ようこそ幻の6人目がいる教室へ 作:みたらし団子と御紅茶
みたらし団子に御紅茶は合わないと思っている者です。
4月編も後4話くらいで終了します。
黒子のバスケの内容とよう実の内容が渋滞していて、一月終わらせるのが本当に大変ですね。
しかし、乗ってしまった船ですから、限界まで頑張りたいと思います。
今回の話から、登場人物がかなり増えています。
オリジナル&久保田&よう実キャラのバスケ部主要メンバーは、ベンチメンバー一覧表に記載されている人物になります。
良ければ参考にして下さい。
※一部原作キャラが強化されていますが、黒バスの世界観だと多分こんなものだと思うんで、大目に見てください。
マジバに着くと、中には同じ学校の生徒や敷地内で働いているであろう社会人が食事を執っています。そして店に入った瞬間、丁度近くの4人用のテーブル席が空いたので、僕達は急いで注文を行う事にしました。
「お待たせ致しました。ご注文をお伺いします。」
「何を頼みますか?」
僕がそう聞くと、まず最初に須藤君が口を開きました。
「俺はトリプルチーズバーガーとベーコントマトエッグバーガーとビッグマジバーガーとトリプルチーズフィッシュフライバーガーとポテトLを4つにするぜ。ドリンクはコーラのLで。」
須藤君は二郎系ラーメンで使う呪文のような単語を並べ、大量のハンバーガーとポテトを注文しました。彼の言葉を聞いていた僕ら3人は驚き目を見開いて、須藤君を見つめます。
「ん?なんだ。注文しねぇのか?」
注文はしますが、皆君の注文の量に驚いて固まっているんですよ。しかし、店員さんが待っていますし、急いで注文を済ませなければいけません。
「い、いえ。注文します。えっと、僕はバニラシェイクで。」
「あ、えっと私はポテトSと烏龍茶Sをお願いします。」
「……わ、私は四角チョコパイとミルクティーをお願いします。」
会計は僕が纏めて支払い、待ち時間に各々から自分の購入した商品のポイント額を徴収しました。そして数分後、大量のハンバーガーとポテトを乗せたトレーと、3人分のドリンクと四角チョコパイ、ポテトSを乗せたトレーがテーブルに到着しました。
「お待たせ致しました。トリプルチーズバーガーとベーコントマトエッグバーガー、ビッグマジバーガー、トリプルチーズフィッシュフライバーガー、ポテトL4つ、コーラL、バニラシェイク、烏龍茶、ポテトS、四角チョコパイ、ミルクティーのホットSをお持ちしました。注文内容はお間違いないでしょうか?」
店員さんは肩で息をしながら、注文内容の確認を行います。須藤君の注文量が多すぎて、全部届いているかは分かりませんが、多分大丈夫でしょう。
「はい、大丈夫です。ありがとうございます。」
店員さんは僕の言葉を聞いた後、一礼して去って行きました。僕は早速バニラシェイクを一口飲みます。冷たくて甘くて美味しいです。やっぱりバニラシェイクは最高ですね。
「つか、黒子!お前それだけで良いのか?」
「ええ、僕はこれで十分です。」
須藤君がトリプルチーズバーガーにかぶりつきながら聞いてきます。しかし彼のひと口はかなり大きく、トリプルチーズバーガーはもう半分しか残っていません。恐ろしいスピードです。
ちなみに山村さんは四角チョコパイポテトを食べていて、桃井さんはポテトSを食べています。僕も何か頼めば良かったですね。帰りにもう一度バニラシェイクでも買っていきましょうか。
「す、須藤君……本当にその量を食べられるんですか?」
山村さんが心配そうに須藤君に尋ねると、桃井さんもうんうんと頷きます。
「別に、これくらい普通だろ。ちなみに帰ったら普通に晩飯も食うぜ。」
「そ、そうなんですか。」
山村さんは目を丸くして驚きながらも、四角チョコパイをサクサクと食べ進めます。
彼の食欲は少食な僕でも分かるほど異常な気がします。しかし、沢山動いた後なので、須藤君もお腹が空いているのかもしれませんし、食べるのを止める事はしない方が良さそうですね。
「あの、黒子君とさつきちゃんはバスケ部が強い学校の出身なんですよね?」
数分後、山村が思い出したように僕と桃井さんを見ながら問い掛けます。
「うん!そうだよ。私とテツ君は全中を三連覇した帝光中学校男子バスケットボール部の出身なんだ。」
「はい。そうですね。」
「……私、バスケの事は分からないんですけど、さっきキセキの世代って言葉が聞こえて。凄い人達だって事は分かるんですが、どんな人達を指す言葉なのか気になってしまって。」
山村さんはキセキの世代について気になっているようです。桃井さんは少し考えた後、山村さんにキセキの世代について説明を始めました。
キセキの世代と呼ばれた中の4人は入部時のテストで一軍入りを果たしている事、5人それぞれがオンリーワンの才能を持っている事、10年に1人の天才だと彼らが評価されている事……様々な事を話していきました。
その圧倒的な実力からキセキの世代と呼ばれた彼らは、帝光中学校バスケットボール部を三連覇へと導きました。しかし、その栄光も長くは続きませんでした。
「10年に1人の天才が5人同時に現れて、彼らはそれぞれの才能を開花させ、更に進化していくの。するとね、他の部員達や対戦相手のモチベーションが下がってしまったんだ。そしてキセキの世代とそれ以外の部員達、対戦相手との間に大きな溝が生まれてしまったんだ。だから、私とテツ君はキセキの皆の敵となって、彼らに勝ってもう一度バスケの楽しさを、協力する事の大切さを思い出して欲しいって思ったんだ。敵と楽しくバスケをする為に頑張るなんて、変な話だよね。あはは……」
