怨敵と巫女   作:大紫蝶

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 時系列だと、原作でアイが妊娠した年の春頃です。

 あとがきに今後(というかこの章)のざっくりとした時系列の説明を書いておきます。


颯真の嫌がらせ

side:颯真

 

 俺の名前は四宮颯真。色々と普通じゃない高校2年生だ。

 

「それで、計画とかどうする?」

「計画?」

 

 このとぼけた顔をしているのが星野アイ。俺の恋人であり、現在の悩みの種だ。

 

「子供の件だよ。流石に授かりものだから直ぐに出来るとは思わないが、どこで診察を受けるかとか、出産後の生活について考えないと」

「そんなもその辺の病院で受けたらいいんじゃないの?」

「アホか」

 

 いつ子供ができるか知らんが、15歳? 16歳? のアイドルが産婦人科に腹膨らませて出入りしてたら流石にマズい。産婦人科だけなら「生理痛が~」とか言い訳も用意できるが、そこにデカい腹で出入りしてたらアウトだ。殺人の犯行の瞬間を警察に見られるくらい致命的だ。

 

「こっちで用意しても良いんだが……東京となると人の目も多すぎるから県外だよな~」

「なんか旅行だね☆」

「……そだね」

 

 コイツの能天気さが羨ましいよ。

 

「口が堅いか、こっちに逆らえない病院となると少ないんだよな。財閥の人間と現役アイドルの子供となると、それだけで強請るネタとして上出来だ。最悪、俺の事は隠して私生児ってことにするか……」

「私、北海道とか沖縄がいい! 美味しい物食べたい!」

「もう……こっちで用意するよ……」

 

 恐らく大丈夫だろうが、幾つかの病院に心当たりがある。医療舎弟にした所や弱みを握ってる所はそれなりにある。だがそこは東京やその周辺だから危なすぎる。一応京都とか関西にも伝手はあるんだが……四宮家の本家があるからな。

 

 最近、本家の方でキナ臭いことが起きている。俺の周囲を調べている連中は前から居たんだが、最早隠れているのか分からないレベルだ。恐らく長男・次男派閥の人間だな。両派閥の人間から俺の派閥に乗り換えたいと打診があった。その際に教えてくれたが、雁庵さんに後継者候補から正式に外されそうだと知って焦っていると。

 

 別に雁庵さんから当主の座を奪うくらいすれば良いのに、それをしないんだから器じゃないと思うんだよな。結局、雁庵さんは『自分をねじ伏せるくらいのやる気がないと当主には成れん!』って考えだから、派閥まとめて強訴でもすれば正式な後継者になれる気がするが……。

 

 ま、そんな訳で、四宮家の傘下でない病院が理想だ。ってなると途端に数が減る。それだけ強い家って事でもあるんだが、アイの存在がバレると厄介だ。正確には俺の子供の存在だ。

 ただでさえ後継者候補筆頭と言われている中、子供まで出来るとその立場が強くなる。あの世代の人間は血筋に拘るのもそうだが、どっかの王族みたいに「子供を作れない男はトップに相応しくない」とか考えてんだよな。ホントにくだらん。

 

 そんな状況で子供の事を知れば誘拐やら殺害を企ててもおかしくない。そういう人種だからこそ、できるだけ知られたくない。……いっそ遠方にある龍珠組の支部でも使わせてもらおうかな。二次団体は無理でも、三次団体・四次団体なら金で動いてくれるかも。

 

「それより颯真は大丈夫なの? 子供が生まれても、あんまりこっちに来れないんでしょ?」

「それは問題ない。アイの住んでいるマンションは四宮家の使用人も住んでるし、こっちに俺の部屋もある。俺が出入りしても疑問に思われない筈だ」

「そうなんだ。ところで……その背中に居るのは?」

「ん? コイツは早坂愛。奈央さんの娘だ」

「ばぶ」

「それは知ってるよ。そうじゃなくて、なんで背負ってるの?」

「んなもん奈央さんも正人さんも大学、ご両親は仕事で忙しいから暇な俺が子守りしてるだけだ」

 

