怨敵と巫女   作:大紫蝶

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 様々な諸事情により異常な速度で執筆できたため、予定にない投稿です。
 日曜分は書いてあります。

 今回は主人公の先輩の話です。


人生の先輩

side:田沼

 

 私の名前は田沼正造。どこにでもいる普通の医師だ。

 

 少し前から総理の心臓手術など難易度の高い手術を成功させた事で、四宮家お抱えになってしまったが……そんな事、どうでもいい。

 

「息子よ……お前もか」

 

 私の息子が17歳で同級生を妊娠させやがった。私に似て聡明な男に育ったというのに……女関係まで似やがるとは。まぁ、私も17歳で妻を妊娠させた過去があるから強く非難できないんだよな~。親としてどうやって責任取れば良いのかな~。

 

「いや、ふざけてる場合じゃないな」

「先生。予約されていた患者さんです」

「そうか。入ってくれ」

 

 今は20時。本来なら診察などする筈がないのだが、とある理由から診察する事となった。その理由は”四宮家からの指名”だからだ。

 

 私の所属する病院は四宮家の傘下にあり、私自身も四宮家お抱えのため断れない。しかし、私がお抱えになったのはつい最近であり、少し前まで別の病院に居た。そこで変わった少年と可哀想な少女に出会ったが……少年の方は大丈夫だろう。どうせ死なないし、この間、元気そうに熊と殴り合う番組に出演してたし。

 

 話が逸れたが、私が四宮家お抱えになったのはつい最近。つまり、お抱えという名の暇人なのだ。四宮家の掛かりつけ医は別に居るし、四宮家お抱えとしての仕事はした事が無い。その四宮家から初めての仕事の依頼が来たのが今回だ。内容は「本家の人間が行くから面倒見てくれ」だったか。

 

「それでは四宮さん。どうぞ入ってください」

『はい。失礼します』

 

 ドアを開いてきたのはよく知る人物。というか、ある意味私の”初体験”を奪った少年だった。

 

「あ、あなたは田沼先生!? あなたが担当医だったんですか!」

「先生、お知合いですか」

「そうだね。彼は”恋の病”で何度も倒れたり、失血死寸前で運ばれたところを助けた子だよ」

「恋の病!? 失血死!?」

「あの時は大変でしたねー」

「そうだよ。包丁が腹に刺さったのに引き抜いて、救急隊を相手に暴れまわったせいで出血しすぎて倒れたんだよね~」

「いや~お恥ずかしい///」

「しかも、手術中に目を覚まして私まで殴られたからね」

 

 最終的に助手達も気絶して、患者の彼と共に手術を成功させたんだよね。おかげでどんな手術も緊張しなくなったけど。

 

「……」

 

 だからさ。そんな化け物を見る目で見ないでよ。

 

「それで今日はどうしたの?」

「実は腹の調子が悪くて、胃薬でも頂けないかと」

「胃薬? そういえば君は世界中の奇食を食べる番組を持っていたね。何かの病気にでもかかったの?」

「それは大丈夫です。五大出血熱*1はリーチですけど、今回は女に刺されただけですよ」

「モテ男は辛いね~。僕も若い頃はモテてたんだけどね」

「またまた~。先生も十分お若いですよ~」

「「あははは」」

「く、狂ってやがる……」

 

 看護師の目が痛いな。おかしな話でもしたかな?

 

「実は秀知院に在籍してるんですけどね? ちょ~~~と困った事がありまして」

「……あれか」

「あれです。先生の息子さんが同級生を孕ませた事に始まり、生徒が200人程いなくなった事件ですよー」

「大変だね。私も相手の親御さんに頭下げに行ったよ」

「息子さんがまともに思えるくらいのクソ野郎がいましたからねー」

「あれでしょ? 50人以上の女生徒を孕ませて、おばちゃんまで妊娠させた男。おかげで息子が誠実に見えたらしくて許されたよ」

「もしもし警察ですか?」

 

 だから止めてって。

 

「良い携帯ですね。簡単に壊れるのが難点ですけど」グシャ

「データは無事だと思うよ。そういう意味では丈夫だね」ホイッ

「シクシク」

 