「さつきちゃん……」
桃井さんは少し悲しそうな表情でそう言いました。山村さんはそんな桃井さんを見て、申し訳なさそうに目を伏せ、須藤君も神妙な顔で何か考えているようです。
「あ、ごめんね!なんか暗くなっちゃったよね!本当に、なんでこんな話しちゃったんだろ。もっとキセキ皆のそれぞれの才能や性格について話した方が良かったよね。本当にごめんね!」
そんな空気を変えようと桃井さんが明るい口調で言うと、須藤君が彼女の肩をポンと叩き、いつになく真剣な表情で話し始めました。
「桃井、謝るんじゃねぇよ。」
「え?」
「キセキの世代は強ぇ。でもよ、だからって他の部員達や対戦相手と溝を作る理由にはならねぇ。きっと、アイツらがいた環境が人間関係に亀裂を入れたんだろ?」
須藤君はそう言うと、コーラをぐびぐびと飲み、僕に問い掛けました。
「黒子もそう思うだろ?キセキの世代は確かに強いけどよ、あいつらだって人間だし、中学生だったんだ。周りと力の差が出れば、そりゃ他の部員や対戦相手だってどうしたら良いか分からなくなる。才能を妬ましく思うし、近くにいたり対戦すればそれはより顕著になる。そんな事に巻き込まれれば、才能が有る無しに関わらず、皆バスケが楽しくなくなったりもすんだろ。モチベーションが下がったりもすんだろ。」
彼の言葉はすっと僕の心に入ってきました。桃井さんも彼の言葉を聞いて瞳が潤んでいます。きっと彼の言葉が彼女の心にもすっと入っていったのでしょう。
「そして、そんなキセキの世代に対してどうにかしてやりたいと思ってる黒子も桃井もすげぇ優しいじゃねぇか。友達ともう一度笑ってバスケをしたいって思う事はなんもおかしい事じゃねぇよ。」
ずっとキセキの世代や帝光の生徒は大きなプレッシャーに潰されそうになりながらも、必死に練習を重ねてきました。練習を重ねるほど、キセキの世代と呼ばれる彼らと他の部員との差は広がっていきます。そしてその事実に部全体が不安や焦りを感じていく。
よく考えれば馬鹿でも分かる事です。でも、僕達はまだ中学生で、精神的に未熟でした。そんな僕らに気付けるはずも無く、僕達の心はバラバラになり、全中の決勝で最悪の結果を迎えてしまいました。
「俺も、いつかキセキの世代とチームを組めるくらい強くなりてぇ。アイツらは俺の憧れだからな。今のままじゃ足も頭も出ねぇけど、それでも強くなってアイツらに勝ちてぇ。俺と黒子、桃井じゃ目的が違うのかもしれねぇ。だけど、俺達は同じ部活の仲間だろ!桃井、お前が過去を話してくれて凄く嬉しかったんだ。胸張って、これから戦ってこうぜ!なっ!辛気臭ぇ顔すんなよ!」
須藤君の言葉に「手も足も出ない」とツッコミを入れる事は出来ません。だって、彼は本気で語っているのです。そんな彼に水を差すのは間違っています。それに彼の言葉はとても心地良いものですから。
もし、誰かが僕達に現状に対する助言をしてくれていたら、須藤君のように真っ直ぐな言葉を掛けてくれていたら、何か、変わっていたのかもしれません。
「……須藤君、君はどうしてキセキの世代という10年に1人の天才にそんな真っ直ぐ立ち向かおうと思えるんですか?怖くは、無いんですか?」
僕は思わず彼に問い掛けていました。しかし、須藤君は何も躊躇う事なく答えます。
「確かにキセキの世代は強ぇよ!でもアイツらだって人間だし、俺と同い年なんだぜ?意外と何とかなるかもしれねぇだろ。それに俺はとにかくアイツらに勝ちてぇんだ!」
「どうしてですか?きっと彼らと戦ったとしても、才能の差を思い知らされてしまうだけかもしれません。それが怖くないんですか?」
僕の言葉を聞いた須藤君は少し考えた後、口を開きました。
「黒子、お前はバスケが好きか?」
「え?それは……」
そんな当たり前の事を聞いてきても、僕には答えられません。
「俺は好きだぜ!バスケが大好きだ!だから勝ちてぇんだ!」
「須藤君……」
真っ直ぐな彼の目を見ていると、僕の中に何かが芽生えてくるような気がしました。桃井さんも僕と同じ気持ちなのでしょうか?彼女は真剣な眼差しで須藤君を見つめています。そして、須藤君は更言葉を紡ぎます。
「バスケが嫌いな奴があんなに上手くなるかよ。黒子も、桃井も、キセキの世代だってそうだ。本当はみんな、楽しくバスケがしたいんだろ。バスケに関わりてぇんだろ。」
「……」
僕は、中学一年生の秋、にバスケが嫌いになりかけていました。才能が無い自分が嫌で嫌で仕方ありませんでした。でも、青峰君と出会ってから、僕は少しずつ変わっていった気がします。そして、その変化のおかげで、僕は帝光中の一軍に上がる事が出来たんです。
「俺はよ!この学校で誰よりも努力して強くなってやる!そんでもってキセキの世代に勝つんだ!諦めたらチャンスすら自分の手で握り潰す事になっちまう。俺は絶対諦めねぇぞ。」
彼はそう言って、拳を握り締めました。そんな須藤君を僕と桃井さんはじっと見つめます。
『諦めなければ必ずできるとは言わねぇ。けど諦めたら何も残んねぇ。』
須藤君の言葉は、かつて青峰君が僕に掛けてくれた言葉とよく似ていました。とても懐かしいですね。
「黒子、桃井!お前らも諦めるなよ。」
「……はい!」
僕は思わず返事をしてしまいました。でも、不思議と嫌な感じはしません。寧ろ心地良いとさえ思います。きっとそれは桃井さんも同じなのでしょう。彼女は力強く頷きました。
「あ、あの!」
そんな僕らの様子を見ていた山村さんが、突然大きな声を上げました。
