常の精神では近付こうとは思わぬだろう。

 

「すぅぅぅぅぅ……」

 

 【マッスルベアー】【ジャイアントアーム】練技によって身体能力を強化し、余は正面から飛び込む。そうして余が大上段から叩きつけるように振るった剣は嵐を切り裂き、魔族を頭から容易く両断した。

 

「頭目が倒れたぞ!敵はもう疎らだ、総員押し返せ!」

 

 余の手によって魔族が消滅すると、間髪入れず指揮官が叫んだ。その言葉を皮切りに、バリケードの後ろに待機していた兵達が一斉に飛び出す。

 

「「「ウオォォォォォ!!」」」

 

 兵達は雄叫びを上げ、及び腰となっている魔族達へ挑みかかって行く。1体1であれば、事も無げにあしらう事が出来るであろう魔族達が、数の優位と形成の悪さ故に1人、また1人と討ち取られ消滅して行く。

 こうなってしまえば、立て直すことなど不可能だ。戦士としての誇り……といってもこ奴ら魔族にそれがあるかは大いに疑問だが……を投げ捨てる無様に地面を這って、撤退して行く。

 

「全員、深追いはするな!ひとまずは我々の勝利だ!」

 

 戦場の高揚に逸る兵達を、指揮官が制する。しかし、血気盛んな兵達の全てを、御す事は出来ていない。

 

「逃げるぞ、追えっ!」

「やめろ!深追いはするなと言っている!」

 

 兵達の内冒険者であろう者達が、勝利の勢いそのままに先走る。この状況での深追い、はっきりと悪手であるとは言えぬだろう。敵は完全に統率を失い、ただただ後退するのみ、深追いしても反撃を受ける可能性は低い。だが、それでも深追いすべきではない。

 追撃を掛けるに当たって、現状の戦力では詰めきる事が出来ない。中途半端な追撃は、敵に立て直す隙を与える事になる。なればこそ、今は追わず増援を待って、潤沢な戦力でもって完膚無きまでに叩きのめすべきだ。

 

「やめよっ!この戦、我らの勝利である。勝鬨を上げいっ!!」

 

 余はありったけの声を持って、指示を飛ばす。指揮官には悪いが、兵達を収める事ができぬ以上、こうする他あるまい。

 既に武器を納めていた兵から勝鬨が上がる。それは1人また1人と周囲へ伝播し、戦場を埋め尽くす。もはや、功を焦り魔族を追う者は1人もいない。この興奮が冷めてしまえば、指示を出したのが誰なのかに目が向くことになる。余は目立たぬよう早々に退散するとしよう。

 

 

「良かった……プラティナ、あんたも無事みたいだな」

「無事……?あぁ……あんな前哨戦なぞでは、余は傷1つ負わんよ」

 

 宿の食堂で食事を取っていると、ゲベールに声を掛けられた。どこか余が見つかった事に、安心したように見えるのが気になる所だ。

 

「それで……何があった?」

「はぁ……アンタにもバレバレなのか……」

 

 溜息を付くと、ぽつぽつとゲベールは語り出した。

 

「その……慣れないな、人が死ぬっていうのは……魔族が引いた後、まるでガラクタみたいに戦場に遺体が転がってた。戦いってのはこういうもんだって分かってるんだが……なぁ……プラティナ、アンタは平気なのか……?」

「そうだな……」

 

 余はゲベールの言葉に対して、搾り出すように肯定する事しか出来なかった。余は戦場で、唯ほぼ味方の損耗無しで勝ったという事実を認識しただけだった。人死に対して、一切心動かされる事は無かった。

 酷く口の中が乾く。それでも、どうにか余は言葉を続けた。

 

「お主はそれで良い……お主が生きるのは、魔王亡き平和の世だ……人死に慣れる必要も無い」

「アンタは慣れたのか……?」

 

 ゲベールの問いに、余は答えられなかった。ただ慣れてしまったのなら良かった、等の昔に割り切ってしまったのなら良かった。だが余は、始めて戦場に立ったその時、その時点で何も感じなかった。

 

「ゲベール見つかったのか?」

 

 沈黙が流れる中、そう言って入ってきたのはシュテルンで、その後に続いてワイスも入ってきた。

 

「やっぱり、人が死ぬのは辛いものですよね……」

 

 悲痛な声色でワイスが言う。余と彼らの在り方の断絶、それを実感させられる。

 

「ふぅ……お主らはもう休め、それと……これは戦場を長く生き延びてきた先達としての言葉だ……今は唯、戦い勝つ事のみを考えよ。情も後悔も希望も一切合切が迷いとなり、それが刃を鈍らせる」

「迷い……?やっぱり俺じゃあ……がぁっ……!!」

 

 弱気になっていたゲベールをシュテルンが殴った。ゲベールが軽くよろめく、2人の体格差から考えると、間違い無く全力の筈だ。余は呆気にとられ、動けなかった。

 

