怨敵と巫女   作:大紫蝶

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 感想でも指摘されましたが、「流石にヤベェ」という事で一部変更しました。

 表現が過激すぎたかも? という事で、元の内容は手直しをした上でR18の方に投稿します。


神木光輝

side:光輝

 

 僕の名前は神木光輝。神木家の嫡男だ。

 

 僕は恵まれている人間だと思う。

 

 僕の実家は『国家の脳』とまで言われた4大財閥の1つ神木家であり、神木家は嫡男が後継者になる。その嫡男が僕だ。今は四宮家の傘下にいる神木家だが、四宮雁庵が居なくなれば神木家復活も容易いと思う。

 

 そんな神木家の嫡男だが、僕には四宮家本家の血が流れている。別に四宮家の後継者争いに入れる訳じゃないが、4大財閥の内2つの血を引いている僕は最強の血統だ。四宮家本家にだって僕を超える血統は居ない。

 

 血筋だけじゃないかって? 僕には素晴らしい。家族がいる。両親は僕を愛してくれるし、兄弟だって僕を慕っている。使用人からも大切に扱われているし、皆に申し訳ないと思う程の人生だ。生まれた瞬間に成功が約束された人生というのは素晴らしいね。

 

 ――あの日までの僕は、本気でそう思っていた。

 


 

 あの日は雨が降っていた。四宮家の集まりで初めて本家に挨拶に行った時の事だ。

 

「これが星愛を捨ててまで手に入れた跡取りか。こんな”なんにもない奴”に価値なんてないだろうに」

 

 それが初めて会った伯父の言葉だった。辺りがシーンと静まり返り、ただ雨音だけが聞こえていた。

 

 星愛? 一体誰? 

 

 捨てた? 誰が?

 

 両親の方を見るとお母様は無表情で、お父様は見た事もないような怖い顔をしていた。その顔を見た時、僕の中でナニカが崩れる気がした。

 

「あ、あの。星愛って、誰ですか?」

「あぁ? 知らねぇのか。お前が生まれたから殺された――()()()()()だよ」

 

 その言葉を聞いた瞬間、周囲の大人は騒いでいたけど……僕には何も聞こえなかった。

 


 

「真面目にやりなさい!」

「本当に神木家の嫡男ですか?」

「いい加減にしなさい! 何故この程度の事が出来ないんですか!」

 

 僕は成功が約束された人間ではなかった。

 

 僕が大きくなると幾つもの習い事をさせられるようになった。正直、辛い事ばかりだった。特に嫌なのが四宮家の教育だ。

 

「四宮の人間たるもの、人を頼ってはなりません」

「人を使い、人を操り、必要であれば切り捨てねばなりません」

「気持ちを表情に出してはなりません」

「礼儀作法の笑みならば兎も角、怒りや悲しみを顔に出してはなりません。泣くなど以ての外です」

 

 凄く嫌だったけど、どうにか習い事をこなせていれば褒められる。愛されているって実感できる……その筈だった。

 

 学校に行くようになって、自分の両親がおかしい事に気が付いた。お母様がいつもクールだと思っていたけど、実際には感情がないんじゃないかと思う事がある。いつも家の奥でお父様と一緒にいるし、変な声を上げている。毎年のように双子や三つ子の弟妹が生まれる。

 

 お父様は僕に成績や出来るようになったことを聞いてきた。お父様と話せるのが嬉しくて何でも話していた。一緒にお風呂に入っていたけど、その度に下半身を触っていたのは何でだろう? お父様が僕に打っていた注射が何なのかは分からなかった。

 

 弟妹と遊んでいると怒られた。勉強の邪魔だからって言ってたけど、僕からすれば弟妹と遊んでいた方が楽しかった。でも、弟妹が僕を見る目は変な感じがした。

 

 自分の家族がおかしいと思ったけど、財閥の家族なら周囲と違っていても当然だと思って気にしない事にした。

 


 

 8歳のある日、お父様から呼びだされた。

 

「光輝。お前には『祝言』をしてもらう」

「祝言? なんですか、それは?」

「……母親と寝るだけだ。来月に執り行うからな」

 

