今回から2章になります。
芸能界へ
side:アイ
私の名前は星野アイ。ただの可愛い小学6年生だ。
颯真が施設を出て数カ月が経った。
最初は大丈夫だと思ったの。だって颯真の方が酷かったから。
『嫌だ! アイと離れたくない!』
『馬鹿言ってないで行くぞ!お前ら、こいつを連れてけ!』
『無理ですよ! 既に5人がやられているんですよ!?』
『麻酔銃も筋弛緩剤も効きません!奴は本当に人間ですか!?』
『……これが親父の発掘した原石か』
『何生ぬるいことしているんですか』
『いや、だが…』
『総員、実弾の発砲を許可する。殺す気で行きなさい!!』
『『『了解!』』』
施設の中で大人の男を5人締め上げて、銃撃してくる3人を爪切りだけで撃退した颯真は化け物だと思う。――最後はいきなり倒れた颯真を縛って運んでいたけど。
「でもさ。私と颯真って施設で会ってからいつも一緒だったから、会えないと変な感じがするよ」
「いや週1でデート、毎晩寝落ち通話している奴のセリフじゃないからな」
「マダオだって寂しいでしょ?颯真がいないから養育費稼ぐの難しくなったとか言ってたじゃん」
私も最近知ったけど、マダオは愛人に子供を孕ませて慰謝料や養育費を支払っていたらしい。慰謝料は1人当たり500万×9、養育費は月に10万×9人分を大学卒業まで。
「夜見の奴が言わなきゃもっと安く済んだんだよ! あのバカ女達を唆して慰謝料請求と養育費を吊り上げたんだぞ!? 最初は最高でも慰謝料100万と養育費720万(月3万×20年)の820万。これを8人分だから6500万もしなかったんだ」
「それが颯真の入れ知恵で合計2億5000万だっけ? しかも高額な生命保険掛けられているんでしょ?」
「そうだよ。おかげで金になりそうな依頼は全て受けているし、詐欺まがいの商売してんだぞ!」
その上で風俗巡りやパパ活している時点で懲りてないよね。
「颯真がお金貸してくれたんでしょ、2億5000万円分。それならいいじゃん」
「よくねえわ。無利子無期限は有り難いが、遅れたら命で支払いとか小学生の発想じゃないからな。大体小学生が億の金貸せるっておかしいだろ」
「その辺の理解は諦めたら?色々おかしい人だし」
「法や倫理を無視して勢力拡大を目指し、逆らう者は叩き潰し、忠実な奴には十分過ぎる蜜を吸わせる。……
「それって誰?」
「はぁー」
なんかバカにされた気がする。
「ダチョウにも劣る脳足りんじゃ分からなくて当然か」
「失礼にもほどがあるよね!?」
「四宮家ってのは夜見が養子に行った家だ。それで四宮雁庵ってのが夜見の伯父、あいつの母親の兄だ。ついでに夜見の戸籍上の父親になった男だ」
「へぇ~」
「四大財閥の四宮家のトップで、お前のいる施設のオーナーでもある」
「へぇ~」
「……夜見を見殺しにして、自分の妹もグループの利益のために生贄にして殺そうとしているクズだ」
「酷いね!」
それからも色々言ってたけどよく分からない。
「普通に考えれば親戚に引き取られて、その親戚はとんでもない金持ち。人生安泰と言えんだが……あいつは取引だから大変だろうな」
「取引? 何かするの?」
「……本当にダチョウにも劣る脳足りんだな。四宮家なんてまともじゃない。そこに無理矢理養子に行くって事は取引しかありえない。一度殺そうとした人間を身内として取り込むなんて異常事態だからな」
「颯真の力になることってあるのかな?」
「星野が性接待やればそれなりに活躍できるかもな。その時点で夜見は星野と心中するだろうが」
「なら意味ないじゃん」
「あいつのことは放っておけ。どうせ夏には一度帰って来るし、5年もあれば結婚だろ。気長に待っていればいいんだよ」
「い、今なんて言ったの?」
「その、しばらくそっちに行けない。寝る前の電話も出来そうにないから。その内連絡する」
そう言って颯真が電話を切った。
意味が分からない。明日は颯真も夏休みで施設で過ごすことになっていた。明日からの予定も立てて楽しみにしていたのに……。
