今回は颯真視点です。
side:颯真
俺の名前は四宮颯真。
「それでは予定通りお願いします」
チャリティー企画の指揮を取る事になったタレントだ。
本日は以前から計画していたチャリティー企画当日。いくら新興のネットテレビ局でも緊張が走る。まぁ、当然だろうな。ここに集まっている人間の”格”はあり得ないくらい高いのだから。
「おい、俺と警察庁長官との対談コーナーだが、質問する内容はこれ以外に増やして良いのか?」
例えば、そこでスタッフに最終確認をしているのは警察のトップである警察庁長官と対談する事になっている、テレビで見ない日はない芸能界の大御所達。
「ねぇ、本当にこの番組は全額チャリティーに回されるのよね?」
例えば、『チャリティー番組なのに出演者に高額なギャラが出る』という意味不明な文化に嫌悪感を示している海外育ち・外国人の有名タレント。
「すみません。番組で流してもらう動画データの修正をして欲しいのですが」
例えば、各省庁から派遣された代表や大臣、様々な団体の代表達。
これ以外にも一人居れば特集になるレベルの大物が参加している。これらが『通行人A』くらいの頻度で登場する番組も、この世にそうないと思う。本来ならありえない業界の大御所の控室が大部屋になるという惨事も起きているが……鏑木P辺りに責任取らせよう。
「にしても、よく出演許可下りましたね」
「鏑木Pか。まぁ、キー局は『こんな生々しいネタ視聴率が下がって、スポンサーが逃げる!』『向こうの事務所との契約があるんだ!』『報道しないのも、不法侵入するのも、報道する際に誤解を与えたり、情報の”切り貼り”するもの我々の自由だ!』とか言ってるからな」
「他が信用無いせいで参加してくれた訳ですか」
「後は四宮グループが主催だからな。四宮グループの報道機関って、芸能人のスキャンダルとかゴシップネタやらないからな。殆どの四宮賞賛話だったから」
「今までの実績から芸能界と敵対してなかった事、番組作成の際は思想の押し付けやら忖度を一部のバカ派閥を除き強要しなかった事も大きかったな」
あの腐れ共はいつか抹殺したい。奴らが居ないだけで四宮グループの評判は倍以上に良くなるというのに……っ!
「念を押すが、この企画を含め俺の活動は『颯真派閥』単独だ。そして、四宮グループの芸能関係は全て四宮颯真に一任されている。つまり、他の派閥が芸能関係で文句・圧力・忖度・接待などを強要しても従う理由はない」
「むしろ信用できないから他派閥と関係を持つ――接待などを行った事務所やタレントは業界から干せって事ですね?」
「その通り。まぁ、この局は問題ないだろうがな」
いい加減邪魔になったからな。『四宮雁庵』の名前で傘下の企業などには、派閥関係なしに芸能関係は俺を通すように言ってある。イメージアップを目的としている中、変な接待や賄賂で足を掬われる訳にはいかない。
「それで、準備は出来ているよな?」
「はい。必要な映像は揃えていますし、各地との通信も万全です」
「それならいい。今回は48時間企画だが、その多くは普段報道されにくい……いや、”視聴率が取れない””スポンサーに忖度”などの下らん理由で報道されない話がメインだ。スポンサーも分かった上で出資しているから視聴率は気にするな」
「今回はプラットフォームの提供が仕事であり、内容に関しては”よほどの事”がない限り関わらない」
マジで”テレビ”というプラットフォーム提供がメインであり、局は司会進行とかスタッフ扱いだ。
医師会が普段の学会のノリで手術中の……臓器とか、腸の中身? とかの写真などを持ってきた時は画像を荒くしたりモザイクを掛けたが、本当にそれくらいしか仕事をしない。
最近話題に上がっているYouTubeの連続再生みたいな仕事だな。普段より楽だと職員は気楽だし、出演者もやる気が凄い。ただ、医療系の皆さんは手加減してね? 手術中の映像を見ながら飯食べられる人間はあなた達だけですからね?
