桃色と女の園   作:yuykimaze

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1話

 

 

 ──龍生さん

 

 ふっくら艶のある透き通る声が室内に美しく響く。

 その声はひどく滑らかな肉感的なものに聞こえる。

 導かれるように瞳を開ければ、自身の身体に覆い被さるように、人の影があった。

 

「おまえ……」

 

 その正体に驚愕で言葉が掠れる。

 四つん這いなり、自身の身体を覆うようにして今にも襲い掛かろうとしているのは、紛れもなく女だった。

 生憎彼女の顔にも既視感があった。

 間違いない。なぜここにいる。

 考えれば考えるほど今の現状が飲み込めない。自分の脳味噌が消費期限切れの豆腐でできているみたいに思えてくる。

 だが、そんな混乱が、網膜に映り込んだ姿により霧散した。

 言葉にする前に、眼球には、前のボタンが全て外され露わになった、彼女の裸体が焼きついた。

 それは眩しいばかりに白く研ぎ澄まされた女体だった。

 体は細いけれど、胸やお尻は弾けるように肉が張っている。

 二つの乳房は形よく均整美を保って隆起している。

 まるで美しい絵画を眺めているような光景だった。

 しかし、そんな美しく艶めかしいものを見せられては、男の本能は黙っていられなかった。自分の意志に反して呼応するかのように、剛直が盛り上がる。

 猛獣の爪や牙のように、その身体の丸みは一種の武器になりうるのだ。

 ゆるんで少し開いた唇と、エロチックな異様な光を宿した視線とが、射るように圧迫する。

 

 ──ふふっ、かわいい♡

 

 それに気づいたのか。怪しい笑みを湛えて、甘美に浸りながら。

 漆黒の闇の中で恋人の手が見えない相手の輪郭を確かめるような艶かしい動作で、上半身を弄んでくる。

 

「ちょ、おまっ、やめろ!」

 

 雌ヒョウの群れに襲われたロバにようにおどおどする自分が情けない。

 しかし、抗おうにも五感がうまく働かないのか、身体が動かない。

 

 ──大丈夫です。痛いのは、最初だけですから。

 

 うふふと上品で蠱惑的な笑みのまま、彼女は今度は自身の腕を操作する。

 あろうことか、彼女の柔らかな右胸へと着地する。瞬間、どうしようもないほど柔らかい感触を感じた。

 

 ──あっ……んっ……っ! 

 

 女のふっくらとした重味のある乳房を柔らかく握って見て、云いようのない快感を感じた。それは何か値うちのあるものに触れている感じだった。軽く揺すると、気持のいい重さが掌に感ぜられる。それを何と言い現わしていいか分らなかった。

 弄れば弄るほどに、彼女は桜色の唇から、甘い吐息を漏らした。

 

「──って違う! おまえ、本当にやめろって!」

 

 言葉とは裏腹に、手は休まない。

 空間に満たされる乙女の甘い声に、天国に登ったような感覚がやってくる。

 

 ──まずい。

 

 急に危機感が訪れた。

 だが、もう手遅れだ。

 お玉杓子のような頭と尾を持った精虫の群が、押し寄せてくるのだった。

 

 

 

 

 目が覚めた。

 暗い部屋の中に、明るい光が平たい板のような形に射し込んできている。雨戸の隙間から射す朝の光だ。

 全身がわき立つような快感をおぼえたのを思い出し、慌ててパジャマのズボンを確認する。

 

「おわた……」

 

 重いため息をつき、視線を落とす。そこには、じっとりと湿ったズボンとパンツが広がっていた。

 彼の脳裏には、蠱惑的な笑みを浮かべながら、まるで小悪魔のように誘惑してくる存在の影がちらつく。

 理不尽かもしれないが、こうなった原因は明らかだった。普段から散々誘惑され、翻弄され続けているのだ。八つ当たりのひとつくらい、許されてもいいはずだ。

 

 ──とりあえずやることやるか。

 