 ある日突然言われた『祝言』という儀式。それがなんなのか分からなかったが、「一人前になった祝いだ」と言われたことで嬉しくなった。

 

 それを周囲の大人に伝えると「それは良かった」と言われる。皆がそういうから弟妹にも伝えると「おめでとうございます」と祝われた。お母様に伝えると「分かりました」と言ってどこかへ行ってしまった。

 


 

 最悪の気分だ。

 

 『祝言』を終えた後、僕は自分が分からなくなった。

 

「よくやったぞ。残りの儀式はすぐに終わるから安心しろ。ああ、お前の弟妹はもうお前の”所有物”だから好きにしろ。それから明日からは洗脳の訓練だ。好きな奴が居れば言えよ、そいつを実験体にするからな」

 

 僕は神木家を勘違いしていた。ここは、ただの地獄だった。

 

 

 

 あれからお父様に教えられたこと。それは神木家こそが正当な日本の皇帝だという事だった。

 

「我が神木家は神武天皇の嫡男である神八井耳命(かむやいみみのみこと)の子孫だ。現在、天皇を名乗っている連中の祖先である神渟名川耳天皇(かんぬなかわみみのすめらみこと)の汚い策略で追いやられているが、本来なら我らが正当な皇帝なのだ!」

 

 お父様の言葉は理解できなかった。けど、僕達こそこの国の正当な皇帝であり、今の天皇が悪人であるという事だけは理解できた。……それなら、僕が苦しい思いをしているのも天皇のせいなのかな?

 

「いいか! 本来ならこの国の全ては我々の物! にも拘らず、あの悪人共のせいで我々の財産は全て奪われた! しまいには四宮家によってここまで落ちぶれた。本当なら神楽なんて女はいらなかったんだ。私にはもっと相応しい女が居たはずなんだ!!」

 

 そう言っているお父様は僕の知っているお父様じゃなかった。何かに取り憑かれ様に恐ろしい存在に見えた……筈だ。

 

「これから10歳までにお前には”神取り込み”をしてもらう。安心しろ、我が家が何十代にも渡って行ってきた簡単な儀式だ。それさえ終わればお前は”器”として完成する!」

 


 

 ”祝言”や”神取り込み”が終わった僕は正式な神木家次期当主と認められ、世界の全てを所有することが許された。――神や概念でさえも。

 

「流石は神木家の次期当主だ。あの年で次々と賞を受賞するとは」

「この間も陸上で全国大会優勝したそうじゃないか」

「学校の成績も素晴らしい。全国模試は当然1位」

「その上7ヶ国語を話せるなんて」

「昨年はピティアピアノコンペ全国大会金賞受賞。今は演劇で活躍しているんでしょ?」

「これなら神木家は安泰だな!」

 

 周りの皆が僕を功績を称える。どれか1つでも自慢できる事なのに、僕は全てを持っている。あの儀式の後、僕の才能は開花した! これから僕を”凡人”などと言う人間はいない!

 

 

 

「なんだ、不正自慢はそんなに楽しいのか?」

 

 そんな僕を認めない存在が居た。

 

 四宮雁庵。昔から僕を認めない男だ。神木家が力を落とした元凶であり、僕の伯父に当たる人物。

 

「なんですか。僕がいつ不正をしたと?」

「むしろしていない方が不自然だろ。たかが数年で凡人が天才? それなら分かる。突然伸びる奴は世の中いくらでもいるからな。だが、それは”正しい努力”をした結果だ」

「僕だって、努力はしています!」

「それは運営に賄賂を渡し、自分に有利になる様買収する事か? 試験の解答を金で買っている事か? それともドーピングをしている事か? どれでもいいが、それで自慢している様では神木家の未来はないな」

「っ! 失礼します!」

 

 僕の努力を否定するクソ爺! どうせこの世界は僕のものになるんだ! あんな奴に何言われたって意味なんかないんだ!