 子作りの件を奈央さん達に話したら「じゃあ、子供の面倒を見る練習ね」ってベビー用品と一緒に渡されたんだよな。施設にいた頃にもガキ共の面倒見てたし、10人同時に見ろって訳じゃないなら問題ないけど。

 

「なんか大人しいね。もっと泣いてるものかと」

「愛は泣かないが、頭は叩いて来るな。適当にミルク飲ませておんぶしてれば大人しいからいいけど」

「週刊誌に撮られなかったの? 『衝撃! あの四宮颯真に隠し子が!』って」

「これから隠し子作るから触れづらい事言わないでくれ。後、週刊誌にはスゲー質問攻めにされたよ」

 

 あれは酷かった。ここに来る前に絶句した記者達に「げ、芸能界の闇…‥」とか言われてたからな。普通に「ストーカー被害に遭ったマネージャーの娘です。マネージャーがノイローゼで、家族より俺に預けていた方が犯人も手出しできないだろうという判断から預かっています」とか言ったせいで根掘り葉掘り聞かれたよ。

 

 最終的に、「四宮家三男が片思いこじらせてストーカー化。先週は渡せなかったダン箱3つ分のラブレターの廃棄を手伝わされた」という話で落ち着いた。雲鷹さんに怒られる気がするが……きっと許してくれるさ~。

 

「そういえば、子供用にマットとかオモチャ買わないとだよね」

「そういうのはこっちで買うよ。丁度いいから愛用と一緒に購入してくる」

「それならいいけどさ。仕事とか学業は問題ないの?」

「仕事は問題ない。早坂家や雁庵さんが居るから信じられない好条件の仕事ばかりだから」

「学校は? いや、行ってない私が言うのもなんだけど」

 

 アイはアイドル活動もそうだが、子育てがあるからと高校進学しなかったんだよな。俺も楽だからいいけど。

 

「秀知院は凄い学校でな。『17年に一度のペースでこういう事がある』って、何故か授乳室とか育児サポートが整ってたわ。騒がなければ子供と一緒に授業受けて良いって」

「寛容過ぎない!?」

「『いちいち怒るのも大変だから設備整えた』って、秀知院の闇が伺えるよな」

 

 なんか、あそこなら俺の実子が産まれても大丈夫な気がするから凄い。

 

「それならいいけど、お姉ちゃん達が子供を見てないのは何で?」ハイライトオフ

「闇堕ちしないの……単純に授業について行けないからだろ。秀知院は名門だし、授業も厳しい。名家の出身とその配偶者がギリギリ合格とか出来ないしな」

「それなら財閥の颯真の方が大変だと思うけど」

「大丈夫大丈夫。学校の授業なんて寝てても満点取れるから。教科書パラパラ見れば大体分かる程度だったし」

「えぇー」

 

 なんかアイが引いてるけど、そうだろ? 書いてある内容を覚えて、そのまま出力すればいいだけだろ。マダオにやらされた『更生のための写経』より簡単だぞ。

 

「そんな訳で愛は俺が預かってる。他の奴らに任せられないから」

 


 

 アイのマンションから秀知院へと向かう。その間、色々と考えてしまう。

 

 俺は子供を愛せるだろうか。あの両親から製造された、化け物の俺が。

 

 アイが妊娠して命を落とさないだろうか。

 

 四宮本家で怪しい動きをしている人間が多数。こちらを探っている人間が数人。

 

 四条家が海外で暗躍。強引な手を使い四宮家を滅ぼそうとしている可能性あり。

 

 秀知院学園で不穏な空気が蔓延している。事件が起こる可能性大。

 

 雁庵さんが惚れこんだ女――清水名夜竹。彼女を妻にする可能性や新たな子供が生まれれば、後継者争いが激化する可能性はどの程度か。

 

 後ろで下手な尾行をしている記者をどう対処するべきかとか。

 