「弱気になり過ぎだ、お前らしくない!共に戦っている仲間達が大勢死んで、悲しいのは分かる。僕だって同じだ……!けど……いや、だからこそ僕達は戦わなきゃいけないんじゃないか、戦うのを止めてしまえば、それこそ彼らの行いは無駄になってしまう」

「……そうだな……その通りだ。この戦いを魔族との最後の戦いにするんだ」

 

 胸元を掴み、尋常ならざる熱量で語るシュテルンの言葉に、ゲベールの覚悟は定まったらしい。先程までの消沈しきった有様は鳴りを潜め、そこには煌々と燃える炎の熱量があった。

 

「助かった、シュテルン。余の持ち得る言葉ではどうしようもなかった」

「貴女に感謝されるのは、なんだかこそばゆいな……」

「ふ……まぁそう言うな。余の感謝など、そう得られるものでもない。ありがたく受け取っておくと良い」

「分かった、そう言うことにしておくよ」

 

 シュテルンは、はにかむ様に眉を下げた。

 余はその言葉を背に、ただ黙して宿を出る。既に増援は到達し、日の出を持って総力戦となるだろう。ならば、余は先んじてありったけの戦力を魔族共へぶつけておく。

 

 

 小高い丘の上、余は魔族達を見据えて立つ。夜空に浮かぶ月は大半が欠け、余の周囲は闇と静寂とが支配し、それと対照的な丘の下の軍勢の喧騒がよく聞こえる。余の頬を冷たい夜風が撫でた。

 魔力を込め練り上げられた銀に、オニキス、ガーネットを2つ、ダイヤモンド、アンバー、コーラルを触媒として加え、魔法をかけ始める。流石にこれだけの素材を掻き集めるのには、余がこれまで溜め込んできた財産のほぼ全てを投げうつ必要があった。

 

(ザス)第三階位の創(ザルド・リ・クス)従僕(メド)仮名(モメント)──従名(サイア)

 

 【クリエイト・ゴーレム】計4体の白銀の巨人が並んだ時、既に空が明るみ始めていた。事を済ませ、早く合流するとしよう。

 

「殲滅せよ……!」

 

 余の命に従い、シルバーゴーレム達は地面を揺らし、丘を駆け下って行く。魔族達は此方の存在を未だ感知できていない。これで充分、余は兵達と合流するとしよう。

 余は幻の内にある翼を広げ飛び上がると、明けの空に軌跡を残して、街へと向かって行く。余の速度なら、日の出までには戻れる筈だ。

 空気を裂き、真っ直ぐに射し込む朝日の光を抜け、飛んでいくと、やがて街を取り囲む城壁が見えてきた。城壁の外に兵達の姿は認められない。少なくとも、出陣に遅れてしまった、という事は無いようだ。

 余は門から死角になった草むらに降り立ち、そこから徒歩で城壁へと移動して行く。城門付近まで近付くと、城壁の中で響く。兵達の声と規則正しい足音とが耳に入った。余は側防塔の影に、しゃがんで身を隠し、兵達が全員出陣していくのを待つと、その最後尾にごく自然に紛れるようにして合流する。

 こうして、最後に軍勢でもって行動したのは何時だっただろうか。これ程の大戦は久方振りだ。ひりつく様な戦場の緊迫感に、気が昂り、無意識に口角が上がる。

 

「あぁ……愉しい戦いになりそうだ……」

 

 余の呟きは兵達の喧騒に掻き消される。兵達の歩みに淀み無く、正しく新たな時代への歩みが形を成したかのようだ。

 

「見えたぞっ!だが……何かが可怪しい……?」

 

 指揮官が声を上げた。魔族達を捕捉する事が様だが、生憎最後尾の余からは兵達が壁となり、それを把握する事は叶わない。ただ、戸惑ったような声の理由は、ある程度推測出来る。シルバーゴーレム達の奇襲によって、魔族達に混乱が生じているのだろう。

 

「どうしますか、隊長?」

「この状況、好機には違いない……総員、前進!!この戦いで全てを終わらせる!」

 

 指揮官の号令に歩速が上がった。やがて、余の目にも魔族達の姿が見えてくる。対処に後方の戦力を引き出したらしく、余が見た時よりも数が多い。

 

「魔法使い、狼煙を挙げろ!」

 

 指揮官の一際鋭くよく通る声で、魔法使い達が一斉に攻撃を始める。炎、雷、氷、多種多様な魔法の豪雨が、魔族に降り注ぐ。その中で、魔族達にでは無く、空へと向けて放たれた光球が空中で炸裂した。目も眩む閃光が戦場に走る。魔動機文明の言葉で言うのならば信号弾、ヒンメル等も、これを合図に動き出す手筈になっている。

 

「歩兵部隊、前へ……!魔族達を通すなっ!」

 

 指揮官の声が響く。余もまたこの戦場で存分に舞い踊るとしよう。余は片腕を正面に突き出す様に剣を構え、ゆっくりと魔族達へと距離を詰めて行く。

 

「ふっ……!」

 

 手近な魔族との距離が2メートルを切った瞬間、極最小限、地面を滑るようにして間合いを詰め、心臓に剣を突き立てる。魔族は小さく呻くと、そのまま消滅する。

 

