コンパス所属のレイ・ザ・バレルだ。 作:おほほ
アフリカ共和国オルドリン自治区。
プラントの経済特区でもあるこの街は、元自称環境保護団体、現武装団体であり反プラント・反コーディネイターを掲げるブルーコスモスから侵攻を受けていた。
空から雨のように飛来したミサイルが、街を、日常を破壊していき、至る所からは黒煙が炊き上がる。
ビームと砲弾を撒き散らして、ダガーやウィンダムはその残骸を鋼鉄の足で踏み潰し、次々と進んでいく。更に恐ろしいことに、それらの背後には一際大きな山のような黒影が存在している。逃げ惑う人達にとって、それはまさに黒き鋼鉄の死神のようであった。
人々が絶望する中、上空から四つの青い光が見えた。
「こちらは世界平和監視機構コンパス。攻撃部隊に告ぐ。ただちに戦闘を停止せよ。繰り返す───」
世界平和監視機構コンパス。
その正式名称はcompulsory observational making peace service(C.O.M.P.S)。
第二次連合・プラント大戦終結後、世界各地で過激化する独立運動や侵略行為に対抗するために、オーブ、プラント、大西洋連邦が共同して創設された組織だ。
彼らコンパスに所属するヤマト隊は、ブルーコスモスの侵略行為を阻止しに宇宙からやってきたのだ。
今のブルーコスモスは停戦協定が結ばれたのちも破壊活動を繰り返すテロリスト。まさにコンパスにとっての目の上のたんこぶと言っても過言ではない存在だった。そんな彼らがライジングフリーダムに乗るキラ・ヤマトの発言など聞くはずもなく、そのまま帰還を考えない特攻による侵攻を続けていく。
死神───デストロイ、三十メートルを超えるモビルスーツの名。
その巨大な身体のいたるところに高エネルギー砲や熱プラズマ砲などと言ったモノを装備し、歩く要塞として都市を焦土に変えようとしている。以前に戦ったことのあるキラであるからこそ、デストロイの悪逆さは理解できていた。故にそれを止めるため、フリーダムを操り死神へと向かった
イモータルジャスティスでモビルスーツと人の間に降り立ったシン・アスカは、逃げ惑う人々を守るようにシールドを大地に突き刺してライフルで応射する。
「アグネス! 援護しろ!」
「私の機体でどんな援護をしろっていうのよ! 市民を守るので精一杯!」
憎々しげにシンに答えを返すアグネスは、近接戦用ということもありギャンシュトロームのシールドに内蔵されたビームサーベルで敵機を切り裂き、すぐさま胸部のバルカンで敵を打破する。
こうして彼女が市民に近づく敵を倒すことで、ゲルググメナースに乗るルナマリアが少しでも安全に避難誘導できているのだ。しかし相手の数が多く、遠距離用が殆どないギャンシュトロームではシンの方の援護までは追いつかない。
(……こんな時、レイがいたらっ)
ミネルバで戦闘を行っていた時、遠距離射撃が苦手なルナマリアとは違って苦手分野がなかったレイは、周りの戦況や味方をみてザクファントムのウィザードシステムを変更してサポートにまわっていた。レジェンドに乗り換えてからは卓越した空間認識能力によるドラグーンも相まって、周囲の戦闘にもドラグーンでサポートし、伝説という名に恥じない強さだった。
今のように援護が欲しい時にレイならば何も言わずにやってくれたと、いないと分かっていてもつい思ってしまうアグネス。ミネルバという環境での癖が二年経った今でもアグネスからは完全に抜けきっていなかった。
思えばレイは士官学校時代から性格の悪い自身や当初落ちこぼれだったシンことを気にかけていて、周りをよく見ていたと敵機と交戦中のアグネスは不意に思い出す。ミネルバ時代は不安定なクルー達や歩く地雷源に近かったシンやアスランとも上手く交流し、雰囲気を暗くなりすぎないようにしていた。
そしてキラが1人でデストロイを倒し終えた時、形勢がが不利になったのを悟ったのか、ブルーコスモスの攻撃部隊は撤退を始めた。その方向は隣接する旧市街、カナジであった。
安堵の息が漏れる中、唐突にオルドリン守備軍の通信が入る。
<オルドリン防衛司令部より達する。この戦闘の裏にはミケールがいる! カナジを制圧し、ミケールを引きずり出せ!>
聞いた全員が息を呑む。
ミケール大佐───現在、ブルーコスモスの残存兵力を率いていると言われている男。その勢力は支援者であるロゴスや政治面で有力であった盟主であるアズラエル、ジブリールをここ数年で亡くし、おおよそテロリストとなった今でも未だ衰えたといえず、現にデストロイのような兵器を隠し持っている。
ミケールの潜伏先は未だわからず、もしもカナジにいるというのが本当であれば千載一遇のチャンスである。それはオルドリン守備軍も同じ思いなのか、これまで防戦一方だったのがミケールの存在を追ってカナジ市街地の方へと流れるように向かっていく。
そこで、上空からキラの声が響き渡る。
<警告します。進軍を中止してください。ミケール大佐はここにはいません!>
自治区の境界線を超えて撤退していったブルーコスモスの部隊に、ジンから放たれたダガー、その爆発が今度はカナジ市街地の人々を巻き込む。オルドリン自治区でやられたことを繰り返すように、ミサイルが飛んできて今度は建物を吹き飛ばす。
静止の声など聞かず、復讐心のままに進軍するオルドリン守備軍を前に、キラは何かに突き動かされるように機体を動かした。誰もついてこれない速さを出しながらビームサーベルで武器や脚部を切り、ライフルを撃つ。
攻撃が止む頃には、キラは肩で息をしていた。
その周囲は既に破壊の跡しか残っていない。
「キラ・ヤマト───准将以下四名、乗艦許可願います」
未だ准将という肩書きに慣れていないのか、敬礼した後に少し言葉につまるキラ。
「許可します、お疲れ様」
それに対し、この艦の艦長であるマリューラミアスは柔らかい口調で答えた。
ここはコンパスに所属する艦であるアークエンジェル。
彼らの母艦であるミレニアムは宇宙空間に待機しており、帰投するまえに補給と報告の必要があったのだ。
コンパスは救難、復興支援も行う一方で、今回のヤマト隊のようなブルーコスモスの破壊活動に対する出撃が殆どである。未だ世界中に多くの火種が埋まっている中で、このコンパスの動きには注目が集まっている
「被害の状況は?」
「いまのところは死者257名、うち民間人が68名……たぶん、もっと増えると思うわ」
「彼の参戦はフェイク。ザフトに国境侵犯させるのが狙いね」
マリューが沈んだ顔で言い、シンは肩を落とした。彼らが考えていた通り、カナジにはミケール大佐はいなかったのだ。そんな彼女の言葉にパートナーであるムウが吐き捨てるように言う。
「自分と同じ名前をエサにすりゃ釣り出せると確信してるんだろ。ドマ、エーロン、ライハと毎度同じ手口だ」
「ええ……」
「あいつら、こんなこといつまで続けるんすか⁉︎」
ブルーコスモスの襲撃パターンは同じだ。前触れもなくプラントに関係する場所や建物に攻撃を仕掛ける。母艦などは動かさないから、察知もしにくいのだ。そこでミケールの名を使ってプラントに国境侵犯させることで優位に立ちたいのだ。
「でも続いてる…………だから問題なんだ」
「根の深い問題だぜ、実際」