 大人しくしてればいいのに。

 

「それで胃薬の処方だけでいいの? 手術でもする?」

「自分で縫合したので大丈夫です。ただ、色々と胃が痛くなったので薬だけください」

「それじゃあ一ヶ月分のお薬出しますねー」

「あぁ、ついでに連れの診察もお願いしていいですかー?」

「いいよー」

「良いってさー。入っておいで―」

『はーい!』

 

 2人で茶番を続けていると、彼のお連れさんの診察をする事になってしまった。どうせこっちが本命だろうし、問題ないけどね。ただ、聞き覚えのある声の気が……。

 

「失礼しまーすって、先生じゃん!」

「お、アイちゃんか。久しぶりだね」

 

 彼女は星野アイ。颯真君と一緒に居た子だね。彼の彼女さんだったかな? 最近はアイドルをやってるみたいだし、元気そうで良かったよ。

 

「び、B小町のアイさんですよね! 私ファンなんですよ!」

「そうなんですか? 嬉しいです!」

「こらこら。今は仕事中だからね」

「後でサインください!」

「ダメだろ。彼女も忙しいだろうし」

「いいですよ。田沼先生にも20枚くらいサインしたし」

「何カッコつけてんだ! 自分は裏でサイン手に入れてたんだろうがッ!」

「違うから。息子と娘と妻と妹と義弟と義妹と同期と後輩に頼まれただけだから」

 

 凄い人気だよ。若い医師達なんてオタ芸? とか出来るらしい。若い人のパッションは凄いね。

 

「同じ大学だった後輩が布教してくれたんですよ。アイの作詞した『推しに願いを』を聞いてると、セクハラパワハラの毎日でも頑張れるんです……」

「大丈夫?」

「何かあるなら言ってくれ。一応四宮家の人間だから職場環境の改善は出来ると思うから」

「ありがとうッ!」

「そこの17で孕ますの血族とかなら1時間以内にクビに出来るし」

「止めて! 私はそんな事してないから!」

 

 転職してすぐにクビになったら困る。しかも四宮家に目を付けられたら生きていけないから。

 

「それより彼女だ。どこか悪いのかい?」

「先生に相談となると心臓系でしょうか?」

 

 まぁ、一応心臓外科の人間だ。知り合いの少女のためなら一肌脱ごうじゃないか。

 

「心臓は大丈夫ですよ~」

「実はこれを見てもらいたいんだが――」ゴソゴソ

 

 はて? 私に相談となれば心臓の病気かと思ったのだけど。

 

 そう疑問に思っていると、颯真君が変わった棒を取り出した。なんとなくだけど、最近見た気がするし、一生見たくない形状をしている気がする。

 

「この”16歳未成年アイドルが使ったら陽性の反応が出た妊娠検査薬”を見た感想を教えてくれ」

「「お帰りはあちらです」」

 


 

「いや、帰らんぞ」

「「チッ」」

 

 ヤバイ。最初から面倒ごとだ。

 

「言いたい事は分かるだろ」

「「あーあーあーあー」」

「俺とアイは付き合っている。そして、アイが俺の子供を身籠った」

「「あーあーあーあー」」

「その最終確認と子供の様子を見て欲しい」

 

 ぼくむずかしいことわかんない。

 

「何か勘違いしているようだが、別に堕ろせとか言わない。普通に周囲の利害関係者に許可を取った上で、2人で妊活した結果だ」

「「高校生で妊活!?」」

 

 バカなッ! 私や息子ですらデキちゃった妊娠だったのに、こいつらは計画的に孕ませたのかッ!?

 

「いっぱい頑張ったからね!」

「ホントにな。流石に1週間耐久はどうかと思うが」

「……」

「しっかりしなさい!」

 

 いかん。好きなアイドルが妊娠した状況について聞かされて、脳が破壊されたか!