「なっ……!?はぁっ!」

「それなりだな……だが、余には届かん……」

 

 1人倒し残心、余は突き出される5本の槍の隙間へ身を滑り込ませるように前進、無防備な背中を切り裂く。魔族は切り裂かれた所から、崩れ落ちる様に塵となって消滅する。横の魔族達も、攻撃が外れて生まれた隙を突き、兵達が討ち倒す。

 余は更に1人斬り伏せて前へ、巨漢の魔族の拳を剣で絡め取り、そのまま切り落とす。怯んだ魔族は斧が叩き付けられ、倒れ伏しながらぼろぼろと崩れ消え去って行く。

 

「っ……」

 

 周囲の魔族達をも巻き込むのを厭わず、頭上から熱量の柱が降り注がんと迫る。回避するのは当然不可能、余は抵抗する事を選択した。

 

「魔法使い!」

 

 指揮官の声が響く。

 熱線が戦場を蹂躙することは無かった。後方の魔法使い達によって、防御魔法が展開され、味方の傘となる。それは器用に味方に降り注ぐ物だけを防ぎ、魔族達は自らの味方達によって焼き払われる。当然、大半は防いで見せたが、どうしようもない弱者は容赦無く足切りされ、消滅して行く。

 かつて、余も儀式化した【メテオ・ストライク】で味方諸共、全てを消し飛ばした事があったが、その時は味方は時間稼ぎと割り切って妖魔共を使い、戦力の損耗を最小限に抑えた。それと比べると、これは余りにもお粗末、成長しきるのに人の生涯ほどの時を必要とする者を、これほどの数、使い捨てるなど、あまりにも割に合っていない。

 

「捨鉢になったのか……あるいは……」

 

 そこまで呟いた所で、答えが出た。魔族達は個人主義で実力主義だ、そこまでは余達バルバロスと変わらない。唯、魔族は例外無く刹那的だ、約束事などはあくまでその場しのぎのものでしか無く、口先でどれ程威勢の良い言葉を紡ぐ魔族も、自身の命の危機が迫れば、無様にも脱兎の如く脇目も振らず逃げ出す醜態を晒す。ある意味でゴブリンの様な下等な妖魔に近い。

 つまる所、犠牲など気にしておらぬのだ。あ奴らには味方を切り捨て、勝った後の展望が無い。

 

「味方ごと吹き飛ばそうとするとは、奴ら無茶苦茶だ……」

 

 誰かが呟くのを横に、余は無防備な魔族の胴を袈裟斬りに切り裂く。致死的な裂傷を負った魔族は、うずくまるように倒れ、消滅する。

 

「……!部隊総員、攻勢に出るぞ!」

 

 弾かれたように指揮官が叫んだ。沈黙は魔族の味方を巻き込んでの攻撃から5秒程、まあ及第点と言った所だろう。その声に従って、味方の兵達も動き出す。

 

「「「ハアァァ!」」」

 

 未だ動揺し、対処が遅れた魔族が兵達によって、1人また1人と倒されていく。

 

「シッ……!」

 

 余は1人を斬り伏せ、動揺から覚めた魔族の攻撃を身を捻って回避、その勢いを生かし、右方向に体を回転させ反撃、崩れゆく魔族の上半身が宙を舞う。更に前進し突きで1人、払うように剣を振るいもう1人倒す。

 

「ほう……」

 

 余の口から感心の声が漏れた。背後から剣を上段に構え突っ込んでくる魔族を、視界の端に捉え、身を引きながら回転して回避しようとした瞬間、その魔族は兵の1人によって脇腹を剣で突かれ、よろめきたたらを踏む。そして、怯んだ魔族に兵士は一閃、魔族は首を刎ねられ消滅する。

 その兵士は、黒髪を短く切り揃えた歳若い青年だった。中々の身のこなしだったが、重要なのはそこでは無い。この者の剣は、余の剣に酷似していた。

 

「お主……剣術は誰に学んだ?」

「師匠?師匠はシルトだ」

 

 余の問いに出てきたのは知らぬ名だった。しかし、それも当然の事、あれから100年近くが過ぎ、人の世ではどれ程の世代が移ろい変わっていったのだろうか。

 

「そうか……では、そうだな……師から何か変わった話は聞かなかったか?」

「変わった話……?」

「そうだ……ふっ……!」

 

 槍を構え距離を詰めて来た魔族を斬り捨てる。

 

「そういえば……この剣技のルーツは竜だって師匠が言ってたような……」

「竜……?」

「おっと、あぁ……確か、人に姿を変えた竜が、村の少年に剣技を教えた~とか、何とかって」

 剃刀の様な鋭い魔族の爪を身を引いて躱しながら、青年は言葉を続ける。

「まあ、ガキの気を惹くための冗談だったんだろうな。竜がいくら賢いって言ったって、言葉は話せないし、まして魔法を使うなんて」

「そうだな……」

 

