前回までより前の時系列となります。
side:颯真
俺は優秀な人間だ。
一度見た物は忘れない……って程じゃないが、それに近いことができる。生まれてすぐの頃から今までの記憶を覚えている。家族に捨てられる3歳まで家の中で過ごしていて、暇な時は本を読んだりパソコンを使っていた。周りの大人に話しても無視されるか遠ざけられ、酷いときには腕を折られたり首を絞められた。
俺の一族は血統主義や才能主義だったから、勉強するために必要なものは全て与えられた。1歳の頃には辞書を読破し、専門書とか読んでたよ。このくらいから知らない人と関わるようになった。それが”親”というものらしく、本には「親は子供を大切にする」「親は子供を愛する者」と書いてあった。――でも、それは違ったらしい。
俺の”親”は怪物でも見る様な目でこちらを見て、気付いたら俺はベッドの上で寝込んでいた。”親”という者に傷つけられたらしい。
それから”親”と会うことはあまりなかったが、俺とよく関わってきた人が居た。詳しくは分からないが、その人が教えてくれるといつも以上に勉強できた。その人は俺の”家族”らしく、2歳の頃には帝王学や経営学について勉強していた。この世にはいくつもの言語があり、それを学べばもっと勉強ができるとも教えてくれた。大体10種類の言語を勉強したら十分だった。
俺が勉強していると、”家族”の人は喜んで褒めてくれた。これが”愛情”というものなのだろう。それが欲しくてさらに頑張った。そんな日々を過ごしていると、俺は”親”からの愛情が欲しくなった。子供にとって”親”からの愛情は素晴らしいものらしい。
それはよく理解できた。だって”親”から愛されている子供は羨ましいくらい眩しかったんだから。その中に入りたいと思った俺は駆け出した。
――そして、俺は”家族”からも捨てられた。
side:雁庵
私の名前は四宮
今、私の四宮家は割と深刻な状態にある。
「それで、四条が別れてからの損害は?」
「……想像を絶する被害です。元々総資産400兆円を超えていた四宮グループの総資産が、今では200兆円程にまで落ち込んでおります」
流石に絶句する。あの神木家すら倒した四宮家なんだがなぁ。
事の発端は高度経済成長期に行った経営方針にある。その際のやり方は確かに強引だった。それもこの国を良くするためであり、神木家を滅ぼすためであった。だが、それに反発した穏健派が独立した。その際に行われた争いによって受けた被害、四条共が居なくなったことによる損失が約200兆円ということだ。
神木家に不穏な動きがある以上、四宮家の影響力が下がる事だけは阻止せねばならない。そのための方法は幾つかあるが、その全てが実現不可能と言っていい。流石に四宮の悪名が広がりすぎた。
真っ先に行うべき事は次期総帥の選任。つまりは跡取りを決めることにある。現在の候補は三人。その中で俺が後継者に相応しいと思う者はいない。……アイツがいれば迷わずに済んだのだが。
「こちらで対策を立てる。下には普段通りの業務を行う様に徹底しろ」
「はっ!」
独りになった部屋で思う事は後継者についてだ。
俺の息子は黄光・青龍・雲鷹の三人だ。本当なら長男の黄光にでも継がせれば終わりだ。黄光は四宮グループの大半の指示を集めている。言ってみれば主流派だ。
対して次男の青龍はダメだ。上に立つ器じゃない。それでもかつての四大財閥・神木家が後ろ盾にいる。四宮を乗っ取るための操り人形として最適だったのが青龍だから、奴の下に着いたんだろうな。
三男の雲鷹は血筋からして難しい。後妻の息子であり年齢も若い。まともに教育も終わっていないから将来性ならあるかも? くらいの評価だ。
「これなら黄光にすればいいが……
星愛は俺の甥であり、四大財閥本家同士の嫡男として生まれた男だった。正確には
あいつは当時確立されたばかりの体外受精、代理出産によって生まれた子供だった。その際に優秀な子供になるように遺伝子操作された唯一の成功例だった。とはいえ、100回以上の子供を作り成功例が星愛だけな時点で怪しいがな。単純に星愛が優秀だっただけだろう。
星愛の優秀さは見て分かった。1歳に満たない子供が普通に立って歩き、本を読み、大人と会話を成立させていたのだから。妹夫婦や使用人達は気味悪がっていたが、俺からすれば優秀な跡取りにしか見えん。少し教えてやれば嬉しそうにして学び、俺の中では次期後継者に指名していたほどだ。……星愛が神木家の跡取りでなければ養子にとっていたのに。そう思う程、俺は妹夫婦に嫉妬していた。
何より俺の神経を逆なでしていたのは妹夫婦が星愛を化け物として扱っていたことだ。自分で作った子供に対して、優秀な跡取りとして生まれた子供に対する扱いではない。俺に良く懐き、俺の子供と言っても過言でない存在。妹と俺の遺伝子はそこまで違う訳じゃないし、その子供なら俺の子供と言ってもバレないと思っていた。普通に愛人の子と言って誤魔化せないかと真剣に考えていたし。
