この話を聞いたファルゼイは、次の船が出るまでの間過ごしたルギナの街の印象がそれまでとは大きく変わってしまったと語っている。
別に、彼らが余所者に冷たいわけではない。古い要塞から見る海は見事なものであり、海にも近いダーセバラ地域で育ったファルゼイが見てもまた格別のものであったという。僕としてはダーセバラの海も悪くないと思うのだが。そのため、ここを訪れる人の中には観光を目当てにしている人もいる。
旅の人にファルゼイが聞いた限りでは、特に問題を感じることはなかったようだ。つまり、ルギナの街の人々の言う
そういう思索を重ねながらも、ファルゼイはルギナの街の色々な所を巡って歩いていた。城壁は残っている場所も多かったが、行き来は自由であった。肌の色、髪の色、目の色も様々であり、誰が壁の外の人か、あるいは内側の人かを見分けることはできそうになかった。この街は先にも述べたように移民によって作られたものだ。
出自を辿れば、どの地域に由来するかはわかっただろう。ただ、それでも
その上、そういうことを直接尋ねるのがある種の禁忌となっていることもファルゼイは感じていた。ではなぜ彼らが
「ああ、その件か」
港街の宿場に近い酒場で、ファルゼイはある男から話を聞いていた。東方のリーバイ国から茶の買い付けに来た船の船員であり、荷積みの途中でここに寄っていたのだ。酒を奢るから話を聞かせてくれと彼の母国語で話しかけるだけで、ファルゼイは相手からの信頼をすぐに得ることができた。こういう時に多言語を話せるというのは強いのだろう。
「話は聞いたのですが、よくわからないところも多いのですよ」
「仕方ないさ。君たち西方人は我々東方人の区別がつかないだろう?」
「……そうでもないですよ?」
「ほう、じゃあ俺のことをどう見る?」
「言葉が綺麗ですよね。訛りからして出身はダルハンの近くでしょうか?船に関わる仕事となると、実際は下流のあたりの港街出身でしょうか?」
手帳の記録には予想が当たったとあったし、ファルゼイがここまで言ったのはおそらく間違いないだろう。
「……怖いなお前。実際にそうだよ、一時期は親と共にダルハンにいた」
「なるほど。とはいえそれ以上は無理です」
「そうであってくれ。ああ、それで……『外側の人』、の話だったな」
船員とファルゼイの会話は基本的にリーバイ語であった。これは周囲の人に聞かれないようにという配慮であるとともに、下手に部外者がこの言葉を口にすることで起こる問題を避けるためのものでもあった。この問題について気づく来訪者は決して多くはなかったが、この船員はそこの機微が良く分かる人物であった。
「ええ、そうです」
「……ここの人達には、わかるようだ」
「何なのでしょうね」
「さあな。振る舞いか、言葉使いか……。あるいは」
「あるいは?」
「案外、誰もわかっていないのかもな。雰囲気で相手を『外側の人』扱いして、もし怒られたら違うと考える。まあ場合によってはそんな強く反論するということは実際にそうなんだろう、と言っていてもおかしくはない」
そう言って、船員は小さく笑った。
「……そうです、ね」
「おい冗談だ、真に受けすぎないでくれ」
この船員の言葉はそこまで詳しくない部外者からの分析であったが、ファルゼイは彼の話しぶりからそのような考え方にある種の真理のようなものがあると感じていた。
「……そういうことが、起こりうるのでしょうか」
「俺の地元では川のどっちに住んでいるかで似たようなことがあったぜ、碌でもないことだがな」
そう言って、船員はファルゼイに奢られた酒を呷った。
「そういうのは、どこにでもあるものなのですね」
「あんたの所にもあるか?」
「山の方に住んでいる人の中で、特定の姓の人は猪を狩れないんですよ」
「それは少し違うかもしれないが……まあ、ただ自分ではどうしようもないことに縛られるのは厄介だよな」
実際、ファルゼイが語った例は家名の由来が「猪」であるために狩るのを避けている、という話である。なお食べる分には問題がないようだ。
「ですね」
「そう考えると今の船は悪くないな、働けるか働けないかだけが判断基準だ。どうせ縛られるのならこっちのほうがいい」
そう言って笑う船員にファルゼイも同調したが、実際の所ファルゼイはそういう環境は苦手だったように僕は記憶している。
なお、この物語にはつまらない結末がある。最近の調査によれば、彼らは誰が
正直なところ、僕としてはこちらのほうが怖いと感じる。