 さっきから俺の頭をかじってる愛の事とか。

 

「って、ホントに止めろ! 汚いから! 後、そこの記者は用があるならさっさと来い!!」

「す、すみません!」

 

 ったく。おちおち考え事も出来ん。

 

「あの~、その子供は」

「マネジャーがストーカー被害に遭ってて、家の事情もあるから預かってるだけ」

「……それなら遠くの親戚に預けたらよいのでは?」

「財閥の関係だ。俺が一番安全なんだと」

「なるほど……あの、取材させていただいてもよろしいでしょうか?」

「今更か? 学校に少し用があるだけだからいいけど……向こうの喫茶店で良いか? 赤ちゃん居るし」

 

 

 

 近くにあった喫茶店で取材を受ける事になったが、コイツ新人だよな。大半の出版社の記者にはマンションに行く前に取材受けたし。愛を預かっている事を知らなかった点だけでも出遅れた新人だと思うが。

 

「その……何か特ダネをください!」

「はぁ?」

「ばぶぅ」

 

 なんか愛まで変な声出してるが、気持ちはわかる。コイツはどうやら馬鹿らしい。

 

「あのな、特ダネは『掴む』ものであって、『与えられる』ものじゃないだろ」

「それは分かってます。でも、どうにか手に入れないとクビになるんですよぉ~!」

 

 この記者――高梨が言うには、会社から「今月中に何か特ダネ持ってこないとクビにする」と言われたらしい。どうやら編集長がコネで新しい新人を入れたい様だが、これ以上入れられないって事でコイツをクビにしたい様だな。今年で新卒2年目のルーキーに無茶ぶりが過ぎねぇか?

 

 まぁ、他の実力者を追い出すと仕事ができないし、新卒一年目を追い出そうにも入って1ヶ月をクビにするもの理由をでっちあげるのが大変だから、適当に2年目で使えなさそうな奴を追い出す事にしたんだろうな。俺ならこの件を手土産に他社に転職するが。ついでに職場で極秘の情報も手土産にするか、対象に「うちの社があなたのスキャンダル探ってますよ。〇日〇時の××に当たりつけてますから注意してください」とでも助言して恩でも売るが。

 

「どうにか特ダネ手に入れないと困るんですよぉ」

「って言っても、特にないぞ。コンサートやらドラマや映画の情報は公表済み。チャリティ企画の件は大々的に公表して、他に公表できる事は当日までの秘密だしな~」

「そこをなんとか! 僕のクビがかかってるんです!」

「モチベーション上げづれぇ」

 

 こんな下っ端どころか、今月で下っ端すらクビになる奴に恩を売るメリットないんだよな。だがまぁ、下手に暴走してアイとかに迷惑かけられるよりはマシか。

 

「しょうがないからどうにかしてやる」

「本当ですか!?」ガシッ

「本当だから離れろ。そして愛ちゃん、君は俺の髪を引っ張らないで。何か恨みあるの?」

 

 君の両親の恩人だよ。確かに父親は売ったけど、母親と会えないからって八つ当たりしないでね。

 

「たしか、知り合いの政治家が学校法人の理事と会談する。獣医学部の開設に向けて~とかの話をするらしい。そこの場所教えるから行ってこい。時間は……明日の20時だ」

「行きます!」

「他に話すと特ダネじゃないからな。独りで行ってこい。料亭には話し通しておくから、俺の名刺持って、『四宮颯真に言われてきた高梨です』と言え。部屋に案内する様に言っておく」

 


 

Noside

 

「編集長! 特ダネ持って来ました! 現役大臣と学校法人の理事の密談です!」

『『『ナニぃ!?』』』

 

 とある編集部。この日、2年目の記者・高梨がとんでもない特ダネを掴んで来た。

 

「それマジか!?」「流石に嘘だろ」「編集長から圧力掛けられて捏造したんじゃ……」「可哀そうに……」

「違います! 本当に持ってきました。ほら、ここに証拠だって!」

 

 そう言って取り出した写真には大臣と理事が料亭に入っていく姿や料亭内での会談をしている様子が写されていた。

 

「? まぁ、たしかに本物の様だな。内容は?」

 

 編集長も長年の経験から捏造写真ではなく、本物の証拠写真であると判断した。少し違和感があるが、それよりも会談の内容が重要だと話を進める。

 

「こちらのボイスレコーダーに録音してありますが――」

 

 え、密談の内容がボイスレコーダーに入ってる?

