記念という訳ではないのですが、pixivの方で推しの子の別作品を投稿し始めました。こちら程投稿頻度は高くないと思いますが、良ければご覧ください。「星になった白銀」という作品です。
side:颯真
俺の名前は四宮颯真。
「ガァアアア!」
「獣風情が調子に乗るなぁああ!」
武装したホッキョクグマと素手で戦う人類初の男だ。
「寒い…鼻水が凍る…」
「颯真。この国は最低気温が-69.6度になる。舐めるなよ」
俺が居るのは北極圏にあるグリーランド。デンマークの領土であり、面積が日本の約6倍という世界最大の島だ。
「ここは国土の8割が雪と氷でできている稀有な場所だ」
「ううぅ。この寒さを視聴者に届けたい……」
今回ここに来たのはテレビの撮影のためだ。鬼頭さん・俺・鏑木Pの3名だけという少数精鋭だ。
「本日はこの地に伝わる奇食を頂く!肉だから食べ応えもあるぞ!成長期の颯真にピッタリだな!」
「だったらプロテインでも飲むよ……」
「行くぞ!奇食発見!」
「……はっけ~ん……」
今の掛け声はこの番組『世界奇食発見!』の掛け声らしい。今回が初めての収録のため感覚が掴めない。
この番組は春から放送される予定の番組であり、今は少しでも放送できるようにロケをしている状態……つまり、誰にも知られていない番組の収録をしている訳だ。
食品会社大手の会長・鬼頭丈二さんと四宮家本家の俺が共に世界の食について紹介するコンセプト。妥協を許さない鬼頭さんによってインパクトのある初回になるらしい。
「今回の奇食は下手すると撲殺されるから注意だぞ?」
「何とんでもない事言ってんだ!?」
俺達は鬼頭さんの案内で地元感満載の食堂に入った。
「店主、コレはあるか?」
「あぁ……それが食べたかったなら……本当にすまない」
そういうと店主は申し訳なさそうに言った。
「悪いがそれは今、食材を切らしていて作れないんだ」
「なるほど…‥貴重だとは聞いている。想定内だ」
「なら仕方ないよな。今回は運が悪かったという事で」
「仕方ない?」
そうだろ。いくらなんでも食材がないなら無理だって。肉ないのにステーキは作れないんだよ。
「店主、手に入れる方法を教えてくれ」
「あるにはあるが危険だぞ」
「無論、奴を食うには危険は避けられんだろう」
「待て。そもそも俺は何を食わされるかすら聞いてないぞ」
マジで台本にも「アドリブで!」しか書いてない。他は知らんが俺だけリアルなんだよ。演技なんて一切していないんだよ。
その時だった。扉を開け1人の男が入ってきた。
「店主、最近狩猟に出れずに悪かったな。しかし、今日は賑やかだな」
噂をすればなんとやらだ。鋭い目つきをした男、話を聞くに彼は間違いなく漁師だ。
「ああ、彼らは日本から来たテレビの取材だ。あの肉を食いたいんだとさ」
「なるほどな。だが漁師の苦労も知らずに肉だけ食う金持ちが大嫌いだ。しかもそれで金儲けしようだなんて最低な連中だ。絶対に行かないね」
「それなら仕方ない。猟師さんにも断られたんじゃどうしようもないから」
「待て。肉だけ食う金持ちや守銭奴だと舐めてもらっちゃ困る。漁なしに食すことは不可能と知っていたからな。このレストランに入ったのも漁師を紹介してもらうためだったんだ」
「お前が待て! そんなの聞いてないぞ!?」
俺は飯を食わされる準備しかしていないからな!
