怨敵と巫女   作:大紫蝶

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天敵

side:アイ

 

 私は人が嫌い。私から人に話しかけたりしないし、そもそも人の名前を覚えるのが苦手。お母さんに怒られて必死に覚えようとしてもできなかった。そのせいで何度もバカだと言われ続けた。

 

 私は今、施設にいる。お母さんが戻ってくる一年後までこの施設で生活することになった。施設に来たことで学校も変わったから、今までと違って他の人と仲良くなれたらいいな。

 

 でも、それはできないと分かった。

 

 それに会った第一印象は恐怖だった。

 

「星野さん、施設で何かあったらこの子に聞いてね」

 

 そう言われ彼の肩が叩かれる。

 

「一応、この施設のまとめ役?をさせられている夜見(やみ) 颯真(そうま)だ。何かあれば言ってくれ」

 

 その時の彼を忘れられない。

 

 端正な顔立ち、キラキラと日本人離れした金髪、宝石の様な青い瞳、服の上からでも分かる鍛えられた肉体。正直、女の子の理想がそこにいた。

 

 それでも、彼に見つめられた瞬間に理解した。彼に自分の大切なものが暴かれた。自分の嘘が暴かれた。

 

 

 

 彼は私のことを見抜いていた。お母さんに殴られていた時、私がご飯を食べていた白米にガラスが入った。元々砂が混じった白米だったから気づかなかった。気付かなかった私は怪我をした。特に大きな怪我じゃなかったけど、それから白米が怖い。

 

 だから、施設のご飯で白米が出た時に怖かった。母親から出された白米でも怖いのに、知らない人から出された白米なんて恐怖でしかない。

 

「おばちゃん、こいつはパンの方が好きらしいからパンに変えてやって」

 

 そう言われた時、心臓を握りつぶされたと思った。誰に言っていないことを言い当てられたことにもだが、この人に自分の全てを暴かれると確信させられた。

 

 それから自分に与えられた部屋につくまで怖かった。でも、自分の部屋に居ても怖い。知らない人ばかりの施設、見たこともない部屋、自分の天敵である男の子。全てが怖かった。

 

 

 

 あれから学校に行っても楽しくなかった。転校する前と同じ、いや、転校前の方が楽だった。男の子には意地悪され、女の子にはイジメられる。そのイジメて来る人達が同じ施設にいるからどこにいてもイジメられる。ただ、私が会いたくない人の傍ならイジメられない。

 

「星野、少しは皆と協力しような?俺も忙しいから」

 

 そう言いながら傍にいてくれた。怒ったり、叩いたりもしないヨルさん。正直、高校生くらいだと思っていたヨルさんは一個上だった。だからか私にも優しかった。

 

 そう思って他の学年の人と仲良くしようとしたら、その人達にもイジメられた。ヨルさんが変なだけだった。

 

 

 ヨルさんを怖いと思った。同時に興味を持った。この人はどこまで自分を知っているのか。そして、彼は何を思って自分を見ているのか。

 

 そこから彼と過ごす日々が始まった。

 彼が私に話しかけてくることはなかった。私が話しかければ応えてくれるけど、それだけだ。

 

「どうして俺に話しかける。さっさと友達でも作れ」

「別に理由はないよ。ただ、君と話してみたかったんだ~」

「理由ないのかよ…」

「まぁ、強いて言うなら君が好きだからかな?」

「はっ!冗談だろ?」

「冗談だよ」

「お前、頭大丈夫か?」

「大丈夫じゃないかもしれないね」

「そうかよ。じゃあ、もう話しかけるなよ」

「それは無理かな」

「なんでだよ!」

「だって、好きなんだもん」

「はいはい、そうですか」

 

 ヨルさんは雑に扱っても怒らない。話は聞いてくれるし、勉強とか教えてくれる。最初の印象とは違って良い人なんだと思えてきた。皆からイジメられて心が折れかけた時、ヨルさんに相談した。この人は他の人達とも仲良くしてるし、ぜんこくもし?で一位って聞いたから頭いいだろうし。

 

「お前が孤立したのは、お前がバカだからだ」

 

 そう言われて言い返せなかった。お母さんにも言われたし、自分でも勉強は好きじゃないから。それにヨルさんは頭良いから文句言えない。

 