 

「ここに来たのは17歳で子育て経験のある田沼先生から子育てについての教えを乞う事。俺達の子供に”絶対に危害を加えず、こちらに従順な病院探し”に協力してもらう事。出来なければこの病院で面倒を見てもらう事。最後に、アイの腹の中の子供について検査してもらう事」

「待ってくれ! 今、最も勢いのあるアイドルグループの不動のセンターにして、未成年のアイ君が妊娠したらどんな悪影響があるか理解しているのか!?」

「全て分かった上で妊活した。四宮雁庵、四宮雲鷹、早坂家、苺プロダクション、龍珠組などの協力してくれる。知り合いの医療舎弟とか、()()()()()()()()()()()()()()()とかもあるんだがな……イマイチ信用できん」

 

 凄く怖い事言ってるよ。あの頃のおバカな少年が……どこで道を踏み間違えたんだ?

 

「あ、大丈夫です。この病院はそういう問題ないですし、スタッフも問題ありませんでしたからね」

 

 事前に調べられてるよー。絶対、弱み握るつもりだったよー。

 

「そんな訳でお願いしますね」

「い、いやそれ――」

「ちなみにですけど、俺って田沼先生の息子さんと同級生で仲良しなんですよー」

 

 あれっ、空気が変わった?

 

「それでね。()()()()()()()()()()()()()、先生が職務放棄するなら――」

「「ゴクリ……」」

「悲しくなった誰かが息子さんに『あんたの父親は子供を見殺しにする外道だ』と伝えちゃうかもしれませんね~~~」

 

 それマズくない? 17歳で妊娠させた子供の親がそれを言うって……息子のやらかしを揉み消そうと思われるんじゃ……。

 

「そ・れ・に、最近物騒ですし、学校もバタバタしているので……お嫁さん、無事に赤ちゃんが産めると良いですね??

 

 さ、最低の脅しをしやがったッ!!

 

「こ、子供を人質にする気か!?」

いえいえ。ただ、先生も可愛いお孫さんの無事を願っているでしょ? 俺も気持ちは同じってだけですよ♪

「分かった。直ぐに検査もするし、病院も紹介しよう。私の同期で金と臓器移植で困っている男がいる。幼い娘の臓器移植に必要な金と臓器さえ用意すれば馬車馬のように働く筈だ!」

「流石は将来『世界の名医10選』に乗る方だ。人脈の広さも素晴らしい」ニッコリ

 

 え、笑顔が怖い……。それに、よく分からない賄賂を投げつけられた気がする……。

 

「ほらアイ。先生が検査してくれるって」

「はーい。お願いしまーす」

「看護師さんもよろしくお願いします。それと、あまり他人のご家庭の事情に口出ししたくないのですが、妹の香澄さんが剣道をやりたがっているとか……。防具などの代金は高いですからね。今度の特別ボーナス500万で勝ってあげたらどうですか?」

助けてください!(ありがとうございます!)

 

 何でそんなことまで知ってるの!?

 

「それと今度お兄さんの子供――姪の紅葉ちゃんでしたか? 彼女の誕生日プレゼントは”ご両親のプレゼントの着せ替え人形”に合う服はどうでしょ? B小町のアイドル衣装なんておすすめですよ」

家族にだけは手を出さないでください!(家族にだけは手を出さないでください!)

 

 マズい。私の後ろで土下座で命乞いしている気配を感じるぞ!

 


 

side:颯真

 

「おめでとうございます! 颯真様! アイ様!」

「妊娠10週ですね。しかも、アイ様のお腹に宿った御子様は双子の様です」

「双子!」

「その仰々しい喋り方止めろ」

「「ははっ!」」

 

 ちょっと怖がらせ過ぎたかな? 本当にアドバイスのつもりだったんだが。

 

「特に問題がある様に見えませんのでしばらくは大丈夫でしょう。しかし、アイさんの年齢や体格、アイドルという露出や運動量の多い職業、そこに双子という可能性を考えると……ハッキリ言って長めの入院をおすすめします」

「そうか。アイ、斉藤に言っておくから今日から入院な。必要なものは買うし、俺が取りに行く」

「流石にそこまで急でなくても大丈夫です」

「もうっ。颯真は心配しすぎだよ~」

 

