星野アイの誕生日は本作での設定です。原作での描写からこれが誕生日と設定しています。
Noside
12月25日!!
星野アイの誕生日である!
かつて『寺系美少女巫女』『可愛すぎる霊能力者見習い』として有名となった彼女だが、現在はそれらから手を引き引退。今では恋人として常に一緒に生活していた。愛情について分からなかった彼女も
そんな星野アイの恋人こそ、関東裏社会において絶大な力を持つ夜見颯真である。巨大財閥の生まれながら当時3歳にして人権すら奪われた状態で捨てられ、法や倫理など持ち合わせていない狂人。IQ200の頭脳、常人離れした身体能力、常軌を逸した精神力……誰もが認める怪物である。
その怪物の愛した恋人こそ星野アイ。そして今日は恋人の誕生日である。その怪物が恋人のために用意した祝いの席を一人の男が見ていた。
「どうだ?アイのために特別に用意したケーキ。アイもケーキ食べたがってる感じだったからとっても喜ぶに違いない♪」
滑らかな絹のようなクリームが均一に塗られ、真っ赤な苺がその上で存在感を放っている。
「苺も買い付けから行って、糖度17で苺の味が濃厚な物を運よく見つけられてな」
綺麗につんと尖った苺の先を指さしながら、颯真は自慢げに言葉を続ける。本来なら学校、仕事、恋人とのデートなどやることが多い彼にとって、この苺は手に入らない物だった。
そもそもアイの誕生日はクリスマス当日であり、ケーキの大量生産のため良い果物など大手が独占している。それは苺も例外でなく、良い物を手に入れるには農家と直接契約しなければならない程である。去年の颯真も他の食材は最高の物を用意したが、良い苺が手に入らず市販されている中で比較的良い物で妥協したほどだ。
だが今年は違う。初めて祝う恋人の誕生日のために計画を進めていた。本来この日に告白しようと計画していた彼にとって、バースデーケーキの苺は無くてはならない物。そのために金をバラまき、人を使い国内外問わず最高の苺を確保しに動いていた。失敗した時用の呼びも含めて購入したせいで、クリスマスにも関わらず全国的にケーキの苺が不足しているほどである。
「このスポンジにも秘密があって……」
頭からお花でも生えてきそうなほんわりした颯真を見たマダオの反応は……
(重い。超引く。超恥ずかしい……)
マダオは怪物の狂気の塊が形となってこの世に顕現したかのようなケーキに目をやった。なんなら特級呪物の様にケーキから見えない黒いオーラが見えていた。フィクションですら見たことが無い悍ましい物を見た感想としては
”クリスマスを滅ぼす兵器”としか見えない。呪物展にでも飾られていれば目玉になる事間違いないだろう。少なくとも以前の心霊番組で用意した呪物より呪物らしい。
文字で表現するなら
である。まさかの三段だった。それも怨霊の塊みたいなケーキである。
マダオからすればついに神か悪魔に精神を壊されたのだと確信していた。流石に昔から知っている少年が精神を壊されたことに涙を流さずにいられない。
「どうかしたかマダオ?」
「いや……夜見が良いなら俺は特に口を出さないが……」
「何だよ歯切れが悪いわな~」
「ハァ…昔はこんなにアホじゃなかったのに……」
「アホ!?」
颯真の本性を知っている者からすれば精神病を患ったとしか思えないアホっぷり。マダオからしても119番通報するか悩ましい状況だった。
「だが星野家は今までほとんど誕生日らしい事をしていないとのことだった。そんな彼女のために彼氏が誕生日を祝うのは当然だろ?」
「去年も祝ったし、このウエディングケーキみたいな奴は止めろ」
「ウエディングケーキ?それなら7段とかじゃないのか?」
「ダメだ。頭に花が湧いてやがる」
マダオは色々諦めた。考え方を変えればそれだけ愛情深いのだと納得しようと努力した。
「こんな立派なケーキを……確かに量は多いが、貰えるのは幸せだな。何週間も保存して誕生日気分を味わえる訳だし」
「んん?」
颯真は小首を傾げた。
「これだけの量だからな。後日施設の人間や学校の友人に配っても余るし、いくら食べても無くならないケーキって子供は好きだろうし」
「何を言っていんだ。何日も経ったら駄目になるだろ?それに、何でアイの物を他の奴に渡すんだ?」
「は?」
