ようこそ幻の6人目がいる教室へ 作:みたらし団子と御紅茶
遂に海常対誠凛戦の練習試合の観戦が始まります。
今回は黒子が誠凛に居ない状態で、誠凛が海常に対抗していくのかを書かせて頂きました。
そして黒子や高育バスケ部のメンバー、その他原作キャラとの絡みも是非お楽しみ下さい。
翌朝、僕はけたたましい目覚まし時計の音で目を覚ますと、眠い目をこすりながらベッドから這い出て立ち上がります。そして洗面所に向かい、顔を洗ってから髪を整え、学校指定のジャージに着替えて朝食を摂る事にしました。
「……あれ、食パンが切れているみたいですね。」
食パンの袋を見て、僕はそう呟きます。大切な練習試合の日に朝食を食べないわけには行きません。まだ出発まで時間もあるので、近くのコンビニでパンを買う事にしましょう。
僕はコンビニで食パンを購入し、寮に戻ります。すると、寮の玄関先で僕を待つ1人の女子生徒の姿が目に入りました。その女子生徒は僕の姿を見ると、嬉しそうな表情を浮かべてこちらに近づいて来ました。
「おはよう!黒子君!」
「おはようございます、一之瀬さん。こんな朝早くからランニングですか?」
彼女は一之瀬帆波さんという方で、同じクラスのリーダー的存在です。彼女は休日、は朝からランニングをしていると話していましたが、まさかこんな早くからしているとは思ってもみませんでした。
「うん!そこの公園を5週してきたよ。朝から太陽の光を浴びて走るのは気持ちいいね。」
一之瀬さんは笑顔でそう答えます。彼女は朝からとても元気のようです。
「ところで、黒子君はどこかでお買い物をしてきたのかな?」
僕がコンビニの袋を持っている事に気づいた一之瀬さんがそう尋ねてきました。僕は素直に朝あった事を話す事にします。
「実は食パンが切れていたようでして……近くのコンビニまでパンを買いに行ってきたんです。今日は練習試合があるので、朝食を摂らないわけにはいきませんから。」
「なるほど、そういう事だったんだ。食パンが切れていたから、朝からコンビニに行っていたんだね。」
僕が事情を説明すると、一之瀬さんは納得してくれました。そして少し考えた後、僕に励ましの言葉を掛けてくれました。
「 確か黒子君は、さつきちゃんと同じバスケ部だったよね!練習試合、大変だ思うけど、全力で頑張ってきてね!応援してるよ!黒子君!さつきちゃんにも伝えてくれると嬉しいな。」
「ありがとうございます。桃井さんに責任を持って伝えさせて頂きます。……では、僕はこれで失礼しますね。練習試合頑張ってきます!」
「うん!頑張ってね!応援してるよ!」
一之瀬さんの言葉を受けて、僕は少し自信が持てた気がします。その後寮に戻って食パンにマーガリンを塗ります。それから数分後、僕はパンを食べ終え、そろそろ校門に向かう時間になりったので急いで食器を片付けます。
今日は練習試合なので、お昼には学校からお弁当が支給されるそうです。それでも足りない人は、食べ物を持っていっても良いそうですが、生憎僕は少食なので食べ物を持参する事はありません。スポドリとタオル、着替えを詰めて校門へと向かう事にします。
校門に到着すると既に多くの生徒が集まっており、僕も急いで1年生の列に加わります。
「あっ!おはよう、テツ君!」
「……黒子君、おはようございます。」
1年生の列の横に並ぶ桃井さんと山村さんが僕に声を掛けてきました。その後、他の生徒も僕の存在に気付き挨拶の言葉を掛けてくれます。
「おはよう、黒子!よく眠れたか?」
「おはようございます、皆さん。僕はとても熟睡出来たので、眠気はありません。」
そう言い、列の最後尾に並ぶ前に並んでいる2人が僕に振り返ります。
「おはよう!黒子!」
「黒子、おはよう!」
そして、ギラついた目をした須藤君と近藤君が僕に挨拶を返し、ポンと肩を叩いてきます。彼らに近付いて、僕はとある事に気付きます。
「あの……須藤君と近藤君、凄い隈が出来ています。もしかして、寝てないんですか?」
僕がそう言うと、彼らは目を見開いて驚き、僕に詰め寄って口を開きます。
「なっ、なんでだ?!」
「なんで分かったんだ?黒子。」
「目の下に隈が出来ているからです。それになんだが、君達の目は少し充血しています。そして何だかギラついているように感じますし、さっきから目をパチパチと何度も閉じたり開いたりを繰り返していますよね。」
「「あ」」
僕にそう指摘されると、2人は「あ」と口を揃えて驚き固まってしまいます。僕はそんな2人の様子を無視して、更に話し続けます。
「ここまで状況証拠が揃っているんですから、寝不足としか思えませんよ。」
僕がそう答えると、2人はお互いの顔を見合わせました。そして近藤君が僕の肩を掴みます。
「頼む!この事は秘密にしてくれ!」
「え?どうしてですか?」
僕は首を傾げながら尋ねます。すると須藤君も僕の肩を掴んで同じような事を言ってきました。
「黒子……お前なら分かってくれるよな?!体調管理すら出来てないなんて、次のIHのメンバーから外されるに決まってる。頼む、この事は先輩や監督達には内緒にしてくれ!」
「ああ、黒子!お前がこの事をバラしたなんて分かったら、俺達はバスケ部を辞めさせられるかもしれない……それだけは避けないと!」