 余は曖昧に答えた。余はあの夜、真の姿を明らかにして力を振るった。ブラオ村の住人であれば、空を舞い魔族と対峙する余の姿を目にしていてもおかしく無い。この青年の言う通り、師匠の冗談だという線だが、その可能性は薄いだろう。

 青年自身の言葉からも伺える通り、この世界の竜はどうしようもなく安い。余からすれば竜とは、万物の頂点であり、種としての特性として極めて強靭な肉体と、優れた真語魔法の才を持ち、神々の時代から生きる最古老の個体ともなれば、その力は古代神にさえ匹敵する。それと引き換えこの世界の竜は、少し空を飛べるだけの育ち過ぎたトカゲでしか無い。

 この世界の常識で測れば、その様な生き物が技術の祖、などと言う発想は出て来ないだろう。それが実際に有ったので無ければ。

 

「ふっ……」

「どうしたんだ? 笑ったりして」

「いや……何でもないさ。お主、思うがままに刃を振るえ、余が合わせる」

 

 案外、嬉しい物だ。自身の行いが無為でなく、確かに世代を繋いだのだと分かったのは。

 

「俺は強いぜ、合わせられるのか?」

「愚問だな」

「へぇ、随分な自信だな。じゃあ、やれるってとこ見せてくれよ!」

 

 言うが早いか、青年が地面滑るようにして距離を詰め、魔族の喉に剣を突き立てる。余が狙うのは、青年の背後の魔族。すれ違うようにして、杖を突き出した腕を切り裂く。

 

「はぁっ!」

「シィィ!」

 

 身を翻し、立ち位置を入れ替えながら、共に横薙ぎに一閃、魔族の攻撃の出掛かりを潰す。大分、周囲の戦力の割合に、戦士では無く魔法使いが増えて来た。余は飛来する魔力の枝を、すれ違うように回避し、術者との距離を詰める。その間にも、青年は1人仕留めたらしく、左後ろから気配が1つ消えた。

 

「ぐっ……」

 

 素早く左手を柄頭に添え、剣を振り下ろし更に1人。

 

「やるなぁ、お前」

「当然だ、伊達に戦場に縛られ続けてはおらんよ」

「そういや、名乗って無かった。俺はハルトだ」

「ふむ……そうだな、余は……プラティナと名乗っておこう」

 

 お互いに背を合わせ、周囲の魔族を見据えたまま名乗り合う。青年──ハルトの口調からは信頼が感じられる。

 

「『切り裂く魔法』」

 

 魔族の魔法が、余のローブを薄く切り裂く。物体1つを対象とする回避不能の一撃、余は咄嗟に抵抗し、ダメージを抑えたが、もし受け方が悪ければ、何も出来ぬまま上半身と下半身が別れを告げることになるだろう。

 

「なにっ……?がはっ……」

 

 確実に仕留められると、思い上がっていた愚か者を切り捨て、右脚を引くようにして回転、魔族の斧を、下から柄を絡めるようにして受け流す。そのまま勢いのまま、振り上げた剣を頭上で反転、魔族の脳天にをかち割る。

 複数のシルバーゴーレムによる奇襲、数で勝る軍勢による攻撃、それらによって大分魔族達は数を減らし、勢いを失い始めている。事実、戦いが始まってすぐは威勢良く掛かってきた魔族達も、及び腰と成りつつある。

 

「ふむ……」

 

 強者の気配が近付いて来るのを感じる。気配の感じる方向を見据え、右半身を引き、小脇に物を抱える様な体勢で剣を構える。

 

「一息に掛かれ!」

 

 余の視線の先、距離にして15メートル程先で、戦場に声が通り、寸分のブレなく同時に4人の兵が斬りかかった。

 

「弱いな」

「「がはっ……」」

 

 同時に4人の兵の上半身が宙を舞う。靱やかに滑るように隙のない所作で、余の眼前に其奴は姿を現した。下半身は蛇で、細身ながら鍛え上げられた上半身からは4本の腕が伸び、その手には細身の剣が握られている。目元はのぞき穴の無い仮面で隠され、側頭部からは湾曲した角が生えていた。

 

「神技のレヴォルテか……」

「お前、私を知っているのか?」

 

 呟きにレヴォルテが問うて来たが、余は黙り込み、その姿を睨みつける。此処は戦場、言葉に意味は無い。

 

「答えないか、我々には言葉がある。それなのにそれを用いないのは、無益だとは思わないのか?」

「フッ……!」

 

 余はレヴォルテの言葉を無視し、脇腹を抉るように、最小限の動作で突きを繰り出す。その一撃はレヴォルテの右下の剣によって逸らされた。

 

「お前に話すつもりが無いのなら、私もそうしよう」

 レヴォルテは4本の剣を振り下ろす。極単純な一撃、しかしだからこそ、重くそして速い。剣で受けるのは悪手と判断し、余は一歩引いて躱す。周りに視線を向けると、仲間が容易く鎧ごと断たれたのを見てか、兵達は攻めあぐねている様だった。

 

「ハァッ!」

 