 

「ああ、そうだ。お前のバカ親に伝えておけ」

「何ですか!!」

「――星愛。”本物の神木家の嫡男”が見つかったと」

 


 

「あのよ。俺がここに居る理由が分かんねぇんだけど」

「お前は俺の甥っ子で、四宮家本家に入ったのだから当然だろ」

「いや、活動拠点が東京だし――なんで()()()()()()()()()()って話なんだが」

「それはここで再教育をするためだ。流石に何年も四宮家の教育を受けていなかったからな」

「はいはい。契約通り仕事はするよ~」

 

 あの日、自分の兄という男がやって来た時、僕は笑っていた。当然だろ? 物心つく前に追い出された程の欠陥品が四宮家に入るって……四宮雁庵のボケが始まったと喜んだくらいだ。

 

 別に僕の妄想じゃないよ。その男が受けている教育を見れば誰でも同じ事を思った筈だ。

 

「なんでこんな面倒ごとさせられんだよ」

「お前が四宮家に迎えられるに相応しいと認めさせるためだ」

「チッ」

 

 ぶっちゃけチンピラに毛が生えたような奴だった。知性も何も感じない……元とは言え財閥の人間とは思えなかった。

 

「隙がありすぎる」

「ごおおおおっ!」

 

「それでも四宮家に入る人間か!」

「ぐううううう!!」

 

「チェストォォォォ!!」

「ぶるぐえええ!!」

 

 最初に受けた稽古は四宮家お抱えの武術家達に勝つ事。彼らは四宮家の護衛に経過を付けているだけあり一流の武術家だ。

 

 その武術家達の動きに、星愛とかいう奴は全く反応出来ていなかった。

 

 まぁ、一般人としては凄いと思う。でも、態々四宮家に迎えられる程の人物じゃない。恐らく四宮家に恨みを持つ奴らに対しての生贄か肉盾にする予定なんだろう。

 


 

 翌日、星愛という奴は道場でただ座っていた。稽古をせずに、武術家達の試合を見ているだけだった。きっと才能の差に絶望して心が折れたんだ。

 

 星愛に情けない奴と馬鹿にしても、根性なしと煽っても反応はなかった。――こんなのが自分の兄なんて間違いだ。どうせその辺で拾ってきた奴を四宮家に入れる建前だったんだろ。

 

 

 

 

 

 ――その翌日、事件は起きた。

 

「道場に医者を!」

「急げ! 冗談じゃ済まねえ出血だ!」

「何でこんなことに……」

 

 四宮家にある道場、そこに居た武術家達が一人残らず瀕死だった。巨大財閥によって選ばれた十数人の武術家達が拷問後の様な凄惨な姿で横たわっていたのだ!

 

「ゲェエエ」

 

 僕もその場で吐いてしまった。道場が真っ赤に染まり、戦争映画でしか見た事のない状況が目の前に広がっていた。

 

「なんだ、ガキが居たのか」

 

 ――そして、この状況を作りだした悪魔が立っていた。

 

「何があった!?」

「そ、それが……あの男が武術家達に決闘を挑んだんです。そしたら……」

「俺が全員叩きのめしたんだ。それに文句言ったから、二度と逆らえないように体に教えてやっただけだ」

 

 い、意味が分からない。だって、あそこに居たのは各武術の頂点の筈。四宮家の護衛に稽古をつけている人間なのに……。

 

「四宮雁庵、これで武力の方は合格か?」

「合格だ。以外に早かったな」

「相手の癖が分かれば勝つ事は難しくない。流石に”正々堂々と戦う”なんて初めての経験だったからな、初日はボロ負けだったよ」

「そもそも11歳で四宮家お抱えの武術家と勝負していた事がありえないんだが」

 

 えっ……11歳? 僕の2つ上?

 

「これで試験は合格だ」

「意外と早く終わって肩透かしだ」

「そう言うな。これでも難しい方だったんだぞ?」

「これでか? ライバル企業の倒産も買収も楽だったぞ?」

「流石に社長の家族にダイナマイトを付けて爆殺しようとした時は肝を冷やしたが……お陰でスムーズに進んだ」

「要はヤクザと同じだ。見せしめを1つ作ればビビッて手を出せなくなる。家族が効果なかったら――社長には不慮の事故に遭ってもらう予定だったから、素直で助かったよ」

 

 そこに居たのは怪物だった。人の皮を被った悪魔――正当な神木家の後継者が居た。

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