マダオは理解していなかった。颯真のアホっぷりは既に自身の想像を超えていることに。
「ま、まさか……このケーキには保存料とか入っていないのか?」
「マダオ、そんな物入れたら味が落ちるだろ?せっかく食べて貰うなら最高に美味しい物を食べて貰わないと!それに砂糖入ってるから少しはもつぞ?」
マダオは恐怖で震え颯真の顔を伺う。そこにいたのはハート目で楽しそうにしているIQ200の天才だったものがいた。
正気ではない。だが、犯罪行為に平気で手を染めている不良に比べればマシな方だろう。少なくとも過剰な愛情表現として納得できるレベルなのだから……アイが浮気した場合は地獄だろうが。
「目がハートになった元天才も……このウエディングケーキもどうにか理解しよう。それで、向こうの料理はなんだ」
「あれはアイが『美味しい」って言ってくれた料理だ。アイにはお腹いっぱいになって欲しいからな」
あれから数カ月、アイに作った料理の中で美味しいと言われた物は全て作っていた。通常なら相手の好物を作るべきだが、この男は美味しいと言った物を一つ残らず記録、満漢全席を超える料理を用意していた。当然だが物理的にアイと二人で食べきれる量ではないのだが、颯真はこれを一食で完食させるつもりである。拷問と言われても否定できない。
(星野には胃薬でも渡しておくか)
「アイも喜んでくれるぞ~」
「俺は逃げ…用事があるから」
そう言ってマダオは逃走した。
side;アイ
「颯真が誕生日を祝ってくれるのか~」
今日は私の誕生日。ちゃんと誰かに祝われたことは去年だけだった。その時は天敵扱いの颯真と胡散臭いマダオに祝われただけ。あれが人生初の誕生日会という現実に少し泣いた。
でも!今回は恋人になった颯真と二人っきりで過ごす誕生日!男女二人で過ごすクリスマスでもある。いくら何でも好きすぎるでしょ~。昔は「誰かに愛されたことも、誰かを愛したこともない」とか言ってたけど、颯真と恋人になってからは違う。颯真のおも…大きい愛を受けていれば流石に理解できる。だから、今の私には「愛されたことはあるけど、愛する方法が分からない」というのが正しい。
付き合ってからの颯真は基本的に甘やかしてくれる。『生きてるだけで褒められる』という人生初の経験をした。「二足歩行できてすごいぞ」「自分でご飯食べられてえらいぞ」「呼吸が上手だな~」とか言われた時は恥ずかしくって「颯真嫌い!」って言っちゃったけど……そのせいで血を吐いて倒れるとは思わなかったよ。
勉強とかはやる様に言うけど、勉強が終わるとメチャクチャ褒めてくれる。皆の前ではクールぶってるけど、実際には口がニヤつく、目にハートが浮かぶ、私と話す時は声がワントーン高いなどでバレている。しかも、人前でクールのフリしてるから二人になると甘えてくる。
以前は兄の様に頼りになる存在だった。今では恋人だけど、甘えん坊な弟の様であり、しっぽを振っている犬の様でもある。ポンコツとかヘタレとか悪口言っちゃうけど、私の事を考えて行動した結果だから文句言えない。
例えば、雨の日に傘を持ってきてくれたけど「そこは相合傘でしょ!」というと「それでアイが風邪ひいたらどうするんだ!」って言われる。私の事を心配してくれるのは嬉しいよ?でもそこは相合傘しようよ。だからヘタレ彼氏のままなんだよ。
そんな颯真から招待された誕生日会。楽しみ過ぎて眠れなかったし、眠れるまで颯真に抱きしめられながら愛してるって言われた時は脳が蕩けたと思ったよ。愛情で満たされた生活って良いよね、今までの虐待されてきた人生がどうでもよくなったよ。
そんなことを考えながら、会場に着いた私は喜び半分絶望半分といった表情となった。自他共にバカと言われる私でも数十人前の優に超える料理、ウエディングケーキ並みのバースデイケーキを前にすれば大勢に祝われると思った。しかし、その全てが自分用と言われれば何を言っているのか理解できない。理解した時には絶望を顔に浮かべ、彼氏が悪魔にしか見えなかった。きっと愛情の悪魔だ。目にハート浮かんでるし。
「アイのためにいっぱい作ったんだ!全部食べて良いからな!」
彼氏が自分のために作ってくれた料理を食べないっていう選択は出来なかった。ここで引いたら女が廃る!全部食べてやるわ!