 だが、そんな事は余には関係無い。レヴォルテが腕を広げるようにして周囲を薙ぎ払う瞬間、姿勢を下げ回避、剣の間合いまで身を滑り込ませ、弾みを付けて切り上げる。

 

「……!?」

 

 レヴォルテの左下の腕が宙を舞う。4刀流の剣士となど、戦った事のある者などいない、故にどうしても対処が遅れ、故にレヴォルテは脅威である。その様な事を言っていたのは誰だったか。

 だが生憎、余は4本の腕を持つ者とも、下半身が蛇の者とも、尋常ならざる筋力の者とも戦った事は生涯において数知れず、その全てに勝利してきた。

 レヴォルテは右上、左上、左下の3方向から同時に剣を振るう。余はレヴォルテの左脇をすり抜けるように回避する。

 二刀流において、片方の剣には死角が存在する。複数の剣を同時に振るう関係上、剣の軌跡が重ならない様に振るう事になるからだ。そしてそれが4本ともなれば、その傾向は更に強くなる。すべての剣が健在ならば、その死角を別の剣がカバーするだろう。しかし、それが欠けた今、回避する事は容易い。

 

「フゥッ!」

 

 レヴォルテとすれ違う形で交差する瞬間、右脚を軸に回転し、そのまま袈裟斬りに剣を振るう。蛇の下半身を柔軟にうねらせ、レヴォルテも剣を右手の剣を振るうが、余の方が早い。余の剣が、レヴォルテの右上の腕を切り裂く。切り落とすまではいかなかったが、まともに動かす事は不可能の筈だ。

 

「ハァァッ!」

 

 そして、それに合わせるように身を滑らせたハルトが、左上の腕を斬り付ける。其れなりのダメージではあるだろうが、腕の行動を潰す事が出来るほどでは無い。だが、レヴォルテが怯んだ。

 

「いけるぞっ!」

「「「ああっ」」」

 

 好機を逃さず、兵達が殺到する。その数に対し、レヴォルテは対処しきれておらず、徐々に傷を負っていく。

 

「終わりだな……」

 

 小さく呟き、剣を振り上げ踏み込んだ瞬間、風景が一変する。

 

「これは……」

 

 眼下に壮麗な街並みが広がり、ひしめき合うようにして人々が道を行き交っている。彼等は種族も年齢も様々で、年老いたトロール、手を繋ぎ合う人間の少年と少女、談笑するコボルト達、本来ならば共に同じ道を歩く事など有り得ない者達が道を行き交っている。

 

「カルゾラル高原……?」

 

 遠方の風景に目を向けると、余は小さく呟いた。カルゾラル高原、パラディアン侯爵領。辺りを取り囲む山々の輪郭は、此処が懐しき余のお膝下であると、如実に語っていた。そもそも、綺麗に修繕され気付かなかったが、余は自身の宮殿のバルコニー立っていた。

 

「やっぱり、またここに居たんだ。理想が叶って嬉しいのは分かるけど、ずっと見ていて飽きないもんだね?」

「……」

 

 宮殿の奥から、明るい赤毛の少女が出てきながら言う。そんなリーティアの言葉に、余は視線だけを向け押し黙っていた。

 

「あれ、どうしたの?そんな昔みたいな暗い顔して、珍しい」

「私は久し振りに見られて嬉しいけどね」

 

 リーティアの後に続いて出てきたのは、小柄な女性だった。しかし、小柄ながらその体型はメリハリがあり、濡羽の黒髪は丹念に結われ、顔全体をスミレ色のベールで覆っている。

 アメシストバジリスク、邪視によって対象を紫水晶に変える、余と同様の支配種、そして、余に先んじて冒険者達に討たれた同盟者。

 

「イシリシア……」

「あぁ、愁いを含んだその顔、オルレアの花の様に儚げで、水晶の様に涼やかで、本当に素敵だわ……最近はずっと機嫌が良くて、そんな顔見られなかったけど、貴女はどこか影のあるその表情が一番綺麗」

 

 イシリシアは、その白磁の様な白い肌をほんのり紅葉させ、自身の両頬に手を当て、言葉を続けた。

 

「ふぅ……」

 

【マナ解除】余は小さく息を吐き、剣を振るう。目の前の空間は切り裂かれ、文字通り幻の様に消え去る。

 

「叶わぬ理想など、ただ惨いだけだ……」

 

 周囲の様子から見るに、余が幻に囚われていたのは10数秒程、幻の中では時間が引き延ばされるなどは、していなかったらしい。しかし、致命的な不利を悟ったレヴォルテは逃げたらしく、その姿は消えていた。そして、周囲では未だ幻に囚われた兵達が、焦点の合わぬ目で立ち尽くしている。

 

「お主もそうは思わぬか? グラオザーム」

「私の魔法が解除された……貴女は何者ですか? この様な真似は、これまで誰一人として出来ませんでした。それこそハイターですら」

「来るが良いグラオザーム、今の様な児戯で終わりでは無かろう?」

 

