ただ、奴を信じてよかった! 奴の末路は本作だけで10ルート用意してあるから楽しみにしておけ……バーベキューやらアスファルト工場で〇体処理なんてぬるい最後じゃねーからな。
今回で番外編という名の補足回は終了です。ただ、想像以上に長くなりました。
なお、過激な表現があったため一部修正・削除しています。
無修正版はR18の方に投稿しています。エロ系ではないのですが……犯罪系とか生々しい表現だったので。
結論から言えば、カミキヒカルは無事だった。
あの後、異変に気が付いた劇団の人間により助け出され、カミキヒカルは命に別状はなかった。
犯人のスタッフは薬物中毒者であり、何かしらの幻覚を見ていた故の犯行と断定された。犯人は捕まったが留置場内で自身の頭を壁に叩き付けて死亡。事件は迷宮入りとなった。
今回の件で苺プロは劇団ララライからアイを引き離し、契約解除となった。
『劇団の人間が未成年のアイドルに強姦未遂を行った事』
『劇団内に薬物中毒者が出入りした事』
『これ以上、劇団ララライで学ぶ事はないと判断した事』
これらの理由により、苺プロは劇団ララライとの関係を切り――この事実を業界内に広めた。あくまでも、”善意の第三者”という立場で。
何の脚色もされていない事実である以上、ララライから発言を否定する事は出来ず、劇団ララライは業界内で敬遠されるようになる。
苺プロに許して貰おうと代表達が謝罪に行っても、文字通り塩を撒かれて追い返されてしまう。その謝罪も噂として広まる事となり、劇団ララライの人間が起用される事は少なく、本当に少なくなった。
神木家の伝手で仕事は貰えているが、それも『嫡男である神木輝の件を揉み消し、他の者が行った事にする』という条件。要は口止め料だ。
それによりカミキヒカルは劇団を辞めざる負えなくなり……彼は居場所を失った。
「全く。まさか本当に女ごときに服従させられていたとは」
「ええ。輝様の教育を見直した方が良いかもしれません」
「神木家の力を使って上で、四宮颯真に敵わないとは……情けない」
神木家嫡男が一般人の女に服従させられていた。この事実は神木家にとって後頭部を殴られたような感覚であった。男尊女卑を前提で考える財界のトップ達にとって、女など”使い捨てのオモチャ”と考える者も少なくない。そのような人間達からすれば女に、それも名家出身でもない一般人に元4大財閥の次期当主が屈服させられていたとあって、笑いをこらえる事すらできなかった。
この件で神木家は落ちぶれ、二度と復活できないと――無能の烙印を押された。
現当主達は必死に弁明しようとするが、幾度も失敗し……特に、後継者に関して二度も間違えた現当主すら無能と呼ばれていた。
一度目は正当な嫡男・神木星愛の抹消。嫡男が後継者となる慣習を破り、実子を国を使ってまで殺そうとし、最終的に殺す事すらできなかった事。また、その嫡男が非常に優秀であり、四宮家次期当主候補筆頭にまで上り詰めた事。
二度目は偽りの嫡男・神木輝を後継者にした事。クスリや権力で綺麗に飾り付けた輝だったが、その結果は颯真に敵わなかった。
四宮家の後継者争いの乗じて四宮家の乗っ取りを企てていた神木家であったが、あまりの無能加減に下が離れていくという異常事態。最早、家を維持するだけで精一杯であった。
この事態を引き起こした輝を後継者から外せ、四宮颯真を連れ戻せという意見が出た程だ。最も、神木家を恨んでいる颯真が戻る事も、他に候補が居ないにも関わらず輝を後継者から外す事もできない。……今では『神木星愛を捨てた奴の責任だ!』と、責任の押し付け合いが行われている。
神木輝と四宮颯真の違いは何か。
両者の『個人の才能』という点では、実は大きな差はない。しいて言うなら、颯真が早熟である事くらいだろうか。
だが、両者の実績や能力には雲泥の差がある。この理由はないか。
それは『環境』と『意識』であった。
『環境』とは教育環境などであり、孤児となり戸籍すら失った颯真と財閥の嫡男として教育を受けている輝。この状況では後者が有利だ。
『意識』とは学習意欲などであり、生きるのに必死な颯真と財閥を背負う責務を負った輝。この状況でも輝が有利だと思うだろう。
だが、颯真は龍珠組で教育を自分から受けに行き、『失敗すれば殺される』という強迫観念から高い学習能力を獲得していた。また、構成員達から実の子供や弟の様に扱われていた事も大きい。”褒められたい”と思う子供にとって、正当に周囲から褒められる環境というのは最高過ぎた。恋人ができた事もあり、愛する者や仲間を守るために修練を積んでいる彼に勝てる者は殆どいない。
それに対し、輝は神木家から一方的に教育を受けさせられ、『勉強しないと怒られる』という逃避から勉強していた。また、家族からは放置され、周囲にいる人間は全否定する者と全肯定する者しかいない事も影響する。正当な評価を受けられず、金や権力でどうにかなる人生を送っていた子供がまともに育つ訳がなかった。誰も信じられず、目的も達成感もない学習をしていた彼は『どうしようもなく空っぽな少年』でしかなかった。
