怨敵と巫女   作:大紫蝶

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 一部不快な表現があります。作者から見てもヤバイ部分はぼかしています。


姫川愛梨

side:奈央

 

 私の名前は早坂奈央。四宮家に仕えるメイド兼四宮プロ副社長だ。

 

「あの、カミキヒカルって誰? 俺の知っている神木は光輝くらいなんだが」

「本当に??」

 

 現在はアイの部屋でバカの尋問をしている。

 

「いや、本当に似てたんだよ。少しだけ!」

「そう言っているので心当たりは? あなたも神木家出身でしょ?」

「俺3歳で追い出されたんだけど……大体、アイの1つ下の神木家の人間となると光輝しかいないぞ?」

「その光輝って?」

「神木光輝。四宮家の嫡男という事になっている男だ。実際には俺が居るから次男だが」

「表向きには跡取りという事になっていますが、正直平凡な人ですよ。今は神木家自体四宮家の傘下ですし……次男派閥にいますけど」

 

 正直な話、神木家は過去の遺物になっている。少し前まではかなりの影響力を持っていたが、颯真という正当な嫡男の登場で問題が起きている。

 

 神木家は嫡男至上主義というべき家であり、嫡男以外は15歳前に亡くなる事が多い……というより、15歳まで生かしてもらえない。そんな家だからこそ、嫡男への期待は異常な程大きい。何故なら嫡男が跡取りになるのだから、次期当主が無能や低能では困るのだ。――そして、次代当主のカミキヒカルは平凡だった。

 

 そんな跡取りに周囲が落胆を隠せないでいる中、ある意見が出てきた。それが「正当な後継者、神木星愛が居れば良かったのに」だ。神木星愛は天才であり、周囲から不気味がられる程の才覚があった。そんな天才が当主なら安泰だという声は理解できるが……その天才を捨てたのはお前らだろ、としか感じないが。

 

「つまり、颯真の弟がカミキヒカルって名乗っていると?」

「そうとしか考えられないな。芸名で名乗れる苗字じゃないし」

「しかし、私は神木光輝という名前すら知りませんよ? 神木家次期当主はカミキヒカルとしか」

「そうか~。あいつに双子がいるとかじゃないなら……神木家の成人の儀式でもしたとか? いや、年齢的に早すぎるが」

「「成人の儀式?」」

 

 成人の儀式って、どっかの部族が一定の年齢になるとやっているアレですか? でも、彼はまだ中2ですよ?

 

「神木家だと成人の儀式後に名前を変えるからな。それで変えたってくらいしか思いつかないぞ?」

「それって15歳とかじゃないんですか? いや、時代や地域によって成人の定義は違いますけど」

「神木家でいう成人は『次の依り代』になれるか否だから関係ないぞ。大抵は18歳だけど」

 

 何気に隠されてきた神木家の真実が明かされる。かつて『国家の脳』とまで言われた神木家の秘密がこんなマンションの一室でいいのでしょうか。……もっと、こう、相応しい部屋で言うべきでは?

 

「まぁ、要はち〇ち〇が勃起すれば良いだけだし」

「「ブフーッ!」」

 

 何言ってのこのバカは!?

 

「いや、冗談じゃなくて。そもそも神木家の成人の儀式って『母親を食べる』だし」

「母親を食べる……」

「母親を食べる///」

 

 えっ、つまりそう言う事よね? 息子()母親()を食べるって!

 

「そんなりょうーきてきなコト!」

 

 どうやらアイは食材として食べると勘違いしているようね。いや、そっちでも酷いけど。

 

「簡単に言えば母親を犯して、生きたまま食べて、魂を取り込む事だし。最後の1つはよく分からんけどな」

 

 想像以上にヤバイ。ちょっと気分が悪くなってきた……。

 

「でもあれって本人の希望がないと15歳までは行わないしな。もしやったのなら、光輝がマザコンのサイコパスという事になるんだが」

「強制されないの? あの神木家が?」

「……確かに、国家の脳とまで言われた時代ならともかく、負け犬に成り下がった神木家ならやりかねない、か。まぁ、あれって拒否すれば良いだけだけど」

「「拒否できるの!?」」

「もちろん。条件はあるが、そこまで難しくないし。全国模試1000位取るくらいの難易度だ」

「「それなら自業自得では!?」」

 

 ちょっと同情して損した。上流階級の嫡男なら教育に金をかけている訳で、その気になれば全国模試1000位くらい取れるはず……ってか、取れない方がおかしいでしょ! その程度の難易度なら拒否しなかった奴が悪いし、自分から進んでやったとしか思えない。――少なくとも、財閥の次期当主なら出来て当たり前の事。

 