 余はゆらりと体を捻り、グラオザームを見やる。内心の不愉快さを押し殺し、目を細め薄く笑う。余の言葉は余程癪に障ったらしく、グラオザームはその彫刻の方が余程、表情豊かであろう顔の眉間に皺を寄せ、余を睨みつけてくる。

 

「ならばもう一度、決して目覚めることはない、甘く深い幻の……」

「終わりだ。後2人は七崩賢が居て、やっとお主と余は勝負になる」

 

 グラオザームの言葉は途中で途切れる。余の剣が袈裟斬りに両断した。グラオザームの魔法は、唯幻を見せるのみで、肉体には何ら作用しない。つまり相討ちならば、それで余の勝ちだ。

 

「さっきまでのは……?」

「幻だったのか……?」

「っ……! 魔族達が引いて行くぞ!」

 

 グラオザームが塵と化して倒れると、統率すべき強者を失い、魔族達は完全に集団として瓦解した。不利を理解して冷静に引く者、死への恐怖に恐慌状態で逃げ出す者、そして狩猟者としての本能のままに向かってくる者、完全に無秩序な形相を示している。

 

「お願いです。見逃っ……」

 

 余に対し、命乞いなどという場違いな真似をしてきた魔族の首を刎ねる。命が惜しいのであれば、戦場になど出ず、ただ日の当たらぬ場所に引きこもり、震えていれば良い。

 

「この場は決したな、余は戦況の良くない場所に回るが、お主はどうする?」

「あ……ああ、俺もついて行く。ここは他の連中だけで充分そうだ」

「ふむ、では行くとしようか」

 

 余は剣を鞘に収め、甲高い剣戟の音と魔法の爆発音、そして戦場のひりつく様な熱気へと、引き寄せられる様に歩を進める。ハルトの返事が少しぎこちない様子に思えたが、気のせいだろう。

 魔族と人とが入り乱れる隙間を縫うように進んで行く。

 

「これは……」

 

 知覚を魔力探知に切り替えると、主戦場から離れた場所に、強い魔力の存在が見えた。その数2つ。そして、その付近にはそれなりの魔力が2つ。

 強い魔力同士が交差したかと思えば、一方が消える。どうやらこの2つは互いに、敵対的であったらしい。少し遅れ、付近の魔力がその1つに攻撃を行った。

 

「……!拙いな……」

 

 そこまで思考を回した時点で気が付いた。反応が消えた魔力、あれは余のシルバーゴーレムだ。主戦場から離れているのは、追い立てるようにして周囲から分断されたから。周囲の横槍が入らぬ様、自身と美味しい獲物だけの状況を作る。ガルーダやトロールといった戦士の一族が往々にして行う手だ。

 余は走るのを補助するように、地面を滑るようにして飛行する。自由自在に宙を舞う時ほどの速度は出ずとも、走るよりは圧倒的に此方の方が速い。ワイスを置き去りに、余は魔力へ向かって空気を切り裂き進む。

 

「ハアアァァァァ!!」

 

 飛翔する勢いそのままに、余は脳天に叩きつけるようにして、長身の魔族に剣を振るう。しかし、その一撃は交差した両腕によって防がれ、よろめかせ一歩後退させるだけに留まった。

 

「見事な一撃だ、これ程の攻撃が出来るものは少ない」

 

 男は心底嬉しそうに好戦的な笑みを浮かべる。余を値踏みとは随分と良い度胸をしている。余は男の言葉を無視し、ゲベール達へと視線を向ける。

 

「苦戦しておるようだな、ゲベール。安心せよ、ここからは余もやらせてもらう」

「プラティナ!? アンタ魔法使いのはずじゃ……けど、今の一撃……何が何だかわからないけど、とにかく助かった!」

 

 ゲベールは右腕を負傷し、左手で右肩を支えており、他の2人も疲労の様子が色濃く伺える。ギリギリ辛うじて間に合った、そう考えるのが正しいだろう。

 

「俺の名はリヴァーレ、戦士だ。お前達人間は、血塗られし軍神等と大層な二つ名で呼ぶが、戦士にとって言葉で語る事など、意味は無い。ただ己の名だけで充分、お前も名乗れ」

「戦士にとって言葉など意味がないか……確かにそれは余も同感だな。だが、故にこそ名乗りも不要、戦士はただ刃で語れば良い」

 

 余が剣を突きつけると、リヴァーレは大きく口角を上げ、即座に真っ直ぐ余の胴を穿つ様に拳を振ってくる。余はそれを腰を捻りながら距離を取って躱す。唸る拳が脇腹を掠めた。

 

「刃で語る……面白い、気に入ったぞ」

「っ……」

 

 余が取った間合いも瞬時に詰められる。右フック、左ストレート、右ストレート、怒涛の連続攻撃を辛うじて躱し、反撃。しかし、リヴァーレの左腕で剣の腹を弾くようにして逸らされる。

 

「ハァッ!」

「ぐっ……」

 

 剣を逸らされ無防備となった余に、リヴァーレは追撃を仕掛けてくる。空気を唸らせる剛拳の直撃をどうにか避けたが、衝撃が内臓を揺らし、大きくよろめかされる。

 