2人は必死の形相で僕に訴えかけてきます。僕は2人の迫力に気圧されながらも頷きました。流石にそれだけの事で退部させられるとは思えませんが、彼らの体調が悪化しない限りは黙っておきましょう。
それに、彼らがいなければ海常を……黄瀬君を倒す事はほぼ不可能ですから。
「わ、分かりましたから……落ち着いてください。その代わり、バスの中では少しでも良いので仮眠を取って下さいね。分かりましたか?」
「あ、ああ!分かった。本当にありがとな、黒子。」
「分かった。お前の言う通りにするぜ、黒子!」
僕がそう言うと、2人は安堵の表情を浮かべて肩を組んで笑い合います。そんな彼らを見て、僕は思わず笑みを浮かべてしまいます。
「そういえば、どうしてお2人は寝ていないんですか?」
そう聞くと、須藤君は頭を掻きながらバツが悪そうに話し始めます。
「そ、それが……練習試合が楽しみで、いてもたってもいられなくてな。バスケがどうしてもやりたくなって、近藤を誘って1on1をやっていたんだ。」
「え……まさか、一晩中バスケをしていたんですか?」
彼の言葉に近藤君も目を逸らし、口を開きます。
「ああ……お前の言う通りだ。」
僕がそう聞くと、2人はバツが悪そうにしながら頷きます。2人は確かにバスケが大好きですが、まさかここまでのバスケ馬鹿だとは思いもしませんでした。
こんなでは、公式試合の度に寝不足で参加する事になってしまいそうです。今度桃井さんに相談して、2人に睡眠時間をとって貰えるようにしなければいけませんね。
「全員揃っているな!」
「「おはようございます!」」
監督がやってくると、僕達は声を揃えて挨拶をします。その後、学年事に点呼を行い、僕達は到着しているバスに乗り込みます。バスの席順は決まっていない為、僕は須藤君の隣に座ります。
「んじゃ、少し寝るぜ。着いたら起こしてくれ、黒子。」
「はい。分かりました。」
須藤君は僕にそう伝えると、腕を組んで俯きます。そしてすぐに寝息が聞こえてきました。相当疲れていたようですね。
彼が寝てから数分後、前の席からも微かに寝息が聞こえてきます。僕の前の席には近藤君と小宮君が座っており、どうやら近藤君も僕の言う通りに眠ってくれたようです。
海常高校までは、車で50分程かかるそうなので、僕も少し仮眠を取りましょうか。そう思い、僕は目を閉じて眠りにつきました。それから暫くして、僕は誰に肩を叩かれる感覚で目を覚ましました。どうやら海常高校に到着したようです。
「黒子……着いたぞ。」
「あ、おはようございます。僕が起こすはずったのに、随分長い間寝ていたみたいですね。」
須藤君が僕にそう声を掛けてきました。僕が眠っている間に随分と寝癖がついてしまっていますね……後で直さないといけませんね。
「いや、気にすんな。俺も今起きたばっかだからよ。」
「すみません、起こして頂いてありがとうございます。」
「いや、別に良いさ。それより早く行こうぜ?」
僕は彼に促されて荷物を持ってバスの外に出ました。バスを出ると、目の前には大きな校舎と3つの大きな体育館が見えました。
「ここが海常高校……凄いですね。」
僕はその大きさに圧倒されてしまいました。そして、すぐに気持ちを切り替えて須藤君と共に校舎へと向かいます。体育館の前では黄瀬君が待っていました。彼は僕を見ると嬉しそうに笑いました。
「あ、高育さん!こっちっスよー!……って、黒子っち!桃っち!久しぶりっスね!」
そう言って僕に抱きついてくる黄瀬君ですが、僕の隣にいた須藤君が瞳を輝かせながら彼をじっと見つめます。
「お久しぶりです、黄瀬君。見ない間に少し背が伸びましたね?」
「久しぶり!きーちゃん!この間のCM見たよ!主役に抜擢されるなんて凄いね!」
「そっスか?黒子っちは……少し伸びた?いやぁ、たまたまっすよ。この間のCMは制汗剤スプレーのやつだったし、現役バスケ部のエースである俺がやるのが当然、みたいなところあるしね。」
僕に対する返事に謎の間があります。少し腹が立ちますが、イグナイトをぶち込むのは辞めておきましょう。僕は番外戦術をするゲスではありませんから。
「あ、あの!キセキの世代の黄瀬涼太、だよな?」
僕達の会話に須藤君が割り込んできて、興奮気味に黄瀬君に話し掛けます。
「……そうっスけど、君は?」
黄瀬君は須藤君に訝しげな視線を向けながら、聞き返します。
「あ、あの!俺は須藤健!キセキの世代のファンなんだ!サインくれねぇか!頼む!」
須藤君はそう言い、鞄から色紙とペンを取り出して黄瀬君に向かって頭を下げました。
「ええっ?!須藤君、色紙まで持ってきてたの?」
「……ほ、本物のキセリョだ。ま、眩しいです。」
桃井さんはそう言いながら目を丸くして驚いており、山村さんは本物のキセリョを目の当たりにして眩しそうに手で視界を覆っています。
「いやいや、折角サインを書くなら女の子が良かったんだけどなぁ……なんか、思ってた反応と全く違うっスね、黒子っち達のチームの人達って。」
黄瀬君はそう言いながらも、須藤君から色紙とペンを受け取りサインを書き始めました。そして書き終えると、それを須藤君に手渡しました。