「御仁。漁師の苦労を知れと言うならば、我々はその漁についていこう! その肉を食うためなら俺達は何でもやってみせる!」
「狩人の感が告げる。貴様達はただ者ではないな。特にその金髪の男」
「こいつは四宮颯真。悪名高い四宮ファミリーの人間だ」
「知ってる訳ないだろ。ここはグリーンランドだぞ」
「ほぅ。お前がかの有名な四宮ファミリーの……だが、お前からは血の匂いがするぞ」
「こいつは4歳の頃には山で動物を殺して食いつないでいたんだ。漁の大変さも、命への感謝もしっかりと理解している」
「分かった連れて行ってもいいだろう」
何故知っている。そしてそれをカメラの前でバラすな。
こうして俺達は漁への動向を認められた。
「カット! OKです!」
なんか鏑木Pがカットとか言いやがった。
「流石だカール。君の演技は役者でも通用しそうだ!」
「そんなことはないさ丈二」
なんか鬼頭さんと猟師さんが親しげに話しだした。
「おい。どういうことだ」
「言ってなかったかな? 今回の撮影は漁の大変さを知ってもらう事も目的の1つに含まれているんだ。だから態々この時期に来たのだ」
「おうよ。俺らが命がけで獲ってきた食材を平気な顔で残していくような金持ち連中に現実を見せてやりたくてな!」
「道理でスムーズに来た訳だ。鬼頭さんはその奇食を食べた経験があり、鏑木Pは台本通りに撮影をしていると」
確かに四宮財閥の人間が漁に同行すれば、一定の影響力があるかもしれない。その財閥の人間でも(違法だが)漁の経験がある人物なら安全性も確保できると考えた訳だ。
「つまり、今回の撮影は猟友会からの依頼でもあるって事だな。そうでもなければ撮影付きの漁を外国人にさせる訳がない」
「その通りだ。国からの許可も、猟友会からの許可も取っている」
「これから行く漁も俺達4人で行くという建前で、実際にはバックアップで10人が控えている」
……やらせだと思うが、今回は目をつぶろう。流石に命には代えられないからな。
「バックアップは僕達から離れた所で待機している。撮影の時に映ったり、違和感があると困るからね。それでも問題ない距離だから安心して」
「それなら楽が出来そうだな」
――これがフラグだった。
グリーンランドの大地へと繰り出す俺達。
「意外と緑が多いんですね」
「あぁ、氷がかなり溶けたんだよ」
地球温暖化の影響か大地が多く見受けられる。
「人が豊かな文明・社会を築いた結果だ。北極圏の氷はな、3日で180億トンも解ける時もあるんだ」
「海抜の低い国や島は沈み始めるわけか。地球を滅亡へと導いているのかもしれない」
そして2時間程歩みを進める。
「この氷上に奴らは現れる。こっからは命の保障はねえ。辺りに気をつけろ」
「分厚い氷……だが下は海か」
「やばい所に来てしまったな」
ようやく俺達は獲物の縄張りへとたどり着いた。
「この氷上の上だと隠れられないから他の漁師は後ろの方にいる。いざとなれば駆けつけるが、銃の軌道に入らない事、無暗に刺激しない事を徹底してくれ」
「当然だ。流石に奴ら相手に無茶は出来ん」
「視聴率は欲しいですが、命を懸ける程ではないからね。落ち着いて行こう」
あの視聴率中毒者が命を優先するとは。この先にいる生物で美味そうな生物っていたか?
漁師を先頭に氷上を進むと……
「おい……氷の裏に隠れろ」
「マジでか」
「な、なんだあの2匹は!?」
俺達は思わぬ光景に出くわすことになった。視線の先、海にいたのは一本角を持った海獣・イッカクだ!
そしてそのイッカクに向かって氷塊を振り下ろしているホッキョクグマの姿だった!
「まさかホッキョクグマは武器を使って狩りをしてるのか!?」
「奴らは知能が高いんだ。だからこそ狩る価値があるんだけどな」
今回の対象ってホッキョクグマかよ! そりゃ危険だろ! 陸上最強の生物だぞ!
鏑木Pも静かに撮影に集中しているし、鬼頭さんも息を殺している。猟師なんて焦っている。
「マズいな。今奴は興奮している。弾が外れると襲ってくるかもしれん」
「様子を見るしかないのか」
「そうだ。アンタらはそこの氷の陰にでも隠れていろ」
流石に男4人、さらにカメラやマイク持ちだとホッキョクグマから視認できてしまうらしい。流石に移動して様子を見ることになった。
武器を使うホッキョクグマだが、イッカクも負けていない。海上からの攻撃にホッキョクグマも手こずっているようだ。
「そういえば、颯真は熊と戦った経験はあるのか?」
「ヒグマとかツキノワグマならな。肉は硬くて不味かった」
戦ったことがあるから分かる。熊の攻撃を前に人間は豆腐以下だ。厚い毛皮は銃弾すら防ぐため、俺は崖から落とすか、致死性の毒物で仕留めている。
その時、俺は早坂家での特訓の日々を思い出した。
特に辛くはなかったが、特訓のおかげで俺の戦闘力は向上した。天性の肉体、それを肉体改造によって強化した事で身体能力は向上。様々な格闘技や戦闘術を叩き込まれ、数多の猛者と戦った事で戦闘における技術と経験も以前の比ではない。最早、一挙手一投足が必殺技と言っても過言ではない。
「あれ、足場が動いてね?」
「颯真!? なぜ離れていく!?」
俺の足場にしていた流氷となり動き出した。
「しまった! 踏み込みが強すぎたか!」
おそらく温暖化で氷が脆くなっていた事も原因だろう。そこに俺の踏み込みで氷を叩き割ってしまった。流石に陸上最強のホッキョクグマを前にして力んでしまったのかもしれない。
「そ、颯真ぁあ! どこか近くへ飛び移れ! 早く!」
「無理だ! そんなことすれば足場が完全に壊れて海に落ちる!」
「なんでこうなった!?」
「撮影中止だ! 颯真君の命優先だ!」
3人の大人が焦っているが海に流されては助けに来れない。俺も極寒の海に落ちて無事で済む自信がない。
「いや、並みの流れが変わった。岸の方に近づいて行くな……」
俺は岸の方へ戻って来れたことにホッとした。――だが、事態は最悪な方向に悪化したらしい。
「な……なぜだ?」
「颯真!! 海に飛び込んででも逃げろ!!!」
なんと俺が流れ着いた場所は……
「ガァアアオ!」
「キィイイイイ!」
争うイッカクとホッキョクグマ、その中間地点に流れ着いてしまった。
「グォオオ!」
「マジか!」
しかもホッキョクグマの目は俺を確実に敵認定した。今いる場所はホッキョクグマの攻撃圏内。
「こうなりゃイッカクの方がマシだ!」
俺は海の方へ走り出すだが、一角も新参者に気が立っていたらしい。
「キィィ!」
「ぐぁああ!」
イッカクは俺の脇腹に角を突き立てる。さらにそのまま俺を宙に持ち上げやがった。
身動きの取れなくなった。しかもそのすぐ背後にはホッキョクグマだ。次の瞬間、大ぶりな一撃が飛来する!