「炸裂する火球を放つ魔法」

 

 リヴァーレのさらなる追撃に差し込む様に、シュテルンが魔法を唱える。杖の先端から放たれた握り拳大の火球着弾と共に爆発し、リヴァーレに防御を選ばせた。【ファイアボール】に酷似した魔法、シュテルンは余の教えた真語魔法の知識を元に、この世界の魔法に昇華してみせた。

 

「ウラァァ!」

「軽いな」

「がはっ……!」

 

 ゲベールの袈裟斬りの一撃は軽々と受け止められ、左拳が腹部に突き刺さる。鎧は容易くひしゃげ、血を吐いてゲベールは膝から崩れ落ちる。

 

「「ゲベールっ!」さん!」

 

 シュテルンとワイスの2人が叫んだ。それも仕方の無い事だろう、放っておけば確実に命に関わる重傷だ、しかし余はリヴァーレから視線を一切逸らさない。リヴァーレの攻撃後の隙を突き、横薙ぎに剣を振るう。

 鮮血が宙を彩ってリヴァーレが大きく怯む。戦いが始まって始めての有効打、しかしリヴァーレは、地面をひときわ強く踏みしめ体勢を立て直すと、余へと連撃を繰り出す。

 

「ぐっ……」

 

 最初の右腕は躱したが、次の左腕は躱しきれず脚が縺れた所に、返しの右腕を食らう。辛うじて衝撃を逃がしたが、鈍い音が響き衝撃が、内臓まで突き抜ける。

 

「ぺっ……」

 

 余は血の混じった唾液を吐き捨てた。肋骨の1つや2つは確実に折れているだろうし、内臓にまでダメージがいっている。しかし、戦いの中の高揚感が痛みを感じさせない。

 

「まあ、しかし……」

 

 余は自嘲気味に口角を上げる。まあ仮に、体内を内側から焼き尽くさんとする劫火の痛みでさえ、戦場の余の動きを止めることはできない。戦場で動きを止める事は、敵に首を差し出すの事に他ならない。

 

「今のを食らってなお立ち続けられる。優れた戦士だ。お前の様な無名の強者がまだ居たとは、故にその実力に敬意を評し、俺もお前の得物と同じ剣で戦おう」

「ふぅ……不愉快だな。値踏みの次は何かと思えば……」

 

 余は目を細めリヴァーレを睨みつける。余が剣を使っているから剣を使う?随分と軽く見られたものだ。

 

「不愉快……? 俺はお前を存分に評価しているぞ」

 

 リヴァーレは魔法で、身の丈を優に超える大剣を創りだすと、依然変わらぬ好戦的な笑みで答える。それに対し、余はぎりりと奥歯を噛み締めた。

 

「動かないのならば、こちらから行かせてもらおう」

 

 リヴァーレが踏み込んで来る。踏み込みの爆発的な力は、物理的な圧力を発し、風圧が余の髪をなびかせる。下から上へと地面諸共切り裂く斬り上げを、余は距離を取って回避、しかし剣の切っ先がローブを掠めた。

 正直に言おう、純然たる戦士としての力量で言えば、余はリヴァーレに対して大きく劣っている。だが、余の本領はは戦士では無い。

 近付いて来る音が聞こえる。地面を踏みしめる音と、荒い息遣いの声。

 

「シィィィィ!」

 

 即座に左から右へ剣を振るえるよう、左肩に引っ掛けるようにして剣を構え、余は踏み込む。お互い剣の間合いに入った瞬間、先に動いたのはリヴァーレ、余の脚を払うように剣を振るう。

 

「ふっ……!」

 

 【ガゼルフット】余はそれを跳躍して回避、しかしリヴァーレは斬り上げへと派生する。その一撃は普通、人間であれば、空中では身動きが取れず回避する事は不可能。しかし余はドレイク、翼で風を受け横に跳躍の軌道を変え、回避する。

 

「何……?」

 

 ここにきてリヴァーレが始めて動揺を見せた。着地すると同時に、地面に縫い付けるように、剣をリヴァーレの足に突き立てたその次の瞬間。

 

「ウオオォォリァァァ!!」

 

ハルトの剣が、リヴァーレに上段から叩きつける様にして振るわれた。足を地面に縫い付けられ回避の叶わぬリヴァーレは、それでも身を捩り、腕で剣を受け止め、その反発を利用し反撃した。

 

「がっは……!」

 

 鋭く甲高い音を立て剣が折れ、弾かれた様にハルトが吹き飛ばされる。空中で捩じるように回転しもんどり打って倒れる。だが、余はそちらに目を向ける事はおろか、意識を向ける事もしない。今、余が考えるべきはただ眼前の敵を殺す事、リヴァーレが見せた確固たる隙、千載一遇の好機。

 

「オ゛オ゛オオォォォォォ!!」

 

 【マッスルベアー】【ジャイアントアーム】魔力を練り筋力を上昇させた上で、魔力を剣に乗せ全力で叩き付ける。それでもリヴァーレは完全なる虚を突いても尚、それに反応し、盾を出現させた。衝突の瞬間、魔力がスパークし稲妻の様に閃光が走り、砂煙が竜巻の如く舞い上がる。

