side:マダオ
俺の名前は真田勝男、通称マダオだ。
「お前、ウチで何を学んだんだ? こんな外道になっているなんて、龍珠組の恥なんだけど」
「ぐぇええ……」
「颯真……今回ばかりは冗談じゃ済まねえぞ……っ!」
恋人を殺そうと計画している弟分の死刑執行を見守る僧侶だ。
俺にとって最高に殺したい程可愛い弟分、それが四宮颯真だ。
あいつと俺の出会いは最悪だし、その後の生活やら交流も災厄だったが……それでも割と楽しいと断言できる。
出会った当初は人間の生き血をすすって悦に入っている様な危険人物だったが、何とか構成させる事に成功した。今では恋人をストーキングし、歪んだ愛情で溺れさせる事で快楽を得る変態へのジョブチェンジしている。
颯真の人生は波乱万丈だったが、俺の寺で修行を受け、龍珠組での部屋住み教育(仮)を受ける事でテロリスト予備軍から変態へ。アイと付き合い、即日婚約した事でヤンデレストーカーへと変態レベルを上げている。
その変態が四宮財閥の本家に養子として迎えられた時は驚いたが、同時に安堵した。あんな危険人物かつ変態が極道やヤクザにならなくて、と。
勘違いしないで欲しいが、俺も龍珠組も颯真には感謝している。俺は借金を肩代わりして貰っているし、龍珠組は舎弟達の借金やシノギの開業資金を『ある時払いの催促なし(無利子無担保)』という破格の条件で貸して貰っている。
特に龍珠組の組長さんからすれば「俺が下の人間を満足に食わせてやれねえからって、子供に頼るハメになるとは……」などと泣いて感謝している。
――ちなみに、組員の家も颯真が貸してるし、抗争の時の資金提供もしている。
だがな、俺の借金はそもそも颯真のせいで出来たもんだ。別れた女達への慰謝料やら養育費を颯真が吊り上げたせいで借金せざる負えなかった。
龍珠組からしてもヤクザへの締め付けが厳しくなった原因の1つが四宮家だから、素直に感謝できない。颯真も四宮家本家の血筋だし、今は後継者候補筆頭なんだから。当然アイツの過去は知っている。ここまで地獄を味わってきた事も知っているが……感情では納得いかないんだろうな。
さて、そんな殺したい程可愛い弟分であり、龍珠組構成員達にとって頭が上がらない男である颯真。そんな奴から連絡がきた。
いつもの雑談かアイの自慢話かと思ったが、マジで真剣な話だったので3割くらい真面目に話を聞いてやった。何故3割かというと、アイツは真面目な話と言って『アイに群がる
龍珠組長とも話したが、念のため若頭を連れて3人で行く事になった。恐らく本格的な結婚式の段取り決め、もしくはラブラブ新婚生活ごっこに付き合えとかだろう。
こうして案内された場所は颯真の所有しているビルの一室。
そこに斉藤社長も来ていた。俺達が来ると全員揃ったようで、颯真とアイから本題が話された。
「アイと子供を作る許可をください!!!」
「お願いします!」
『『『……は?』』』
全員が理解できなかった。
周りを見ると龍珠さんは財布の中身を見て、斉藤社長はポケットをまさぐっている。そうだよな、俺達”コドモヲツクルキョカ”なんて持っていないよな?
「颯真、お前……その、なんだ? コドモヲツクルキョカって何だ?」
「え、何? アイと俺の子供ですよ。まだ妊娠してないので俺とアイの子供作りする許可をください、と」
『『『……は?』』』
もう1回言うが……コドモヲツクルキョカって何?
「颯真君、その……コドモヲツクルキョカというのは……」
「アイと俺の子供です」
「おい、まさかと思うが……アイを孕ませるとか……そういう……」
「そうです」
『『『はあ!?』』』
俺達は同時に絶叫した。
「おまっ、お前っ!! それマジで言ってんのか!? アイはまだ中学生だぞ!!」
「そうですけど?」
「『そうだけど?』じゃねえよ!!」
もう1度言うが、アイは中学生だ。まだ未成年で、子供を産むには早すぎる。いや、それ以前に……アイはアイドルだ! そんなのが妊娠なんてしたら大スキャンダルになる!
「颯真君……それは流石に……」
「そうですよ、颯真。これは流石にマズイでしょ」
「それは……そうなんですが……」
もう1度言うが、アイはアイドルだ! そんなのが妊娠なんてしたら大スキャンダルになる!