颯真の誕生日、夏祭り、海水浴、キャンプ、暇なら心霊番組の収録だって行こうと思っていた。その予定が全部なくなった……。
「そんなバカな……あいつを使ってまた金儲けしようと思っていたのに……っ!」
マダオも悲しんでいる。そういえば颯真を収録に連れ出したら1000万とか話していたな~。
「こうなったら直談判だ。クズ共の根城に乗り込むぞ!」
「居場所分かるの?」
「有名だからな。少し調べれば出てくるぞ」
そう言ってマダオだ見せてきたのはすっごく大きい家だった。
「ここってどこ?」
「四宮別邸。少し前に建てられた四宮家の東京活動拠点だ。恩人の俺が行けば顔くらい出すだろ」
「確かに、恋人の私がいれば会ってくれるよね」
とりあえず施設から電話しよう。明日にでも会いに行くよ☆って言えば良いでしょ。
「ごめん。今、コスタリカにいるから」
「こ、こすたりか? どこ?」
「中南米。クソみたいなテレビの撮影があるんだよ」
「それじゃあ、それが終わったらデートに行けるよね?」
「…実は新しい番組のために何本か撮りためするって、夏休み中に海外を飛び回ることになっている」
「ならその間で」
「収録の合間にドラマやCMなんかの撮影が入っている。どうにか一日くらいなら会えると思うから」
そう言われて切られた。精神的には斬られた。
……おかしくない? 私って彼女だよ? 週一でデートするって約束したよね?
嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき
「マダオ! 行くよ!」
「一体どうした」
「あれからどんだけ経っていると思っているの! もう我慢の限界! 直接颯真を捕まえるよ!!」
あれから夏休みは一度も会えなかった。最後に会えるって約束した日すら「ゴメン。急用が入って……」とか言いやがってドタキャンだよ……っ!
「初めから直接捕まえればいいんだよ。大体、週一のデートも寝る前の電話もしなくなった訳だし」
「それはいいが、あいつってどこにいるか知ってるのか?」
「えっ?」
「冷静に考えたんだが、あいつは学校、財閥の仕事、レッスン、ドラマやテレビの収録など……はっきり言ってやる事多すぎなんだよ。多分だが家にいないぞ?」
「嘘でしょ!? 朝か夜に行けば会えるんじゃないの!?」
だってまだ中学生でしょ? そんなに忙しくないはず。
「あいつの引き取られた四宮家は”悪の軍団”とも言われる血の凍った連中だ。さらに芸能界も似た様な社会。個人的にはヤクザの方が人道的だと思う程だ」
絶句した。そんなのが世の中にいるなんて。
「恐ろしいのは国会・内閣・裁判所もほぼ制圧していることだな。トップがやる気ないだけで、その気になれば自分達に都合の良い法律を作ることも、敵対する人間を合法的に殺す事だって可能な連中だ」
「本当に恐ろしいんだけど」
「今は藤原総理が対四宮家対策をしている事、四宮家当主がそんなこと考えていない事が救いだな」
確かに凄い。でも、それなら不思議に思うんだけど……。
「なら颯真ってなんで引き取られたの?」
「……それが疑問だ。活動から見るに芸能界へ進出するためだろうが……四宮にとって必要と思えねぇ」
「分からないんだ~。ならさ、ダメ元で会いに行こうよ。可愛い私が行けば少しくらい会えるでしょ」
「そうだな……少しは会えるかもしれないな。ダメでも10回20回と会いに行けば面倒くさくて一度くらい会えるだろうし」
「だから! 颯真に会わせてって!」
「ですから不可能です。彼はコスタリカで魚を食べに行きました」
「嘘にしても雑過ぎるでしょ!」
ここは四宮別邸。颯真が住んでいる場所らしいけど、ここにいる門番が颯真に会わせてくれない。
しかも雑過ぎる嘘で追い返そうとして来るし。
「なら、いつ来れば会えますか?」
「……彼のスケジュールは把握していないので分かりませんが、3週間後には会えると」
「ふざけないで!」
「星野。その辺でよせ」
「でも!」
「とりあえず帰るぞ。こいつも嘘言っている訳じゃないようだし」
嘘でしょ!? コスタリカに魚食べに行ったとか信じてるの!?