 

「オ゛オオオオオォォォ!!」

 

 余は喉が張り裂けんばかりの咆哮を上げ、腕に伸し掛かる抵抗を振り切って、剣を振り抜いた。

 

「ふーっ……ふ……」

 

 余は息を整え、いまだ晴れぬ砂煙の先を見据える。やがて砂煙が晴れた時、リヴァーレは、ひしゃげ肘から先を失った両腕をダラリと垂らし、夥しい量の血を垂らしながら、それでも尚歓喜の光を瞳に宿して立っていた。

 しかし、未だ闘志を失わぬとて満身創痍、後一太刀でもって勝負がつく。余は盾の抵抗感に痺れの残る腕で剣を振り上げた。

 

「……!?……これは……」

 

 余が今まさに剣を降り下ろさんとした時、宙に浮かぶのは無数の剣、魔力で編み上げられ作り上げられ、整然と武器庫に納められた様に並んでいた。次の瞬間、それが暴風雨の如く降り注ぐ。この魔法の主は、今まで余に全く持って気配を気取らせ無かった。

 余の魔力は完全に尽き果て、魔法による対処は出来ない。余が唯のドレイクの範疇で在れば……

 

「余は今はまだ至らずともいずれ至る者、限界など容易く超えて見せよう」

 

【剣の託宣・運命凌駕】余は自身の限界を超越、この世界の魔法を用い障壁を展開する。剣と障壁とが拮抗し、閃光を放つ。

 

「っく……」

 

 剣が障壁を抜き、余の腕に掠った。冷静に周囲の確認をすると、ワイスとシュテルンは、既に意識を失ったゲベールとハルトを回収し、剣を生成投射する魔法に対して、防御を行っていた。しかし、余と同じ様に障壁を抜かれ、血を流しうずくまっている。

 余は彼らの前に身を滑らせ、全力で持って障壁を展開する。この状況で繊麗された術式は不要、魔力の変換効率を度外視し、唯々膨大な魔力を魔法に注ぎ込む。

 未知の魔族の魔法は、剣の投射では無く純然たる魔力の光線へと変化する。魔力の衝突によって生じる閃光は、真っ白に視界を埋め尽くし、視覚による状況の確認は出来ない。

 

「っふ……!」

 

 実際にはどれだけであったか、体感では永遠にも感じられる時間が過ぎ、攻撃が止んだ。

 

(ヴェス)第六階位の攻(ジスト・ル・バン)火炎(フォレム)灼熱(ハイヒルト)爆裂(バズカ)──火球(フォーデルカ)

 

【ファイアボール】視界が晴れた瞬間、余は攻撃に転ずる。未知の魔族が、攻撃の瞬間晒した気配に向け、火球を放つ。範囲を拡大され炸裂した火球は低木諸共、未知の魔族を吹き飛ばす筈だ。

 

「君、不思議な魔法を使うのね、本当に人間?」

 

 爆炎の中から傷1つなく現れた魔族は、少女の姿をしていた。仕立ての良いドレスにボレロを羽織り、翡翠色の長い髪を風に揺らしている。少なくとも、余の知識には無い魔族だ。

 

「ふむ……そうだ、とでも言えばお主も名乗るのか?……少なくとも余はお主を知らぬ。お主……何者だ?」

「ふふ……確かにそうね。私は臆病者なの、リヴァーレみたいに名乗るなんてしないわ。けど、お喋りは好きなの、いっぱいお話ししましょう?」

 

 余は黙り込み、思考する。リヴァーレと未知の魔族の2人、先程の障壁展開で魔力を随分と消耗し、魔法の行使にやや不安が残る。引くべきか? 否、余が引く?有り得ない。余の剣を握る拳に力が入る。

 

「どうしたの? 君もおしゃべりするのは、とても人間らしいと思わない?」

 

 余は奥歯を噛み締める。冷静になるべきだ、余だけならば、プライドを優先すれば良い。しかし、今はゲベール等が居る。己の矜持など折るべきだ。

 

「邪魔をするな。さあ、お互いの誇りに賭けて決着をつけよう」

「駄目よ、リヴァーレ引いて。魔王様からの命令よ」

「……仕方無い。名も知れぬ戦士よ、いずれまた相見えよう!」

 

 未知の魔族の言葉を、リヴァーレは不服そうに承諾し飛行、撤退していった。この状況でわざわざ伝令を使っての撤退命令、恐らくヒンメル達は成したのだろう。命令が出せるあたり、死んではおらぬのだろうが、ここから引けば後は本拠地まで引く他ない。

 

「それで……? お主は相手をしてくれるのか?」

「まさか、臆病者の平和主義者な私は退散させてもらうとするわ」

 

 そう言っておきながら、奴が放った光線を余が防ぐと、既に奴の姿は無かった。

 

「次に会ったときは、お互い人間らしく、おはなししましょう?」

 

 後には、言葉だけが余韻を残して消えた。

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