魔族?余は蛮族だ   作:通勤

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04話 死した者そして今を生きる者

 勇者ヒンメルの誕生まで98年

 北部平原 ブラオ村

 

「これでいい?レイお姉ちゃん」

「うむ、ファーデンなかなか筋が良いな」

 手渡された生地を見ながら余は言った。余が編み物を教える事になってしまった切っ掛けは、数日前に遡る。

 

「ふむ……出来た」

 余の手の中に収まっているのは編みぐるみ。余自身の姿を模したもので、なかなか良い出来だと自負している。そして、当然唯の編みぐるみという訳では無い。

(ダヴ)第七階位の糸(セヴティ・ニ・トカ)人形(アネール)支配(サイタラ)遠隔(モートゥス)──遠操(ヨーレンオルト)

 【テレオペレート・ドール】人形は何の反応も示さない。

「やはり、まだ無理か。(ザス)第六階位の糸(ジスト・ニ・トカ)人形(アネール)支配(サイタラ)強化(ディッグ)──律動(マルトディーラ)

 【リモート・ドール】余の意識は人形に移り、自身の体のように動かす事が出来る。余の得意な魔法の1つだ。軽く体を動かし、魔法を解く。意識は再び自身の身体に戻った。

「さて、もう1つ作るとしようか」

 余は編み針を手に取り、糸を編み始める。人形はいくつあっても困らぬし、こうして手元の作業に没頭するのは、不思議と心が落ち着く。

「レイお姉ちゃん!」

 工房の扉が勢い良く開けられる。余がそちらに視線を向けると、そこに立っていたのはファーデンだった。

「ファーデンか、何用だ?」

「あっ!これ、かわいい」

 ファーデンは余が横に置いていた編みぐるみを見つけると、勢い良く手に取った。

「もしかしてこれ、レイお姉ちゃんが作ったの?レイお姉ちゃんって、意外に器用なんだね」

「意外とは心外だな、だがそうだ。余が編んだ」

 しかし子供の純粋な発言というのは、時にザールギアス神よりも残酷なものだ。

「私もお人形さん作る!レイお姉ちゃん教えて!」

「うむ、分かった」

 こうして、余は編み物を教える事となった。

 

 それにしても、子供の吸収力というのは凄まじいものがある。最初はひとつひとつの動作もぎこちなく、編み目もバラバラであったのに、たった3日ですいすいと編み進める事が出来るまでに成長した。

「これならもう余が教える事は無いな。ファーデン、これからはお主が思うがまま、想像を形にしていけば良い。免許皆伝と言う奴だな」

「ほんと!」

「うむ」

 余は大きく頷き、じっと見つめていた布をファーデンに手渡すと、ファーデンは作業を再開した。もう、余が付きっきりで作業を見ている必要も無いし、余も自身の作業を再開する。糸掛け、糸掛け、引き絞り、余と編み物の付き合いは300年以上、目をつぶっていたとしても問題無く編み進められるほど、ファーデンの筋が良くともまだまだ教え子に負けるつもりは無い。

「レイお姉ちゃんは誰から教わったの?」

 手元の作業に没頭していると、不意に話しかけられた。

「ふむ……余に教えてくれたのは、ばあや……。その……なんといったら良いか……そう、お手伝いさんと言えば良いのかな……」

 そう……余にこれを教えてくれたのは屋敷で働いていた奴隷、うまく言葉を選ぶ事が出来たのなら良かったのだが。

「お手伝いさん!レイお姉ちゃんお嬢様だったんだ。あれ……?けど、小さい頃からずっとこの村に住んでたってママが……」

「ふふっ……確かにそうであったな。一つ覚えておくと良い、秘密は人を魅力的に見せるものだ」

「むー!レイお姉ちゃん誤魔化した」

 ファーデンは頬を大きく膨らませて抗議した。その時、慌ただしく走って来る音が、外から聞こえた。

「レイちゃん!来てくれ!速く!」

 勢い良く扉を開け、男性が入ってきた。息を切らし、酷く慌てた様子だ。余は男性の様子を見ながら記憶の中を漁ると、その理由はすぐに把握出来た。男性の妻の陣痛が始まったのだろう。