「わ、私も皆と一緒に全国制覇を目指したいと思いました。皆を見ていたら、私も全国制覇の力になりたい、一緒に青春がしたいと思って……」
山村さんはそう言って、少し恥ずかしそうに笑いました。
「私はバスケの知識も浅いし、マネージャー経験もありません。だけど、そんな私が力になれるかは分からないけど……」
彼女は自信無さげに小さな声でそう呟きます。しかし、次の瞬間にはその目に強い意志が宿っていました。
「……でも!皆と一緒に全国制覇を目指してみたいんです。理由も浅いです。それでも、マネージャーをしたい、と思っています。」
そんな山村さんを見て、須藤君はニヤリと笑いました。
「よっしゃ!んじゃ、まずは山村のバスケの知識を鍛えねぇとな!」
数秒遅れて、桃井さんが隣に座る山村さんに勢いよく抱き着きました。
「ありがとう!美紀ちゃん。私と一緒に頑張ろうね!」
山村さんは桃井さんの突然の行動に驚きつつも、嬉しそうに笑っています。僕も何だか嬉しくなってきました。そして僕は少し意地悪をしてみる事にしました。
「あ、でも山村さん?全国制覇はそう簡単な事では無いですよ?」
僕の言葉を聞いた瞬間、桃井さんと山村さんは一瞬固まりました。しかし次の瞬間には2人は強い意志を示してくれました。
「テツ君!夢は大きく持たなくちゃ!優勝以外、全部通過点に過ぎないんだよ!」
「……目標は大きい方が燃えるタイプ、なんです。」
山村さんはそう言って、桃井さんと顔を見合わせて笑いました。そんな2人を見て僕はまた嬉しくなります。
「そうですね。ええ、その通りです。僕も今以上に本気で取り組みたと思います。体力もつけて、少しでもバスケが上手くなりたいです。」
「おう、その意気だぜ!頑張らなくちゃな!」
そう言って笑う須藤君を見て、僕もまた笑いました。3人で笑い合っていると、桃井さんが何かを思い出したようにハッとした表情を見せました。
「ねぇ、見て!外にストバスコートがあるよ!」
桃井さんの言葉に僕と須藤君が彼女の指さす方を見ると、そこには確かにストバスコートがありました。そして桃井さんは突然立ち上がりました。
「皆料理は食べ終わったし、少し遊んでいかない?どうかな?」
桃井さんはそう言って僕達3人を見ました。僕は彼女の言葉にすぐ賛同を示そうとしましたが、僕よりも先に賛同を示した人物が居ました。
「へぇ、お前らもバスケすんのか?良いじゃん!良かったら一緒に遊ぼうぜ!」
後から声がしたので振り返ると、そこには今日の放課後に下駄箱に居た小宮君と近藤君が、バスケットボールを持って立っていました。
「西東京市の水上中出身の小宮叶吾君と、墨田区の東中の近藤玲音君だよね。」
「え、なんで俺らの事知ってんの?」
桃井さんの唐突な自己紹介に、小宮君が少し驚いた様子で尋ねました。すると桃井さんは得意げな表情で答えます。
「ふふっ、知ってますよー!なんてったって、私はこれでも帝光中一軍マネージャー務めていたんですからね。」
「まじかよ!帝光中のマネージャーって事は、もしかしてキセキの世代の?!」
「桃井さんをご存知なんですか?」
「って、ビビった。お前いつから居たんだよ?てか、中学でバスケやってて、桃井さんを知らない方がおかしいだろ。」
僕がそう尋ねると、小宮君が目を血走らせながら僕に詰め寄ってきます。そして、僕はまたもや認識されていなかったようです。
「そ、そうなのか?俺はマネージャーが居ることは知ってたが、そんな噂は知らなかったぜ。」
須藤君がそう言うと、小宮がやれやれと言った態度で自慢げに話し続けます。
「あったりめぇだろ!噂程度しか知らないが、桃井さんと言えば帝光中の美人マネージャーって噂の人じゃねぇか!」
近藤君も小宮君の言葉に同調し、言葉を続け、桃井さんについて話します。
「そうそう、桃井さんは有名人だよ。2年の時、帝光と予選で当たったが、確かその試合の時ベンチに居ただろ?」
「え、覚えていてくれてたの?」
桃井さんはそう言って、少し照れくさそうに笑いました。小宮君はと言うと、心ここにあらずと言った様子で話を続けます。
「当たり前だろ!俺はその試合の時、可愛い子が居ると思って余所見をしたら、その隙に青峰や元中学NO.1プレイヤーの虹村修造に抜かれちまったんだ。まさか、帝光が番外戦術を用いてくるとは思わなかったぜ。」
ちなみに、近藤君の発言は全て思い違いです。桃井さんは一軍付きのマネージャーであり、情報収集や分析力、戦略の立て方がピカイチだったからベンチ入りを許されていただけで、彼女の美貌で相手チームの気を削ごうとした訳ではありません。
ですが、結果的に彼女の美貌によって近藤君は本来の実力を発揮出来ていなかったそうですから、確かに彼女の美貌が策略の一部だと思われても仕方ないのかもしれません。
その後、彼ら2人を交えてバスケの話や帝光の話をし、少ししてから店を出ました。そして、ストバスコートで軽く遊ぶ事になりました。それから数十分が経過し、そろそろお開きの時間となりました。
「今日は楽しかったぜ!黒子は影薄いけどなんかスゲェし、須藤はバスケ強いし、お前ら面白ぇな。」
近藤君は爽やかな笑顔を向けながら、僕と須藤君を褒めたたえています。
「近藤君達こそ、とても強かったです。」
近藤君は桃井さんの予想通り、かなりのスタミナの持ち主で、長時間素早く動き回っても、ほとんど息が切れていません。フェイクに引っかかりやすいのが難点ですが、彼はスキルさえ鍛えれば、全国クラスの選手にだってなれる逸材です。