「あ、忘れてた。そういや恐山とかから『水子供養の大切さを報道してくれ』って話もあったな」
「そう言えばそうでしたね。でも、あれってスタジオに代表者が説明に来て、B小町が現地でリポーターやるって話ですよね?」
「……本当は俺に来てくれと言われたがな」
なんか「あなた程信頼できる方はいません!」とか詰め寄られた。生まれてこれなかった弟妹100人の供養を泣きながらしたって話が広まったらしい。後、奈央さんの安産祈願で各地を回っていた事もあり勘違いされてるみたいなんだよな~。
「あれでしょ。『生まれてこれなかった弟妹の無念を継いだ長男が、マネージャーの子供のために安産祈願をしていた』って美談。あれ以降、水子供養バブルとか安産祈願ブームが始まったとか」
「待って、それは聞いてない」
「あれっ、ご存じでない? 神社仏閣はお布施やら駐車場代で、周辺の店は利用者相手に『水子供養饅頭』とか『安産祈願せんべい』とかで儲けてるらしいですよ?」
「知らないっ! ってか、罰当たりにも程があるだろっ!!」
俺、呪われたりしないよね? いや、幽霊とか信じてないけどさ。なんか気分的に呪い(物理)を受けそうなんだが。
「お店は儲けてウハウハ。行政は税収が増えてウハウハ。宗教関係者ももうk……人々が信仰心を持ってウハウハ、って」
……嫌なバブルだな。バブル自体も良くないが、死人や赤ちゃんも使ったバブルは余計に気分が悪い。他のブームでも起こしてみるか……。
「とにかく。俺の推薦、後は巫女経験のあるアイが所属してるって事でB小町が選ばれたんだ。建前上は『若いアイドルが関わる事で、若い人にも水子供養の大切さを知って欲しい』って事で」
「まぁ、心配しなくても大丈夫だと思いますけどね。やる事って、現地に行って馬鹿正直に観光地案内受ける程度でしょうから」
「あれで問題起こせる奴が居れば奇跡だよ」
企画が始まった。スタジオには独特の緊張感が漂っている。あちこちにいるスタッフ、出演者、どいつもこいつも俺の指示待ちだ。いい加減こういうのにも慣れてきたが、やっぱり気を抜くわけにはいかない。このチャリティー企画の指揮を取るのが俺の役目だ。
「それじゃ、各担当の準備はできているな。まずは警察庁長官と
俺の一声でスタッフが慌ただしく動き始める。控室の様子をちらりと見れば、長官と大御所達が何やら談笑しているのが見える。こんな奴らが一堂に集まる機会なんて、そうそうあるもんじゃない。これをきっかけにメディアの健全化と四宮グループのイメージアップとなればいいのだが。
そう思いながら次の段取りを頭の中で整理していると、突然スタッフの一人が駆け寄ってきた。顔色が悪い、何か起こったな。
「颯真さん、すみません! 先ほどの動画データですが、音声トラブルが発生していて再編集が必要です!」
……ったく、こんな時に限って。まあアクシデントなんてのはイベントの付属品みたいなものだ。ここで焦ってもどうしようもない。
「何が起こったか詳しく教えてくれ。対処法を考える」
俺は冷静を装って状況を聞く。スタッフの話によると、音声にひどい乱れがあって一部が全く聞き取れないらしい。しかもバックアップの映像も同様のトラブルだときた。まるで運に見放された気分だが、文句を言っても始まらない。
「仕方ないな。別の素材を用意するしかない。他の出演者のコメントを繋ぎ合わせて、当初の内容に近づける構成に変更する。無理ならナレーションで補足するようにしろ。先方への確認はこちらでする」
『『『はい!』』』
俺の指示に、スタッフたちは慌てて動き出す。こういう時こそ落ち着いて対応しないと、現場全体がパニックになる。そうならないように、俺は進行表に目を落として次の手を考える。トラブルが続いても、企画そのものをスムーズに進行させるのが俺の役目だ。
