side:颯真
俺の名前は夜見颯真。悪の軍団『四宮家』に拉致されている小学生だ。
俺は四大財閥の内2つの家の血を引いている。それが四宮家と神木家だ。俺は神木家の跡取りとして
四宮家も男尊女卑で長男主義だが、神木家はそれ以上。男は神で女は奴隷か餌。嫡男こそ絶対でそれ以外の男は生贄。正直、今でも引いてるよ。
そんな俺は嫡男なのに捨てられ、両家から事実上の殺害命令が出た男だ。きっと財閥の求める”優秀な跡取り”に相応しくなかったんだろう。
そんな過去がある俺だが、裏社会で金を稼いで戸籍を買うことでどうにか普通に暮らしている。今では施設住みとはいえ、可愛い恋人と十分な金を手に入れた幸せな人生を送っていると思う。
そんな俺の前に現れたのが現四宮家当主である四宮
「いいか。最早四宮の悪評を覆すには正攻法では不可能だ。ならば、思い切った作戦に出る必要がある」
「だから自分達が殺そうとして存在抹消までした甥を養子として引き取りアイドルにするぅ??頭がおかしくなったんだろ」
大方の穏健派独立による心労が原因だな。それか次男の女癖の悪さ。もしくは神木家を押さえつけるのに無理したか。
「だが条件を飲んでついてきた以上、後戻りは出来んぞ!」
「よく言うわ。施設の人間使ってアイと付き合っていることをネタに『恋人の命が惜しくばいう事を聞け』なんてリアルで聞くことになるとは」
こいつらは最低だ。天涯孤独の小学生相手に同じく天涯孤独の恋人を人質にとるかね?どんだけ四宮は苦しい状況にあるんだよ。
「とにかく。これからはこちらの指示に従ってもらう。少なくともアイドルでトップを取るまではな」
「アイドルじゃなく芸能界でだろ。マルチタレントで手を打ったじゃねぇか」
「どっちでもいい。今は個性や実力を付けるために只管レッスンだからな」
「もうアウトロー系でいいだろ。関東中のヤクザが後ろ盾になってくれるよ。ついでに闇金とか人身売買組織とか」
「そういうイメージを払拭するためにやるんだからな!」
ちっ。面倒だ。
「お前には3歳の頃に教えた教育、これまでの人生で培った人脈がある。そこに芸能界で成り上がる為の実力やら個性を身に着けてもらう」
「それで何をしろって。ゴリラでも倒せと?」
「お前は『四宮プロダクション』という新会社からデビューさせる。四宮グループの代表となる訳だ。そのために茶華道や武道を身に着けてもらう。社交界のマナーも含めて四宮家本家の人間として相応しい人間にする」
「終わったぞ。講師を全員倒した」
あれから一週間、俺は四宮家の刺客を全て倒した。
「違う!武道系の講師はともかく、茶華道の講師は倒せないだろ!?せめて認めさせるだろ!?」
「茶釜で殴ってK.O勝ちだ。すでに覚えることもないし」
そもそも茶華道とかマナーって二日あればマスターできんだよ。一度教えられれば覚えるし、社交界の服芸に比べれば余裕。
「実際に見せれば納得するか?」
「もういい。それより歌やダンスのレッスンはどうした?」
「既存の曲50覚えたから十分だろ。そもそもデビューするならオリジナルじゃないと」
流行りの曲や昔の名曲は大体覚えたし、後は演技と四宮グループのスポンサーとしての力でどうにでもなる。
「雁庵様。颯真様は化け物過ぎて人間の基準で考えてはなりません。源為朝*1や船坂弘*2と同じ種族です。早坂家で暗殺者としての訓練をさせた方がマシかと」
「そうだな……それでどうにかなるか?」
「制御できるかはともかく、戦力としては十分です。いざとなれば熊かゴリラとでも戦わせれば話題になりますよ」
「俺にだって人権はあるからな」
こんなか弱い小学生に暗殺者としての訓練を科すなんて倫理観終わってるだろ。
「では暴走したゴリラ100頭を素手で制圧できるレベルで頼む」
「はっ!」
「その状況は日本で起きないだろ。そもそもゴリラって国際保護動物だから戦えないよー」
そんな状況になったら猟友会どころか自衛隊を呼ぶレベルだろ。
「そういえば、俺がデビューする時ってどうすんだ」
「どうするとは?」
「マルチタレントでやっていくって事で歌やダンス、演劇の練習はしているが……どう頑張っても出演自体難しいだろ。新設される弱小プロが圧力で潰されるって」
「そうか?新設する事務所とは言えスポンサー権限があるから簡単だろ」
「いやいや。元々出演していたタレントや事務所にケンカ売る行為だろ。それやったら俺の立場がなくなるんだけど」
「だから?どうせ全員潰すから問題ないだろ」
……えっ、マジで言ってる?