そんな星愛も子供らしく親からの愛に飢えていた。そもそも年に数回しか会っていない両親に褒められたくて勉強し、2歳でその辺の高校生よりも勉強できていた。俺の子供なら飛び級させて大学で勉強させるくらいには優秀だった。それでも両親から化け物扱いされ、まともに人間扱いされていない状態を見た時には殺意すら湧いた。
そんな妹達に二人目の子供が出来た。その子供は普通に妊娠して生まれた子供だった。妹夫婦はその子供を可愛がり、星愛は見向きもされなくなった。四宮家や神木家の人間も星愛は居ない者として扱い、妹達は星愛に向けなかった愛情を彼の弟に与えていた。
「あの時、無理にでも星愛を引き取っていれば楽だったなぁ」
星愛が捨てられると決まった日、俺はアイツを引き取る準備を進めた。伯父が放置されている甥を引き取るだけだから法律上の問題はなかった。だが、俺の立場が許さなかった。
四宮グループ幹部の全員が星愛を引き取ることを拒否し、星愛を殺すべきだという声が大きかった。最終的に「神木星愛という人物は存在しなかった」という事になり、各組織には見捨てる様に通達を出した。四大財閥本家同士の子供を殺せば亀裂となるため、勝手に死んでくれた方がメリットが大きいという判断だった。
今では名前すら出してはいけない存在となり、そもそも覚えている人間の方が少なくなった。
「もう一度でいいから、会いたいな」
それを知ったのは偶然だった。本当にたまたまテレビを見ていた時の事だった。
『では、この呪物と心霊写真を破壊しまーす』
そう言いながら見ただけで本物と分かる呪物や心霊写真を破壊し、ドラム缶の中に放り込み、サラダ油をかけて燃やしている馬鹿が居た。
その馬鹿を見た瞬間、俺は確信した。成長しているが星愛だ。アイツは生き延びていたのだと。
「早坂! すぐにこいつの情報を手に入れろ!」
地上波で放送している番組であるなら身元は確実に分かる。局に連絡すればすぐに分かった。マダオという霊能力者の弟子で、夜見颯真というらしい。
次に夜見颯真について調べると簡単に判明した。四宮の運営している児童養護施設に居た。信じられない事に何年も前から居たらしい。
「何故、何故報告に上がってこなかった!」
どうにか引き取ろうと考えるが、断られる未来しか見えない。四宮家と神木家の連名で戸籍抹消、警察や役所などが助けることを禁じたのだ。要は国を挙げて野垂れ死にさせろと命令した手前、ここからどうにか引き取る未来が見えない。
「雁庵様、マズいです。夜見颯真という者ですが、厄ネタの宝庫です」
「厄ネタ?そもそも存在が厄ネタだから気にしなくて良い」
「違います。生まれよりヤバいです」
報告によると、星愛は『人間換金所オーナー』として関東一帯を収めているそうだ。闇金などで借金漬けになった人間、敵対・邪魔な人間などを洗脳し、様々な事業に使っていると。具体的には抗争のヒットマンや自爆テロの実行犯。単純に本人に価値があればそのまま利用している。現在は龍珠組と協力して周辺組織を壊滅させている。
なんて素晴らしい手腕だ。誰に教わることなくここまでの事業展開をしているとは!言ってみればベンチャー企業の社長として事業拡大しているんだ。やはり次期後継者には星愛しかいない!
「夜見颯真は凄いですね。四宮や神木が事業を拡大できない様に暗躍していたようです。我々に恨みを持つ人間を洗脳し、こちらの手札を潰し回っていた様です」
「具体例は?」
「顧客情報や研究内容と言った機密情報の漏洩。重要でないポストにいる人間の殺害・逮捕。そこまでの被害はありませんが、逆に言えばそれなりの被害が出ています。少なくとも事業の遅延や無駄な予算がかかっていたようですね」
素晴らしいにも程がある!個人で四大財閥の内2つを攻撃していたのか。仮にコストが10%余計にかかれば会社の利益は減る。その分会社の成長ができず、長期的に見れば会社の倒産につながりかねない。下手に直接攻撃をせず弱い所、あまり痛手にならない所を確実に削っている点も良い。
「人材も資金も時間も奪っていた訳ですね。嫌がらせとしては完璧です。今まで四宮が気づかなかった事からも本気度が伺えますね」
「そうだな。四宮に気づかれずに攻めていた。これだけでもバカに出来ない。恐らく、穏健派独立のタイミングでも被害が大きくなるように細工していただろうな」
この手腕を四宮家当主として振るったらどうだ?間違いなく他財閥は死ぬ。穏健派など無視しても勝手に潰れるだろう。やはり次期当主に相応しいのは星愛だけだ。文句を言う愚妹夫婦はどうせもうすぐ死ぬから問題ない。息子達も適当に役職を与えれば黙るはず。問題は絶対に養子になる事を拒否するであろうという事のみ。