「お前は可愛い。その辺のアイドルよりも可愛いのに、そいつが笑顔で傍にいたら勘違いするだろ?で、女はそれが面白くない。それが孤立した原因だ」

「……私、可愛くないもん」

「なら、教えてやる。まず、お前の瞳は人を魅了する。髪はサラサラして艶がある黒髪、肌は白く、顔は整ってる。体型も良い」

「うぅぅ~!!」

 

 恥ずかしくなって顔を手で隠す。褒められるのは嬉しいけど、ここまで言われると恥ずかしい。

 

「つまり、お前は美少女だ。それを自覚しろ」

「わかった……///」

 

 そう言われてもよく分からない。お母さんが連れてきた男の人にも変な目で見られたことはある。……その後、お母さんに叩かれたけど。

 

 ()()()()()で見られることに慣れているけど、ヨルさんからは感じない。そのヨルさんが可愛いと言っても、嘘にしか聞こえないよ。

 

「俺がお前に嘘を言ったことがあるか?」

「むしろ嘘言わない方が少なかった」

「は?」

「テストの点数が悪いって嘘ついたことあるでしょ?」

「あ、あれは……」

「あとは、宿題見せてもらった時もそうだったよね?」

「ぐっ……!」

「他にもいろいろあるけど、聞く?」

「……遠慮しておきます」

「よろしい」

 

 確かに私は見た目が良いのかもしれない。だけど、それで皆が離れていったことには変わりない。だから、この容姿が好きになれない。

 

 そんなことを考えていたら、突然ヨルさんの手が伸びてきて私の頭を撫で始めた。

 

「ちょ、ちょっと何してるの!?」

「ん?あぁ、悪い。嫌だったか?」

「嫌じゃないけど、急にどうしたの?」

「いや、なんか寂しそうにしてたからな」

 

 そう言ってまた撫でる。なんだか心地良くてされるがままになる。

 

「……髪が崩れるから止めて」

「断る」

 

 即答されたことにイラッとしたので、ヨルさんの髪を思いっきり引っ張ってやった。そしたら痛がっていた。ざまぁみろ!

 

 

 

 ヨルさんはいつも勉強、筋トレ、お仕事をしていた。勉強は理解できないし、筋トレも真似したら怪我した。お仕事も聞いたら

 

「あ?幸運のツボ売ってる」

 

 なんて詐欺の自白をした。ヨルさんんはロクな人じゃないと思う。というか絶対詐欺師だよこの人!!

 

 でも、そんな彼といる時間は楽しいと感じている自分がいた。

 

 

 私はヨルさんに抱えられてお寺に連行された。女の子の部屋に勝手に入ってきて、荷物みたいに抱えているヨルさんはロクでもない人だ。

 

「こちらが破戒僧ことクソ坊主だ。好きな物は酒、趣味はギャンブルと風俗巡りでNTRや人妻系がお気に入り、特技は信者から金を巻き上げる事、僧侶やってる理由は『戒律を破る背徳感が最高!!』というクズだ」

「事実だがやることはやっているぞ。そもそも、そのクズのおかげで稼いでるだろうが」

「ガキ使って詐欺働いて、その金で愛人作っているカスに言い訳はないだろ」

「愛人なんて(今は)作ってないぞ。作ると認知やら嫉妬やら面倒だからな。精々パパ活と風俗だから」

「『マジで堕落したお坊さん』マダオとでも呼んでやれ」

 

 こいつらは本当にロクでもないと思う。でも、世間的に考えると犯罪者のお母さんがこいつら以下だと思われていることに腹が立つ。こいつらの方が悪人なのに。

 

「この世に救いなんてないんだ……」

「ない。お前の母親よりこいつが良い奴と言われる世の中だしな」

「えっ、なんで…」

「職員から事前に説明されていた。だから事情はある程度知っている。このマダオも知ってるよ」

 

 

 絶句した。まさか自分の知らないところでそんな話があったとは思わなかった。

 

 じゃあ、どうして私に関わろうとするんだろう?犯罪者の娘なんて……。

 

 考えても分からない。彼は何を考えているのかさっぱりわからないのだ。だからこそ怖いとも思う。後、人前で逆らった人をボコボコにするとか、自分ができない事を強要するとか普通に怖い。

 

 よく分かんないから考えることを後回しにして、ヨルさんのお仕事の手伝いをした。ヨルさんはよく分からない呪物?を壊して、私は祠の掃除だ。最初は怖かったけど、少しずつ慣れてきたのか平気になってきた。