「はい!どうぞ!」
「あ、ありがとう!一生大切にするぜ!」
「まあ、喜んでくれたなら良かったッス。じゃあ、今から体育館まで案内するんで、着いてきて欲しいっス!控え室については、午後から誠凛さんが使っていたところと同じところを使って貰う事になります。まあ、宜しくッス。」
「ああ、わざわざありがとう。」
勝山監督が黄瀬君にお礼を言い、僕達は黄瀬君の案内で体育館へと向かいました。その後、僕達は2階の応援席へと案内され、ベンチに腰掛けて誠凛高校と海常高校の試合を観戦します。
「山村、誠凛高校と海常高校の試合映像もしっかり録画しておいてくれ。」
「……分かりました。」
勝山監督は山村さんにそう告げ、どこかへ去って行きました。
「誠凛高校って、テツ君と去年試合を少し見た学校だよね。確か、無冠の五将"鉄心"の2つ名を持つ木吉鉄平さんの所属校だったはず。」
桃井さんがファイルから誠凛高校の情報が書かれたプリントを取り出し、それを僕に見せました。そこには誠凛高校の全メンバーのポジションから始まり、特技や長所、身長、体重、と様々な内容が書かれており、改めて桃井さんの情報収集力の凄さを実感しました。
「凄いですね、桃井さん。もうそんなに情報を集めていたなんて、驚きました。」
「えへへ、そう言って貰えると嬉しいな。実はね、この情報は美紀ちゃんに頼んで纏めて貰ったものなんだよね。」
彼女はそう自慢げに言い、山村さんに微笑みかけます。
僕は桃井さんが集めた情報だとばかり思っていたので、彼女の言葉にとても驚きました。山村さんは恥ずかしそうに俯いていますが、これは誇るべき事です。
「山村さんが、ですか。凄いですね、山村さん。まさか、こんな特技あったなんて……とても驚きました。」
「え、そ、そんな……私は貰った情報を纏めただけで、情報を集めたのはさつきちゃんなんです。だから凄いのはさつきちゃん、です。」
山村さんはそう言って、僕から顔を背けてしまいました。桃井さんが集めた情報だとしても、それをしっかり分析して分かりやすく纏めた彼女の努力は素晴らしいものです。僕は素直に山村さんを褒め称えました。
「そんな事ないよ!美紀ちゃんだって凄いんだから!バスケ初心者にしては、バスケ用語もきちんと使って纏められているし、とても分かりやすいよ!」
そんな桃井さんからの称賛に照れてしまったのか、山村さんは更に俯いてしまいました。
「へぇ……桃井、少しそれを見せて貰えねぇか?」
「うん、勿論だよ。」
桃井さんは須藤君に誠凛高校の情報が書かれたプリントを手渡し、彼はそれを読み始めます。そして数十秒後、彼は顔を上げて山村さんにこう言いました。
「すげぇじゃねぇか!俺はあんまり文字を読むのが得意じゃない。だが、山村の書いた文はすっと頭に入ってくるんだ。山村、凄い特技じゃねぇか!」
「へぇ、俺にも見せろよ!」
「あ、ずりぃ!俺も見たいんだけど。」
その後、プリントを読んだ小宮君と近藤君も山村さんを褒め称えます。
「……あ、ありがとうございます。」
桃井さんに続いて須藤君、近藤君、小宮君からも褒められてしまい、山村さんは顔を真っ赤にしながら俯いてしまいました。そんな山村さんを微笑ましそうに見つめていると、選手達が体育館へと入って来ました。そして両校のスターティングメンバーが向かい合って並びます。
「わあ、5番の彼凄い!データに無いし新入生かな?……身体能力も高そうだし、どこかキセキの皆と似ているような気がするな。」
「確かに、アイツは強そうな雰囲気を纏ってるな。」
桃井さんが5番の赤髪の選手を見つめながらそう言うと、須藤君も彼女の言葉に頷き、同意を示します。確かに5番の彼の雰囲気は、どこかキセキの世代に似ているような気がしますね。
「桃井、誠凛高校で注意すべきは誰だ?」
僕の後ろに座っていた日立先輩が桃井さんに尋ねます。すると彼女は少し考えてから話し始めました。
「そうですね……誠凛高校で最も注意すべき選手は無冠の五将の木吉鉄平さんです。しかし、彼は昨年のウィンターカップ予選で膝を負傷しており、現在は療養中みたいです。なので、注意すべきはPGの伊月俊さんとキャプテンの日向順平さんの2人です。」
僕は小宮君の持つプリントを覗き込んで2人のプロフィールを確認します。
「伊月俊さんは、イーグルアイと呼ばれる俯瞰的な視野を持っていて、常に選手の位置を把握する事が出来ます。それに加えて冷静な判断力も兼ね備えており、最適なパスコースが分かる優秀なPGです。」
伊月俊さんは誠凛高校の2年生で、俯瞰の目である"イーグルアイ"を持っており、空間把握能力に長けています。視界を頭の中であらゆる視点に切り替えて見る事ができるため、試合中は常にコート全体の動きを把握出来るそうです。そしてこの広い視野と冷静な頭脳を生かして、最適なパスコースを選ぶのが彼の特徴らしく、かなりの良選手みたいですね。
日向順平さんも同じく2年生でキャプテンを務めており、リーダーシップのある優秀な選手のようです。彼のポジションはSGで、クラッチシューターと呼ばれています。彼は状況や感情、メンタルに成功率が左右されやすいタイプのようですが、一度スイッチが入ってしまえばシュートを落とす事は無いらしく、油断は出来ません。
