”デュエルモンスターズ”
このゲームには、勝者と敗者が存在している。
それは絶対的な理で、どこまでも無情である。
世界に愛されなかった者、満たされぬ飢えを持つ者。
己を求め彷徨う者達が決闘によって邂逅する時、理を超える物語が刻み込まれるーー
ーーーどれだけ、歩いてきただろう。
全身が痛い、鉛みたいに重い。それでも、足は止まらない。
こんな俺を助ける者は、誰もいない。当然だ。
俺は周りから、いや、世界から忌み嫌われている。
ただ一度、謂れのない罪を家族に着せられただけで。
それを否定しきれなかった、否定を受け入れられなかっただけで。
突如として全身の力が抜け落ちる感覚に襲われ、世界が回転し体が何かに打ちつけられる。
しばらくしてから自分が思いっきり地面に倒れたのだということを理解する。
だんだんと体の感覚が消えていく、思考が解けていく。
あぁ、これが死ぬってことなのだろうか。
なんにも出来ずに死んでしまうのか。なんにも変えられないまま死んでしまうのか。
でも、最後まで『みんな』の声が聞けるのだけは、悪くないか。
「やぁ少年、こんなとこでくたばっていいのかい?」
そんな風に諦めて目を閉じようとした時、上から『みんな』とは違う声が降ってきた。
体に残ったわずかな力でその声の主を見上げる。
ぼやけた視界ではしっかりとは見えないが、髪の長い女だということは分かった。
「おーい、くたばっていいのかって聞いてるんだけど?質問には返事しろって教わらなかったのー?」
『いやどう見てもそれができねぇくらいに弱ってんだろ、本当にいつ死ぬかわかんねぇぞ』
「あそーなの?いやでもここで返事するくらいしてくれなきゃ”こいつ”を託せるか試す前の問題じゃん」
『そりゃそうなんだがよ...それでも目の前で人が死ぬのを見るのは夢見が悪ぃ、さっさとゲシゲシすんのやめて本題に入ってやれ』
「うーん...ま、それもそっか」
突っ伏している俺を軽く蹴り続ける女を静止するような男の声も聞こえてきたが、目の前には人間が二人いるようには見えない。
それにこの雰囲気、俺がよく知る”人ならざる者”の雰囲気だ。
「じゃあ早速本題、今からアタシが少年にカードを一枚あげる。そいつの力に耐えられたら少年を助けてあげる。」
「.....え?」
意味が分からなかった。カードをあげる?そいつの力に耐えろ?
思考がはっきりとしていてもこの人の言っていることは理解できなかっただろう。
だってそれはーー
「んじゃあ頑張って耐えてね、間違っても死んだりすんなよ〜」
「!?う”があ”あ”あ”あ”あ”あ”っ”っ”っ”!?!?」
お前の事情なんて知ったことかと言わんばかりに、目の前の女性は一枚のカードを俺に投げ付ける。
それに触れた瞬間、今までに感じたことのないような激痛と嫌悪感が肉体と魂に駆け巡った。
自分という存在が、今の世界とは違う何処かへと飛ばされるような、自分の肉体が色んな方向に捩じ切れるような感覚。
ぼやけた意識が無理矢理叩き起こされ、得体の知れない物に飲み込まれていく。
「ま、あいつの子供なら耐えられるでしょ。あいつに負けないくらいに良いもん持ってるし。こんなのに負けて『天理』の名を汚すなよ〜」
「な...なんで、その名を...」
その疑問が届くことはなく、俺の意識は深い深い何かに飲み込まれていった。
「ぅん...あぁ...」
窓から差し込む光と、けたたましく鳴るアラームが目を覚まさせる。
「随分と、懐かしい夢を見てたな...あれも8年前か...」
見ていたのは8年前の夢、俺が俺自身の写身となるものと邂逅した日だ。
壁にかけてあるカレンダーに目をやると、今日の日付のところには『入学試験』と書いてある。
「そうか...ようやくこの日が来たのか...お前たちも、待ち望んでいただろう?」
デッキを握り、大切な仲間に声を掛ける。
すると黒いオーラが...闇がデッキを包み、決闘を待ち望んでいることを伝えてくる。
「大丈夫、学園なら俺達の力に耐えられる奴もいるはずだ。だからってハメを外しすぎないようにな。」
そう、あの日、あの女と闇との出会いが俺に今日この日までの”明日”をもたらした。
そして今日からは、俺自身の手でみんなと共に明日を掴み取らなければならない。
こんなにも心が踊るのはいつぶりだろう。早く決闘がしたい。
「刻み込もう、世界に。俺達という存在を、俺達の決闘で」