小宮君は須藤君や近藤君に比べたらスタミナは少ないですが、シュートフォームが綺麗で、体感の良い人物です。シュートを鍛えれば、シューターとして活躍出来るようになるかもしれませんね。
「またやろうぜ!小宮、近藤!それからバスケ部入れよ!お前らとやったらもっと楽しくなりそうだ。」
「明日の部活動説明会を聞いてから、入部するかどうか決めようと思ってるぜ。あ、そうだ!お前ら、連絡先しようぜ!」
須藤君もポテンシャルの高い2人とのバスケを楽しんでおり、とても嬉しそうに笑っています。
「おう!そうだな!ナイスアイデアだ、須藤!」
僕達は全員で連絡先を交換し、また今度遊ぶ事を約束しました。
「なるほど。ボールを投げる場所によって特典が変わるんですね。」
「うん!じゃあまずは1点のシュートとエリアを教えるね。ここの線から……」
コートの外では桃井さんが山村さんにノートを見せながら、バスケのルールに関する説明を行っており、彼女達にとっても良い時間になったようです。山村さんも楽しそうに桃井さんの説明を聞いていますし、彼女を誘う事が出来て良かったと心の底から思いました。
「んじゃまたな!俺らは今からカラオケ行くから!気を付けて帰れよ!」
「じゃあな!」
「またバスケをしましょう、小宮君、近藤君。」
「おう、またやろう!」
「またね!小宮君、近藤君!」
僕や須藤君、桃井さんが彼らに別れを告げる中、山村さんもショッピングモールの方へ歩き出す2人に小さく会釈をしました。山村さんは初対面でまだ数十分しか一緒にいない彼らに緊張しているようですが、2人も彼女を気遣ってか、小さく会釈をしてからカラオケボックスへと向かって進み始めました。
「じゃあ、僕達も帰りましょうか。」
「そうだな!」
僕と桃井さん、須藤君、山村さんは寮に向かって歩き出します。マジバは学校登寮の間にある為、下校時に寄る事が出来るので有難いですね。
そして翌日、バスケ部に新たに小宮君と近藤君が入部し、僕達は全国制覇を目指して頑張る事になるのですが、その話は割愛させて頂きます。
……何故かって?
……理由は、このままじゃいつまで経っても4月が終わらないからです。
◇◇◇
それから約2週間半が経過した頃、僕は図書室で借りる本を選んでいる時、1人の女子生徒とぶつかってしまいました。
「わっ!」
「きゃあっ!」
曲がり角で多くの本を持っていた彼女は僕に気付かず、ぶつかってしまい、数冊の本を落としてしまいました。そして、その反動で僕と彼女は床に倒れてしまいます。
「いたた、すみません、大丈夫ですか?」
僕はすぐに立ち上がり、床に倒れてしまった女性に手を差し伸べます。
「あ、ありがとうございます。本が積み重なっていて、前が見えていなかったようです。お怪我はありませんか?」
「ええ、僕は大丈夫です。貴方の方こそ、怪我はしていませんか?」
僕がそう言うと、彼女は僕の手を取って立ち上がりました。そして、本を拾い集めながら僕に謝罪をします。
「私は大丈夫です。本当にすみませんでした……あ!貴方が持っているその本!名作ですよね!」
「え、あ、はい。」
彼女は僕の持っている本を見て目を輝かせています。僕は少し戸惑いながらも頷きました。すると彼女は嬉しそうに話し始めます。
「その本は私も読んだ事があります!とても面白かったです!」
彼女の笑顔はとても眩しくて、僕は思わず目を逸らしてしまいました。そして、彼女が手にしている本が目に入りました。それは僕が今持っている本と同じタイトルのものでした。
「それ、僕も持ってますよ?」
「えっ?本当ですか?!古い本なので、知っている方はいないと思っていました!」
「僕は古い本の方が好きなんです。」
僕がそう言うと、彼女はより一層嬉しそうに笑いました。そして、彼女は僕との距離を詰めてきます。
「私、この小説大好きなんです!特にラストシーンが!」
「……僕も同じです。あのシーンはとても印象的でしたよね。まさか、あんな結末になるとは思いもしませんでした。」
僕がそう答えると、彼女は目をキラキラと輝かせながら言いました。
「あ、あの!私は1年Cクラスの椎名ひよりです。御名前を伺っても宜しいですか?」
「ええ、構いませんよ。僕は1年Bクラスの黒子テツヤです。」
僕がそう言うと、彼女は僕の名前を小さく復唱しました。そして、何かを思い出したかのようにハッとした表情を見せました。
「あ!もしかして、桃井さつきちゃんのお知り合いの方ですよね?」
「……はい。桃井さんをご存知なんですか?」
「はい。さつきちゃんとは友達なんです。たまに図書室で会うと小声でお話したりするんです。」
「そうだったんですね。」
桃井さんは読書家というわけではありませんが、恋愛小説やバスケ研究の為の本を読む為、たまに図書室に向かう事があります。おそらく、椎名さんとはその時出会ったのでしょう。それにしても、桃井さんの交友関係は黄瀬君と同じくらい広いですね。流石は人気者、皆のアイドルです。
桃井さんはその容姿や性格によって、多くの人に好かれています。友達も多く、特に異性には人気が高いです。
中学の時は青峰君が居たからか、異性トラブルが起きる事はありませんでしが、それでも学校外ではガラの悪い男性に絡まれたりしていました。その時も青峰君やキセキの皆が居たから良かったですが、この学校では彼女を守れる人は僕しかいません。
しかし、僕では時間稼ぎにすらならないかもしれません。やはり、もう少し筋トレをして力をつけた方が良さそうです。桃井さんを逃がせる程度の力が無いと、彼女を守る事は難しそうですからね。