「日向さんは、戦国フィギアのジオラマを更衣室のロッカー内で作っているようですが、練習でシュートを外した分だけ自分の戦国フィギュアを破壊しているらしく、精神はかなり強いタイプみたいです。」
「ま、マジかよ!」
「自分のフィギアを壊すってやりすぎだろ。やばいな、あの人……」
桃井さんの言葉に須藤君と近藤君が声を上げてドン引きしながら驚いており、僕を含めたその他の部員も軽く引いています。しかし、それ程の精神トレーニングを積んでいるのであれば、どんな状態にも億さず行動が出来そうですし、意外と考えられたトレーニング法なのかもしれませんね。
「そして、他の選手も仕事をこなせる優秀な人物ですが、今回の試合で注目すべきは今挙げた2名ですね。そして……」
桃井さんはそこで言葉を区切り、赤髪の青年を見て予想を述べていきます。
「……データに無い赤髪の選手ですが、おそらく彼のポテンシャルはキセキの世代にも匹敵するかもしれません。彼からは、独特な強者特有の雰囲気を感じます。彼の動きにも注目すべきです。彼と黄瀬君が戦う場合、それはキセキの世代の戦いと同等の見る価値がある試合になるでしょう。」
「僕も桃井さんの意見に同意です。きっと、この試合はとても意義のあるものになるでしょうね。」
僕がそう言った瞬間、両校のスターティングメンバーが中央に向かい合って並び、審判の合図で試合が開始される。
「あれ?黄瀬は出ないのか?」
「確かに、黄瀬はベンチだな。」
「怪我でもしているのか?」
近藤君が不思議そうな顔でコートを見つめており、彼の言葉に多くの生徒が同意しています。
「……おそらく、海常高校はちょっとした調整のつもりで練習試合を組んだのでしょう。だから、新設校の試合にわざわざ黄瀬君を出す必要は無いと考えていたのかもしれません。」
「なるほど。たしかに、強豪校が新設校との練習試合で求めるものは、熱い勝負では無い。君の言う通りだろうね。」
日立先輩は僕の推測に賛同してくれました。しかし、黄瀬君が試合に出ないのは少し残念ではありますね。彼のプレーを見たかったのですが……仕方ありません。
「キセキの世代も私達と同じ高校生です。天才と呼ばれた彼らは日々成長し、進化を続けています。だからこそ、今の黄瀬君の実力をこの目で見られないのは残念ですね。」
僕がそう零すと、桃井さんは赤髪の彼をじっと見つめながら、一つの可能性を示しました。
「……彼なら、もしかしたら、きーちゃんを引きずり出せるかもしれない……そんな気がするんだ。」
「そう……だと良いのですが。」
試合が始まると、誠凛高校はPGの伊月さんと赤髪の彼を中心に積極的に攻めていきます。そして数秒後、伊月さんのイーグルアイを駆使したパスにより、赤髪の男子生徒はアリウープを決めます。誠凛に2点が加算されましたが、一つ問題が発生しました。
「そんなっ!ゴールが壊れるなんて驚きだぜ。」
須藤君が驚きの声を上げ、僕達も壊れたゴールを片手で持つ赤髪の生徒を凝視します。
赤髪の生徒が盛大なダンクを決めると、バスケットゴールが外れてしまったのです。これには流石の海常高校の生徒も驚いており、ベンチに座る黄瀬君も苦笑いをしていました。海常高校の監督は顔を真っ赤にして怒りながらも、全面コートの使用を許可し、試合は再開します。
『海常高校、メンバーチェンジです。』
そう告げられると、眼鏡をかけたSGの中村真也さんがベンチに戻り、黄瀬君がコートに入りました。そして赤髪の彼を見てこう言いました。
『いやあ、流石のこれにはウチの監督もぎゃふんッスわ。だから、しっかりとお返しさせて貰うっスよ。そうッスよね?笠松先輩。』
黄瀬君が赤髪の彼にそう挑発し、後ろを振り返ると笠松さんのものでは無い、甲高い悲鳴が上がった。
『きゃーっ!黄瀬君!こっち向いて!』
『黄瀬君素敵!』
『黄瀬君!頑張ってー!』
そして、その声を聞いた笠松さんは黄瀬君を睨み、飛び蹴りを食らわせました。
『おい、黄瀬!お前のせいで女子が集まってきているだろ。何とかしろ!』
『ちょっ、痛いッスよ!笠松先輩!』
『うるせえ!シバくぞ!』
そんなやり取りをしていると、近藤君と小宮君は女子生徒達の声援に嫌気が差したのか、げんなりした様子で話し始めます。
「それにしても、さっきの悲鳴は凄かったな。」
「ああ、まるでアイドルのコンサートみたいだったぜ。」
小宮君と近藤君がそんな感想を漏らしていると、山村さんが2人にこう告げます。
「……まあ、黄瀬君はモデルとして活動しているので、女性からの人気は凄まじいですからね。ですが、もう少しファンの方への対応を徹底して欲しいものです。」
僕がそう不満を零すと、須藤君がポンと手を叩いて閃いたと言わんばかりの表情でこう言いました。
「なるほど、あの女達はキセキの世代のファンなんだな!ならこの声援も仕方ねーな!俺も応援するか!頑張れー!黄瀬ー!」
須藤君がそう叫ぶと、黄瀬君を応援している女子生徒、海常の生徒、誠凛の生徒、高育の生徒、そして黄瀬君本人が声のする方を見つめて固まっています。