 呟きながら、気だるげに上半身を起こす。

 エアコンの効いていない蒸し暑い廊下を抜け、階段を降りていく。

 その途中、彼は何かを察知した。

 

 ──誰かいる。

 

 階下から微かに感じる気配に、龍生の背筋が強張る。

 

 ──マズい。

 

 この状況を悟られるわけにはいかない。緊張感を研ぎ澄ませ、細心の注意を払いながら忍びのように歩を進める。

 なんとか気づかれずに脱衣所へと辿り着くと、急いで扉を閉め、安堵の息を漏らした。

 

「──まあっ♡」

 

「ぬぉぉおおっ──!?」

 

 突然の甘い声に、龍生は情けない悲鳴を上げた。

 慌てて振り向くと、そこには予想もしなかった人物が立っていた。

 ピンク色のショートボブに、大きな瞳。

 長い睫毛が織りなす優雅な表情に、可憐な桜色の唇。

 バランスよく整った顔立ちは、どこか甘やかされた少女のような雰囲気を持っている。

 そして、小柄な体躯に似合わず、彼女のプロポーションは驚くほど際立っていた。

 制服越しにも分かる、抜群のスタイル。出るところは出て、引っ込むところは引っ込んでいる。まるで造形美のようなその身体は、モデルすら凌駕するものだった。

 

 ──だが、問題はそこではない。

 

 今、龍生はパンツ一枚のほぼ全裸。

 一方、モモは口元に手を添えながらも、その瞳には明らかに興味津々な光を宿していた。

 

「は、早く扉閉めろっ!!」

 

「良いじゃないですかあ。減るもんじゃありませんし♡」

 

「俺のライフがすり減るわ!!!! 良いからはやく閉めろってっ!!」

 

 バンッ! と勢いよく脱衣所の扉が閉じられる。

 外から「あらあら」と残念そうな声が聞こえたが、龍生はそれを無視するしかなかった。

 彼は深く息をつき、改めてシャワーの蛇口をひねる。

 

 ──モモ・ベリア・デビルーク。

 

 彼女は本当に、扱いに困る存在だった。

 どこか打算的で、時折見せる暗い一面。

 しかし、それ以上に彼を悩ませるのは──

 この先、彼女の誘惑にどこまで耐えられるのか、ということだった。

 

 

 

 

 シャワーを浴びた後、龍生はなぜか脱衣所に旅館の浴衣のように畳まれていた制服に袖を通した。誰が用意したのかは聞くまでもない。

 気を取り直し、リビングへ向かう。

 階段を降りると、味噌汁の香りがふわりと鼻腔をくすぐった。途端に、空腹のサイレンが鳴る。

 リビングに入ると、テーブルにはトースト、卵焼き、味噌汁と、食欲をそそる朝食がきれいに並べられていた。

 

 ──相変わらず、料理上手だな。

 

 感心しながら席につこうとしたその時、キッチンの方で作業をしていたモモがふとこちらに気づいた。彼女は一瞬、目を見開く。

 

「もうシャワーを浴びてきたんですか?」

 

「まあな」

 

「でも珍しいですねえ。龍生さんが朝シャワーなんて」

 

 モモの言う通り、彼が朝からシャワーを浴びるのは滅多にないことだった。普段なら眠気覚ましの洗顔だけで済ませている。それを知っている彼女が、不思議そうに首を傾げるのも無理はない。

 龍生は視線を泳がせながら、適当な言い訳を探したが、すぐには思いつかない。

 

「……たまには良いだろ」

 

「ふふっ、そうですね?」

 

「……」

 

「…………ウフフ」

 

 その笑い声が、龍生の警戒心を急激に高める。

 視線を感じた。しかも、明らかに下半身のあたりに集中している。

 

 ──まさか、気づかれた!?