そうしているうちに、次のコーナー――B小町の水子供養のリポートが始まった。スタジオの大画面に現地の映像が映し出され、アイが真剣な面持ちでリポートしている。あいつ、巫女経験があるとはいえ、こういう真面目な仕事も様になってるもんだ。画面越しでもアイの真摯な気持ちが伝わってくるのが分かる。
「……アイ、よくやってるな」
思わず口をついて出た。彼女がここまで真剣に取り組んでいる姿を見ると、俺の方が気を引き締めなきゃいけないって思わせられる。チャリティー企画なんて所詮は”善行アピール”だと割り切っていた部分もあったが、こうして現場で奮闘する人間を見ると、少しだけ考えを改めなきゃいけない気がしてくる。
まぁ、それでも俺の立場は変わらない。俺は俺の役割を全うするだけだ。
アイのリポートが順調に進んでいるのを確認して、少しだけほっとした。あいつのことだから上手くやるとは思ってたけど、やっぱり終わるまでは心配だ。スタジオの空気も、さっきのトラブルを忘れたかのように落ち着きを取り戻している。
スタッフが次のコーナーの準備をしているのを横目に、俺は頭の中で全体の進行を再確認する。この後は、各省庁の代表者たちが現状報告をするコーナーか。正直、お堅い話が続くから視聴者が飽きないか心配なんだが……今回は視聴率無視だから目を瞑っておこう。代表者達には悪いが、彼らの話は動画配信サイトにでも掲載すればいいだろ。再生数の水増し依頼しとこっと。
俺がそんなことを考えていると、また一人のスタッフが慌てた様子で走り寄ってくる。今度はなんだ?
「颯真さん、B小町のリポートの中継映像に一部ノイズが混じっているそうです!」
……またかよ。なんでこうも問題が次から次へと出てくるんだか。けど、ここで騒いだところで解決しない。俺のやるべき事は冷静に対処することだ。
「CMを流すから、その間にノイズの部分を確認しろ。もし映像が使い物にならないようなら、現地のリポーターに再度連絡して補足コメントを入れてもらう。最悪の場合は次のコーナーを早めに繋げるから、その準備をしておけ」
スタッフは一瞬驚いた顔を見せたが、すぐに頷いて走り去った。判断の速さが命だ。こんな時にいちいち悩んでいたら、企画全体が崩壊する。俺は再度進行表を見つめ、各コーナーの繋ぎ方を考えながら頭の中でシミュレーションを繰り返す。
次々と問題が起きるが、まあこれも想定の範囲内だ。このテレビ局は新興だし、設備も人材もまだまだ発展途上。それでこんな大企画を実行している事が無茶なのだ。けど、そんな中で最大限の結果を出すのが俺の役割。だからこそ雁庵さんに無理言って、今回の企画は俺が仕切っている。
しばらくして、現地からの追加コメントが無事に繋がったという連絡が入った。よし、これでこのコーナーは何とかなる。俺は一息つき、スタッフに指示を飛ばす。
「B小町のリポートはそのまま続行だ。何度も同じ問題があればスタジオの方に移して、こっちで補足する。気楽に続けてくれ」
スタッフたちが慌ただしく動き出す中、俺は少しだけ天井を見上げた。ここにいる限り、俺は走り続けなければならない。問題が起きたらそれをどう解決するか。企画の成功を左右するのは俺の指示一つにかかっている。……アイのハンバーグが食べたいな~。
「さあ、次はスタジオで水子供養の解説コーナーに入るぞ。その次の各省庁の代表者達の準備はいいか?」
俺の声にスタジオ全体が再び緊張感を帯びる。暗い話の水子供養とお堅い省庁の話はさっさと終わらせて、後は事前収録した動画を流す。代表者達がいくら長い話をしても調整できるようにしてあるから、この水子供養のコーナーさえ終わればしばらくは休める……ッ!
「どうも、代理で来たマダオです」
「颯真さん! 担当のタレントさんが階段から落ちて出演できないと連絡がっ!」
「ふ、ふざけるなぁあああ!!」