両者の違いは『魚の取り方を自分から学んだ』か『魚を他者から与えられ続けた』かの違いだろう。その僅かの差が十数年の時を経て、国内最大財閥の後継者候補筆頭と落ちぶれた財閥の後継者としても失格扱いされる結果となった。
――生まれや性差ではなく、自分達の教育が悪かったという発想すら出ない神木家では、それを理解する事は不可能かもしれないが。
しかし、周囲が思っている以上に両者の能力差は大きい。その最大の要因は”アイデンティティの有無”であった。
颯真は『ヤンデレストーカー』『愛情がウザい』『反社会的組織とのつながり』『法律や常識を守らない』など多くの負の側面がある。それでも、自身のアイデンティティを確立しており……良くも悪くも人としての中身がある。
対して輝にはそれがない。否、そもそも
アイデンティティの確立は自信に繋がり、自信はモチベーションとなる。高いモチベーションで学習すればより早く、より高い成果を得られる。
ただそれだけの違いでしかなかった。
その日は非常に強い雨が降っていた。接近している台風の影響で幾つかの店は閉店時間を繰り上げ、場合によっては臨時休業となった。
そんな暗い街中を、傘も差さずに歩く少年が居た。――神木輝である。
「……なんで、こんなことに……」
ポツリと呟く彼の表情を見る者はいない。現在は夜21時過ぎ。普段なら多くの人が行きかう場所であっても、台風の日に出歩く者はいない。
そんな日に彼が街へ出た理由は……居場所がないからである。
あの事件以降、神木家はかなりの影響力を落とした。その影響で大規模の人員削減や関係各所との連絡に殆どの者が出払っている。残ったのは彼とその弟妹、そして数名の使用人。その使用人からも冷たい視線を浴びせられ、弟妹からは「……向こうの兄様だったら」という言葉が漏れていた。
「そんなにいいものか、兄って奴は」
「そんなに凄いのか、颯真という男は」
「そんなに優しくて魅力があるのか、あの怪物は」
彼にとって兄は存在しない。弟妹達や両親のために努力していたが、その家族から見捨てられればどうすればいいのか。体を貪られている間すら自分を見ていないのなら、愛した女性が自分を捨てるのなら、自分はどうすればいいのか。
「ん? 神木輝か?」
――その答えは、すぐそばにあった。
(一体、何故ここに居るんだ?)
片や神木家次期当主にして、その神木家没落の止めを刺した男。
(どうしよ。醤油切れたから買いに来ただけなのに)
片やしょうもない理由で台風の夜に出歩いていた、四宮家次期当主候補筆頭。
台風の夜、生き別れた兄弟が出会う。
2人の出会いが偶然か必然か。……マダオ2号3号がこっそり醤油を使って大量のつまみを作っていなければ、この状況は起きなかったと考えると偶然だろう。
「何台風の夜に外出てる。風邪ひくぞ」
「それはこっちのセリフだ」
「とりあえず家まで送ってくか? それとも悩みでもある? お兄さんが聞こうか?」
「お兄、さん……?」
「おい、そこは疑問を持つな。俺はまだ10代だぞ。成人前だし、普通にお兄さんだろーが」
輝にとって颯真は実の兄である。だが、彼らに兄弟の意識はない。颯真が――星愛と呼ばれている頃に1回だけ会った事があるが、それ以降は一方的に見かけるだけの関係。
だが輝にとって、颯真は最後の希望だった。
颯真は自身と同類の星野アイを救い、性加害者である姫川愛梨を救っている。また、龍珠組という極道と非常に強いつながり――それこそ構成員と言っても過言でない関係だ。任侠組織の一員であり、本人が『他者を笑顔にする事で快感を得る』という性質上、性被害者である自分を助けてくれると思ったからだ。
(この男は会った事もない死んだ弟妹の供養をしたらしいし、兄弟思いなんだろう。だったら、僕を助けてくれる筈)
血の繋がりはとても強い。さらに、客観的に見て可哀そうな被害者、恋人と同じ人種の自身を助けない筈がない。そう思い、輝は颯真に全てを話した。
「……よく頑張ったな」
(あっ、温かい……)
そう言って輝の頭を撫でる。その手から伝わるぬくもりは、輝の人生で初めての感覚だった。
道具として優秀だと評価された訳でも、使い勝手のいい玩具として愛でられた訳でもなく、ましてや性的に撫でられた訳ではない。一人の人間として、弟として撫でられる。
(心地よく! 満たされていく! これが”愛”! 今なら分かる。今まで”愛”だと思っていたモノは偽物だった。本物の愛を、この愛を享受するために、人は生まれてきたんだ)
「それで、これからどうする?」
(ずっと感じていたい。本当に僕を愛してくれる人の下で生きていたい!)