「がぁあああぁ!!」
「颯真ぁあ!!」
イッカクとホッキョクグマによる奇跡のコンビネーション。流石の俺も少なくないダメージとなる。
だが、ここまで負傷すると楽しくなってくるな。
「この程度か、熊と魚。早坂家の方が恐ろしかったぞ!」
俺はイッカクの角を折り、先端部分を両手で抱える。
「丁度いい槍だ。このまま仕留めてやる」
俺が猛獣2匹を目にすると、奴らは一瞬怯んだ。その隙を逃す程、俺は余裕がないんでな!
「獣風情が調子に乗るなぁああ!」
俺の放った一撃は見事ホッキョクグマを捉えた。
「ガァ……!」
「てめえもだ!」
「ピィッ!?」
ホッキョクグマの頭をイッカクの角で貫いた後、元の持ち主であるイッカクに角を返してやった。頭に先端の方から突き刺したため絶命したようだがな。
「大丈夫か颯真!」
「なんとか血だけでも止めろ! すぐに街に戻るぞ!!」
「おーい! 大丈夫かー!」
獣が死んだところを見ていた鬼頭さん達が俺の元に来た。遠くからは10人程の人間が見えるから、彼らがバックアップの人達なのだろうな。
「俺は良い。肉喰って寝れば治る」
「治るか! そんなもので治ったら誰も医者にかからん!」
「おそらく出血のせいで意識障害を発症しているんだ。街まで持ってくれ!」
「僕は荷物とか持って行きますね。2人は颯真君を!」
街に戻った俺はすぐに入院することになった。
「ずいぶんと頑丈な人だ。傷口からの感染症も抗体のようなものまでできている」
「彼は四宮ファミリーの人間だ」
「なるほど。四宮ファミリーの人間なら納得ですね」
便利だな四宮ファミリー。他の奴なら死んでいたと思うんだが……財閥の人間って、これくらい普通なのか?
「傷も塞がっていますし、命に別状はないですね。検査のため数日の入院が必要ですが」
「それなら撮影は鬼頭さんに任せて、颯真君はゆっくりしていてくれ」
「すまない。万全の準備をしていたつもりだったんだが……」
「問題ないぞ。この様な事態を見越して颯真が出演しているのだ」
「保険は使わないのが一番だぞ。……今回は事故だから問題ない。それより、今回の映像を流せば漁師の苦労も少しは理解してもらえるだろ」
「流すのか!? 四宮からの苦情が凄そうだが」
「元々嫌われていたからな。嫌われ者が死にかけても文句なんて言わないさ。言われるとすれば『次は上手く殺せ』ってだけだろ」
全員が財閥の闇に黙っているが、そのくらい当然だ。権力争いに人数が増えれば、新参者は古参全員に嫌われるものだから。
俺の退院後、撮影が再開した。鬼頭さんが食レポに関してはやってくれたから問題なかったが、俺が無事であると宣言するために終わりの言葉を取るらしい。
「今回は危ないところもあったが、全員無事に終わった」
「怪我していた颯真です。ホッキョクグマとイッカク食べたら治りました」
医者も驚いていたが本当に猛獣2匹食ったら治ったよ。今じゃ傷跡すら残っていない。鏑木Pなんてドーピング疑っていたし、鬼頭さんは奇食の可能性を感じたのか番組への熱意が上がった。現地の医者はホッキョクグマとイッカクの可能性に人生を賭けると言い、研究職への道を歩み始めた。
「それではこの編で。また来週~」
「次回はゴキブリを食べるぞー」
「……えっ?」
以上、颯真の芸能界デビューの経緯でした。
詳しい過去編は別でやります。
次回から元の時系列に戻ります。