「あの、黒子君。良かったら、私と読書友達になってくれませんか?」
「構いませんよ。僕も本を読む事は好きですし、椎名さんとは本の趣味も合いそうです。連絡先、交換しませんか?」
僕がそう言うと、椎名さんは嬉しそうに頷きながらスマホを取り出しました。そして、僕と彼女はお互いの連絡先を交換し合います。
「ありがとうございます!これからよろしくお願いしますね!」
「こちらこそ、よろしくお願いします。」
僕はそう言って軽く頭を下げました。その後、少し好きな本についての話をし、僕達はその場で別れました。僕は部活が始まる時間が近くなったので、急ぎ足で体育館に向かいます。
「こんにちは!今日も宜しくお願いします。」
「おお、宜しくなー!」
体育館に入る前に軽い挨拶を行い、更衣室に入って練習着に着替えます。そして体育館に戻り、準備運動を始めようとしたその時、突然作業室の前に立つ勝山監督が笛を吹き、集合をかけました。
「集合!」
部員全員が勝山監督の前に集まり、学年順に並んで整列します。その横に、正式にマネージャーとなった桃井さんと山村さんも立っており、バスケ部の全ての部員が勝山監督の言葉をじっと黙って待っています。
「全員腰を下ろして休め。」
「「失礼します!」」
全員がそう言い、床に腰を下ろします。
「練習の前に集まって貰って悪いな。だが、今から重要な話をするので、しっかりと聞いて欲しい。」
勝山監督はそう前置きし、近くにあったホワイトボードを反転させてそこに書かれた内容について説明を始めました。
「まず、ここに書かれているのは今月の今週以降の予定表だ。今月も週休1日、日曜休みだが、昼練は1時間半ほど行うので、必ず参加するように。そして、今週の土曜日に神奈川の海常高校と練習試合を組む事になった。そして、海常高校は午前中に誠凛高校と練習試合を行うそうなので、その見学も行う。」
誠凛高校……ですか。僕が桃井さんに誘われる事が無ければ、入学していた可能性が高い高校ですね。
創立1年目で、1年生だけで東京都の決勝リーグで4位に輝くなど、かなりの高成績を残している学校です。それぞれが互いを信じ合い、協力してプレイが出来る素敵な学校ですね。当時、帝光中ではチームプレイが欠落していたという事もあり、僕は誠凛高校のバスケ部に強い憧れを抱いていました。
「海常高校と?!キセキの世代、黄瀬涼太のいる海常とですか?!」
「まさか、黄瀬とやるのか?!」
「初っ端からキセキの世代と対戦するのか?!」
小宮君は慌てふためき、2年生の先輩方数人もも頭を抱えて、キセキの世代との対戦に怯えているようです。
そして、海常高校といえば、確か黄瀬君が推薦で入学した学校だったはずです。まさか、こんなに早く彼と再会する事になるとは、夢にも思いませんでした。
憧れた学校の試合が見れて、かつての仲間と対戦が行えるなんて夢にも思いませんでした。しかし、今の状態で黄瀬君と戦ったとして、僕達が勝てるとは思えません。しかし、せっかくの機会ですから、様々な戦略を試して、チーム力の確認もしたいですね。
「慌てるな。今から練習試合のベンチメンバーと練習試合の撮影用の同伴者を発表する。」
そう言い、勝山監督はパイプ椅子の上に置かれたファイルから1枚の紙を取り出し、それを読み上げていきます。
「3年生……日立翔、島田蓮也、滝川要、安藤海。」
「よっしゃあ!ベンチ入りだぜ!」
「やったな!海!」
安藤先輩は今までベンチ入りをした事は無いようで、滝川先輩とハイタッチをして喜んでいます。その様子を3年生の先輩方は微笑ましそうに見ており、先輩方が妬まず祝福するほど、安藤先輩は努力してきたのだと感じます。
「静まれ……よし、次は2年生の発表だ。久保田正也、中川詩音、刈谷明、東野流星。中川は今日からPGにコンバートして貰う。本人にも了承を得ている。」
「……はい。」
中川先輩は少し不安そうな表情を見せながらも、しっかりと返事をしました。勝山監督が2年生である彼にコンバートを言い渡したのは、恐らく来年度のPG候補がいないからでしょう。
中川先輩はSFとして、とても優秀なプレイヤーです。3Pの成功率も高く、中に切り込んで決める得点力のある、SFらしいSFです。しかし、彼はこの部の中でかなり頭が切れる存在でもあります。最適なパスコース、冷静な判断力も持っており、PGとなっても十分活躍出来るでしょう。
「よし、次は1年生だ。」
そして、勝山監督は次にベンチ入りした選手の名前を呼びます。
「1年生……須藤健、近藤玲音、小宮叶吾、黒子テツヤ。」
「おっしゃあ!やったぜ!」
「まあ、当然だろ。」
須藤君は大きな声を上げて喜び、近藤君はほっとしながらも口角が上がっている為、選ばれた事が嬉しい様に見えます。
「お、俺が選ばれた、のか。」
小宮君は、自分が選ばれた事に信じられないと言わんばかりの顔で、勝山監督の顔をじっと見つめています。
「いいから静まれ……今回、1年生4人には、経験を積ませる為にベンチに入れた。今回の試合、そして普段の練習で自分の価値を見い出せば公式試合に出す事も考えている。決して慢心せず、励み続けろ。」
「「はい!」」
勝山監督の言葉で、僕達はより気を引き締めました。そして、最後にベンチ入りした3年生と2年生の発表が始まります。
「最後にマネージャーと撮影同行者についてだが、今回はマネージャーに桃井さつき、撮影同行者に山村美紀に頼む事にした。宜しく頼む。」
「「はい!」」
桃井さんと山村さんは元気よく返事をし、勝山監督に一礼をします。
