怨敵と巫女   作:大紫蝶

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怨敵と巫女の別れ

side:颯真

 

 俺の名前は夜見颯真。星野アイという少女と付き合っている小学6年だ。

 

 アイの誕生日を祝ってから色々あった。

 

 恒例の夏祭りで鬼頭さんがクソ屋台を開き、ついに三聴(サンチョウ)というネズミの赤ちゃんの踊り食いを喰わされ、カースマルツとかいうウジ虫チーズも喰った。あのアイが怯えていたので俺が屋台の食材を喰い尽くし、アイに危害が及ばないようにした。

 

 少々厄介ごとがあり、剣道の一級試験を受けさせられたり、週一の習い事ができたりしたが問題ない。

 

 アイとは共依存に近い関係になった。どうにか俺が自制しているが、気を抜けばアイを小学生で母にしてしまいそうだし、「そうなったらアイは俺から離れられないよな」と心の中の本能(悪魔)が囁いて来るのだ。

 

 俺にとってアイは自分の愛を受け止めてくれる人。

 

 アイにとって俺は自分の渇きを満たしてくれる人。

 

 マダオ曰く、俺の愛は一般的な愛より大きく重いため普通なら相手を押しつぶしてしまう。可愛がり過ぎて殺すタイプの愛情らしい。アイの誕生日の一件で、アイに相当無理をさせてしまったため否定できないでいた。

 

 それに対してアイは愛情を与えられず育てられ、それでも愛情を欲していたから普通の人間じゃアイを渇きを満たせない。その渇きを満たした俺はアイの恋人に相応しいだろう。

 

 つまり、運命の相手と言って過言じゃない。それを自覚する程相手への愛情が深くなり、より愛情を欲するようになった。アイも俺も理想になりたいと言っているし、俺もアイを幸せにしたくて仕方がない。そんな俺達にとって、二人の愛の証が欲しくなったのは至極当然のことだった。最初は愛しているという言葉。次は婚約指輪(皆に見られてもいい様にオモチャの指輪)、婚姻届けに自分達の名前を書いたことだってある。

 

 だが、俺達は家族になれない。少なくとも俺が18歳になるまでは不可能だ。お互い家族に捨てられた境遇だからこそ、家族というものに憧れがあり、それを手に入れたいと思う。そこでアイが考えたのが「二人の赤ちゃんを作ろう」だったが流石に却下した。どう考えても不幸な未来しか視えないしな。

 

 それでも騙し騙しやって来た。お互い血のつながりに自信がないため、絶対に逃げられないナニカ求めていたのだ。親兄弟に捨てられた人間は血のつながりに自信を持てない。それでも血のつながりが強い事を知っているのだ。捨てられることにトラウマのあるアイが俺と子供を作って逃げられないように考えるの理解できる。だが、それを認める訳にはいかない。最悪、アイが死ぬことだってあるのだから。

 

 法律を持ち出して「お互いが13歳になるまで性行為禁止!破ったら別れる!」ということで互いに理性を保っている状態だ。

 

 そんな限界状態の俺達だが、実はそれ以上の危機を迎えようとしている。本当ならもった早くに言うべきだったのだが、アイを見ていると言えなくて半年が過ぎていた。だが、これ以上引き延ばすと本当にヤバいと思ってきた。

 

「アイ、怒らないで聞いて欲しいことがあるんです」

「どうしたの急に?」

「えっと、付き合う時にも付き合ってからも『俺とアイは死ぬまで一緒』とか言ってたじゃないっスか」

「そうだね。当然だよね?恋人だもんね?」ニパー

 

 そう。俺だってそう思っていたのだ。だが……

 

「その約束を守れなくなりまして……」

 

 

side:アイ

 

「裏切者ッ!!!」

 

 私は激怒した。必ず、かの邪智暴虐の恋人を除かなければならぬと決意した。私には愛がわからぬ。私はただの超絶可愛い女の子である。けれども邪悪に対しては、人一倍に敏感であった。

 

「約束したよね!!絶対に捨てないって!!嘘つかないって!!」

 

 私は人生で二度捨てられた。一度目は生まれてく前の父親に。二度目は母親に。だからこそ、恋人の颯真が私の全てだった。

 

「落ち着いて聞いてくれ!俺だって脅されてんだよ!」

 

 颯真の言い分だと、どうやら颯真の過去の犯罪、経歴、戸籍の購入などがバレてしまい、黙っている代わりに相手の仕事を手伝うことになったらしい。

 

「じゃあここから仕事すれば!?なんで私を裏切るの!!」

「向こうの条件が『秀知院学園中等部に入学する』『相手の拠点に住むこと』『相手と特別養子縁組すること』なんだよ!断ろうとしたらアイの事も調べられて命とか貞操とか色々人質にされてんだ!」