『い、いやあ、まさか君にまで応援されるとは思ってもいなかったっス……』
そう言いつつも、黄瀬君は須藤君にウインクし、ボールを受け取って試合を再開します。声援も止まり、静かな体育館にボールが床に当たる音とバッシュのスキール音だけが響きます。
「静かになって良かったけど、きっと今から黄瀬君は本気で彼を潰しに行きます。ですから、彼から目を離さないで下さい。」
桃井さんの言葉に僕は頷き、彼のプレイを注意深く観察します。
黄瀬君はドリブルで赤髪の男子生徒を素早く抜き、ディフェンスを躱した笠松さんにパスを出します。笠松さんは伊月さんと距離があるという状況でゴール近くに高くボールを投げ、気づいた時には黄瀬君が宙に飛び上がっており、彼はそのボールを強くゴールに叩きつけました。
『おい、黄瀬ぇ!ゴール壊せつったろう!』
そう言い笠松さんは黄瀬君にキックをお見舞しますが、黄瀬君はそれを軽くいなしながら適当な謝罪を返します。
『ふう、さっきのお返しっスよ。オレ、女の子にはあんまりっスけど、バスケでお返しを忘れた事だけは無いんスわ。』
そう言い、黄瀬君は不敵な笑みを赤髪の彼に剥けました。
『今のは、まさかオレの……』
赤髪の生徒を含む誠凛の生徒は今起きた事に頭が追いついていないのか、驚愕の表情で黄瀬君をじっと見つめて固まっていました。そして、それはウチの学校の生徒も同じでした。
「…今のって、まさか誠凛の10番と同じプレイだよな?」
「あ、ああ……そうだと思うぜ。」
そう近藤君が目を見開きながら疑問を口にし、須藤君が彼の疑問に返事を返します。そして、近藤君達の言葉に僕と桃井さんは力強く頷き、彼女は黄瀬君について話し始めます。
「黄瀬君は、一度見たプレイを瞬時に再現出来る事が出来ます。彼は中学2年生からバスケを始めていますが、身体能力はキセキの世代と大佐無く、圧倒的なセンスで足りない経験を補って戦ってきた選手です。そして何より、一度見たものを真似して再現出来るという事は、観察眼に優れているという意味です。彼が真似したという事は、今後その技を使っても予測されブロックされてしまう可能性があります。バスケ歴は短くとも、彼のバスケレベルは高校を遥かに超えていると言えるでしょう。」
桃井さんがそう分析を述べていると、赤髪の彼は黄瀬君に闘志を燃やし、彼の挑発に乗ってしまいます。黄瀬君はそれを軽く受け流して試合を再開します。そしてそこからは両校とも一進一退の攻防が続き、第1Qは試合が始まって3分で17対16というハイペースの攻防が続けられています。
「……この均衡はいつまで続くんでしょうか。」
試合映像を録画している山村さんはそう言っい、それから数秒後、誠凛高校がタイムアウトを取りました。
「……ほう、誠凛はタイムアウトを取ったか。まあ、妥当な判断だ。」
勝山監督はそう頷きながら話し、誠凛の監督である相田さんを評価します。
「誠凛高校はかなりの攻撃型チームだし、海常も黄瀬が何度も同じ技をお返しするから、ペースは途切れず、我慢比べになっているな。だが、そこまで持っていくだけでも驚きだ。誠凛の10番はキセキの世代にも匹敵する選手だな。」
久保田先輩はそう言い、赤髪の彼をじっと見つめます。
「彼、名前はなんて言うんでしょうか?」
「うーん、私のデータにもいないから、試合が終わったら誠凛さんに確認してみるね。」
桃井さんはそう言って、ノートをパラパ捲りながら、誠凛選手のデータを確認していきます。
その後、赤髪の彼はタイムアウトを終えると、再び黄瀬君と1on1を始めます。しかし、今度は先程のようには行かず、逆に彼に抜かれてしまう場面が何度も見られました。
「黄瀬のキレがどんどん増してるな。流石はキセキの世代だぜ。」
須藤君はそう言い、黄瀬のプレイに釘付けになっています。
「だが、キセキの世代に対抗出来る時点で、他の選手とは一線を画すプレイヤーだという事だ。彼の動きもよく観察するんだ。東京都の予選で当たる可能性もあるからな。」
「ええ、そうですね。アイツは警戒すべき選手です。」
勝山監督や久保田先輩達がそう話している中、 山村さんは「あ」と声を漏らし、何かに気付いたようです。
「どうしの?美紀ちゃん。」
桃井さんが彼女に声を掛けると、山村さんは口を開き話し始めます。
「……気の所為かもしれないのですが、10番の選手は右足でジャンプに踏切った時より、左足で踏み切った時の方がジャンプの高さが高い気がします。一度だけ、彼は左足でジャンプをし、ダンクを決めていましたが、その時の方が最高到達点が高いように感じました。ですが、左足でジャンプした時ボールを叩きつけるちからが弱いように感じたので、少し不思議です。」
山村さんの発言に勝山監督は頷き、こう言います。
「ああ、その事か。それは私も気になっていたんだ。だが、その理由までは分からない。」
勝山監督がそう答えると、桃井さんが少し考えた後、口を開きます。
「もしかして……彼は利き手と利き足が右なのかもしれません。だからこそ、左手のハンドリングが拙いのではないでしょうか。」
そんな桃井さんの言葉に僕達は驚きました。そして彼女の発言に山村さんは納得したように頷きます。
「なるほど……確かにそれなら辻褄が合いますね。」