そうじゃなくても幼いアイが妊娠なんてすれば命に関わる。颯真は賢いし、その程度の事を理解していない筈がない。愛する恋人を殺すようなマネは絶対にしない筈。そもそも18で結婚、25くらいで子供を~とかほざく様な奴が15-16で子供を作るなんて言う筈がない。
――つまり、これはアイの意思か。
「おい、流石に冗談じゃ済まないぞ」
こいつらの境遇は理解している。
アイは父親不明の母子家庭出身。しかもその母親はアイを捨て、親戚付き合いは殆どない。母親自体も生活のため……というより、贅沢や見栄のために男に腰を振っていた女だ。その上でアイに虐待や暴力、最後には幼いアイを性的な目で見ていた男を侮蔑するどころか、アイに嫉妬していた様な奴だ。言いたくないが毒親だじ、金に困ってアイに金をたかったり、風俗に沈めようとしていない事に驚愕するレベル。
颯真の実家も相当酷い。そりゃ、国内有数の財閥と国内最大の財閥間に生まれた嫡男だからしがらみはあるだろうが、当時3歳の子供を国が総力を上げて見殺しにしたんだから外道としか言えない。今でこそ龍珠組長を親父と慕っているし、組員に可愛がられていたからマシだが……その実家なんかに連れ戻されて『長男・甥っ子なんだから家のために働け!』とは人道に反している。
この2人の共通点こそ『天涯孤独』だろう。実際にはアイの両親は生きているし、母親の方は颯真が金を与えて好きにさせているらしい。颯真の方も父親・弟妹・親戚は生きているが……アレらを家族と思っていないだろう。
そんな2人だからこそ『家族』に憧れる気持ちも、『子供』という絶対に逃げられない枷を作りたい気持ちは理解できる。だが! そんな事に命を掛ける価値はない!
「颯真、お前達の境遇を考えれば分からなくもない。それに、愛する人との子供が欲しいって考えも普通かもしれないが――」
そう言って颯真達を説得しようとした時、隣に居た龍珠組長達の雰囲気が変わった。
「お前、マジで舐めてんじゃねえぞ」
あまりの圧に空気が歪んで見える。この感じ……間違いなくキレてる。もう80代だというのに『敵わない』と思わせる威圧感。関東極道最強と言われる龍珠組の組長は伊達ではないのか!
そのまま颯真の胸倉を掴む組長さんだが、2mを超える颯真を持ち上げるとか……この人どんなバケモンだよ!?
「なんでお前、恋人殺そうとしてるの?」
「こ、殺そうとだなんて――」
颯真、その答えはヤバい!
「『殺す』って言葉が出てくる時点でアウトなんだよ。お前、アイが妊娠したらどうするつもりだ? 出産して育児にかかりきりになったらアイドル活動なんて出来ねえぞ。しかも子供を産んだら体型は変わるし、体力も落ちる。そんな状態で仕事が出来ると思ってんの?」
「お、俺が養うから……」
「お前が金で解決できる問題じゃねえんだよ!!」
龍珠さんの正論に颯真は何も言い返せない。
「テメェは男として何の価値もない。ここで死んで人類に貢献しろ」
「ぐぇええ……」
あまりに情けない答えに、龍珠組長が颯真をボコボコに殴りつける。
馬乗りで颯真を殴り続ける龍珠組長だったが、その手は自身の血で赤く染まっていた。
颯真は3歳の頃から裏社会で孤独に生きるか、死ぬかの2択を突きつけられてきた男だ。生き残るために鍛え上げ、ドス黒い感情を燃やして生きてきた奴にとって、体は鎧であり武器。その強さは野生のホッキョクグマの一撃を受けても命に別状がない程。飛行中に爆破した飛行機から生身ではじき出された上で、無事生還するだけでなく、そのまま映画の撮影に向かった狂人でもある。
そんな颯真を殴っても組長が怪我するだけ。正直、
「龍珠さん、その辺にしといてください」
だが、止めねばならない。
「だが!」
「あんたは颯真の”親父”かもしれない。斉藤社長もアイの”戸籍上の親”だ。それでも、ここは俺に任せてくれ」
「……いいだろう」
「斉藤社長、いいのか。アンタだってはらわたが煮えくり返っているだろ」
「それでもです。俺達は”親”かもしれないが、こいつ等の理解者じゃない」
「組長、斎藤さんの言う通りです。そもそも颯真を四宮家なんかに行かせた時点で、俺達に文句を言う権利はありません」