 

 絶句した。そんな相手がいるなんて。私まだ小5だよ?小5の命や貞操を人質って……。

 

「向こうの事は知ってるから契約で『星野アイに手を出さない』『当初の目標が達成され次第仕事は辞める』とか必要な条件は勝ち取ったから。普通にやれば大学卒業までには終わるから」

「じゃあ私も一緒に行く」

「それができないから言ってんだよ。別に分かれる訳じゃないし、週末には帰ってきたりデートできるから。俺が18になれば結婚も出来るから!」

 

 そう言われてとりあえず颯真を解放した。

 

「どうしても仕事の内容的に施設からだと時間が足りないし、元々のシノギも継続する必要があるから、向こうの拠点に行く方が良い。理解してくれ」

「……いいけど、今10月だよ?入学準備とか大丈夫なの?」

「一応全国模試一位だし、秀知院は過去のコンクールとか大会受賞歴も加点対象になるからな。ストレス発散でやってた剣道とか空手とかで全国制覇、暇でついて行ったテレビの収録で大ヒットっていう加点要素があるから」

「そう聞くと私でも行けそうだね!」

「無理無理。中等部へ外部から入学するのは数年に1人だ。そもそも席が空かないから」

 

 それって颯真を追いかけて来年秀知院に入学しようと考えていた私の計画がパーになるってこと?

 

「後は俺の養父予定の人物が大物だからな。入試でミスしなければ問題ない」

 

 つまり、入試の日に遅刻させてテストを受けられなければ……。

 

「言っておくが入学できなければ、俺はムショに入れられるかこの世から消されるだけだから。どの道施設には居られないから」

「むーっ。なんでバレる様な仕事してんの!バレなきゃ犯罪じゃないがモットーでしょ!」

「アイ、流石にその考えはダメだぞ」

「颯真が言うな!」

 

 大体約束守らない、犯罪だって平気でする、良心を悪魔に売った様な男が「悪い事しちゃダメ」なんて説得力がないよ!

 

「俺が18になって結婚できるようになったら役所に結婚届出しに行くから。アイが施設出るときには結婚して、一緒の家に住むから。浮気とか一切しないし、できるだけアイのお願いも聞くから!」

「じゃあ子ど「子供以外」……週一デート、颯真が18になった日に結婚、まとまった休みには一緒に旅行に行くを守って」

「承知しました、お姫様」

 

 私、姫って感じじゃないけど。

 

side:颯真

 

 あれから酷かった。

 

 まずアイが俺から離れなくなった。学校でも離れようとせず、常に俺にしがみついていた。少しでも離れようとするとアイの星の瞳が真っ黒になる。ついでにアイアンクローをかけてくるのだ。

 

 週一の習い事という名のレッスン?拷問?を受けて帰ってくると「女の匂いがする!」とかギャーギャー騒いでいるし、プクーッと怒っている。いくら怒っても可愛いだけで笑顔が止まらないのだが、そのせいで余計にアイが怒る。そんな可愛いアイを見て笑顔になるという無限ループに陥っている。

 

「大体さ、俺悪くないよね?行政も司法も助けてくれなかったから自力で生きてきたのに、それを今更咎められても……ならお前らの不正や冤罪について公表してやろうか?やって良いなら半年くらいなら警察組織を機能できなくさせることだってできんのに」

 

 よく考えれば生物学上の両親のせいで地獄の人生送ってきたのに、今更血縁を盾に交渉してきた時は殺そうかと思ったな。死体処理の時間がなかったから身ぐるみ剥いでからゴミ捨て場に捨てたが。

 

「それで、さっきからストーキングしないでもらえますぅ?ショタコンかよ」

「違います。あなたが秀知院の入学試験に行くかの確認です」

 

 今日は秀知院中等部入学試験当日だ。本来なら前日から会場近くに泊まるべきだが、割と近いから問題ない。それにどうせ逃げられないのだから彼女とできるだけイチャついていたいのだ。

 

「あんたが送ってくれるのか?それとも車とか」

「いえ、迷子にならないように付き添いです。逃げそうなら首輪とリールで拘束しましたが」

「それ拘束じゃないよね?変態プレイだよね?ってか、それやったらあんたの方がヤバいだろ。俺まだ12歳だからね」

「その体格なら成人と変わらないでしょう。警察だって私を被害者と思ってくれますよ」

 

 こいつの背後考えるとマジでありそうだな。やっぱ財閥なんてクソだ。

 