私は食べた。お腹の事も自分の体調も気にすることなくひたすらに箸を進めた。
すぐに白旗を上げる胃を根性で黙らせて、拒絶反応を示す喉に無理矢理詰め込んでいく。
「ご、ごめん……これ以上はムリだよぉ」
無理だった。よく考えたら数十人前の料理を一人で食べきるなんて不可能だった。奥から新しい料理を出してきた颯真に殺意すら抱いてたし。
「アイ、無理しなくていいからな?」
……いや、そんな涙目で見つめられたら無理するよ。だってこの料理は颯真の愛なんでしょ?だったら私には、彼女としてこの愛を受け止める義務がある!!!
「……ちょっとトイレ借りるね」
だから私は禁じ手を取った。
「おえぇぇぇぇ……」
それはお腹の中の物を吐き出すこと。
食べては吐き、吐いては食べる。この地獄のループも颯真を愛する行為だと思うと辛くない。私ができる”愛する行為”なんだもん。味なんて分からないけど、颯真が私のために作った料理というだけで美味しいよ。
「本当に美味しいよ!」
「良かった~」
彼氏を喜ばせることが彼女の使命なんだから!
どうにか全部食べて?吐いて?終わると次に待っているのはウエディングケーキだ。……これが結婚式なら嬉しいんだけどな~。
「せっかくだし、一緒に食べたいな~」
逃げた訳じゃない。ただ、このままだと私の命日が今日になりそうだったから!
「そうだな。はい、あ~ん」
最高に笑顔の彼氏があ~んしてくれる。
「はむっ!」
甘い。今まで食べてきたお菓子が嘘の様に甘い。これがケーキの甘さなのか、あ~んのせいかは分からない。
「やっぱりアイと食べる料理が一番美味しいな」
本当に幸せそうに言うから、私も自然と笑顔になる。この笑顔の為ならもう50回は吐いてもいい。
「あ、プレゼント渡すの忘れてたな」
そう言って颯真が持ってきたのはアロマ?
「これはアロマディフューザーだ。アイは匂いに敏感みたいだから、これで好きな匂いを見つけて欲しいな~って」
「敏感?私が?」
「何となくだけどな。いくつかアロマの入れてあるから試してみてくれ」
へ、へぇ~。そういえば、男が女に香水を贈る=独占欲の表れってマダオが言ってた事あったけど、アロマだって同じだよね?つまり、私を独占したいって事だよね?
「後はカランコエだ」
「花?嬉しいけど…」
こういう時はバラの花束とかじゃないの?
「カランコエの花言葉は『幸福を告げる』『たくさんの小さな思い出』『あなたを守る』ってのがあってな…」
ちょっと颯真ったら、私が大好き過ぎるでしょ。
「その、アロマと花で匂いが強すぎるかと思ったんだが…」
「全然!ところで颯真の好きな匂いって何?それつけるよ!」
誕生日に吐きまくって嫌な思いしたけど、これが愛なんだね。愛する人のために行動することが”愛”なんだよね!
・夜見颯真:推しの子で能力者の証である眼を手に入れた。『推しの子』世界の『星の瞳』ではなく、『かぐや様は告らせたい』世界の『ハートの瞳』を開眼した。アイの誕生日を二人で祝えたことに喜んでいた。後日、マダオにアイが誕生日会で頑張って我慢していた事を教えられ、アイに土下座で謝った。
・星野アイ:颯真と付き合う事で誰かに愛される事を知った。誕生日で体を張って嘘を吐き続けた事で誰かを愛する事を知った。用意された料理はトイレで吐きながらすべて食べ、ケーキは颯真に98%食べてもらった。颯真への依存度が順調に高まっている。
・マダオ:颯真の作った特級呪物『バースデーケーキ』に恐れおののいた。颯真の重い愛を受け止めているアイにも恐怖している。