「チッ」
組の若頭に言われて颯真を離す組長さんだが、この人の気持ちは分かる。
龍珠組長にとって颯真は手のかかる子供の様な存在だ。『1人の悪人を殺すためなら100人の善人が死んでもいい』などと言っていた颯真を殴って矯正したからこそ、アイツはまともな人間になれた。組長と出会わなければテロ行為を死ぬまで繰り返す怪物になっていただろう。
「颯真、アイ。お前達の考えは分かった。だが確認だ」
そんな奴が人間らしい事を望み、ガキらしく親に反発している。怪物だ何だと言われているが、間違いなく”人間”だよ。
「幼いアイが妊娠するリスクは理解したか?」
「「はい」」
「……じゃあ、良いんじゃね?」
『『『おい!』』』
「そもそも周囲に言えば反対されるって分かる事を、こうして人集めて頭下げてんだ。こいつ等の意思は殴っても変えられねーよ」
黙ってガキ作って隠れて出産とか出来なくはない。そもそも颯真は金も病院へのコネもある。黙って妊娠やら出産させても困らない状況だ。本人は財閥関係から居なくなって、アイと暮らしたいとか言ってんだから政略結婚なんて絶対しない。アイも颯真と別れるくらいならアイドルやら芸能界から足洗って、専業主婦にでもなるだろうよ。
「金はある。周囲のサポートだって早坂家や金貸してる組員なんかが居る。言いたくないが、『できちゃった婚』や『誰の子供か分からない私生児』なんかより、よっぽど良い環境だ。『好きな奴ら同士が計画的に子供を作る』……これ以上、望まれて生まれて来る子供も中々居ねえ」
「真田さん。その考えは理解できます」
「若頭さん……」
「我々組員はその多くが望まれて生まれてきた訳ではない。そう考えればこの2人の子供は幸せでしょう。しかし、生まれてから虐待される子供、親ごと周囲に迫害された子供……そんな子供は多いのです」
若頭さんの言いたいことは分かる。目の前に居る2人がその典型だ。
「だが、こいつらは違う。そもそも愛が重すぎて胃もたれしている颯真が子供を見捨てる訳ないし、こいつを迫害できる奴……というか、迫害して生き延びてる奴はいないだろ」
「「「それはそう」」」
「それに、親父と慕っている龍珠組長に殴られても辞める気ない時点で頭下げているのはポーズでしかない」
ギクッと体を震わせるバカとアホのカップル。
「その気になれば黙ってガキを作れた。それでも筋を通すために頭下げた。この時点でこいつ等は『許可を貰いに来た』じゃなくて、『宣戦布告しに来た』が正しいんだよ。だったら、監視も兼ねて協力した方がマシだ」
目を輝かしているアイとバツが悪そうな颯真。こいつらも考えて考えなしの行動をしてんだ。無駄に能力と権力と金のある奴らを野放しには出来ない。
「……なんで、こんな事をした」
「子供作ってから、堕胎できない状態にしてから巻き込むことも出来た筈だろ……」
組長と社長さんが弱弱しく尋ねる。
「私の、私達の子供には、周りの人達に望まれて生まれて欲しい。そう、思ったからです」
穏やかに笑み、しかし、悲しみと強い決意を含ませながら、アイはポツリと呟いた。
――これを否定できる奴は血の凍った人間だけだ。
「……仕方ないから龍珠組は協力する」
「苺プロも協力はする。そもそも金と仕事貰ってる立場だから逆らえねえし」
任侠集団のトップであり、同じ境遇の人間を何百何千と見てきた龍珠組長はため息を吐きながら承諾した。斉藤社長も力なく頷く。
これからこいつ等の周囲では少なくない苦労があるだろう。だがそれでも、多くの味方がいるなら問題ない。こいつ等は本当の意味で愛する家族を手に入れる事ができる筈だ。
安心した様子で抱き合っている2人は微笑ましい。本当なら止めるべきだろうが、俺達に止められる程度の覚悟ではない。それなら、2人を温かく見守る事が最善。
――ま、それはそれとして、だ。
「よし。じゃあ話も終わったし『私刑』の続きだ」
「とりあえず組長・社長・俺で3回は半殺しにするから」
「こちらにドスの用意はしてあります」
「ここだと汚れるんで、倉庫にでも行きましょう」
ムカつくから颯真はリンチするわ。
後日、早坂家・四宮雁庵からも半殺しにされる予定。