 男親なんて妊娠・出産では戦力外だ。それでも出来る仕事がこれくらいなのだが……。

 

「それでは17歳で子供を作った先輩から子育てのマニュアルと、奴隷候補について教えてもらおうか?」

「子育ての件は置いておいて、知り合いの方からですね」

「置くな。少なくとも今日中にマニュアル作成くらいはしたいんだ」

「……知り合いの件ですが、そいつの7歳の娘が心臓の病気で移植待ちなんですよ。上の娘も同じ症状だったのですが、その時は()()()()()()してどうにかしたそうです」

「ごにょごにょなど知らん。というか、それなら今回もそれで解決すればいいだろ」

 

 詳しく聞くと、その医者は地元の名士から「邪魔な娘を自然に亡くならせろ」という依頼を受けた事で1人目の娘さんは助かったらしい。

 だが2人目はそんな依頼が入る訳もなく、アメリカで移植手術を受けるために資金集めをしている。奥さんは2人目の移植件で「自分がまともな体で産んであげられなかったせいだ!」と自分を責めて鬱状態になったとのこと。……可哀想だが、そう思うのも無理はないな。

 

「分かった。その医者に『少女一人の秘密裏の出産を無事成功させれば子供の命は助かる』と伝えておけ」

「それ大丈夫なの? ってか、先に子供を助けてあげた方がいいんじゃない?」

「変更だ。『先にガキを助けてやるから依頼を成功させろ。成功したら追加で3億払う』と」

「それにしても、入院って大変だよね。颯真はよく脱走してたから例外だと思うけど」

「追加だ。『患者に何があって心身共に無事なよう手配しろ。邪魔な奴はこちらで消すし、そっちで消しても存在ごと揉み消す』と」

 

 最悪だ。最悪の依頼が出来上がっている。

 

「最後に、『担保は子供と妻。未亡人やら人妻が好きな連中、子供がだ~い好きな連中の知り合いから心配するな』とも伝えておけ」

 

 すまん! だが、子供と友人とその知り合いの命が助かるなら安い仕事だと思ってくれ!

 

 

 

 

 

 後日、例の知り合いに話すと「なんて素晴らしいお方だ! 何がっても無事に出産させるから安心してくれ、兄弟!」などと感謝されてしまった。担保の件も失敗しなければいいと思っているらしいが、そんな簡単に了承していいのか?

 

 いや、大事な妻子の事を思えば安いものかもしれないけどさ。

*1
エボラ出血熱、マールブルグ熱、クリミア・コンゴ出血熱、ラッサ熱、南米出血熱の総称




 以上、”17歳で彼女を孕ませた先輩”との話でした。
 次回は『問題を起こしたアイドルの末路』か『原作1話突入』のどちらかになります。


・四宮颯真:17歳の財閥の人間。彼女を計画的に妊娠させた上、医者を脅して奴隷を確保した男。最近、胃痛の種が増えた。

・星野アイ:16歳のアイドル。計画的に妊娠した上、ファンやメンバーに隠している。妊娠や出産より、暴走状態の恋人が怖い。

・田沼正造:34歳の医者。学生時代に彼女を妊娠させ、息子も17歳で彼女を妊娠させた男。秀知院で発生した最悪の事件により相手の親御さんからは許されている。だが、急に四宮家お抱えとなり、颯真というモンスターペイシェントと関わる破目となる。

・看護師:2〇歳の女性看護師。大学の頃の後輩に異常なドルオタとなった男がいる。実は医者・高学歴・イケメン・真面目で優しい・家族関係の柵なし・将来性抜群という好条件物件の後輩と既成事実を作ろうとした事がある。しかし、返り討ちに遭いドルオタに変えられてしまった。

・都合の良い医者:心臓移植が必要な娘達と『健康な体に産んであげられなかった』と自分を責める妻を支えている男。家族を守るために親戚や消費者金融への借金、論文のゴーストライター、犯罪行為にまで手を染めている。颯真からの依頼が成功すると全ての問題が解決するため、色々な覚悟を決めた。
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