「まさか……今いる大御所とかエースとか全員潰せと?」
「当然だ。今の風潮から世間体を重視する社会に移行するはずだ。そこで重要なのがスキャンダルの有無だ」
「ひっかけて潰せと。相変わらず恐ろしい」
「そのためのネタは持っているだろ」
……そこまで知ってるか。
元々芸能界とヤクザは繋がりが深い。組長の愛人が女優って話も珍しくない。そもそも、ヤクザが芸能事務所を経営しているケースも多い。やはりヤクザが後ろに居ると仕事を得やすくなり、他の事務所に邪魔されにくいというメリットがあるからだ。
そうなれば業界内の噂でスキャンダルくらい嫌でも聞こえてくる。それなりの格がある組なら下っ端でもスキャンダルの1つくらい知っている時もあった。当然、俺の様に闇金や風俗系とも繋がりがあると元アイドルや女優を売りにしている風俗嬢はもちろん、現役のアイドルや女優が風俗嬢をやっていることまで知っている。大抵はキャバだが、NG無し泡姫をやっている奴らまでいる。
「お前の事だから証拠の写真や映像は持っているだろ」
「何で知ってんだよ。一応あるけど……精々50人分だ。ハメ撮りなら45人。妊娠までなら29人。堕胎記録なら10人だ」
「予想以上だな。だがそれは全員女だろ。男の分は?」
「……頑張ったが分からん。ファン食いや売春、脅迫で犯している奴らなんて数えきれない。妊娠させられたって女なら100人以上知ってる。その内50人までなら裏取りしてある」
「人の事言えないが淫れているな。マスコミに言えばそれだけで事業にできそうだ」
「無理だろ。殆どが小粒で暴露記事にしては弱すぎる」
俺の持っている情報は性の乱れや不倫系が多い。他には闇金からの借金位だが……これも大きなスキャンダルにはならない。闇金の事を警察に言われたら終わりだ。
ただし、スポンサーや大御所に犯されて子供ができた奴はそれなりにいる。それを使えば敵対するスポンサーを潰すことや大御所を潰すことも可能だろう。
「問題はその孕ませたスポンサーの中で四宮グループの者が多いってことだ。特に次男派閥」
「頭が痛くなってくるな…」
「颯真様のネタでは四宮グループのダメージ覚悟でないと使えない、という事ですか」
「使えなくはないが難しい。そもそも小粒は正攻法で勝てる。中堅までなら実力とスポンサー権限で余裕で勝てる。問題はその上だ」
「大手の実力者達か。大手の事務所は言ってみれば芸能界版の財閥だからな」
「対してこちらはベンチャー企業。業界内での影響力ではこちらが不利かと」
「ついでに言わせてもらうなら、向こうはこちらのスキャンダルを握ってる。次男本人の件は握りつぶせるが、派閥の不祥事に関しては厳しいぞ。後処理が雑過ぎて恨み抱えてる奴も多い」
信じられない事に芸能関係者に「俺は四宮の人間だけど、仕事欲しくない?だったら分かるよね?」と言って行為を迫っていた。しかも本当に四宮の幹部や息子がやっていた。特に神木グループに関しては目も当てられない。邪魔になれば女の家族ごと消してやがった。女も馬鹿だと思うが、四宮グループや神木グループの名前で言われたら断るって選択肢はないだろうな。
四宮グループとは芸能界において最大のスポンサーだ。その上、スポンサーとして介入することは殆どなく、あるとすれば本当にヤバイ時だけだ。俺の覚えている中だとある人物が「××国で革命を行った〇〇達は素晴らしい人間だ!」と某国でテロ行為を行ったテロリストを賞賛した時くらいだ。その事件で20人以上の死者を出した奴を賞賛した奴も、それを放送した奴らも頭がおかしいとしか言えない。――後日、その某国から正式に抗議があったわけだし。
神木グループもスポンサーの大手だ。テレビ以外にも多くの企画に出資している事もあり無視できない。さらに神木は女や子供を喰ったりして、最近は四宮まで同じようなことをしている。そのため好感度が上がる理由がない。
「そもそも次男派閥と神木家を切り捨てた方が早いだろ。それだけかなりイメージアップになると思うが」