「分かった、向かうとしよう。ファーデン、悪いが今日はお開きだ」

「うん、レイお姉ちゃん分かった」

 糸と編み針とを片付け工房の外に出る。

(ヴェス)第六階位の封(ジスト・ガ・レガ)封印(シルト)閉鎖(グロス)強化(ディッグ)──強錠(ハルドダルド)

 【ハード・ロック】余が指定した合言葉を使うか、魔法を解除せぬ限りこの扉は開かなくなった。

「これで良し。では案内してくれ」

「分かった、レイちゃん!」

 男性の後ろに続き、走って行く。数分もすると男性の家にたどり着いた。

「ぬうううぅぅぅぅ!!」

 男性の家に入るとすぐに、獣の様な唸り声が聞こえる。どうやらいきんでいる様だ。男性はついてすぐに、飛び込むようにして中に入って行った。余も続いて入って行く。

「レイライン、頼むよ」

「うむ」

 中に入ってすぐ、産婆に促される。

(ザス)第3階位の快(ザルド・ロ・オン)地精(グラド)噴出(コルリス)──噴地(クラテルアルス)

 【レイジング・アース】絶えず傷を癒やし続ける魔法。しかし出産の間、掛け続けるのは無理だ。適宜、大きく負担が掛かる瞬間に合わせなければならない。その判断は余にはつかぬが故、産婆に判断してもらう。

「んうううぅぅぅぅ!!」

「そう!良いよ。息を吐いて〜」

 妻の様子を男性は固唾を飲んで見守っている。余たちドレイクは卵生で、しかも竜の姿で出産する。赤子というのは、母体に対して卵よりよっぽど大きいし、引っ掛かりもある。人間の出産というのは随分と大変だ。

 

「良く頑張ったね、元気な男の子だよ」

 無事に産まれた子は産湯に浸かり、大きな泣き声を上げている。余の最後の仕事はもう間もなく、後産が終わった後、母親に回復魔法を掛けることだ。

(ザス)第二階位の快(ゼガ・ロ・オン)地精(グラド)治癒(イーア)──地快(アルドメディカ)

 【アース・ヒール】出血も止まり、これで大丈夫のはずだ。外を見てみると、空は既に白み始めていた。流石に余も眠い。

「レイライン、お疲れ様」

「うむ、お疲れ様」

 産婆に挨拶し、その場を後にする。外に出ると1人の少女が駆けてきた。

「レイ、無事に産まれた?」

「ああ、母子ともに健康だザフィーア。元気な弟だよ」

「そっかぁ、良かった……」

 余の言葉に、ザフィーアは安堵の声を漏らした。

「しかし……弟か……」

「ん?何か言った?」

「いや、何も言っておらぬ」

 

 

 余にもかつて弟がいた。剣を持たず臆病で、そのくせ下らぬ正義感と行動力だけはある愚かな弟が。余が奴と始めて顔を合わせたのは、齢50を超えたばかりの頃。当時、最年少のドレイクバロンで、余の配下の部隊の1つそこに一般兵として奴はいた。

 敵対するバジリスクの拠点に対する陽動を兼ねた奇襲、それが与えられた命令だった。その際、余は戦いたくないと言う奴の意思を聞き、戦闘行動中行方不明に見せかけ、奴を逃がした。

 そんな奴と再会する事になったのは、それから100年ほど後の事。余は自身の領地を持つカルゾラルの藩王にして、ドレイクバイカウントとなっていた。そんなある時、領内の人族が組織的かつ大規模な反乱を起こす。その鎮圧に出た余は、奴と再会する事となったのだ。その反乱の首謀者であった奴に……

 結果として見ればそれは、極ありふれた悲劇でしか無かった。姉と敵対した弟が姉の手によって討たれる。そんなものは、我らの社会において日常の様に起こり得る。かつて逃げた後、何処なりと消え失せてしまえば良かった、余の膝下に等、戻って来なければ良かった。本当にどうしようもない愚弟だ。

 

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