「当日は朝8時にバスに乗って出発する。校門の前に7時55分までに集合するように。持ち物については、バスケ部のグループチャットで伝えるので、しっかり確認しておくように。…では、今から練習を始めるぞ!準備運動を済ませていない者は、すぐに準備運動を行うように。」
「「はい!!」」
こうして、僕達の初めての練習試合に向けての練習がスタートしました。1週間後の試合に向け、僕達は日々の練習に励んでいきます。
練習試合の発表があった日から3日が経過しました。遂に明日は練習試合の日です。今日は練習試合前の最後の練習なので、皆相当気合いが入っており、ベンチに選抜された人達は僕を含め遅くまで自主練を行っています。
「よし!近藤!1on1だ!絶対に負けないぜ!」
「ハッ、そっちこそすぐにバテるなよ!」
須藤君と近藤君は練習後、いつも1on1をしています。同じ学年で同じポジションという事もあり、互方が互いをライバル視しているようです。近藤君はスタミナで、須藤君はスピードで相手の力を上回っていますが、パワーはどちらも互角です。毎回かなり良い勝負をしています。
その反対側では、日立先輩が中川先輩にPGとしての指導をしており、更にその近くのゴールで小宮君が久保田先輩と一緒にシュート練習をしています。
「あ、また外しちまった。」
小宮君が落ちたボールを拾い、またスリーポイントラインに立ちます。
「さっきよりフォームも良くなっているから、後は練習あるのみだな。ミドルシュートと違って、飛距離が長くなるからもう少しタメを長くした方がやりやすいかもしれない。」
「わ、分かりました。」
久保田先輩は小宮君にアドバイスを送り、彼はそのアドバイスを真剣に聞いています。
小宮君はミドルシュートが得意で、スリーポイントラインからでもシュートを決められる実力者です。しかし、成功率は3割程度で、外れる事が多いのだ、成功率を上げる為に久保田先輩が付きっきりで指導を行い、改善しようとしています。
「テツ君!お疲れ様!調子はどう?」
「桃井さん、お疲れ様です。やはり、今日もシュートは成功しませんでした。」
僕がシュート練習をしていると、桃井さんが声を掛けてきました。彼女は僕のシュートの精度をチェックしているようで、時々こうして僕のシュート練習に付き合ってくれています。
「うーん、そっか。インターハイまではまだ時間があるし、諦めないで頑張ろう!」
「はい!頑張ります!」
桃井さんの言葉に僕はやる気を取り戻し、自主練を再開します。すると、そんな僕の姿を見ていたのか、島田先輩がこちらにやって来ました。
「黒子、桃井、今日も練習お疲れ様。」
「島田先輩もお疲れ様です!」
「お疲れ様です!島田先輩!」
島田先輩は3年Aクラスのの方で、2メートル近い身長が特徴のパワー型Cです。性格は穏やかで、とても親切な頼れる先輩です。彼はいつも練習後、体力作りの為に外周に向かい、その後は筋トレを行っているそうで、とても真面目な方なんです。
「桃井、今後ウチのチームの主軸は須藤になるだろう。アイツは天才だとは言えない。だが、全国クラスのエースだ。帝光で分析や情報収集を行っていたお前なら、キセキの世代の強さについてももよく理解しているだろう。お前から見て、アイツはキセキの世代に太刀打ち出来ると思うか?」
島田先輩は桃井さんにそう尋ねます。彼は1年生の中で唯一の全国区の強豪校のエース経験者ですから、今後キセキの世代を含める強豪校と戦っていく上で、彼に頼らなければならない場面も出てくるはずです。
須藤君は、身体能力こそ高いですが、技術面ではまだ未熟な部分が多くあります。しかし、逆に言えば伸び代はまだある、という事です。身体能力も成長すれば強化されるでしょうし、技術面が不安なら練習を積めば上手くなるかもしれません。しかし、それでも限界値というものは存在します。
その最もたる例が僕です。僕は赤司君曰く、既に身体能力や技術レベルがほぼ限界まで到達している状態だそうで、影の薄さ無しでは選手として試合に出る事は絶望的です。
そして、須藤君にもいつか限界はやってくるはずです。その限界までの成長を考えても、成長し切った彼がキセキ相手に通用するのか、という事を島田先輩は知るために桃井さんに質問しているようです。
何故彼が桃井さんに質問しているのかといえば、彼女の分析力は選手の成長さえも予測出来てしまい、尚且つ彼女がキセキの世代の理解者でもあるからでしょう。
「……正直に言ってしまえば、彼の成長はまだ限界が見えていません。須藤君の身体能力についてはまだまだ発展途上としか言えません。しかし、キセキの世代も須藤君と同い年の高校生です。まだまだこれからも成長していきます。だから、須藤君がキセキの世代レベルになる為に必要な事は、技術面での成長ですね。小手先の技術がどれほど通用するのか、というのは疑問ですが、技術面を鍛えれば可能性は……残念ですが、それでも20%程度でしょう。」
桃井さんの言葉はとても残酷で、その鋭さはナイフの様です。しかし、全国制覇をすると決めたからには、甘い幻想に、甘い妄想に浸る事は許されません。彼女の客観的な意見こそ、重要なのです。
「……やはり、そうか。」
桃井さんがそう言うと、島田先輩は残念そうに項垂れます。しかし、そこで桃井さんは話を続けました。
「ですが、彼は努力家です!誰よりも練習を積み重ねればきっと技術は成長していきます。それに、彼はキセキの世代のような天才ではありませんが、エースという大きな看板を背負うに足る力はあります。私達はチームメイトとして、何があっても彼の力を信じるべきだと思います。悲観する必要はありません。」