「それが出来たらやってるわ。できないから困ってるんだ」
「穏健派独立前なら可能でしたが、穏健派の独立によってかなりの損害を受けています。ここに次男派閥や神木家を失えば……冗談抜きで四宮グループは崩壊します」
さっさと切り捨てないからだ。それか教育不足。
「色々ヤバいって事だけは理解した。それでも今後は辞めさせろよ。こっちの足を引っ張られたらイメージアップもクソもねぇ」
「分かっている。流石にこれ以上の火遊びは許容できん」
それなら良い。キレイに洗った傍から汚されたんじゃ、絶対にキレイにならないからな。
「そうなると適当な事務所から攻撃するか?小さいスキャンダルだが数だけはある。本気で調べれば相当数のスキャンダルが見つかると思うが……たかが不倫だと弱いしな」
「不倫は民事上の責任を問われても、刑事事件にはならんしな」
「一応麻薬系のスキャンダルもあるぞ。……事務所の子供に無理矢理打たせて犯したとかの逮捕案件とか」
雁庵さんや早坂さんが汚物でも見る様な目を向けてくる。芸能界は実力主義なところがあり、結果さえ出していれば事務所も見逃す。本当に稼げているトップ層になれば事務所が庇ってくれる事も多い。裏社会と繋がった事のある事務所だと簡単に違法薬物が手に入る所もある。
「かなりヤバい所だと女に牛用ステロイド飲ませてグラマーな体形にする。さらに中毒症状起こして絶対服従の奴隷にするって事務所もある」
「バングラデシュで問題になっている薬だったか?そんな事しても意味ないだろうに…」
「適当な女でも魅力的な体なら稼げる。顔は化粧で作れるし、最悪AVや風俗、性接待で働かせれば事務所の利益になる。女達は薬中毒で逆らえないから管理しやすいと」
「後は覚せい剤だな。あれは使っている間だけ集中力を上げるからパフォーマンスが高まる。タレントを使い潰す前提なら一流のタレントを量産できるからな」
こういうことはヤクザ系事務所ならさせない。シマ内で薬が出回ると治安悪化やシノギに影響が出る。実際に薬の売買をしている組でもルールが細かく、組員やシノギの関係者には絶対に手を出させない。特にタレントがヤク中だと金が稼げない。最悪、薬のために犯罪に手を染める奴まで出るんだ。殴ってでも止めさせないと事務所が潰れかねないし、組にまで警察が調べに来る。
「薬の売買に関わっているなら、それだけでスキャンダルとして十分では?」
「龍珠組のシマ内で薬の売買はできない。全部潰し回ったからな。他から買ってると思うが…」
「タレントならロケや撮影で移動が多い。その移動先で買われていれば証拠を押さえられないと」
「そういうこと。芸能人の薬関係は龍珠組のシマでやった奴だけだ。ホテルとかクラブでやっている奴な」
「…せめてスキャンダルの撮られない自宅でやったらいいものを…」
「そもそも賢い奴は薬なんてやらんだろ。その金で自己研鑽をした方が100倍コスパが良い」
まぁ大御所やエースって言われる奴で薬やってる奴は殆どいないからな。大抵は実力があるか人脈を広げて仕事取っている奴だし。
「そういうことで他事務所の奴をハメればいいんだな?一年かけて集めれば事務所を潰すか、そうでなくても影響力を落とせるだけのスキャンダルになるはずだ」
「こちらでも調べるが期待するな。損害の補填が最優先であり、『星愛アイドル颯真タレント計画!』は優先度が低くなる。それでも重要な計画のため人員は出せないが、それ以外は融通しよう」
「四宮プロダクションは話題性のため社長を三男の雲鷹様。副社長兼マネージャーをうちの奈央に任せる予定です」
「どちらもデビューの段階では高校生、タレントは四宮本家に養子となった当主の甥っ子。スポンサーは約4000社、ネットテレビだがレギュラーも確保する。一年以内に武道館ライブは行い、取れる賞は全て取るぞ」
「それは難しいと思うが、向こう10年くらいは記録更新させないくらいには頑張るよ」
人質を取られている以上、芸能界で活動することは拒否できない。だったらトップを目指すくらいはしたいよね、男の子だし。