 

 彼女の妖艶な笑みは、全てを見透かしているかのようだった。

 羞恥と動揺が一気に押し寄せ、体温が急上昇するのがわかる。

 モモはそのまま小走りで近づいてきた。

 ふわりと甘い香りが漂う。

 

「──仰ってくれれば、いつでもお相手致しますのに♡」

 

「なっ──っ!!??」

 

 耳元で囁かれた艶めかしい声が、脳天に直撃する。

 龍生の思考が一瞬でフリーズした。

 

 ──これはアウトだ。

 

 夢の中で見た、あの豊かなメロンのようなものを思い出してしまい、再び体が硬直する。

 

「お、お前な……っ! だいたい、いつも半裸で俺の部屋入ってくるからこうなるんだろうが!」

 

 動揺を誤魔化すように、龍生はモモの頭にチョップを振り下ろした。

 もちろん手加減はしているが、彼女は少しだけ拗ねたように唇を尖らせる。

 

「もう、乙女の頭に暴力はいけませんよ?」

 

「お前が悪い」

 

 男の純情を弄んでおいて、この程度で済むのなら安いものだ。むしろ、天罰が下ってもおかしくないレベルである。

 

「はやくご飯食べようぜ」

 

「はーい」

 

 モモは少し不服そうだったが、せっかく作ってくれた朝食を冷ますのももったいない。何より、これ以上彼女のペースに乗せられるのは避けたかった。

 いつもの席に座ると、やはりモモは対面ではなく、隣に座る。最初は気になっていたが、今ではすっかり日常の風景になっていた。

 席についたのを確認し、龍生は手を合わせる。

 

「いただきます」

 

「はい。召し上がれ」

 

 真っ先に目につけたのは味噌汁だった。

 千六本に切った大根の腰の辺りを箸でかき寄せると、大根たちはしなだれかかるように寄せ集められ、ついでに油揚げも寄せ集められ、汁を滴らせながら口の中へ運ぶ。さくさくした大根の歯ざわりとややミルクっぽい味の油揚げの油にまみれた味噌汁が滲み出てくる。大根の甘さと、そこに加わる味噌の塩気。

 

 ──これは、うまい。

 

 彼は感嘆の声を漏らさずにはいられなかった。

 

「……相変わらずうますぎだろ」

 

「良かったです。ありがとうございます!」

 

 モモは嬉しそうに微笑むと、安心したように自分の箸を動かし始めた。

 

 龍生はふと気づく。

 彼女はいつも、まず彼の感想を聞いてから食べ始めるのだ。

 調味料の加減や、細かな味の違いを確かめるためかもしれない。あるいは、ただ単に彼の反応を見たいだけなのかもしれない。そのことを考えた途端、なぜか妙に気恥ずかしくなった。

 龍生はわざと視線を逸らしながら、黙々と朝食を楽しむことにした。そんな静寂を破るように、テレビからニュースの音声が流れる。

 

『では、続いてのニュースです。先ほどモデルの北風夏子さんがパリコレクションにて──』

 

 それを耳にしたモモが、感嘆の声を上げる。

 

「相変わらず龍生さんのお母様はお綺麗ですねえ」

 

「うーん、そうかね?」

 

 龍生は他人事のように返事をする。

 

 彼の母は世界的に有名なモデルで、父もまた海外で活躍する作家。

 そのため、両親はほとんど家におらず、高校生になった今でも、彼は実質一人暮らしのような生活を送っていた。

 そんな中、ひょんなことから彼の生活に入り込んできたのが──モモ・ベリア・デビルークだった。

 元々、結城リトの家に居候していた彼女が、なぜか一ヶ月前から龍生の家に住み着くようになった。理由を問い詰めても、「秘密です♡」とかわされるばかりで、結局なし崩し的に彼女との同居が始まったのだった。

 もちろん、男女が同じ屋根の下で暮らすことには問題がある。しかし、彼女は家事全般を引き受けることを条件に、この家に居続けている。

 龍生も最低限の家事スキルはあるため、手伝いを申し出たが、毎回却下されるのがオチだった。

 

 ──そんなに律儀に家事担当を守らなくてもいいだろうに。

 

