竜と戦った九人   作:小沼高希

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スヴェインスダー・ハロンシェイムの大砲
スヴェインスダー・ハロンシェイムの大砲 一


「よろしいですかな?」

 

ファルゼイが昼食を食べていると、老紳士が向かいの席に座った。

 

「ええ。ワドトラからの方ですか?」

 

その前日に飛船はキイノギン国の首都、ワドトラに停泊しており、補給と旅客の乗降を済ませていた。

 

「その通りです。いやはや、行きは列車だったのですが色々と面倒なことが起きましてね」

 

その頃には大陸横断鉄道はいくつかの場所で寸断されており、全線が改めて使えるようになったのは混乱が一通り収まってからとなる。

 

二人は自己紹介も交えながら情勢や飛船についての話などをしていたが、その中でファルゼイが少し過去の話を出すと相手は興味深そうにそれを聞いた。

 

「おや、ファルゼイさんはヴォール軍の方でしたか。我が社もよく納入させてもらっていますよ」

 

そのウィルダーという男性は、カズルズ火器社の東方事業局の長であった。当時のカズルズ火器社は広く大陸の各国に砲や銃を提供する大企業であり、その技術力は他社を十年以上先取りしていると言われたほどのものであった。

 

「ええ、まあ我が国も決して新規開発に力を注いでいないというわけではないのですが、そちらの製品は見事だとは聞いています」

 

「自慢の品ですからね」

 

「……そういえば、もともとは竜のための砲を作っていたのでしたっけ」

 

ファルゼイがぼんやりとした記憶から言うと、ウィルダーは大きく頷いた。

 

「ええ、何を隠そう、私はもともと開発局にいましてね、当時そこの長であったハロンシェイムという方から色々学んだのですよ」

 

「スヴェインスダー・ハロンシェイム?」

 

ファルゼイがその名前を出したのは、半ば無意識であった。

 

「おや、知っているのですか?」

 

「伯母が昔名前を言っておりまして」

 

「まさに彼です。いやはや、そういう話ができる機会がこういう時に訪れるとは。なかなか世の中は面白いものですな」

 

そう言ってウィルダーは嬉しそうに笑い、ファルゼイに夜にまた食堂で会おうと約束をした。

 

何があるのかと少し期待しながらファルゼイが夕方に訪れると、老紳士は何枚かの図画を用意していた。

 

「……これは?」

 

「我が社の対竜砲です。基本的な設計はハロンシェイムの頃と変わっていませんがね」

 

「今は竜を相手とする人も少ないでしょう」

 

「一部にはまだあるのですよ。それと、会社の目的を忘れるわけにはいきませんからね」

 

読者のために、対竜砲というものを説明しておく必要があるだろう。

 

もともと竜の気を引くために使われていた火薬は、それ自体が生む衝撃によって竜に致命傷を与えられるほどにまで発展した。しかしながら、そのような状態を作るためには竜が止まっているか、あるいは大量の砲で狙う必要があったのだ。

 

だが、スヴェインスダー・ハロンシェイムのような技術者たちはその問題を解決した。これが竜の排除を加速させ、人間を最終的に地上の支配者とすることに貢献した要素であると主張する人もいる。

 

「対竜砲と一般的には呼ばれますが、これには種類があるのはご存知ですか?」

 

そう言ってウィルダーは左右に二つの砲の図面が描かれた青写真を示した。

 

「銛砲と徹鱗弾用の砲、ということでいいでしょうか?」

 

「その通りです」

 

ファルゼイの理解に、ウィルダーは嬉しそうに頷いた。

 

「銛砲は文字通りに銛を飛ばすものです。古くから遠距離攻撃のための道具として投げ銛は用いられていましたけれども、それを火薬で打ち出せるようにしたものです」

 

「思ったより、先端が尖っているわけではないのですね」

 

「むしろ平らなほどです。理由はわかりますか?」

 

「……いえ、鋭いほうが刺さりやすいとは思いますが」

 

ファルゼイが答えを出せないのを見て、老紳士は少し意地悪そうに笑った。

 

「いや失礼。確かに、多くの人はそう思っていました。かのハロンシェイム氏でさえもそうです」

 

「実際は違うと?」

 

「ファルゼイさん、池に石を投げるような水切りをやったことがおありですかな?」

 

「ええ、あまり上手くはありませんが……、なるほど、弾かれるのですか」

 

「その通りです。動く竜を正面から狙うのは困難ですから、当たりやすくするということは重要なのですよ」

 

「それで、銛で動きを封じた竜にたいしてこちらの砲を打ち込む……」

 

「ええ。かつて鋳造の砲弾を使っていた時代ではしばしばその威力を十全に活かすことができませんでした。しかし徹鱗弾によって、文字通りに鱗を貫く事ができるようになったのです」

 

鱗より硬いものを、十分な速度でぶつければ良いという発想だ。もちろん鱗は鋼鉄より柔らかいために、我々が知るような砲弾に用いられる硬合金は要求されない分技術的には作りやすいものとなっている。

 

「軍で見たものとは……また、別ですね」

 

「ええ、まあ相手が違いますからな。壕のように硬く動かないわけではなく、むしろ俊敏に動き、そして相対的に柔らかい」

 

「なるほど、そういう点で違いが生まれるのですか」

 

ファルゼイは納得し、改めて砲の構造を確認した。

 

「これはどちらとも、後ろから銛や砲弾を詰めるのですか?」

 

「そうなります。古いものですと強度と加工技術の問題から前から詰めることが一般的だったのですが、それですと撃ち直す度に手間がかかるというのは想像できますかな?」

 

「ええ、それに狙いもずれる事になる」

 

「狙いについては竜であれば相手が動くのでそこまで重要ではないにせよ、時間がかかるというのはいただけません。ただ、この後ろの部分が弱いと威力が下がるどころか、砲手に危険が及ぶことになる」

 

「……事故の話は、聞かないわけではないですからね」

 

「我々も最善を尽くしますが、それでも限界はあります。だからこそ、設計によってその可能性を最小限とするのです」

 

そう言って、ウィルダーはまた別の青写真を示した。

 

「陸砲であれば、このように大きな金属塊を後ろに置くという手法があります。ただ、これはどうしても重くなる。飛船に搭載するのであればできるだけ軽くしたいわけですから、他の手法が必要となる」

 

「それがこちらですか。螺子……なのでしょうか?」

 

「ええ、四半周ほど回すことで強固に固定を行い、発射時に生まれる気体を抑えるのです。……すみません、話しすぎてしまいました」

 

「いえ、構いませんよ」

 

ファルゼイはそう言ったが、外は既に暗くなっており食事客が増えようとする時間帯であった。

 

「あまり席を占領してもいけないでしょう。また明日、続きを話させていただいても?」

 

「喜んで」

 

そうして二人は待機していた給仕に食器を下げるように依頼し、それぞれの部屋へと戻った。

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