「確証はないぞ? 俺が知らないだけで双子や三つ子、他の愛人に産ませた子供とかありえるからな。まぁ、本当に神木家の人間なら関わらない方がいいと思うけど」

「そうね。落ちぶれたとはいえ財閥の次期当主、あるいはそれに近い立場なら関わるだけ損よ」

「普通は関わった方が良いんじゃないの?」

「それはない。一定の立場がある人間……特に男にはそれなりの本命がいる。ただの若いだけ、顔の良いだけの女は遊び、良くて愛人にしかなれない」

「たまに『私の彼は暴力団の人間だ』『私は財閥の人間の彼女だ』言ってる人いるけど、大体下っ端かバイトだし」

「そもそも本当に上の人間の女なら危なくて公表できないからな。その女見張れば幹部が見つかる。幹部への警告で女の拉致や拷問、殺害とか平気であるし」

 

 いや本当に。四宮雁庵様程の格があると手が出せないし、颯真クラスでも手を出せば互いに後が引けなくなる。だから、そこそこの地位にいる人間――3次団体組長やらグループ傘下の社長やらが狙われる。それを理解している人間は大事な女性や家族を必死に隠す。だから、大声で「こいつは俺の女だ!」なんて言われた時点で男が格下か、女が大事にされていないと分かる。

 

「芸能界だと余計にひでーよ。プロデューサーとか監督は表に出ないし、女性問題があってもそこまでの痛手にならない。それなのに女性タレントからすれば致命的だ。女性が告発なんて出来る訳ないし、相手はそれを理解しているから強気でいる」

「一度女性達で人権運動でもしてみますか?」

「無理だろ。『今空いてるからこの仕事要る?』って言われた瞬間、かなりの人間は人権運動から手を引くぞ。むしろ、それを狙って煽る奴や参加した奴を貶める人間が出る」

「それね~。ある意味一番怖いわ」

 

 そういう女性が静かにヤバイ証拠集めているから怖い。大人しい子が将来を見越して証拠集めしているケースが多すぎ。そもそもアイドルの熱愛報道って、身内からの暴露が大半だし。颯真が集めている弱みもそういう子から告発受けるケースも少なくないって言ってたわね。

 

「……つまり、カミキヒカルに関わらない方が良いって事?」

「そうなるな」

「だけど、一度事務所として受けた以上は断りにくいわね。苺プロが頼んだ側だし、向こうに落ち度がないと」

「それなら簡単だろ。演技の練習が必要なくなればいい」

「まさか、こっちでアイを鍛えると?」

「そう言う事。アイがアイドルとして天才なのは証明されている。次は女優としても天才だと認識させればいい」

 

 まぁ、一応世紀の天才俳優(笑)四宮颯真がいるから不可能じゃないかもしれない。アイも要領は良い方だし、この部屋でやれば時間も周囲の目も気にしなくて済む。

 

 私も早坂家の持つ演技を教えればいけるかも? 少なくともただの劇団で学べる事よりは多いはず。

 

「颯真と一緒!? 奈央さんも!?」

「そうだぞ。俺と奈央さんで演技の基礎から応用まで教えてやる。出来るまで毎日泊まり込むからな」

「うん!」

 

 アイからすれば依存先の彼氏と事実上の同棲。姉と慕っている私とも居られるから断る気ないですよね。

 ――まぁ、それだと私の旨味がないんですが。

 

「対価は?」

「あんたの彼氏との結婚を認められるように手を打つから!」

「やりましょう」

 

 これだから颯真は好きなんですよ。こちらが欲しいものを提供してくれるし、一度だって約束を破ったことが無い。アイが関わっている以上、アイの前で恰好を付けたい颯真は駆け落ちから新天地での生活まで用意してくれるでしょう。人間換金でも事務所の雑用でも何でもする覚悟はあります。

 


 

「それで、本当の事を話してください」

「何が?」

 

 あれからアイの自宅から帰る車内、ここにいるのは運転手の私の颯真だけ。ようやく本音で話せる。

 

「本当は知ってるんじゃないですか? カミキヒカルについて」

「……詳しくは知らないよ?」

「詳しくないなら知っていると。やはり嘘つきですね」

「アイに心配かけたくないだけ」

「不倫ですか?」

「違うわ! アイに誓ってそんな事しません!」

「冗談です。――姫川愛梨ですね?」

「……」

 

 ほら黙った。その癖は直した方が良いですよ。

 

 姫川愛梨は四宮颯真――かつての夜見颯真に執着している。その理由だって分かる。

 

「姫川愛梨は事務所や業界の圧力で強制的に性接待をさせられていた。若くて美人で立場の弱い女性なら珍しい話ではないです。皆やっていることで、やらないと仕事が貰えない。仕事がないと女を貪られる地獄は終わりませんからね」

「地獄から解放されるには立場を強くするか、芸能界から消えるかだ」

「でも、その地獄から解放される事になった。あなたが関わった番組の影響で彼女は地獄から解放された。――まるで王子様に救われるお姫様ですね」

 

 同じ女性として気持ちは分かる。突然現れた年下のイケメンが地獄から救い出してくれて、その先の人生はシンデレラストーリー。そして、その彼が同じ業界にやって来た。その王子の実力は本物で、信じられない事に悪徳プロデューサーや監督を断罪してくれた。恋愛ドラマの脚本にありそうですね。

 

 さらに言えば、意中の彼は国を支配している巨大財閥の後継者として注目されており、彼のパートナーは居ない。

 