桃井さんは、須藤君ならキセキの世代に通用すると断言はしません。しかし、それでもチームメイトとして彼を信頼し続けようとします。その姿勢に島田先輩も感心しているようです。
「そうだな……貴重な時間を奪って済まなかったな、桃井。」
「いえ!気にしないでください!」
桃井さんは彼にそう伝えます。その後、桃井さんは先輩に呼ばれて更衣室の清掃に向かいました。桃井さんが去った後、島田先輩は次に僕の方へ近づいてきました。
「それと黒子、お前にも話があるんだ。」
「え?僕にですか?」
僕は驚きながらも、島田先輩に聞き返します。
「ああ、お前が新たな技や戦略の模索をしていると聞いたんだ。それで、少し思いついた事がある。」
「それは……どんな事なんですか?」
僕は島田先輩の話に興味を持ち、彼に尋ねました。
「俺が思いついたのは、キセキの世代にボールを持たせないようにする事だ。黒子は相手の癖や行動パターンを分析する事が出来るらしいな。であれば、相手の行動や癖から次の動きを予測し、それを妨害する為の答えもわかっているはず。何故なら、お前はスポーツIQが高いから。」
「かなりの無茶を言いますね。」
島田先輩の言う通り、僕は相手の行動パターンを予測する事ができますが、精度はそこまで良くありません。そして、これはあくまで予想です。キセキの世代のように圧倒的な実力差がある場合は、僅かな動きや癖から次の動きを予測しても、それを超える動きをしてくる可能性があります。
「キセキの世代がボールを持ちそうになった時、ボールをスティールして欲しい。若しくは、他の選手にボールが回るように立ち回って欲しい。だが、後者の場合は、キセキの世代以外のマークに着いている者がわざと隙を作る必要がある。その後のケアも考えなくてはいけない。そして俺のこの考えは理想論に過ぎない。どこかで必ずキセキの世代にボールは回るだろう。だが、キセキの世代がボールを持つ回数は減るかもしれない。」
確かに、理論上、キセキの世代にボールを持たせなければ、僕達にも勝ち目は大いにあるでしょう。しかし、それが出来ていれば苦労はしません。ですが、その発想は随分昔に捨ててしまっていたものでした。意外と初心に帰ってみれば、何か新しい考えが思いつくかもしれません。
「なるほど。確かにそれなら、キセキの世代の居るチームの火力を抑える事が出来ます。……つまり、主にPGからのボールをスティールして欲しい、という事ですね?」
「ああ。そして、この考えは中学の時から考えていたんだ。キセキの世代にボールを回させないようにする為にな。ただ、これを実行しようとすると他の選手への負担が大きくなるから、中々実行に移せなかったんだが……だけど存在感の薄い黒子なら、マークをされにくい。つまり、俺の理想論を叶えるのに適任者なんじゃないかと思ったんだ。」
「……なるほど。ただ、あまりにも前に出すぎると影の薄さが消えてしまうかもしれません。」
僕は、島田先輩の考えに納得しつつも、少し心配な点を伝えます。
「なるほどな。お前の影の薄さにも欠点があったのか。ならば、この方法はほぼ使えないな。」
島田先輩は僕の欠点が影の薄さにある事を初めて知り、少し驚いたようです。しかし、すぐに冷静になり別の方法を考え始めます。
するとその時でした。体育館の入り口から1人の女子生徒が入って来ました。その生徒はバスケ部のマネージャーである山村美紀さんで、僕達の方へ一直線に走ってきます。
「し、島田先輩。勝山監督が職員室でお呼びです。」
「そうか!分かった、今すぐ伺おう。……黒子、お前の力になれずすまない。また話そう。」
そう言うと、島田先輩は山村さんと共に体育館を後にしました。僕は練習を再開しようとしますが、やはりシュートは決まりません。
「相変わらずシュートが下手だな、黒子。」
「あ、近藤君。須藤君との1on1は終わりですか?」
僕がシュート練習をしていると、近藤君が声を掛けてきました。どうやら須藤君との1on1は終わったようです。そして、彼は僕にこう告げます。
「須藤は今日もバテてるぜ。ほら、見ろよ。」
彼の視線の先を追うと、手足を大の字に広げて寝転がっている須藤君の姿がありました。須藤は肩で息をしながら、近藤君の言う通りスタミナ切れでバテていました。
「アイツはスタミナ不足だな。」
「ち、ちげぇよ!お前がスタミナあり過ぎるだけ、だろぉが!」
須藤君は近藤君にそう返します。すると近藤君は彼の言葉を鼻で笑い、ボールを掴んでゴール目掛けて放りました。すると、ボールはバスッと音を立ててゴールの中に落ちました。
「見てたか?黒子。シュートってのは、こうやるんだぜ。」
近藤君はニヤッと笑いながら自慢げにそう言い、僕から須藤君へと視線を移します。
「……そう言われても、僕が同じようようにやっても入りません。もう少し論理的に説明して下さい。」
「くっそ、腹立つぜ!もう一回だ!」
「ハッ、そんな状態で俺が負けるわけねーだろ。どうせお前は勝てないぜ?須藤。」
近藤君は須藤君を煽るようにそう言い、須藤君もそれに乗ります。そして再び1on1が始まりました。そして宣言通り、近藤君の圧勝で終わりました。
「くそったれがぁ!」
「はん!俺に勝とうなんて100年早えよ!」
2人はそんなやり取りをしながら、練習を再開します。僕はその2人を見ながらドリブルの練習をして過ごしました。