その後、試合が再開されると誠凛はマンツーマンからゾーンディフェンスに変わり、黄瀬を阻止する為の陣形に変更したようです。
「……なるほど。ほぼ、ボックスワンの形ですね。」
「でも、キセキの世代と戦うならこの陣形の方が良いと思う。ハイペースを抑えられるってのと、10番の彼の力を活かしやすいって点は今の状況にマッチしていると思うな。」
確かに、桃井さんの言う通りです。しかし、海常の選手は誠凛の選手と元々のスペックに大きな差があります。互いにフォローし合う陣形と言えど、個人技で圧倒されてしまう可能性はかなり高いです。
『……やんなるぜ、まったく。』
ボールを持つPGの笠松さんはそう言い一呼吸おいてから、飛び上がりボールをゴールに放ります。そのボールは綺麗な子を描き、ゴールに吸い込まれていきます。
『キタ!笠松のスリーだ!』
『いいぞいいぞ笠松!いいぞいいぞ笠松!』
海常ベンチから歓声が上がり、笠松さんへのコールが始まります。
『海常レギュラーナメてんのか?ヌリぃにも程があるぜ。』
彼は誠凛の甘さを指摘し、海常キャプテンとしての威厳を見せ付け、自陣へと戻っていきます。
「……黄瀬君を止めようとしても、他の選手が海常の選手に抗えなければなんの意味も無い。」
中川選手が誠凛の選手達を見ながら厳しい意見を言い、その言葉に反論する者はいませんでした。彼の評価は厳しいながらも、正当なものです。だからこそ、誰も反論出来ないのです。
そして試合は進んでいき、第3Q後半。黄瀬君のプレイに抗おうとする赤髪の彼も少しずつ対応してきていますが、それを凌駕する勢いで黄瀬君は進化を続けます。
「……誠凛も頑張ってはいるが、海常に勝つにはもう一押し足りないな。」
久保田先輩はそう呟きます。桃井さんは彼の言葉を聞いてノートにペンを走らせます。
「まあ、キセキの世代だけじゃなく、他の海常選手との差は大きいからな。」
久保田先輩の言葉に勝山監督は頷き、こう告げました。
「だからこそ誠凛には頑張って欲しい。誠凛が海常に対抗するほど、我々にはその分の情報が落ちる。今日の練習試合、そして全国での戦いを見据え、長い目で見た時、今日の戦いはきっと意味あるものになる。」
彼がそう言った時、第3Qが終了してインターバルに入ります。海常の選手達は汗を拭い水分補給をし始めますが、そんな中でも赤髪の彼は黄瀬君に食らいついています。ですが彼の体力も限界が近いのか、スピードやパワーが少しずつ落ちてきています。
「これはもう決まったも同然、だな。誠凛の負けだ。」
小宮君がコートの中の赤髪の彼を見つめそう言い放つと、須藤君が口を開きました。
「それは違う、小宮。」
「あぁ?なんでだよ。」
「まだ分からないのか?アイツは、諦めてない。」
須藤君は赤髪の彼を指差しながらそう答えました。小宮君は彼の指差す先を見つめ、再び口を開きます。
「……なんでだよ。もう体力も限界だろ?」
「それは俺にも分かんねーよ!でもな、なんか感じるんだよ!」
「……そうかよ。」
「だから、最後まで見届けてやれ。試合は最後の1秒まで、何が起こるか分からねぇもんだぜ。」
「……おう。」
須藤君のパッションに圧倒されたからか、小宮君はそれ以上誠凛の負けを唱える事はありませんでした。
そんな会話をしていると、インターバルが終わり第4Qが始まりました。第4Qが始まってから、誠凛はまたマンツーマンに陣形を変え、ディフェンスを行います。
「……黄瀬を止めるのを諦めたのか?それとも、別の狙いでもあるのか?」
安藤先輩は誠凛の思惑が分からず、今後の展開を注意深く観察しています。僕も先輩に同意で、誠凛の目的が読めません。今後一体彼らはどのようにして、海常に抗うのでしょうか。
『へぇ、マンツーマンに戻したんスか。そんなんじゃ、俺は止められないっスよ!』
黄瀬君は誠凛のディフェンスを嘲るようにそう話し、ボールをスティールします。そして、そのボールはPGの笠松さんに渡ります。
『させるか!』
赤髪の彼は素早い動きでヘルプに飛び出しますが、それはフェイントで笠松さんはそのままシュートを放ちました。そのシュートはリングに触れずネットを揺らし、海常が先制点を決めました。
「……誠凛の動きを警戒して、敢えて外から決めたのか。流石、全国屈指の名PGの笠松さんだな。」
須藤君はそう呟き、笠松さんの判断と行動を称賛しました。そして、問い掛けるように赤髪の選手をじっと見つめます。
「点差は11点。誠凛はどこかできーちゃんを止めないと流れを掴めないよ。それに、10番の彼もワンマンプレーをしてばかりで、チームメイトとの息が合っていない気がするな。」
「そうですね。桃井さんの言う通りです。」
始めこそ黄瀬君の実力に圧倒されていた誠凛選手も、次第に黄瀬君や海常の実力を冷静に分析し、得点を決められるようになりましたが、それでも点差を縮める事は出来ませんでした。
『そろそろ、格の違いを思い知ったんじゃないっスか?君の潜在能力は認めるっスけど、それでも君は俺には及ばない。唯一俺に対抗出来そうなのは君だけだった。そんな君ももう限界でしょ?つまり、この勝負、どう足掻いても君達誠凛が勝つ事は無いっス。』