 

 その場に居た全員が疑問を浮かべるが、それよりも特ダネの内容に集中していた。

 

「『最近、ペットブームによって獣医の需要が増えている。だが、獣医の絶対数が少ないため獣医学部新設が必要となった。そのため、文部科学大臣と学校法人の理事が腹を割って話す事になった』との事です!」

「やけに詳しいな」

「それとこちらが理事から貰った獣医学部の新設が必要な理由の資料で」ドン

「は?」

「こっちが大臣から貰った文部科学省の考えをまとめた資料です」ドン

『『『はぁ!?』』』

 

 高梨の持ってきた特ダネ。『現役大臣と学校法人理事の密会』という内容と『両者から貰った資料』というありえない矛盾が社内を混乱に突き落とす。

 

 そして、編集長がとんでもない写真を見つけてしまう。

 

「っていうか待て。なんで大臣と理事がカメラ目線なんだよ! なんで料理の写真まであんだよ! な・ん・で2人と記者(高梨)の集合写真があんだぁあああ!!」

「編集長キレないで下さいよぉ」

「キレるわ! こんなの密談でも何でもないじゃねぇか!」

「あ、『記事楽しみにしてますね』って2人から応援されました。良い人達ですよね~」

 

 編集長が頭を抱える。どう考えても大臣達に利用されているとしか思えない。こんな真面目な内容を掲載しても売り上げは上がらず、読者も注目しない。しかし、事実上の独占取材を掲載しないと大臣や理事を通して『あそこの出版社は”報道しない自由”とか言って独占取材を無かった事にした』と吹聴する可能性が高い。

 そうなれば政治家達がマスコミに情報を伝える意味がないと大義名分を得る事となり、今後の取材が難しくなる。下手をしなくとも業界全体を敵に回し、世間から批判の的となる。

 

「ど、どこでこの情報を手に入れた。絶対に黒幕がいる筈だ……!」

「四宮颯真ですよ。喫茶店で『特ダネ下さい』って頼んだら教えてくれました」

「オワタ\(^o^)/」

 

 メディアに強い影響力を持つ四宮颯真から紹介された獣医学部新設の独占取材。これを掲載しなかった場合、現役最強のマルチタレントと国内最大の財閥を敵に回す事になる。具体的には取材拒否とスポンサー降板という最悪の形で。

 

「……今回の”独占取材”をメインにする。全力で大臣と理事を擁護し、事実のみを掲載しろ」

 

 編集長に残された道は『獣医学部新設』という難しい問題を国民に納得させるという大臣達の駒になる事だけだった。

 

 この一件以降、この出版社は政府寄りというレッテルを張られ、『政府のスピーカー』『政府のウグイス嬢』などと言われるようになる。そして、政府の批判記事を書きづらくなったという。




 私の解釈として、アニメでアイが出産のために入院した時期を11月中旬、ゴローの発言などでは1~2月頃と考察します。本作ではアイの入院は12月であり、原作よりも長めの休止期間であるとします。そして、アクルビの誕生日を5月下旬(ふたご座)とします。
 この理由は作中のネタバレになりますが、11月でも1月でも話の展開的に都合が悪いからです。そして、誕生日は『双子だからふたご座』というシンプルな理由です。



 この先の流れは子作り(詳しい描写は無しorR18)→チャリティ企画→秀知院○○→アイの入院→四宮家○○→アクルビ出産(原作1話)です。途中、補足となる番外編を挟むかもしれません。
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