その後、自主練を終えて僕達はマジバに寄ってから寮に戻りました。
「では、おやすみなさい。また明日頑張りましょう。」
「おう!またな!黒子!」
「お疲れさん、黒子。」
近藤君と須藤君に別れを告げ、彼らに背を向けて、僕は自室に向かって歩き出します。すると寮の前の階段で、1人の女性か複数の袋を持ちながら手すりに掴まって階段を上っています。どうやら彼女は体が不自由なようです。僕は彼女の方へ駆け寄り声を掛ける事にしました。
「あの、宜しければ荷物をお持ちしましょうか?」
「へっ?!……い、いつからそこに居たんですか?!」
彼女はビクリと肩を揺らして僕を睨み付けます。どうやら、僕の足音すらもミスディレクションしてしまったみたいです。また驚かれてしまいました。
「すみません。驚かせるつもりは無かったのですが……僕は1年Bクラスの黒子テツヤです。その、宜しければ荷物を運ばせて貰えませんか?」
僕は彼女に謝罪し、自己紹介をしました。すると彼女も警戒しながら僕に返事を返します。
「1年Bクラスの黒子テツヤ……ああ、あなたが彼の言っていた人なんですね。」
どうやら彼女は僕の事を知っているようですが、僕の影の薄さについては知らないようです。
「……では、ご厚意に甘えさせていただきます。私は1年Aクラスの坂柳有栖と申します。宜しくお願いしますね、黒子君。」
坂柳さんは僕に荷物を預けると、丁寧にお辞儀をしました。僕は彼女の荷物を持ちながら何か会った時の為に用心しながら、彼女のペースに合わせて階段を上っていきます。
「あの、坂柳さんはもしかしてて理事長の御親族の方でしょうか?苗字が同じだと思ったので気になってしまって……無理に答える必要はありませんが、答えてくれると嬉しいです。」
僕は彼女の荷物を持ちながら、彼女にそう尋ねます。すると彼女は少し驚いた様子で僕に聞き返しました。
「まさか、初対面でそんな事を聞かれるとは思いもしませんでした。隠す事でも無いですし、素直にお話しましょう。坂柳理事長は私の実父ですよ。」
「やはりそうでしたか。失礼な事をお聞きして申し訳ありませんでした。」
僕は彼女に謝罪しますが、彼女は特に気にした様子はありません。
「いえ、気にしていませんよ……ところで黒子君。あなたはこの学校についてどう思っていますか?もし意見や感想があれば教えて頂きたいです。」
彼女は僕にそう尋ねてきました。僕は少し考えた後、素直に思っている事を伝えます。
「そうですね……この学校は実力主義を掲げていますが、今のところ実力主義だと実感するような行事や出来事はありません。ただ、クラス間の生徒の質に差があるので、まだこの学校は何かを隠しているんじゃないかと思ってます。」
「ほう。面白い考えですね。」
彼女は僕の意見を聞いて、興味深そうに笑いました。そして更に僕に対して質問を投げかけます。
「では、学校側が意図的に隠している事実があるとして、それは一体どんな事だと思いますか?」
「難しい質問ですね。おそらくですが、この学校の理念に関わっている内容なのでしょう。この学校がどんな基準でなんの為に生徒のクラス分けを行ったのか……この事実を知る事こそ、この学校を理解する為に必要だと思っています。答えになっているとは言えませんが、今の僕に予想出来る事はこれが限界です。」
僕が彼女に考えを述べると、彼女は納得したように頷きました。
「ここまで荷物を運んで下さり、ありがとうございました、黒子君。」
「いえ、これくらい当然です。」
僕は坂柳さんに荷物を返します。そして彼女は僕にこう告げました。
「もし宜しければ、今度はカフェでお茶でもしながらお話しませんか?私はあなたに興味が湧きました。」
「……僕で良ければ、是非お願いします。では、またお会いしましょう。」
「ええ。さようなら、黒子君。」
僕がそう答えると、彼女は満足そうに微笑み、寮の中へと入って行きました。僕も自室に戻ることにします。
明日は練習試合です。ずっと避けてきたキセキの世代の1人である黄瀬君との対戦です。緊張もしていますし、不安もあります。
だけど、僕はもう逃げない…そう決めました。
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■ベンチメンバー一覧
主将:日立翔(3年Aクラス)
ポジション:PG
背番号:4
身長:179cm
副主将:久保田正也(2年Aクラス)
ポジション:SG
背番号:5
身長:185cm
島田蓮也(3年Aクラス)
ポジション:C
背番号:6
身長:197cm
須藤健(1年Dクラス)
ポジション:PF
背番号:7
身長:185cm
中川詩音(2年Bクラス)
ポジション:SF→PG
背番号:8
身長184cm
刈谷明(2年Cクラス)
ポジション:SF
背番号:9
身長:188cm
東野流星(2年Aクラス)
ポジション:C
背番号:10
身長:194cm
近藤玲音(1年Cクラス)
ポジション:PF
背番号:11
身長187cm
滝川要(3年Cクラス)
ポジション:PF
背番号:12
身長189cm
安藤海(3年Bクラス)
ポジション:C
背番号:13
身長:195cm
小宮叶吾(1年Cクラス)
ポジション:SG
背番号:14
身長:178cm
黒子テツヤ(1年Bクラス)
ポジション:??
背番15
身長:168cm
監督:勝山順
アシスタントコーチ:桃井さつき
マネージャー:山村美紀
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