「もし、お前が今の環境から逃げ出して、普通の生活を送りたいなら協力するぞ。雁庵さんも喜んで動いてくれるさ」
「が、雁庵って……四宮家の当主が!?」
「当然だ。青龍さんは知らないが、黄光さんも雲鷹さんも俺も協力してやる」
「ッ! お願いします! 僕は、普通の人生を歩んでいきたい!」
「ならこっちだ。少し歩くからな」
颯真が輝の手を握ると、どこかへ歩き出す。
兄の手を握り歩く姿は普通の兄弟の様に見える。
輝は兄の手の温かさを感じながら、心の奥底から込み上げてくる感情に気づいていた。今までの人生で感じたことのない安心感が、兄の手から伝わってくる。
(これが、本当の家族の温もり……)
これまでの輝の人生は冷たく厳しい環境の中で、孤独と戦い続ける日々だった。誰も彼を正当に評価してくれなかったし、家族からも疎まれ、自分の存在意義さえ見失っていた。
しかし、颯真と出会ったことで、輝の心は大きく変わった。兄が差し伸べてくれた手は、ただの救いの手ではない。それは、彼がこれから共に歩んでいく道への案内であり、未来への希望を示していた。
「兄さん……これから、僕はどうなるんだろう」
小さな声で問いかける輝に、颯真は優しく微笑んで答えた。
「大丈夫。お前はもう一人じゃない。お前は、お前のままでいいからな」
その言葉に、輝の胸の中に新たな希望が芽生えた。孤独で閉ざされていた未来が、兄と共に進んでいく光で満たされていく。
(これからは、僕も愛される家族の一員として、生きていけるんだ)
輝の足取りはもう迷いなく力強く、颯真の手を離さずに未来へ向かって歩き始めた。
「ほらここだ」
颯真の言葉で前を向く輝。ここが自分にとって、自分の人生を取り戻す場所だと信じて――
「自首してこい。そしたらめでたく犯罪者で神木家から追い出されるぞ。これで地獄から抜け出せるからな」
神木輝は理解できない。さっきまでの愛情と今言われた言葉の差に。
「お前、自分の事”可哀そうな被害者”とか思ってる?」
「星野アイと同じ人種だと勘違いしてる?」
「俺に愛されているとでも妄想してた?」
もし、神木輝という人間が少しでも愛された事があれば気づいただろう。
「人の彼女レイプしようとした奴が、その彼氏から愛される訳ないだろ」
――愛する人間を傷つけた者には憎悪しか抱かないという、至極当然の事を。
「俺知ってんだ。お前、母親殺したろ。ついでに弟妹達も」
「っ!」
「結構前に、俺の元にクソみたいなDVDが送られてきたんだよ。何だと思う? 正解は~……母親と妹が凌辱された挙句に殺される動画だよ。神木家当主による解説付きでな!!!」
「ひぃ!」
「ひぃじゃねえよ。神木家が継承の儀式と称して、犯罪図鑑完成させるための訓練受けてきたんだろ? こんな外道見た事も、聞いた事も、想像した事もねえよ!!」
神木家の教育は常軌を逸している。それこそ、本当に犯罪コンプリートというあり得ない事をさせるための訓練としか思えない程に。
「今すぐあそこで罪を告白してこい。それを皮切りに神木家へ合法的に捜査ができる。余裕で死刑判決だからな。神木家が無くなれば四宮の懸念事項が半分無くなる。そうすれば夢乃『颯真とアイのラブラブ生活』に大きく近づく」
「ま、待って! 僕は弟だよ!? 弟を見捨てるの!?」
「黙れ。俺からすれば親兄弟を犯して殺し、恋人には強姦未遂のクソ野郎だ。前科三犯どころじゃねーから。未成年だろうが死刑確定の凶悪犯だ」
被害者の数は数十人であり、被害者に落ち度はない。はっきり言って、どんな優秀な弁護士でも、死刑反対派の裁判官でも死刑以外選べない。これが死刑でないのなら、そこは死刑が存在しない世界だけであろう。
「お前が未成年で死刑になったなら神木家もタダじゃ済まない。四宮の力もあれば確実に滅ぼせる」
颯真は輝を見下ろし、冷たく笑みを浮かべた。その笑みは愛情の欠片もなく、まるで相手を虫けらのように扱う視線だった。
「愛されたかった? 普通の家族になりたかった? お前みたいな外道が、そんなこと口にしていいと思ってるのか?」
その声は鋭く、輝の胸を貫いた。震える輝を見ながら、颯真は続けた。
