side:颯真
俺の名前は四宮颯真。
「それでは『四宮グループイメージアップ作戦』の会議を始めさせていただきます」
よく分からん茶番劇に付き合わされる高校生だ。
俺の所属する四宮グループは日本最大の財閥であり、『国家の心臓』と呼ばれる四宮家がトップにいる。数多くの名家や財閥を滅亡・吸収する事で成長し続けたが、以前にあった四宮家のお家騒動により状況が一変。国内の影響力こそ維持しているが、総資産は半分、優秀な人材の流出、イメージダウンによる活動の障害など挙げればきりがない。
この状況を打開するために『高校生社長』『美人マネージャー』『天才マルチタレント』などと言い、雲鷹さんや奈央さん、そして俺が活動していた。資金と人材の確保には時間がかかるが、イメージアップだけならすぐに出来るという判断だった。
「態々こんなことしなくても十分な成果は出してるだろ」
「それは認める。おかげで『若手活躍中』『女性でも安心して働けます』『アットホームな会社です』などと評判になっている」
「それだけだとブラック企業みたいだが……実際、雲鷹さんが20歳で四宮グループの看板企業の1つを任されて、俺がそこのエース。早坂家からのアツい要請で『産休育休制度の徹底』までしてるからな」
「……娘のためとはいえ、早坂があそこまで詰め寄ってきたからな。『上の者が示しを付けなくてはならない!』と言って、傘下企業全てに産休やら育休の推進をして、会社内に保育園の設置まで提案してきた時はボケたのかと思ったが」
その企業内保育園の第一号が四宮プロに出来そうなんですが。なんなら『男性の育児参加』という建前で俺が奈央さんの子供の世話させられそうなんですが。
「こんなふざけたことでイメージアップ、株価上昇するとは思いもしなかった。こんな事ならさっさとすれば良かったな」
「それなら黄光さんと青龍さんも呼んでみろよ。ここに居ない時点で察してるが」
この場に居るのは雁庵さんと雲鷹さん、後は早坂家など数名の当主や代理と言った各家の代表だけ。次期当主候補筆頭の長男・次男や神木家などは来ていない。会議の内容がくだらなくとも、財閥全体の内容であり各家の当主や雁庵さんが居るだけで重要な会議と分かる。そこに来ない時点で雁庵さんに対する敵対行動と取られかねない。
「アイツらは来ない――いや、出禁だ。最早後継候補であるかすら微妙だ」
『『『ッ!!』』』
「意外だな」
「こちらの事情だから無視してくれ」
それは無理だろ。後継者争いのトップ2が現当主からドロップアウト宣言されたんだ。この場にいる人間の中には両陣営の者も多いし、自分達の派閥が勝ち馬に乗れないと言われれば何するか分かり切っているだろうに。
「そんな下らん事は置いておいて、今は会議だ。颯真達の活躍で四宮グループのイメージは上がった。だが、それは-1000から-500になった程度だ。せめて0にしなければ話にならん」
「それなら人道的行為でもするのか? 各団体には十分な寄付をしているが」
「それでは足りん。世間から見て驚き、話題のネタになる事をしなければ」
そうは言っても誰も良い案などでない。そんな案があればとっくに実行し、問題解決していたのだから。――それでも、各家の代表達はアピールに必死だがな。
「夏祭りで屋台を出すのはどうでしょう!?」「お化け屋敷なんていいのでは!?」「それなら本物のメイドによるメイド喫茶」「コスプレ大会!」「人気漫画の実写化!」「スイーツ食べ放題!」「我々がアイドルデビューはいかがでしょう!?」「それなら妻や娘達にさせた方が良いだろ!」「誰がおっさんのアイドルグループなんか見たいと思う!」「ニッチなファン層が獲得できるかもしれないだろ!」「……それなら女装したり、BLの方が」『『『悍ましい事を言うな!!』』』
長男・次男を見限り、少しでも心証を良くしようと意見を出す名家の代表達。その意見がくだらない内容でも、性癖に関する事でも”何もしない”よりは良いと判断したらしい。
「面倒だからパクろうぜ」
それでも面倒だから話を切り上げるがな。
「パクるとは?」
「今更二番煎じ三番煎じをしても意味ないと思うが」
「それがあるんだよ。簡単に出来て人気が出そうな企画が」
全員の頭に疑問符が浮かんでいる。
「その企画は色々問題があると世間からもタレントからも言われていて、一部の大御所は出演拒否しているレベルだ」
「なおさら意味ないだろ。そんな失敗企画をする意味がない」
「いや、ある一点だけ守れば芸能界で参加拒否している大御所達が喜んで参加してくれるさ」
「ある一点? それは何なのだ?」
「簡単。『一切儲けが出ない』って事だけ」
「はあ!? 儲けが出ないって……そんな事する訳ないだろ! こっちは下の人間を食わせなきゃならねぇんだぞ!!」
