今回は説明回です。
side:アイ
「激動の半年だね~」
「どうした急に」
私の名前は星野アイ。アイドルグループ『B小町』のセンターだ。
ここは私の住んでいるマンションの一室……正確にはワンフロア全部が私の部屋らしい。お母さんと住んでいた時よりも、施設にいた時よりも広くて落ち着かない。颯真が「セキュリティは大使館クラスだから安心だ」って自慢してた。
共有施設にはコンビニ、プール、ジム、ラウンジ、シアタールームなどがあって、キッズルームまである。入口はコンシェルジュ兼警備つき、地下駐車場での送迎可能、フロアの移動には専用キーが必須という、過剰にも思えるマンション。さすがに過剰じゃない? って言ったら、「どこがだ? 本当なら四宮別邸にしたかったけど、仕方ないからここにしたんだよ」と颯真に言われた。奈央さんにも聞いたけど全然過剰じゃないらしい。一応、四宮家所有のマンションらしくて「四宮グループの養護施設から芸能界にデビューする期待の新人」ってことで貸して貰っている。
私はワンフロア貸し切りだから、私の家に入って来るには私が招くか、専用キーも持っている颯真・奈央さん・雲鷹さん・佐藤社長・マダオの5人と管理人だけらしい。ダブルロックとかいうところで安全だし、万が一不審者が入ってきた場合武装した警備員によって”処理”されるらしい。颯真すら「マンション内なら夜中でも独りで出歩いて良い」って断言していた。深夜にマンション内のコンビニで食べるアイスが最高に美味しい。
他にもあったけど、佐藤社長は「ここを俺の終の棲家にする」って言ってた。マダオも「ここに住みたい」って言ってたよ。
「ここに住んでから体調良いしさ。活動も上手くいてるじゃん」
施設での生活は悪くなかった。少なくともお母さんと住んでいた時よりもいい生活だった。でも、ここは格が違う。引っ越しの時に見たら唖然として、佐藤社長と一緒にぼーっとしてたら引っ越しが終わってた。社長は1部屋だけだったけど、私の借りている8部屋の内いくつかはプライベート用や仕事用。残りは放置している。颯真は「子供用とか?」って言ってるけど。
活動だって調子がいい。ライブも何回かやって問題なし。メンバーとのいざこざはあるけど、颯真がいるから関係ないし。
「確かにな。斉藤社長も狙っていた女を落とせたとかで喜んでたし」
「社長、若い子好きだからね~」
つい3ヶ月前まではこんな軽口を叩けなかった。
B小町は元々苺プロで活動していたモデル達で結成されたグループ。そこにスカウトで入ったのが芸能経験の殆んどない私。その結果は酷いモノだった。
3ヶ月前、私はアイドルを辞めようとしていた。
アイドルになった私は絶好調だった。レッスンとか一人暮らしとか大変な事は多かったけど、社長や奈央さんが手伝ってくれたから問題なかった。むしろ、颯真がマンションに頻繁に来てくれるから精神的に安定していたと思う。
恋人と
奈央さんは何度か会ったことがあったけど、アイドルになってからは姉の存在になった。分からない事は教えてくれるし、隠し事をしないでいいから楽だった。間違って「お姉ちゃん」って呼んじゃった時もヨシヨシしてくれたし。
社長は私の上の階に住んでいるけど幸せそうだった。なんかこのマンションの家賃は普通なら200万くらいするらしい。それが1万円(水道光熱費込み)で借りられて、家計のやりくりが楽になったらしい。四宮家の社宅扱いされているから、関係者以外は200万円の高額になっているらしいね。それも3階までで、私の借りている4階以上はVIP扱い。そもそも借りられるだけでステータスになるそう。
要はしっかり者の頼れる姉、大好きな恋人と生活ができるという私生活。私のお陰で月に200万円以上の利益を手に入れている社長は頻繁に世話を焼いてくれている。この環境で真面目に活動したら簡単にセンターを取れたよ。