「見ろ。あいつのレギュラー番組で『颯真VS伝説の巨大魚!』って宣伝が出てる」
「……噓でしょ?」
「本当だ。ネットテレビなんて見ないから初めて知ったぞ」
「現地の魚を釣って食べるらしいです。それのどこが面白いのか、私には分かりませんが」
門番さんも死んだ魚の様な目で会話に参加していた。
「彼に習い事を教えようとすると三日で習得するか、講師を叩き潰すのでこちらも困っているのです。『アイに会わせろ!』と叫びながら暴れるので麻酔銃なども使っていますが……最近、効き目が弱くなって」
どうやら颯真の方が危なそうだ。門番の顔を見ると顔から生気が無くなっていた。
「彼に休みができたら必ず電話するので。お金が必要であればいくらでも払いますから、必ず来てください!」
『『『お願いします!!!』』』
いつの間にか沢山の人が出てきて土下座していた。数十人の大人が一斉に土下座するって……颯真は何をしたの?
「とりあえず10万渡しておきますね。迎えが必要なら施設からこちらに連絡していただければすぐに向かいますので」
「「……はい。失礼します」」
私達は大人しく帰ることにした。どうやら颯真に会えないのはどうしようもない事みたいだし。
「で、この後どうする?」
「どうしようかー」
颯真に会えなかった私達は東京でぼーっとしていた。どうすれば颯真に会えるのか分からないよ~。
会えるとは思ってなかったけど、本当に忙しくて会えなかった。仕事やレッスンで忙しくて、海外にいる人間とは中々会えない。
颯真も私に会おうと必死だった。暴れすぎて麻酔銃使われて、既に耐性が出来つつある。
周りも颯真と私が会えるように必死だった。数十人の大人が土下座で頼み込んでくる位には本気だ。
「とりあえず、俺は吉原で風呂に入って来るから。星野は適当に東京観光してくれば?」
「お風呂なら私も「大人の風呂だからダメ」……その辺で買い物でもしてるよ」
「俺は2時間風呂入ったら帰って来るから。大人しくしてろよ!」
そう言ってマダオは風呂行った。あの人、そんなに長風呂するんだ。
「どうしようかな~。お腹すいたしケーキでも……」
「ねぇキミ。パフェとか食べたくない? 話だけでも聞いてくれたら何でも奢っちゃう」
この時、私は初めて知った。意外と世の中なんとかなることを。
「スカウトっていうから何かと思えば。アイドル? 私が? 笑っちゃう話だね」
抹茶ラテに釣られて、突然声を掛けてきた聞いてあげる事になったけど。
「今うちの事務所で中学生モデル達でユニットを組もうとしてる所でな。君ならセンターも狙えるよ」
「興味ないです」
「いや絶対向いてる。保証する」
私がアイドルっていうのはさ、かわいい女の子たちがみんなに笑顔を振りまいて、歌ったり踊ったりして、みんなから声援をもらってる……すっごくキラキラしてる存在だと思うんだよね。
容姿には自信がある。この容姿のせいで男の人から変な目で見られ、周りの人からイジメられ、お母さんに捨てられた。マダオからも「女として既に完成されている。その辺の女優やアイドルより容姿だけは上だ」とか言われてるし。アイドルにスカウトされている以上、客観的に見てもアイドルレベルの可愛さなのだろう。……颯真は見た目で人を判断しないけどね!