そうだろうな。各家の代表も雲鷹さんに同意している。俺達が損失を出し続けるとグループ傘下の何十万人という人間が困るってか、生きていけない。場合によってはその家族も。
「チャリティーをしようって事か?」
「流石雁庵さん、正解」
「チャリティーって、それこそ今更だろ」
「そうですよ。我々の出している寄付金額は世界に名だたる財閥と比べても高い」
「それで十分なチャリティーでは?」
「他にも養護施設の運営などもしていますし」
「一応、傘下の企業でも地域のボランティアなどに参加させていますよ?」
その辺がごっちゃになっている奴らも多いから仕方ないがチャリティーと寄付やボランティアは違うんだよな~……まぁ、四宮グループ全体の寄付金やボランティア活動が凄すぎて誤認しても仕方ないと思うが。
「ちょっと待ってくれ。チャリティー・寄付・ボランティアってのはぜんぜん別物だからな」
俺が話し始めた事で会議室の空気が一変し、皆の注意が集まった。
「まず、チャリティーってのは慈善活動全般を指すんだ。大掛かりなイベントだろうが、社会問題に対するアプローチだろうが、大体のモノが含まれる。寄付はもっとダイレクトに金や物資をピンポイントで必要な場所に送るってやつ。ボランティアはそれらと違って、金なんか求めずに自分の時間や技能を使って直接手伝う事を言う」
まぁ、どれも似た様な物だけど。
「これまでやってる四宮グループの活動って、基本的には寄付が中心で、後はボランティアが多い」
俺は部屋を見渡しながら続ける。
「だからさ、このイメージアップ作戦、もう一回キチンと考え直すべきだと思うんだよ。金をばら撒くだけじゃなくて、もっと戦略的に、社会にどう影響を与えられるかっって事を示さないと」
正直な話、四宮グループは高度経済成長期に強引な手段を取り過ぎた。良いか悪いかは置いといて、そのせいでイメージ悪化した事は事実なのだ。これを解決するのは簡単じゃない。
「例えばな、チャリティーイベントをもっと派手にやるとか、寄付の透明性を上げて世間からの信頼を得るとか、地域とガッチリ組むボランティア活動を強化するとか。そういう手を打って、四宮グループの良いところをもっと前面に出していけば外からの見え方も変わるし、結果的に株価にも良い影響が出るはずだ」
会議室内の雰囲気が一気に活気づき、俺の提案に対する反応も前向きなものが多かった。俺もこの場で自分の考えをはっきりと述べることにある種の満足感を感じたが……。
「じゃあ、具体的にどんなイベントを考えてるんだ?」
雲鷹さんが切り出す。
「思い切って大規模なチャリティーコンサートをやってみたらどうだ? 音楽ってのは誰にでも響くモノがあるし、若い層からも注目されやすい」
「音楽コンサートか……それはいいかもしれないな。どんなアーティストを呼ぶ?」
「アーティストはかなり限定される。何故なら、このコンサートではギャラが出ない。チケット代や物販代、その他のスポンサー広告を含め、全てを寄付や慈善活動の費用に回す。企画上、必要な金は四宮グループが出す形になるから完全な赤字だな」
「そこまでやる必要がありますか?」
「……必要は無くとも価値はあるな。それ程までに四宮の評判は悪い」
「ついでに言うならコンサートだけでなく、チャリティー番組もやるべきだ。つーか、コンサートより番組の方が優先度が高い」
「例の番組と対比にする訳か……」
日本のキー局の1つが毎年のように大型チャリティー番組を行っているが、あれは『大型チャリティー番組』という名の金儲け番組だ。裏では寄付金の着服や横領が横行し、タレントに多額の出演料が支払われている。何よりタレントが「要らない」と言っても無理矢理渡している時点でチャリティーでも何でもない。将来的には『感動ポルノ』『現代の見世物小屋』『偽善商法』などと侮蔑される事間違いなしだ。
「番組では普段やらない生々しい事や、視聴率が稼げない事をする」
「AVでも流すのか? それともスプラッター?」
「雲鷹さん、そんな事する訳ないでしょ」
「要するに政府や行政がメディアに発信して欲しいと言っているのに、メディアが『報道しない自由』とやらで取り上げていない事か?」
「そうだ。社会問題になっている事や普段なら批判の声が届く事をする。『子供も見ているのに~』とか言われても、政府や各団体がスポンサーにいれば怖くないし……俺らからすれば今更だろ?」
無言で頷く各家の代表や雲鷹さん。最早殺害予告すら日常化した四宮に怖いものなどない。雁庵さんに至っては、既に企画のシミュレーションをしている様で黙って考え込んでいる。
「普段の番組は話を要約したり、酷い所は編集し”切り貼り”している奴もいる。だが、24時間やら48時間もあれば編集なしで報道する事もできるし、政府がスポンサーにいればある程度は報道規制が緩くなる」
