ホワイトルーム生、沼津に引っ越す 作:マツタケ星人
「ごめんねぇ、こんなところまで来て貰っちゃって」
「いえ、それは全然構わないんですが…ほんとに大丈夫ですか?俺なんかが来てしまって」
「いいのよ、お母さんの古い友人からの頼みなんだって。だから遠慮しないでね。夏目くん」
「こちらこそ。えっと…」
「高海志満よ。よろしくね」
「志満さん…ですね。よろしくお願いします」
自己紹介をして丁寧に挨拶する俺。沼津駅からバスで40分近く移動したどり着いたのは海岸沿いにある伝統ありげな旅館。元々旅館という情報は貰ってはいたが、思ったよりも大きくは無いらしい。だが地元の人たちには愛されてるのだろう。その証拠にお客さんの姿がチラホラと見て取れる。平日の昼間にもいるということはそれほど人気だということだ
「そうね、そしたらまずお部屋に案内するわね」
「ありがとうございます」
それから2階の奥の方へ歩く。
「ここよ」
旅館の端の方だろうか。一番端の部屋から2番目の部屋に案内される。
「ちょうどこの部屋が空いてて良かったわ。これからはこの部屋で生活してね」
「何から何までほんとにありがとうございます」
今まで感じたことは無かったが俺はもしかしたら運がいいのかもしれない。あまり論理的な考えでは無いが、あの施設を抜け出す時にも今回のことも運がいいとしか考えられない。
これは何かしらの恩義を返さないとな…あまりにも良くしてもらいすぎてる
「いいのよ。それじゃ荷物運ばないとね…。千歌たちがいたら良かったんですけど」
「千歌…?」
「あら?聞いてないの?私たちは三人姉妹で私が1番上。順番に美渡、千歌よ。千歌は高校2年生だから夏目くんの1個上ね」
志満さんは綺麗な笑顔で家族構成説明してくれる。美人だと思ってはいたが笑顔になるとより強調されているな
「さてとそれじゃ荷物を…」
「あ、それは全部俺がやるので大丈夫です」
「え?ほんとに大丈夫?」
「はい。それくらいは自分でやらないとさすがに申し訳ないので」
「そう?それじゃ、私は戻るから何かあったら呼んでね?」
「わかりました。改めて言わせてもらいます。何から何までほんとにありがとうございます」
「ふふ、礼儀正しいのね。」
「…そうですか?」
「そんなにかしこまらなくてもいいのよ。気軽にね?」
「…それはおいおいということで」
「うん。それじゃまた」
そういい先程の作業に戻っていく志満さん。ほんとにいい人だな…
さてと俺も荷解きに移るとしよう。まずは荷物だ。ホワイトルームにいた俺はそこまで荷物が多い訳では無い。とはいえ必要最低限の荷物は保護施設にいた時に揃えていたのでその分がある。数で言うと大きめのダンボールが3つ。
「とりあえず一気に運ぶか」
そう呟きながら荷物が置いてある場所に向かう。
荷物の重さ的にも一気に運んで支障はないだろう
☆
一通り荷物を設置し終えたあと少し時間ができる。時計を見ればまだ15:00を少しすぎたくらいであることが見て取れた。
「どうするか…」
志満さんに旅館の手伝いはないかと聞きに行ったらもう少し慣れてからでいいと言われてしまった。なので一言で言えば暇な時間ができてしまったのだ。今から沼津市内を回ってもいいが、それはもっと時間がある時にしたいしな…
そうだな…この辺りを散策するか。この辺りは沼津市内の内浦という地域で市街から少し離れた場所にある。だがその分あまり人が多くなく散策しやすそうだ。それに時間的にもいい感じになるだろう
それから俺は志満さんに少し散歩してくることを伝え旅館…もとい新しい家を出て外に出る
さてどっちに歩くか。ここまでの道のりは覚えているため行くならまだ未知の方面。つまり左だ。海岸沿いに少し歩いていこう
そう思い、足を動かす。今日は晴れなので富士山も見えている。思った通りいいところだ。海に山、日本の魅力が詰まっている気がする。ホワイトルームに隔離されていた俺にとってあくまで気がするだけだけどな。
そういえば千歌さんは高校生と言っていたな。ならまだ学校中だろうか?もしかしたら同じ高校かもな。
…そう。俺は高海家に住まわせてもらうだけでなくなんと学校にも行かせてもらえることになった。正直いくらなんでもいい人すぎる気がする。変なことに巻き込まれないか心配なレベルにな…
ないとは思うが、仮にもし、あの施設に関わりそうになったら俺は自分の身を削ってでも被害が及ばないようにしなければならない。これはもう俺の宿命だ。ここまで良くしてくれる人達を巻き込ませる訳には行かない。
俺が静かな決意をしながらしばらく歩くと、山に向かう道が見えてくる。山…と言ってもそこまで高くはない。近くのバス停には浦の星女学院前と書かれている。
…女学院。つまり女子校か。道からしてこの先にあるのは確実だ。この先には行かない方がいいか…?いや、ここから敷地になっている訳では無いだろう。それに道中には用水路のようなものがあった。とすると恐らくなにかの農園がある可能性が高い。行ってみる価値はありそうだ。
しばらく歩くと見えてきたのは校門のようなものに学校のシンボルマークが印象的な校舎。刻まれている名前は浦の星女学院。
「…不便そうだな」
素直に出てきたその感想。疲れはあまり感じてないがここに毎日通うとなると骨が折れるんじゃないだろうか?とはいえ市街の学校が遠い人からするとこの学校という選択肢になるのかもな
「…おぉ」
学校のを背に反対の方角には内浦の景色が一望できる場所を発見する。
富士山と海で作り上げれる絶景に俺は少しばかり心を掴まれる。ホワイトルームでのカリキュラム中、VRで見た外の景色を思い出す。あれから外に出る決意をしてからやっと今俺は自由になれたんだな…
「あれ?君何してるの?」
俺が景色を楽しんでいると、後ろの方から唐突に声をかけられる。振り向くとそこに居たのはアホ毛が目立つオレンジ色の髪の毛に赤のリボンの制服を着た少女だった。