黄瀬君はそう話し、誠凛選手を嘲笑います。そして赤髪の彼の上から力強いダンクシュートを決めました。赤髪の彼は黄瀬君の勢いに負けて地面に倒れ込みます。
しかし、そんな時でした。
『まだだ……まだ終わってねえぞ!』
そんな声がコートに響き渡ります。その声の主は黄瀬君と対峙している赤髪の彼です。彼は息を切らしながらも立ち上がり、黄瀬君に向かって叫びました。
『まだ負けてねぇ!俺は負けねぇぞ!!』
『はぁ?もう限界でしょ?これ以上やっても無駄っスよ。』
『うるせぇ!!他人のお前が人の限界を勝手に決めるんじゃねぇ!』
そう言い、赤髪の彼は一度PGの伊月さんに目配せをし、勢いよく走り出します。そして伊月さんは勢いよく彼にパスを回し、彼は誰よりも速く走り、大きな音を立ててダンクシュートを決めました。
『俺の限界は俺が決める。だけど、俺は自分の限界は決めねぇ。だから、俺はまだまだやれるぜ!』
彼は息を切らしながらも、黄瀬君を睨みながらそう言いました。
『……ははっ!いいっスよ!そうこなくっちゃ!なら、次の攻撃で君の闘志を打ち砕くっス。そうしたら、誠凛はもう終わりだ。』
海常高校の攻撃ターンがやってきました。笠松さんは黄瀬君にパスを回し、本日何度目か分からない黄瀬君と赤髪の彼の1on1が始まります。
黄瀬君はシュートフェイクを仕掛けてからドライブで赤髪の彼を抜き去ります。しかし、彼を抜いた先にはSGの日向さんが立ち塞がりました。
『行かせるか!』
『あはは、悪いっスけど、通らせて貰うっス!』
黄瀬君は日向さんをターンで交わしゴールに向かってドリブルを続けます。
「凄い……きーちゃんのスピード、中学の時よりも速くなってる。」
しかし、その行く手をまたもや誠凛の選手に阻まれてしまいます。黄瀬君は今度はドライブのフェイクを行い、選手が前に下がったのを確認してから素早くシュート体制に入ります。
『行けぇ!黄瀬ぇ!』
海常のCである早川さんがそう言い、誰もが黄瀬君のシュート成功を確信している中、突然黄瀬君の頭上に影がかかります。
『え?』
黄瀬君が小さく驚きの声を上げ、上を見上げた瞬間、彼の手からボールは放たれましたが、そのボールはゴールに向かう事はありませんでした。
『オラアッ!』
ボールは地面に強く叩きつけられ、そのボールは誠凛のCである水戸部さんに拾われ、素早くPGの伊月さんに回されます。
『隙だらけだぜ、黄瀬。』
『……は?』
10番の彼は遂に、黄瀬君を止めたのです。呆然と立ち尽くす彼には目もくれず、彼はオフェンスに参加する為走ってコートを駆け上がります。
『黄瀬を止めた!?しかも、あんな高く飛べる人間がいるのなんて、どういう事だ!?』
『ああ。俺も驚いている。』
海常は驚きを隠せない様子でしたが、誠凛の選手達はまだ諦めていません。
『行かせるか!』
PGの笠松さんは素早くヘルプに入りますが、日向さんはボールをキープしたままその場で飛び上がります。そして彼は空中でボールをりりーすします。ボールは綺麗な弧を描いてゴールに吸い込まれていきました。
『っしゃあ!』
日向さんはガッツポーズを取り、嬉しさをかみ締めながらディフェンスに戻っていきます。そんな彼を見た誠凛の選手達も声を掛け合い、どうやら闘志を完全に取り戻した様です。
『まだだ……まだ終わってない。』
そう言い、黄瀬君は10番の選手を睨み付け、殺気にも似た闘志を全面に出し、彼に対峙します。しかし、動揺から立ち直れていないからか、動きは単調で、10番の彼に全て読まれてしまいます。
「10番の動き……あれはまさか!」
そんな時、久保田先輩は何かに気付いたように声を上げました。 10番の彼は海常の選手達に囲まれそうになる直前で小金井さんにパスを回します。彼の判断は正しかったようで、囲われる直前だった事もあり、小金井さんのマークに着いていた小堀さんは10番の彼に惹き付けられており、小金井さんはフリーの状態です。
『良し!決めてやる!』
そう言い小金井さんはフリーでミドルシュートを決め、喜びの表情を浮かべました。
その後も誠凛の選手は協力しながらボールを回し、海常選手を追い詰めていき、遂に試合は残り14秒です。この攻撃を凌げば、海常高校の勝利です。
『行かせない!絶対に!』
黄瀬君が10番の彼の行く手を阻み、ピッタリとマークを続けます。その際に他者にパスを出しにくい位置に立ち、彼の妨害を続けます。
『……邪魔だ。』
彼は小さくそう呟き、黄瀬君のマークを外そうとしますが、それでも黄瀬君は彼から離れません。そんな時です。突然彼はバックステップで下がり、高く飛び上がります。そして3Pラインの外側からボールを放ちました。
「え、ここでスリー?!」
桃井さんが驚きの声を上げ、全員が3Pの行く末を見守ります。しかし、ボールの軌道は少しゴールからズレているようで、このままではバックボードにあたって跳ね返ってしまいます。
誰もが外れると思った瞬間、10番の彼はフリースローラインから飛び上がり、弾かれたボールを強く叩きつけました。そして、その瞬間試合終了のブザーが鳴り響きました。
『『!!』』
会場内の全ての生徒が審判の判断に耳を済ませています。