「お前は家族を殺し、俺の恋人を襲った。それで今さら『普通の弟』だ? 笑わせるなよ。お前にそんな資格があると思ってるのか?」
輝はその場に崩れ落ちそうになる。身体が重く、全ての力が抜けていく感覚だった。それでも最後の希望にすがろうと、彼は必死に言葉を紡ぐ。
「兄さん……僕は、ただ――」
「黙れ!」
颯真は輝の言葉を容赦なく遮った。その声には、すでに情けも慈悲もない。
「お前は俺にとってただの汚物だ。お前の存在そのものが俺にとっての汚点だ。家族? 弟? そんな戯言で自分を慰めてる暇があるなら、さっさと自首して神木家ごと消え失せろ」
輝は言葉を失った。冷酷な兄の言葉が、まるで凍りついた刃のように彼の心を切り裂いていく。
「お前がどれだけ哀れな顔をしても、俺の心は動かない。俺はお前を助けないし、お前を救うつもりもない。お前は俺にとって、何の価値もないんだ」
颯真は冷たく吐き捨てるように言った。そして、最後の一撃を加えるように、さらに声を低くした。
「お前はいっそ、そのまま死んでしまったほうが世の中のためだ。少なくとも、これ以上俺の目障りにはならないからな」
輝の瞳からは、もう涙も出てこなかった。ただ、兄の冷酷さに完全に打ちのめされ、立ち上がる力すら失っていた。
輝に背を向けて立ち去る後ろ姿からは、どこまでも冷たく、輝の手の届かない遠い存在だった。
颯真の冷酷な言葉が消えた後、輝はその場にひざまずき、虚空を見つめていた。雨はますます激しくなり、彼の身体を無慈悲に打ちつける。だが、輝はそれすら感じなくなっていた。心の中で燃えていた微かな希望の灯火は、颯真の冷酷な言葉によって完全に消し去られてしまった。
(僕は……もう終わりなのか)
輝の頭の中には、兄から投げかけられた言葉が反響し続けていた。「汚物」「存在そのものが汚点」「死んだほうが世の中のためだ」――その言葉は彼の胸に突き刺さり、何度も何度も彼の心をえぐった。
「……死ぬしかないんだ……」
輝の口から漏れた声はかすれて殆ど聞き取れない。全てを失い、愛される事を求めていた兄にも見捨てられた今、彼に残されたものは何もなかった。希望も、未来も、居場所もない。
「どうして……」
輝は自分の膝に落ちた雨水を見つめながら、静かに涙を流した。誰からも愛されず、ただ道具として扱われた過去。求め続けた家族の温もりは、結局幻でしかなかったのだ。
(僕は……何のために生きてきたんだろう)
その問いに答えは返ってこない。何もかもが虚しく、無意味に思えた。雨の音だけが響く中、輝は立ち上がることもできず、ただその場に崩れ落ちたまま、冷たい地面に額をつけた。
「もう……何もかも……どうでもいい」
輝の声は風に消え、誰にも届くことはなかった。颯真が去った後の暗い街角には、ただ一人、絶望に打ちひしがれた少年が取り残されていた。
そして、静かに輝は目を閉じた。もう、何も感じたくなかった。何も見たくなかった。世界から切り離され、孤独と絶望に支配された彼の心は、深い闇へと沈んでいった。
・四宮颯真:神木輝は怨敵だと思っている。自分の家族を殺した上、最愛の恋人を襲った外道。俳優としての技術を活かして”可哀そうな弟を慰める兄”のふりをして警察まで連れて行った。
・神木輝:自四宮颯真は自分の全てを奪った男だと思っている。性を貪られていた性加害者・姫川愛梨も”颯真の代理”として、家族からは”星愛(颯真)の代替品”として、弟妹からは”颯真の方が良い兄”と言われ続けた男。自分の同類と思ていたアイ、加害者の愛梨を救ったのに、実の弟である自分を救わなかった事で心が完全に折れた。
原作や前話も合わせてですが、神木輝の問題点は「正しい愛情を知らない」という点であり、仮に1の好意を100の好意と判断する点が問題だと思っています。そのため、過剰な反応や行動をとっている痛い奴扱いになっています。
本作では家庭環境、幼少期からの薬物の使用、神木家の異常な教育、性加害の被害者、颯真との比較などによって壊れました。……ただ、原作最新話のせいで”サイコパス”で片付けてもいい気がするよ~。