「……早坂。夜見颯真の弱みを見つけろ」
「いや、この犯罪の証拠だけで十分な弱みですよ? 未成年ですが死刑確定レベルですよ?」
「バカか。この程度なら戸籍と顔を変えれば問題ない。むしろ奴の持つ情報は四宮や神木を壊滅させ、洗脳している駒を使って数万単位の死者を出すことも可能だ」
「流石に考えすぎでは?まだ11歳の少年ですよ?」
逆だ。もう11歳の男だ。3歳までの成長を元に、裏社会で生き残っている事を考慮すると十分あり得る未来だ。洗脳した人間をテロの実行犯、抗争のヒットマンに利用していた経験を活かせば我々の想定を大きく上回るだろう。
「奴がこちらの言う事を聞く絶対の条件。これだけは失いたくないと思わせる何かを掴め」
可愛い甥っ子にやりたく無いが、四宮家の未来のためにも手段は選べん。
早坂に星愛について調べさせてから数日後、俺は何人かと共に星愛のいる施設にやって来た。
事前に面会について話してあるため問題なく会うことが出来た。
「それで、今更何のようだ」
「久しぶりだな星愛。元気にしていたか?」
「星愛?? そんな人間存在していないだろ。たしか四宮・神木の連名で野垂れ死にする様に通達し、戸籍を含めて存在ごと抹消したと風の噂で聞いたぞ」
「……すまなかった」
可愛い甥っ子が俺にゴミでも見る様な目を向けている。この時点で心が折れそう……。
いや、当然か。そんな可愛い甥っ子を助けず、野垂れ死にする様に仕向けたんだ。
「別にあんたらに復讐するつもりはない。どうせ嫌がらせの事がバレたんだろ。止めろと言えば止めるよ」
「それも止めて欲しいが本題は違う。……金に困ってないか?」
「ない。億単位の貯金と十分な収入源がある。いざとなれば龍珠組にでも入る」
「…………一人だと寂しいだろ?家族と暮らしたいとか思わないか?」
「俺に家族はいない。生物学上の母親は来年死ぬし、生物学上の妹達も来年から次々死ぬからな。生物学上の父親はそれなりに生きると思うが、アレに興味はない。生物学上の弟達は一人除いて全員来年で死ぬ」
「………………もっと大きな世界で活躍したいと思わないか?」
「俺は小さい世界でも幸せなら十分だ。大きな世界に興味などない」
無理だよ。金は既に十分あるし就職先も決まっている。家族に見切りつけて、自分の幸せも見つけた後だよ。
後ろを向いて警護に就いている早坂を見ても首を横に振っているし、他の連中を見ても死んだ目をしている。
「話は終わりか? 俺も忙しんだ」
「……お前に依頼を持ってきた」
「依頼?」
「そうだ。四宮の現状は知っているな?」
「大体はな。まさか四条を殺して来いと? それならやってもいいが時間がかかるぞ」
「違う。やってもらいたいのは四宮の強化だ」
高度経済成長期に行った四宮グループの動きは褒められたものではない。だが、我々以外の人間も同じような事をしていた。それを否定している世間もどうかと思う。こちらの知っているだけでも政治家や企業がどれだけ後ろ暗いことをしていたか。
そんな過去がある為四宮グループの風当たりが強い。何をしようにも警戒されている。そのせいで余計な人員・金・時間がかかってしまい事業も進められない。
「今、四宮に必要なのは新たなる”象徴”だ。何かするにしても警戒されないように」
「メディアを抑えている四宮様なら簡単だろ。『四宮は安心安全です』と全メディアで毎日報道すれば大丈夫だろ」
「そんなことすれば余計に警戒される。言っただろ。必要なのは象徴だと」
「……そのアイディアあるのか?正直無理だろ」
分かっている。この状況で悪の軍団=四宮を覆すことは不可能に近い。
しかし! 普通じゃない方法でなら可能のはず!
「だからこその依頼だ。この四宮=悪という風潮を覆すためにお前には
―――トップアイドルへの道を駆け上がってもらう!!」
颯真(星愛)の子供の頃の行動は、アクアやルビーが生まれた時から普通にアイ達と話し、アンチとレスバなどを行っていたため化け物扱いされていました。颯真は転生者ではないので加減知らずだったことも原因です。
・四宮雁庵:四宮家当主。颯真の伯父。颯真を次期当主にするため、四宮=悪という風潮を覆すために動いている。
・神木星愛:現在の名前は夜見颯真。四大財閥本家同士の子供であり、神木家嫡男。体外受精、代理出産、遺伝子操作などを行い生まれてしまったデザイナーベイビーの成功例とされている。転生者ではないが、それ以上の能力を持っている。優秀な跡取りとして生まれたが、優秀過ぎたため捨てられる。
・神木家:四大財閥の1つだが、四宮家との争いに負けた。現在の跡取りは神木光輝。四宮家への復讐を考えている。
・四宮家:穏健派独立直後でありダメージが大きい。さらに颯真による嫌がらせ、神木家への警戒もあり資産が半分にまで減った。