 そう思いながらも、モモが楽しそうに家事をこなしている姿を見ていると、何も言えなくなってしまう。もはや彼女にとって家事は趣味なのではないか、と思うほどだった。

 試しに一度そのことを聞いてみたところ、なぜか睨まれた記憶がある。

 そんなことを考えていた矢先、モモがふと思い出したように口を開いた。

 

「そういえば龍生さん」

 

「ん?」

 

 そんなことを考えていれば、ふとモモから声がかかった。

 

「確か本日日直では?」

 

「……忘れてた」

 

 テレビの時刻表示に目を向ける。現在時刻は7時過ぎ。

 

 学校までは徒歩10分ほどの距離。日直であっても、15分ほど早く出れば問題ない。

 ほっと胸を撫で下ろしたのも束の間、モモが含みのある笑みを浮かべた。

 

「うふふ、早く起きれて良かったですね♡」

 

「……うるさい」

 

 彼女の意地悪な口調に、龍生は露骨に顔をしかめる。

 しかし、その一言で済んでいればまだ良かった。

 

「──夢と私、何か関係があるんですか?」

 

「ぶふっ──!!??」

 

 盛大に味噌汁を吹き出した。

 

 ──こいつ、まさか!?

 

 モモは、興味津々といった様子で彼を見つめている。まるで獲物を狙う肉食獣のような瞳だ。

 

「まあっ! 一体どんな夢だったんですか?」

 

「お、教えるか馬鹿たれ!!」

 

「ふふっ、私に()()される夢を見てくれたんですか?」

 

「何で何かされる前提なんだ! っておいっ、近寄るな!」

 

 ジリジリと詰め寄ってくるモモに、龍生はのけぞるように後退する。

 

 ──どうしてこうなるんだ!?

 

 夢の中の出来事を決して悟られてはいけない。しかし、否定すればするほど、彼女の好奇心は加速するのだった。

 

「興味あります。龍生さんの夢の中のわた──あいたっ!?」

 

 困った時の荒療法。

 龍生は素早く手刀を振り下ろし、モモの頭を軽く叩いた。

 すると、彼女はむすっとした表情になり、頬を膨らませる。

 

「むぅ、また乙女の頭を狙いましたね?」

 

「当たり前だ。お前が悪い」

 

「私はただ夢のお話を聞きたかっただけですけど」

 

「それがアウトだって言ってんだ!」

 

 これ以上踏み込ませるわけにはいかない。

 龍生は吹き出した味噌汁をティッシュで拭きながら、改めて深く息をついた。

 

「……はぁ。こいつがこんなに可愛くなければ何も気にしなくて済んだのに……」

 

 モモの常軌を逸した言動に、先が思いやられる。

 そして、彼が日直当番のことを思い出し、食事を急いで片付けようとした時──

 

「お、おいモモ?」

 

 ふと、モモが固まっていることに気づいた。

 

「──へっ? な、何ですか?」

 

「いや、何ですかって。大丈夫か?」

 

「だ、大丈夫です」

 

 素っ頓狂な声を上げたかと思えば、彼女はふいっと顔を背けた。

 最初はチョップに怒っているのかと思ったが、そうではないらしい。

 訝しげに見つめる龍生をよそに、モモは何度も視線を逸らす。

 

「何してんだよ」

 

「な、何でもないです」

 

 またふいっと反対にそっぽを向いてしまう彼女。

 一体彼女は何をしているのだろう。

 

「なんでそっぽを向くんだよ」

 

「な、内緒です」

 

 ──なんだ、この反応?

 

 龍生の悪戯心がくすぐられる。

 思い立ったら即行動。彼はモモの両頬を掴み、ぐいっと顔を正面に向けさせた。

 

「お、おまえっ、なんでそんな顔してるんだよっ」

 

 色白の頬が朱色に染まり、どこかニマニマと嬉しそうでいて、それを必死に堪えようとしている。

 その奇妙な表情に、龍生は思わず吹き出した。

 

「み……」

 

「み?」

 

「見ないでください──っ!!!」

 

「ぐぉぉぉぉおおおおおお──っ!!!」

 

 直後にやってくる鈍痛。

 気づけば視界は天井だった。

 