――その結果、グループはギスギスした。控室で陰口や舌打ちは当たり前。裏サイトであることないこと書かれて社長の愛人とまで言われたよ。やれ「アイは空気が読めない」とか「ただカワイイだけの子ってアイドルに相応しくないよね」とか。匿名の書き込みでも書いてある内容でメンバーだって分かるし、少し考えれば誰が書いたかすら分かる。衣装や小道具にいたずらされた時はきつかった。事務所の物だから失くすと弁償だし、ライブの前日に衣装がゴミ箱に入れられた時は泣いちゃった。
「どうした。何かあったのか」
こんな事があれば流石に落ち込む。それを見逃す程、私の彼氏は甘くない。
「お姉ちゃんに言ってごらん。お姉ちゃんはアイの味方だから」
ついでに奈央さんにも見抜かれた。
正直に話したら社長を呼び出して詰問しだしたよ。そこで責任取って辞めるって言おうとしたら、颯真が「俺がどうにかするから」と言って本当にどうにかなった。
他のメンバーに固定ファンが生まれて、「アイよりニノちゃんの方が可愛い!」とかの発言が増えていた。その頃から信じられないくらいレッスンや仕事が入ってギスギスする余裕がなくなっていた。私の仕事は少し減ったけど、それが他の子達には嬉しかったらしい。……別に颯真とデートできる時間が増えたから良いんだけどね。
別に負け惜しみじゃないよ? だってセンターは固定だし、握手会とかグッズの売り上げは増えてるから。それに仕事の質が違う。あんなお金も知名度も稼げない仕事ばっかりしていても意味ないと思うけど。
そんな感じで個人の仕事が増えてくるとそもそも会う事も無くなった。その間に颯真とデートしたり、個人での活動を続けていた。そうすれば勝手にファンは増えている。仕事も意識しなくても入って来る。社長曰く「断る方が多いから、他の奴に振ってる」らしい。別にどうでもいいけど。
「颯真って、最近暇なこと多いね。干されたの?」
「酷いこと言うな。デビューから1年も経ったからやることが減っただけ」
「それが干されたって事じゃないの?」
「違うから。……結構やり尽くしたんだよ。俳優業は新人俳優賞取ったし、歌手としては武道館での単独ライブやオリコン1位。テレビのレギュラーは5本、ドラマや映画が5本、CM17社。毎月新曲リリースとかしてるからやること無いんだよ。やるとすればドームライブくらい?」
颯真の隣に居ると思っていたよ、最初は。実際には私の遥か先に居る。業界でも相当勢いのあるB小町すら武道館ライブは合同だったのに。
「今はアイと一緒に居られたらそれで満足だから」
「それなら良いけどさ~」
嘘だ。メチャクチャ嬉しい。恋人に甘えられて甘やかされて、姉にも甘やかされる生活最高過ぎる。これだけでグループのギスギスなんてどうでもいいね。極楽浄土の中で生きていると、あの性格の悪い女達が可哀そうとすら思える。
――しいて言うなら、颯真とハジメテを交換できていない事かな? 条例違反だからって、13歳になるまでお預け状態。
でもさ、婚約指輪貰ってるし、恋のABCのBまではしてるんだよ! ライブとか肌が見える日の前はしないけど、それ以外の日は全身にキスマーク残すし、鳴かされ過ぎて気絶することだってあるもん。それが
「もう面倒だからここに住もうかな~」
「それが良いよ! いつから住む? 私、引っ越しの手伝いするよ!」
「本当はアイと同棲したいけど、流石に別邸から離れられないから無理。たまにお泊りなら出来ると思うが」
「こっちの方が楽じゃないの? 1秒かからずに可愛い彼女に会えるよ?」
「それも魅力的だけどなー」
エッチなんてどうでもいい。颯真と一緒に暮らせる以上の幸せなんてないよ。なんならアイドル辞めてもいい。
side:颯真
「状況が許さないから、俺が高校卒業するまでは無理かな~」
「後5年か~。長いけど仕方ないね。それまでは週7のお泊りで許そう」
「許してないから。完全に同棲だから」