「そこで各団体の代表に発言してもらうと。具体的には?」
「医療系の団体には性病やドラッグ、偽医学などの注意喚起。警察には最近の犯罪の手口や対策。VRを使ってドラッグの幻覚をアナウンサーにでも体験してもらえば効果あるだろ。他にも警察が本気で芸能人を詐欺にハメる企画でも良い。超過激なドッキリと思えば企画として通せる」
クスリなどの話を取り上げるのは普通のメディアは嫌がる。スポンサーが付きにくいし、視聴率が稼げないから。だが俺達なら、自前のテレビ局を持つ四宮ならPTAからも批判を受けたとしても、世間から生々しい話をするなと言われても『報道する自由』『報道の権利』などで押し通ればいい。財閥の圧力で文句を押さえつければいい。
「そうして各団体と繋がりを持ち、他のメディアの影響力を下げるのが狙いか」
「流石は財閥の長。俺が話したい事を先に言うなんてな」
「『椿事件*1』以降、テレビ局は政府や世間から信用されなくなった。今なら被害に遭った議員やその関係者がこちら側に着く。そうじゃなくても”公正公平な局”のイメージを付ければ――」
「今後、他のテレビ局が”真実”とやらを報道しても意味がない、という訳か」
『『『おぉおお!!』』』
「そこまで行かなくても影響力の低下、こちら側のテレビ局が影響力を持てば良い。個人でも組織でも信用できる奴に着くし、人が集まればキレイな商売で金が稼げる」
要はマスコミ版極道だ。
極道の始まりは市民が勝手に作った自警団であり、その自警団が作られた理由も警察などの自治組織が機能しなかったから生まれた。マスコミもまともに報道せず、捏造やら汚職やらで腐っているなら同じことが出来る筈。
俺達がメディア業界を完全支配できなくてもいい。政府が今のメディアを規制し、報道の権利を取り上げてくれれば、メディアの作った四宮グループのマイナスイメージを0にするだけで良いんだ。そのために今のメディアを潰す。少なくともメディアから信用やスポンサーを抹消する。
「こちらで各金融機関に『偽善商法』をする者達に
「では、我々は交通機関に
「こちらは各施設に『社会的弱者を食い物にする連中に関わらないように』と伝えておきます」
「グループ傘下の企業にはスポンサー取り止めを」
「各メディアに
雁庵さんの言葉を皮切りに、各家の代表達も自分の仕事を認識したようだ。さっきは突然の事でテンパっていたが、本来の彼らなら問題ない。特に、派閥の鞍替えをしたい連中は時間操作能力者の如く迅速に仕事を終わらせてくれるだろう。
「さて、チャリティー番組の方は任せるが……コンサートの方はどうする?」
「颯真。お前の意見を聞きたい」
「適当に東京ドームでライブ……と言いたいが、それは別だ」
「別? 悪くない案だと思うが」
「そこそこの会場をいくつか用意して単独ライブが難しい人間――地下アイドルや個人で行っている奴らを用意しよう。そのレベルならノーギャラでも実績や知名度目的で参加する人間もいるだろうし、とにかく数が用意できる」
「確かに、その辺なら会場の近くで活動している人間だけで人を集められるか……上手く行けば、各自治体も協力させられる」
「地元開催なら中小企業でもスポンサーがいくらか付く。その金を寄付やら慈善活動に使えばいいし、そのままチャリティー活動に繋げられる」
中小企業と言っても個人経営の飲食店や小売店みたいなところでも良い。1円でも出せばスポンサーという事にして、多くのスポンサーが集まったと宣伝できる。その内ダンピングみたいに規制されるかもしれない。それでも、規制前に宣伝できれば一定の評価がされる。
リスクはあるが四宮なら無視できるレベル。こちらや政府と言った権力者にケンカを売ったメディアを締め付けるのに丁度よく、メディアに恨みを持つ人間を味方にできる。その上、四宮のイメージアップにもなる、最低でも一石三鳥の策だ。
――失敗しても損失が出ても、実績にすればそれでいい。重要なのは行った”事実”なのだから。
side:???
「問題が発生しました。雁庵様は次期後継者を雲鷹様と颯真様に絞りつつある様です」
「バカな!」
「各家を集めた中で宣言しました。既に幾人かが派閥を抜けています」
「……何でもいい。奴らの弱みを握れ。向こうの派閥にも声を掛けておく」
「はっ!」
作者は椿事件を知り、どんどん偏向報道する様になってテレビが嫌いになりました。最低限の建前すら守れない連中の報道を聞く気が失せたので。
颯真がチャリティーを提案した理由をまとめると「チャリティーはイメージアップで手っ取り早く、イチャモンが付けにくいため」という事です。丁度いい比較対象がいますし、視聴率を気にしなければ長時間放送も可能であり、金と権力の暴力でゴリ押せると判断しました。