前まで『寺系美少女巫女』とかやっていたから踊りや歌もそれなりに出来る。少なくともファンはいたし、マダオが作ったファンクラブだけでも1万人近くの会員がいた。皆から凄い凄いって言われていたし、神社とかの人達も喜んでいた。いくつもの踊りや歌を覚えることは難しくない。
考えてみれば意外といけるかもね。よく考えれば『寺系美少女巫女』自体がアイドルだったし、芸能事務所からのスカウトなんてラブレターより貰った。
「止めといた方が良いと思うよ。私、施設の子だし」
私にアイドルはできないよ。やる気とか熱意?そういったものが今の私にはない。
以前は暇つぶしやお母さんと一緒に暮らすため……お金のためという目的があった。でも、お母さんが私を捨てて、颯真っていう恋人ができた。マダオに中抜きされたけど、貯金だって1000万くらいある。颯真なんて億の金を貸したり、困っている人*1にお金を貸している人達*2にお金貸しているらしい。「人生10回分の金は稼いでいる」って言われた時はマダオと一緒に気絶するかと思ったよ。
アイドルをやる女なんて承認欲求とか自尊心の塊でしょ? 人から見られて賞賛されたいっていう女。私は颯真と一緒に居られれば良いし、自尊心も十分に満たされている。お金だって颯真のお嫁さんになれば関係ないし、他の仕事をしてもいい。……子供は嫌いじゃないし、保育士とかどうかな?
何より闇の塊である私には似合わないよ。『寺系美少女巫女』とか今考えると詐欺だったし。父親不明、母親は犯罪者で失踪中、親戚なんて誰も知らない。交友関係は破戒僧のマダオ、視聴率欲しさに何でもする鏑木さん、なんか危なそうな姫川さん、四宮に攫われて暴れている颯真。
……やっぱり断った方がいいね。私も周りも変な人しかいないしね。
そこから私は父親不明の事、母親が犯罪者の事、親戚からも見捨てられている事、私自身もまともじゃない事を話した。自分の傷を抉る感覚があったけど、お母さんに抉られた時よりはマシだ。
「アイドルって笑顔を振りまいて、皆を笑顔にする純粋な女の子でしょ? 私には出来ないよ」
ここまで言えば帰るだろう。こんな嘘つきで、親にも捨てられる愛されていない存在なんて……価値ないでしょ。
「いや、絶対向いてるよ! アイドルなんてお前が思っているほど純粋な存在じゃないからな!? そんだけ闇や毒のある人生送った奴なんて芸能界には沢山いる! 芸能界ならそれはお前の”個性”で”魅力”だよ!!」
「で、でも。私なんて嘘つきだよ?」
「客が求めるのは綺麗な嘘だ。嘘を吐ける才能ってアイドル向きの才能だ!」
私の過去が魅力。アイドル向きの才能。その言葉に少し、少しだけ惹かれた。
「本当に嘘でもいいの?」
「あぁ、客はキレイな嘘で『愛してる』って言われたいのさ」
「……良いんだね? 本当に嘘ついても」
「っ!」
少しだけ、本当に少しだけやる気になれたよ。嘘つきの戦いなら、私は最強だし。
「でも私、彼氏いるよ? アイドルって彼氏ダメじゃないの?」
「そこは問題ない。売れてないアイドルに彼氏いてもバレないし、売れたら隠して嘘吐けばいい。彼氏持ちのアイドルなんて山程いるしな」
「分かったよ。でも、帰って彼氏と相談させてくれる? 一応保護者的存在にも相談したいし」
「いいけど保護者的存在? 施設の人か?」
「違うよ。私と彼氏で金稼いで、彼氏に借金している女狂いだよ」
「クズだな! ってか彼氏って社会人かよ。ロリコンとか大丈夫か?」
「彼氏は中学生で一個上だよ」
「……中学生に借金している女狂いか。人としてヤバいな」
「今も吉原でお風呂入りに行ったよ」
「…………大丈夫? 警察に相談した方が良くない? 別の意味で事務所に匿いたいんだけど」
「大丈夫だよ。最悪、彼氏が締め上げるから」
ただの暇つぶしが面白い方向に転がったね。 でも、自分の力を試すのは面白そう。
それに、アイドルってことは芸能界だよね?颯真も芸能界にいるんだよね?
「もしもしマダオ? 芸能界について教えて~」
本作の星野アイがアイドルになる理由は原作の様な「アイを知るため」ではありません。そもそも彼氏作って何年も経っているので愛する事も愛される事も知っています。そのため、本作の星野アイの目的は「自分の力を試す」「彼氏の近くにいるため」となっています。
また、本作の星野アイはタグ通り強化済みです。「何故か持っている芸能界へのコネ」「中学生として十分な資金」「金については信用できる保護者」「愛を知っている」「アイドル?経験あり」という5つが強化ポイントです。