「そんな彼女があなたに執着している事は誰から見ても明らか。やっていることも手作りのお菓子をプレゼントしたり、ラブレターを書いたり……お可愛いことで」

「茶化すな。姫川愛梨が俺に惚れていることは理解している。だが、奴は結婚してんだぞ? しかも子持ちだ」

「……分かってますよね? あれにとって夫や子供は”道具”に過ぎないという事は」

 

 そう。恋する乙女の彼女からすればありえないことだ。他の男と結婚し、子供まで作るなど。

 

 だが、それを”アリバイ”とした場合、見方が変わる。

 

「貴方と彼女には年齢差がある。男性が若い女性と結婚することは珍しくない。でも、その逆は難しい」

「まぁ、若さという魅力や子供の事を考えると……俺と姫川愛梨が結婚するのは難しいな。10歳差くらいあるし」

「それでも、あなたが彼女とずっと一緒に居れば……少なくとも、例の番組の頃から連絡を取り合っていれば話は変わったでしょう。彼女は夢見る少女で居られた」

 

 だが、僅かな期間とは言え間が空いた。その間に彼女は諦めたのだろう。現実的に考えて当時小学生の10歳下の子供より、同年代の男と家庭を持った。そして子供を作った。……ここで終われば話は終わった。

 

「あなたが芸能界に入ったことで、彼女を傷つけていた悪人を排除したことで、彼女をより高みへ登らせたことで――彼女はある決心をした」

「托卵だろ? 俺と一緒になれなくても子供は作れる。なんなら子供は旦那に押し付けて、俺と事実婚っていう手もある」

「汚い世界で生きていたことで、汚い手段を取れるようになったんでしょうね」

 

 日本で親権は母親が有利。でも離婚の原因が母親側にあり、普段から育児に積極的でないなら……母親が親権を手放す気なら、父親の方が親権を手に入る。養育費や慰謝料だって彼女1人で払えるだろうし、颯真が肩代わりする事も可能だろう。

 

 こうして身辺整理を終えた彼女が颯真の愛人なり、都合の良い女になる。自分から都合の良い女になるなら、自分を愛人で満足し、浮気を許すなら颯真と付き合う事は可能だ。彼女が子供を作ったという事は妊娠できるのだから、四宮家の血筋を絶やさないための妾になれる。

 

「彼女は対処しなくていいんですか?」

「あれはアイに危害を加えないからな。アイにも恩があるし、使い方によっては良い駒になる」

「最低ですね」

「酷くない!?」

「女の敵」

「違うから! ああいう義理人情で動く奴は信用できんだよ。自分の利益度外視で動くから」

「それは……むしろ危険では?」

「恋愛絡みなら違うさ。アイが本命で、自分は愛人。でも、愛人が本命より愛される事はよくある事さ」

 

 そっちですか。姫川愛梨は本命より愛される自信があると。

 

「嫌でもさせられてきた性的奉仕や人妻の経験から技術や知識がある。女優としての演技力がある。男を気持ちよくさせる実力はアイより上なんじゃない?」

「それに加えて大人の色気があると。あなたのアイへの依存っぷりを知らなければ勝算があると勘違いするでしょうね」

「しかも負けても愛されればそれでいいと考えている訳だ」

 

 これは強敵だ。なにせ彼女は敵ではない。颯真が何度か抱いていれば都合の良い駒になる。四宮家としても彼女を排除するか悩みますね。

 

「そんな姫川愛梨にとって、カミキヒカルは良いストレスの捌け口だった訳だ」

「……恋する相手に純粋な自分を見せるため、都合の悪い悪感情をカミキヒカルで発散していたと」

「その可能性があるってだけ。詳しくは知らん」

 

 それで十分でしょ。

 

 姫川愛梨は神木家次期当主をストレスの捌け口にしていた。これは神木家を敵に回してもおかしくない行為だ。それでも彼女が消されていないなら神木家公認、あるいは颯真との関係性から排除できない。

 

「ま、財閥の次期当主が一般人に弄ばれているなんて恥ずかしくて言えないだろうな」




・四宮颯真:四宮プロ所属。恋人を劇団ララライから引き離すために泊まり込みの特訓を決意する。姫川愛梨からの好意は理解している。彼女の計画や行動についても知っている。

・星野アイ:苺プロ所属。恋人や姉と同棲できると聞いて浮かれている。颯真と姫川愛梨の関係については知らない。

・早坂奈央:四宮プロ副社長。アイの特訓に付き合う事と引き換えに、隠れて付き合っている彼氏との結婚を確約させた。姫川愛梨の情報を聞いてドン引きしている。

・姫川愛梨:劇団ララライ出身。四宮颯真に恋しており、そのための手段を選ばない女。既に夫や息子は捨てる予定。育児放棄や家庭内不和を積極的に起こしている。四宮家としても颯真の妾候補、都合の良い駒になると考えられている。

・カミキヒカル:劇団ララライ所属。神木家次期当主兼姫川愛梨のストレス発散サンドバッグ。颯真の実弟。
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