「も、もう、エッチですよう。龍生さん」

 

「な、なぜだ……っ」

 

 わからぬ女心。

 納得のいかないまま、ガクリと意識を失った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……リトさん。俺、もう限界な気がしてきました」

 

「……同感」

 

 朝の爽やかな陽気とは裏腹に、二人の少年は疲労困憊の表情を浮かべていた。

 結城リトと龍生は、どこか魂の抜けたような目をしながら、通学路を歩いている。

 龍生は片手でお腹をさすり、まるで全身の筋肉が悲鳴を上げているかのようにぐったりとしていた。

 リトもまた、どこか生気を失っている。

 二人とも、それぞれの日常のストレスに押し潰されそうになっていた。

 

「……元はと言えば、リトさんのせいですからね?」

 

「うぇっ!? 俺っ!?」

 

 龍生が鋭い目つきで睨むと、リトは思わず身を竦める。

 

 モモが龍生の家に入り浸るようになったのも、元を辿ればリトの家にデビルーク星の第一王女、ララ・サタリン・デビルークが居候し始めたことが発端だ。

 結果として、彼の周囲にデビルーク三姉妹が集まり、気がつけば龍生もその波に巻き込まれる形になっていた。

 

 ──俺だって被害者なのに、どうしてこうなった?

 

 龍生は心の中でため息をついたが、彼以上に深刻な被害を受けている人物が隣にいるのも事実だった。

 

「リューセイにリトも、朝なんだから元気出してー!」

 

 突然、二人の背中をバシバシと叩く元凶が現れる。

 

「ぐっ……!?」

 

「い、痛っ……!」

 

 ララの無邪気な笑顔とは裏腹に、その一撃は強烈だった。

 

 全く悪気のない明るい声に、二人は反論の言葉を飲み込む。

 たとえ「お前のせいだ!」と指摘したところで、彼女の天真爛漫な性格と純粋さゆえに、伝わるはずもない。

 それに、力加減をしているとはいえ、彼女の背中叩きはかなりの威力だった。

 

「姉上、こんなケダモノに同情することないって」

 

「ケダモノって……」

 

 ナナが忌々しげに呟くが、その視線は龍生ではなくリトに向けられていた。

 

「姉上、こんなケダモノに同情する事ないって」

 

「ケダモノって……」

 

「リトになら裸見られても良いよー?」

 

「ダメに決まってるだろ!」

 

「えー、どうしてー?」

 

「姉上! コイツにそんなこと言っちゃダメだって!」

 

 ナナが慌ててララを止めるが、当の本人は首をかしげるばかり。

 ララはリトに対して、一途な好意を抱いている。

 最初こそ、お見合いばかりの生活に嫌気が差し、逃げるように地球へやってきた。

 だが、今では心からリトを想っているのが、誰の目にも明らかだった。

 

 ──だけど、リトの気持ちは……。

 

 龍生は、彼の抱える複雑な事情を知っていた。

 だからこそ、ララの純粋な愛が向けられるほどに、待ち受ける未来が残酷なものに思えてしまう。

 ふと、そんな思いが口をついて出た。

 

「……いっそ皆んな幸せになれれば良いのにな」

 

 慌ただしい日常の中で、ふと零れ落ちた本音。

 だが、その言葉に対する反応は、思いも寄らないものだった。

 

「──ありますよ、その方法が」

 

「えっ?」

 

 耳元で囁かれた声に、龍生の背筋がぞくりと震えた。

 通学路の風景はいつもと変わらないはずなのに、まるで世界の色が少しだけ歪んだような錯覚を覚える。

 木々が、砂利が、風までもが、何かを期待するようにざわめいている気がした。

 振り向いた先には、妖艶な笑みを浮かべたモモ・ベリア・デビルーク。

 彼女は可愛らしくウインクしながら、さらりと恐ろしい言葉を紡いだ。

 

「リトさんのハーレムを作るんです♡」

 

 ガクリと膝から崩れ落ちそうになる龍生だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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