『……101対102で誠凛高校の勝利です。』
『やったわー!』
『す、すげぇ!キセキの世代がいる学校に勝っちゃった!勝っちゃったよ!』
審判の言葉に誠凛高校の生徒は喜びの声を上げ、抱き合い、肩を組み、喜びを表現します。それとは逆で、海常高校の生徒は悔しさを滲ませながら、誠凛の生徒を見つめており、黄瀬君の頬には涙まで伝っています。
『負けた……このオレが、っスか?』
『黄瀬。』
そんな時、10番の彼が黄瀬君の元に近づきます。そして、彼は涙でぐしゃぐしゃになった黄瀬君の顔にタオルを投げつけました。
『……何スか?慰めなら要らないっスよ。』
『ちげーよバーカ!実力で言えば、俺はお前にまだ追いついていねぇ。先輩達が居なかったら、きっと最後お前のシュートを止める事も出来なかった。だから……次こそは絶対に勝ってやる!全国でまたやろうぜ!』
『は?』
黄瀬君は彼の言葉に呆れながらも苦笑し、彼に手を差し伸べます。
『……分かったっス。次はウチが勝つんで、また全国でやりましょう。あ、そうだ!君の名前を聞いても良いっスか?』
『俺は火神大我だ。』
『火神っちっスね!次は絶対に負けないっスよ!』
黄瀬君はそう言い、彼と握手を交わします。そして、2人は互いのチームに戻りました。
「誠凛高校……火神大我……アイツの言っていたのはコイツか。」
そんな時、久保田先輩はそう呟きました。僕は彼のその小さな言葉を聞き逃しませんでしたが、その理由を尋ねる事は出来ませんでした。何故なら、彼が何かを懐かしむような穏やかで少し寂しそうな表情を浮かべていたからです。
その後、僕達は体育館内で学校から支給されたお弁当を食べ、腹ごしらえを行います。その後、軽くストレッチや準備体操を行い、午後の練習試合に向けて各々が調整を行い、遂に海常対高育の練習試合が始まる時間になります。
◇◇◇
「酷い試合内容だったな、黄瀬。」
海常高校の第一体育館の前の水道にて、黄瀬が顔を洗っていると突然背後から見知った声が聞こえた。顔を上げ振り返ると、そこにはカエルのおもちゃ手に持った中学時代の同級生の姿があった。
「って、あれれ?緑間っちじゃないっスか。てか、相変わらず変な物を持っているっスね。確か、ラッキーアイテム、だったっスか?」
「変な物とはなんなのだよ。今日の蟹座のラッキーアイテムはカエルのおもちゃなのだよ。」
緑間はそう言い、カエルのおもちゃを黄瀬に見せる。すると、黄瀬は少し引きつった笑顔を浮かべながら、少し後ずさりをする。
「そ、そうっスか……ところで緑間っちはどうしてここに?ウチの偵察?」
「いや、違うのだよ。俺は誠凛高校との試合を見に来たんだ。同じ学区なので、予選で当たるからな。報告に来ただけだ。」
「へぇ、そうっスか。……で?誠凛とウチの戦いを見た感想は?」
「正直言ってしまえば話にならないのだよ。」
黄瀬は緑間の言葉に思わず苦笑いを浮かべる。しかし、緑間は気にせずに話を続けた。
「アイツの潜在能力は底が見えない。だが現段階での実力はたかが知れている。ウチに勝つなど、100年早いのだよ。秀徳高校の勝ちは揺るぎない。」
「そうっスか。」
緑間の話を聞き、黄瀬は短く答える。そんな時、海常の選手達が第一体育館に戻ってくるのが見え、黄瀬は話を切り上げる事にした。
「じゃ、俺は行くっスね。」
「……ああ。全国で当たったら覚悟するのだよ。」
そう言い、緑間は背を向け校門に向かって歩き始める。その時、黄瀬はとある事を思い出し、歩き始めたばかりの彼を引き止めた。
「そうだ、緑間っち。この後、もう一校東京の高校と練習試合を行う予定なんスよ。良かったら、見ていかないっスか?きっと、緑間っちも目が離せられない試合になるはずっスよ。」
「東京?強豪との練習試合、という事か?」
「それは見てからのお楽しみっスよ。」
緑間は黄瀬の突然の提案に首を傾げる。しかし、彼の提案を断る理由も無いので、そのまま黄瀬に着いて行く事にした。
その後、2階の応援席に座る彼の隣に暫くすると一人の男が腰掛けた。
「もう、置いてくなんて酷いぜ真ちゃん。」
「別に、俺は着いて来いなど一言も言ってないのだよ。お前は送迎をするだけで良いのだよ。」
緑間はその男に目もくれず、そう答えるが男は特に気にする様子もなく話を続ける。
「相変わらず人使いが荒いよなぁ。……まあ良いじゃん!それよりさ、真ちゃん……突然もう一試合観ていくなんて、どういう風の吹き回しよ?」
「別に、ただの気まぐれなのだよ。」
緑間はそれだけ答え、視線をコートに戻す。すると丁度試合が始まる直前だったらしく、審判が笛を吹き、選手達がコートに入ってくるところだった。そしてその中には先程黄瀬が言っていたもう1校との試合相手である高度育成高等学校の姿があった。そして、列の最後尾に見知った顔の生徒を見付けた。
「なっ?!何故奴らがここに居るのだよ?!黒子!桃井!……それに久保田先輩までいらっしゃる。一体どういう事なのだよ!」
『それではこれより海常高校対高度育成高等学校の練習試合を始めます!礼!』
『『お願いします!』』
両校の選手が挨拶をした後、ジャンプボールで試合開始の火蓋が切られた。