「まぁ、秀知院は先進的な考えだから楽だぜ。国語・算数・英語の3教科、終わり次第切り上げて良いんだろ?一時間かからないと思うぞ」

「その後に面接ありますからね」

「過去の受賞歴とかあるし、芸能活動とか(結果的に)慈善事業とかの経歴を舐めるなよ。……賄賂は3億あれば足りる?」

「経歴なんて詳しく調べれば真っ黒でしょ。世が世なら世紀のテロリストですよ。後、賄賂は足りませんし、必要ならこちらで用意します」

 

 まさか中学入試の賄賂で3億円でも足りないとは……大抵の企業や人間なら十分な金額だと思うが。やはり金持ち学校は凄い。

 

「校内の案内は私がします。他の方との会話も私がします。あなたの仕事は黙って試験を解き、面接を受け、倍率100倍の試験に合格することです」

「ちょっと待て。倍率100倍?たかが中学入試だぞ」

「間違いじゃありません。今回の合格人数はわずか1名。そこに全国から100名以上の受験生が集まっているので」

「僅か過ぎんだろ!」

「ちなみに合格後はぼっち生活確定です。私は高等部にいるので何かあれば連絡してください。暇なら助けに行きます」

 

 これが案内とか嫌すぎる。

 

「後、交通費と昼食代は出ませんので」

「それくらい出せよ!必要経費だろ!」

 

 

「終わったぞ。ついでに受験者の半数がトイレに閉じ籠っていたぞ」

「一体どうしてでしょう?こんなに可愛い美少女が応援してあげたのに」

 

 やっぱりこいつがやったな。トイレに籠っていた奴らはほぼ男子だったし、ハニトラに引っ掛かって下剤入りジュースでも飲んだんだろうな。

 

「そんなことしなくても合格したよ」

「それなら問題ありません。この後の予定は」

「また演技とかのレッスン、今度のお披露目に向けたクソみたいな礼儀作法の練習だろ?既に覚えたのに」

「講師陣が納得していないからですよ。何より、あなたは”四宮の人間”としては落第なので」

「あの可愛くない家訓の事か?おっさんからも『結果を出すなら無視していい』って言われてんだけど」

「それでも無視できない家は多いので」

 

 嫌だねー、俺を葬り去ろうとしたくせに。いざという時には教育されてない、四宮に相応しくないとか言ってよ。その四宮からも見捨てられた人間に何期待してんだか。

 

「それでは送ります。今回こそ大人しくしていて下さい」

「それは相手の態度次第だろ。あんたこそ、本当の主人の良いのかよ」

「…あなたほど問題児ではありませんので」

「そーですか」

 

 後日、俺は余裕で秀知院中等部に合格した。

 

 全教科満点、過去の全国模試不動の一位、その他数々の実績を持つ俺に誰が勝てんだよ。

 

 まぁ、これでアイとは何年か一緒に暮らせなくなるんだけどな。

 

side:????

 

 怨敵が巫女と恋人になった。

 

 神様からはメチャクチャ文句言われるけど、そもそも私はここの担当じゃないんだよ。大体、使える駒がいないから私がいるのに。あぁ~地元に帰ってゆっくりしたい。

 

 まぁ、怨敵がテレビに本当にヤバい呪物大量に持ち出し、神様に嫁いだ女性と接触した時は驚愕した。震えながら見ていたけど、簡単に呪物を破壊した時や神様の影響を跳ね除けていた時は恐怖で逃げ出したよ。

 

 何あれ?お祓いじゃなくて破壊だよ。文字通り神の力を跳ね除けるとか怖いよ。対抗できないじゃん。

 

 分かりやすく言えば、お祓いってヒーローの必殺技なんだよ。敵を倒す必殺技だから問題ないの。怨敵は呼吸や瞬きと同じ感覚で必殺技クラスの攻撃してる。しかも呪物の力を取り込んで力を増しているから質が悪い。

 

 正直、RPGのラスボスが配下の魔物を取り込んでいる様にしか見えない。ただでさえ神殺しの一族が他の呪物やら悪霊を取り込むなよ。そして何にも影響ないとかおかしくない?殺した神を取り込んだ人間は狂って、そのせいか今でも狂人しか生まれない一族なのに。

 

 

 

 

 

 しばらく経ち、怨敵が巫女から離れることになった。どうやら過去の悪行がバレて脅迫されているらしい。いい気味とも思うが、これで巫女から離れてくれると神様も私も幸せだ。

 

 怨敵が巫女の元から出ていく時に号泣し、巫女も号泣し、周りの人間も号泣していたから互いに信頼い合っていたんだろう。これで怨敵が大人しく生きていれば誰も悲しまなくて済むんだけどな~。

 

 神様からもしばらく放置で良いって言われたし、そろそろ地元に帰るかな。




 ここで第1章『プロローグ編』終了です。
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