 

「お前はどうしたい?」

 

 その言葉を聞いた時、心臓がドクンと跳ねた気がした。今まで考えない様にしていたことが頭の中でぐるぐると回り始める。

 

「お前の母親が迎えに来るまで後九か月だ。それまでにきっかけでも見つかると良いな」

「…………そうすれば、お母さんと仲良くできるかな?」

「無理だろ、お前バカだし」

 

 ヨルさんは私をイジメて楽しんでいる。しかも、地獄に落とそうとしている。

 

 呪物と一緒に閉じ込められている祠が可哀そうだが、私も同じだ。勝手に嫉妬してイジメて来る人、人の秘密を言いふらすヨルさん、マダオに囲まれて独り。だから、祠を少しでもキレイにしてあげた。呪物なんかと一緒の所じゃなくて、ちゃんとした場所に祠を移した。すると不思議な事に気分が楽になった気がする。まるで肩の荷がおりたような感じだった。

 

「少しはご利益あったのかな?」

 

 

「星野、お前は人と仲良くできないのか?」

「マダオに関係ない」

「マダオじゃない。ただな、いつも夜見といるか、ここに来ているお前さんが心配でな」

「ロリコンだから?」

「違うわ!本当に口悪いな。少しは騙すことを覚えろ」

 

 騙す、それはいけないことだ。

 

「騙すことが絶対的悪じゃない。時には必要なこともある」

「必要なこと?騙すことが?」

「そうだ。嘘はコミュニケーションの一種で、かなりのリスクを伴う。それ故に、上手く運用できれば高いリターンが得られる。バレれば信頼を失い、相手を傷付けるがな」

「噓がばれたらダメなの?謝ってもダメなの?」

「ダメだな。『噓がばれても謝ればいい』というのは不誠実な考えだ。嘘を吐くなら決してバレるな」

 

 嘘はコミュニケーション、でもバレちゃダメ。

 

「完璧な嘘のつき方が知りたければ教えてやる。だから、少しは他人と上手くやれ」

「分かった!」

 

 嘘は吐いても良い。それが私にとっての免罪符になった。そして、絶対にバレない誓いを立てた。

 

 

 

「颯真くん!あのね!」

「嘘を吐くな」

 

 彼には嘘を吐く前にバレた。やっぱり彼は苦手だ。

 

 

 マダオから嘘のつき方を教えて貰ってから、私の生活は一変した。

 

 まず、仲の良い友達ができた。その子が好きな男の子の情報をリークし、付き合えるようにセッティングしたら感謝された。そんなことをしていると『恋のキューピット』として有名になった。その恩恵にあやかろうとする人達と友達になったんだ。

 

「違う、それは友達じゃない。どちらかというとマッチングアプリや結婚相談所だ」

 

 颯真くんは本当に失礼だと思うけど、強く否定できなかった。

 

 次にマダオが企画した『寺系美少女巫女アイ』だ。これが一番楽しいかもしれない。マダオ発の詐欺行為だから私でも罪悪感ないし、アイドルみたいにファンを大切にするとかしなくて良い。むしろ、たまに手を振ることがごほうび?らしい。

 

「アイドルより悪質だろ。神や仏の名前で詐欺(犯罪)してる訳だし」

 

 颯真くんは無視だ。楽しいし、お金も手に入る。誰も傷つかない優しい世界が心地よかった。後、勉強しなくても生きていけるのは嬉しい。

 

 後は颯真くんをからかうのも楽しい。普段はクールぶっている颯真くんが私に料理を作ったり、お菓子を作ってくれる。この間は『星野おめでとう!』というバースデーケーキを作ってくれた。人生初のバースデーケーキが天敵の手作りで、天敵と一緒に食べたのはちょっと嫌だったけど、天敵に奉仕させることには満足した。

 

「いや、少しは素直に美味しいと言えよ」

 

 最初は施設に行くの嫌だったけど、案外悪くない。別に名前を覚えなくても怒られないし、マダオは雑に扱っても良いし、面倒事は颯真くんが解決してくれる。今までの人生で一番楽しい。

 

「俺に頼るな。自分でどうにかしろ」

「私が困ったら助けてね」

「嫌だ」

 

 そんな会話をしながら今日も私は笑う。

 最近は毎日が楽しいから、明日もきっと楽しくなるよね?

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