俺にとってアイとの時間以上に大切なものはない。だからこそ、アイの事は大切にしたい。
もし俺が今すぐに同棲なんてしたら……確実にアイに手を出すだろう。でも、それはダメだ。13歳ってのは色々条件付けた俺が我慢できる限界。それ以降はアイの意志を無視して爛れた生活を送る可能性が高い。
「はいはい。分かりましたよー」
今はこれで良い。アイも分かっているから無理強いはしない。だけど……絶対にいつかは同棲するからな? というか結婚する。
俺とて男だし、惚れた女とエッチしたいんだ! でも、それをした瞬間にアイを壊しかねない。ここ1年くらい業界の人間やら財閥の関係者に性的アプローチ受けてムラムラが止まらないんだ。……アイが妊娠してアイドル引退にならないといいな~。
「割とありそうで怖っ」
「何が怖いの? 幽霊?」
「幽霊なら捕まえて研究機関に売るよ。単純に、アイと肉体関係持ったら――アイをすぐに妊娠させてアイドル引退させそうで怖いだけ」
「いやーん。えっち」
「似合ってないぞ」
正直さ、俺達は生き急いでいるからな。普通なら周囲に守られている年齢で独りになって、それでも互いに支え合って生きている訳で……自覚しているが、共依存状態にある。そんな俺らにとってより強い繋がりを求めた時、絶対に相手を逃がさない重りを付けるなら子供しかないんだよな。
アイは
「ま、子供は出来た時に考えようよ」
そういうアイも自覚してんだろうな。俺を逃がさないための
今のアイは最強のアイドル様だ。
恋をしている女の子はかわいい。それは誰もが知っている真理だ。アイという究極の美少女が恋していれば余計に可愛い。さらに、ファンに対して愛情深いアイが本気の愛を振りまいてしまった。彼らはその愛が自分に向けられていない事を知らない。本当に愛されていると思っている。
アイ自身もレッスンや度重なるライブで存在感とパフォーマンスが飛躍的に向上している。孔子の言葉に「天才は努力する者に勝てず、努力する者は楽しむ者に勝てない」とかいう言葉がある。しかし、アイは『努力を楽しめる天才』という化け物だ。笑顔なんてミリ単位の計算で調整している人外だよ。暇な時に奈央さんから人に好かれる技術を学んでいるし、自分を彼氏と思い込む痛いファンを量産している。――俺が彼氏ってバラして絶望させたいくらいだ。
「ところでアイって何かしたい仕事ある?」
「やりたい仕事? ドラマとか?」
「ドラマか~……アイなら主演以外はできない気がする」
「できるよ! 脇役でも何でもできるから!」
「どうでもいいが、そのためには演技のレッスンが必要だぞ? 今以上に忙しくなると思うが」
「それでもいいの! ドラマなら颯真と恋人役とできるでしょ?」
……できるかなぁ。俺ドラマの役ってスタントマンとか、スタントマンすらやらない危険行為――ひも無しバンジーや熊との殴り合いなど――をやらされているだけなんだが。鬼頭さんの影響かゴキブリすら抵抗なく食えるし。世界中探しても、俺よりメンタルとフィジカルのある人間はそうそういないと思う。……恋人を人質に取られているから文句言えないんだけどねぇ。
「演技の練習なら奈央さんに習えばいいかな?」
「そこは劇団とか養成所に通うのが一番だろ。斉藤社長に相談するか?」
「それもいいけど……今は歌とダンスに集中したいかな。アイドルだから、本業で馬鹿にされたくないから」
「……そうか。それなら単独武道館ライブができるようにしてやるよ」
「ホント!?」
「本当本当。だから、そこ目指して頑張れよ」
「うん!」
今回は説明ばかりなので、「星野アイはセキュリティの高いマンションにいる」「早坂奈央が星野アイの姉的存在になった」「B小町メンバー内の問題は四宮颯真が解決した」という事だけは理解してください。
今回で原作との違いやアイの状況説明を入れないと、この先説明できないと思ったので入れました。